青道、御幸3年生の春のセンバツ甲子園〜IFストーリー   作:片桐秋

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お待たせしました。どうぞご覧ください。




第9話 狙いうち

「セーフ!」

 

 主審の声が、高らかに響き渡った。

 

「……そんな馬鹿な…」

 

 円城は、思わずその場にへたり込んだ。

 

 間に合うと思った。本郷の動きは、間違いなくファインプレイだったのに。

 

──それなのに、俺が。俺が上手く守れなかったからだ。

 

 一方、青道ベンチは盛り上がっていた。ベンチに帰ってきた倉持は、ベンチ入りメンバー全員に肩と背中を叩かれて労(ねぎら)われた。

 

「さすがチー様! 俺は、俺は信じていましたよ。チー様ならやってくれると!」

 

「よしよし。お前は声援もいいが、ちゃんとブルペンで投げてろよ。巨摩大藤巻に圧掛けろ」

 

「分かっております!」

 

「はは、倉持。やったな、お前。こうなると四番としては、続かないわけにはいかないよな」

 

 ネクストバッターサークルから立ち上がりつつ、御幸は言った。

 

「おう、お前もやれよ!」

 

 御幸は背後に向けて手を振った。バッターボックスに向かい、振り返りはしなかった。

 

 青道の落合コーチは内心で、

 

「倉持は、足が速いだけでなく走塁センスもいい。だから円城捕手を回(かい)くくって本塁ベースにタッチできた。これでもうちょっと打率が上がればなぁ」と考えていた。

 

「キャップ!」

 

 と、沢村が、大きな声を御幸の背後に向けて張り上げる。沢村はブルペンから、今しもバッターボックスに向かおうとする御幸に走り寄った。

 

「なんだよ? どうしたんだ」

 

「御幸、辛いことがあったら、俺に言っていいぞ」

 

「おいおい、なんだよ突然」

 

「御幸もプレッシャー感じる時もあると思ってさ。女房役のキャッチャーのお前にとって、俺はもっと頼りがいのある亭主になりたい」

 

 御幸はフッと笑った。

 

「じゃあ、とりあえずブルペンでいい感じに投げてろ。それだけでも、相手チームにはプレッシャーになる。それからな、沢村」

 

「なんだよ?」

 

「いたわってくれるのは嬉しいが、俺は自分がやりたくてキャプテンも四番もキャッチャーもやっているんだ。お前の思いやりは嬉しい。だけど俺は、お前に、心配ではなく信頼をして欲しい」

 

「御幸…」

 

「頼んだぜ、相棒」

 

 相棒。それは沢村が初めて青道に見学にやってきた時に、御幸に言われた言葉だった。

 

──そして俺は青道にやってきた。強豪ひしめく東京で本格的に野球をやるために。お前とバッテリーを組むために。

 

 沢村は御幸の目を見つめた。

 

──あの時、まだ未熟なピッチャーだった俺の力を最大限に引き出してくれたのは、お前のキャッチャーとしての力だった。

 

「分かったよ」

 

「よし、じゃあ行ってくるぜ」

 

 御幸は、バッターボックスに向かって歩いていった。

 

 一方、巨摩大藤巻サイドは。

 

──次は四番。こいつをどう抑えるか。

 

 円城は、何とか自力で頭を切り替えた。マウンドに立つ本郷は、もっときついプレッシャーに晒されているのだ。そう思って腹に力を入れた。

 

──まだ九回が残っている。円城、お前(五番)と俺の(六番)打席が。必ず点は取り返す。今はこの四番を抑える。これまで抑えてきたように、この打席でも抑えてみせる。

 

 口に出して言わなくても、円城にはこの思いが伝わると、本郷は信じていた。いや、確信していた。

 

 実況は、遠く東京の郊外にも甲子園の様子を伝えている。

 

「巨摩大藤巻、相変わらずピンチが続きます。ワンアウト、ランナーを一塁に置いて、ここで四番キャプテンの御幸君です」

 

 御幸の実家にも。

 

 学校は春休みの時期だが平日だ。御幸の父親はまだ、自分が経営する町工場で仕事の最中だった。

 

 だが、甲子園の試合の録画は取っている。御幸の父は、今この時点で息子が打席に入ったのを知らない。

 

 知らなくても、甲子園まで行けなくても。それでも、心から応援していた。

 

 そして甲子園、四番御幸の打席。

 

──キャッチャーとしては、なかなか辛いところだろうな。自分の指示の裏をかかれて、得点されたんだからな。

 

 巨摩大藤巻の監督は特にサインを出していなかった。と、言うことは、キャッチャーの円城が内野の守備位置への指示を出したのだろうと御幸は推測した。

 

──俺もキャッチャーだ。こんな場面ならきっと辛い。だが、遠慮するわけにはいかないぜ。キャプテンとして、四番として、できればここで追加点を取りたい。

 

 御幸の打席では定番の、『狙いうち』が、青道応援席のブラスバンドによって演奏される。

 

 

『狙いうち』https://open.spotify.com/track/3t3Kyz0IqTNz2urx1hZgjf?si=NWTxHYQPSEWSqVlcKUVFAA

 

 

「狙いうち〜」

 

 誰にも聴こえないように、青道ブラスバンドの演奏に合わせて小さな声で口ずさむ。

 

 青道は、ことさらに野球部だけを学内ヒエラルキーの上位に置くような教育はしない。御幸にとってはそこが青道を気に入った点の一つだが、そうは言っても、甲子園出場ともなれば格段の扱いとなる。

 

 ブラスバンドも応援団も、はるばる東京から駆けつけてくれたのだ。

 

「チャンスに強いバッターと言われてきた俺だが、さて、いよいよ俺の前にランナーが出たぜ。さて、どの球を狙うか」

 

──白洲、頼んだぜ。できれば、お前にも本塁を踏んで欲しい。

 

「降谷のためにも、ここで打ってやらなきゃな」

 

 第一球。

 

 本郷は、投球した。

 

続く






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