スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
一本目《一目惚れ》
少年が公園の広い広場で走っているとき、いつの間にか後ろに一人の少女が自分を追いかけていた。
あれっ、て思いながらも少年は足を止めず、走り続ける。
自身の足音と、後ろの足音を同時に聞き流し、近づいてきたら、より速く走ろうとする。
一度離して、また近づかれて、また離して、近づかれて。
少年は足がとても速かった。
誰にも追い付けないほどに。
ゆえに初めての体験だった。自分についてこれる存在に。
彼は妙に嬉しかった。一緒に同じ速度で走ってくれる存在がいてくれて楽しいのだ。
そう思いながら、全力を出していく。
走って、走って、今までにないくらいに足を早めて。
この時間がいつまでもあって欲しかった。
だけど、後ろの足音がどんどんと離れていく。
重なっていた足音が消えていき、後ろを振り向いて見れば離れた位置に、少女が激しい息切れをしながらこちらを捕らえている。
絶対に追い付きたい、そんな目をしながらバタバタとなったフォームで走ってくる。
少年は念のため、直線で一気に距離を離し、次のコーナー手前で少女を待った。
少女の姿はすっかりと疲れきっており、彼のそばまでに近づいてくると、その場にへたれこんだ。
彼も近づいて声をかける。息を整えている少女は返事を返せない。
とりあえず少年は回復するのを待った。
彼女の真っ赤に光った瞳が
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私はその時、走っている彼を見つけたら、いつの間にか追いかけていました。
完全に正気を失っていました。始めて見たとき、驚きで目を離せませんでした。
なぜならウマ娘でもないにも関わらず、彼の走る速度はウマ娘のそれでした。
ウマ娘、私たちは耳があり尻尾がある。そしてなにより、普通の人よりもずっと高い身体能力を持っている。
パワーがあり、スタミナがずっとあり、そしてなによりも走るスピードが桁違いに速い。
一般道を走行する自動車なら追い付くことが出来る。それがウマ娘という存在なのです。
彼はそれぐらい速かった。ヒトはあんなにも速く走れないハズなのだというのに。
私は立ち尽くしていました。
……そのときは確かに
しかし、彼の走りを見ているうちに、いてもたってもいられなかった私は、とにかく追いかけ始めていました。
もうほかのことなんて、なにも考えられませんでした。
強く、激しく暴走した感情が
その時の私は世界で一番はしたない表情をしていたのでしょう。
私は時おり、自分を抑えきれない衝動に駆られるときがあります。
今回のように誰かが速く走っているのを見ると、それを追いかけたくて、追い越したい、いや、『喰らいたい』と言う感情が心の中で一杯になり、激しくなってしまいます。
そのため私は周りから恐れられてしまいました。
自分でも明らかにわかるほどに異質で、無気味で、ありえない姿。
私はそんな自分を抑えるので必死になりました。
怖がられるのは嫌だ。距離を取られたくない。だけど誰かが走っているのを見るとたまらなくなる。
それでもと、我慢したこの力は、今やその反動か、噴火と地震のごとく暴れ始めました。
彼の背中が近づいてくると、感情がより高まってくるのがわかります。
ああ、もうすぐだ。そう思った直後、彼は力を入れたのか、より速く走りだし距離を離されてしまいます。
私も反射的に力を入れます。
近づいて、また離されて、また近づき、離されて。
そのときの感情、感覚は産まれて初めてのものでした。うまく追い付けず、もう少しのところを焦らされて、より抑えが効かなくなって。
どのように表現すれば良いかわからないそれは、あまりにも危険なものでした。
それでもこの足は、自身では絶対に止められないものでした。
そして終わりというのは必ず訪れてしまいます。
距離が縮まらなくなってきた━━━━。それどころか離され始める。
待って、行かないで、こんなにも走っているのに、
こんなにも、貴方のことが欲しいのに━━━━━
脚が追い付かなくなり、直線で完全に離される。
もう無理とわかっていても、私は受け入れられませんでした。
コーナー手前で、彼が待ってくれていました。
私は彼の近くで、座り込んでしまいます。
まともな呼吸がまったく出来ない。こんな状態も初めてのものでした。
しばらくして私は顔を上げます。そこでやっと彼のお顔をしっかりと見ることができました。
きょとんとしていた彼の表情は今でも鮮明に思い出せます。
一切嫌悪感も敵視感もない、純粋なお顔。この時私は理解しました。
ああ、一目惚れしたこのお方こそが私の『運命の人』。
今後絶対に現れない、ありのままの私を受け入れる存在だと━━━━━━