スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
第一話《せめて美しく》
あれから少したった。この日はスティルインラブのデビュー戦である《ジュニア級メイクデビュー》の日である。
競争ウマ娘のキャリアには三段階あり、一年目のジュニア期、二年目のクラッシック期、三年目以降のシニア期と別れている。
改めるが今回は彼女の初の公式レースとなっており、トレーナーと少年とともに会場であるレース場まで移動していた。
「・・・ついにこの時が来ましたね」
「うん、やっぱり緊張する?」
「ええ、こういう場は、さすがに初めて、ですので・・・」
「そっか・・・楽しみ、だとは感じない?」
「楽しみ・・・ですか?」
「うん。今日はあなたの大切な第一歩。だからせっかくだから楽しんでほしいの」
「楽しむ・・・」
「大丈夫この日のためにちゃんとトレーニングは行ってきた。いけるよ。」
この日を迎えるために、スティルインラブのトレーニングとして、少年抜きの単独走を行ってきた。
本番では彼と走ることができない。それに彼に頼りっきりというわけにもいかない。
そもそも少年と走っていたときはそれを抑える必要がなかった。だから実戦、つまるところ本能を抑えてた状態の走りを想定したものを行っていない。
そこでトレーナーとスティルインラブはもし本能が目覚めそうになった時、声をかけて正気に戻す案を考える。
結果成功・・・といっても一瞬だけ。確かに走っている途中、本能が目覚めたとき少年とトレーナーは声を張り上げて、いつものスティルインラブを引き出せた。
だが彼女が止まると、すでに本能に再度支配されており、そこを彼がなんとか止めた、
という結果になった。
「いけるよ。一度成功したんだもの」
「・・・本当にうまくいくのでしょうか」
そんな不安に少年も安堵させる。
「・・・ええ、あなたがそうおっしゃってくれるなら、勇気が湧いてきます」
彼女に笑顔ができる。そして少年の手を握った。
「私のわがままをいつも受け取ってくれて、ありがとうございます・・・もし、もしもレースの最中、また本能が湧き出てしまったら・・・もう一度声をかけてください。そうすれば、きっとうまくいきますから・・・」
――――――――――――
八人のウマ娘がターフのレース場をかける。スティルインラブは後ろから六番目、後方から戦局を観察し、ここぞで差し込む走りを得意としている。
(大丈夫・・・このまならば)
思い出す彼女。大切なのは楽しむこと。レースにしかない感覚を感じ、前を見る。
コーナーを走り、観客が見え始める。激しく景色が変わる中、少年たちを
見つけることできない。
(それでも感じる。彼の存在が・・・彼の思いが・・・!)
そして彼女は駆け出した
――――――――――――
結論から書くと、無事一着をとった。そしてなにより、本能が出ることもなかった。
レース場を一度後にし、スティルインラブは少年のもとにいく。
「いかがでしたか?――――さん」
少年は肯定する。舞台にいい感じの走りだったと。
「・・・!よかった・・・その言葉を聞けただけで、もう満足です」
和やかな空気が出てくる。しかしトレーナーはどこか
(なんというか・・・完全に引き出せていなかった。彼と走っている時の、走りができていない。正直このままだとトリプルティアラは難しい・・・。
本能があれば、あるいは・・・)
「トレーナーさん?」
はっ、と思考の渦から抜け出すトレーナー。
「う、うん。どうしたの?」
「えっと・・・彼がその・・・今後のレースも、今回のような走りで大丈夫なのかと・・・」
そんな質問に言葉が詰まる。だが不安を持たせないために、トレーナーはなんとかごまかす。
「あー、そうだねー・・・、まだ伸びしろがあるし、次のレースも決まってないから、あとで反省会でも開こうか」
「はい、トレーナーさん」
ひとまず難をしのぐ。そのご少年から今日の今後を聞かれ、とりあえずそこから話題を本能について触れさせないよう、紛らわせた。
――――――――――
その後、レース場でやることを終わらせてからトレセン周辺域にもどり、最寄りの公園に寄る。
「さて、今後の予定だけど、ジュニア期はレースではなく、トレーニングを重点的にしようと思っているの」
「トレーニングですか」
「うん、どうかな?」
「・・・私もそれで問題ありません」
「キミもどうかな?」
そう少年に聞くと彼もそれでいいと言った。ということで実際にそういう方針で計画を立てていくことになる。
「よし、ならじっくりと地力をつけていこう」
そこで彼は具体的にどのようにするのかを聞く。彼もスティルインラブの強化に参加しているため、気になった。
「そこなんだけど・・・今回の走りを直接強化できるようなものにしたいなって思っている」
「今回のような・・・」
「うん。スティルもそうしたいんだよね?本能を抑えて・・・」
「・・・ええ、あの舞台にはあのような走りをしたほうがいいと思います」
「だとすると・・・彼と走るトレーニングは、あまりしないほうがいいかもしれない・・・」
「え?それは・・・」
「うーん、スティルって彼と走るとき、今日のレースのように本能を抑えながら走れそう?」
「・・・・・無理です。彼とだと、そんな自信ありません・・・」
「やっぱりね~、だからまぁ、ネガティブなものとかため込んで、どうしても我慢できないときに走るほうがいいんじゃないかなって」
「・・・」
「・・・どうかな?」
「・・・・・そうですね。やはり彼に頼りきりはできません。自分で制御できてこそ、だと思います」
「うん、ありがと」
そんな返答にスティルインラブは頷く。そして少年のほうを向く。
「ごめんなさい。しばらくあなたとは走れそうにありません・・・ご不満をおかけしますが、そのような形でよろしいでしょうか?」
彼も頷く。本当は本能的なスティルインラブの走っている姿が気に入っているのだが、周りに迷惑をかけたくない、優しい彼女の尊重を曲げることもしたくない。
そう正直に告げた。
「っ・・・本当にごめんなさい・・・」
「あーこらこら、余計な事言うもんじゃないの」
「いいんです。彼が本当に好きなのは、あの子のほう、なのですから・・・」
彼女の表情が暗くなった。すると少年がこういう。
今のスティルインラブも好きだと。
「ふぇ・・・」
「うわーお・・・」
サラッと言ってしまう彼に、彼女たちは乙女心がときめいたのだった。
おしらせ
この小説を読んでくださりありがとうございます。
今回から話の流れが変わることもあり、章を区切る形となりました。
さて、今後についてですが、私、狸より狐派 ハルは今年(令和七年)の九月一日に新しい転職先に就かせていただくことになります。
今月は前の職場の有休をまるまる使うことが出来たのですが、運が悪いのか最近実装されたスティルインラブの小説を急遽行うこととなりました。
そのため投稿が不安定になりますが、どうかご了承ください。
改めまして、ご愛読ありがとうございます。