スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
四月前半、阪神ウマ娘レース場。トリプルティアラのひとつ、《桜花賞》が行われる。
会場の外からでも、人員量がきわめて多く、G1レースというものがどれだけ壮大なものなのかがわかる。
少年はトレーナーの頼みのもと、スティルインラブとともに三人でやってきた。
ちなみにだが、彼はそんな彼女と手をつないでいる。
「ありがとうございます。ここまで一緒に来てくださって・・・」
その手越しに、震えているのがわかる。
「正直言ってとても、怖い・・・ですがここまで来たのです。桜花賞まで十分なレースも行い、経験も積みました・・・そしてあなたがそばにいてくれる・・・どうか、私の無事を祈ってください」
すると彼はスティルインラブの握っていない手をとり、何かを渡す。
彼女がそれを見ると、ネックレスのように首にかけるタイプの銀プレート、いわゆるドッグタグである。
それにはバラの絵が描かれている。色こそついていないが、そのバラは繊細に描かれていた。
「っ!・・・ありがとうございます。必ず、必ずあなたのもとに戻ります。一つ目のティアラを手にして」
―――――――――――
「私、誰にも負けないわ。つまり貴方にも。・・・それだけ」
出走ウマ娘のパフォーマンス場であるパドックにて、すれ違い様に同じく出走するウマ娘、アドマイヤグルーヴにそんなことを言われる。
『愛なんて、必要ない』
そう否定されて。
(・・・そんなこと、絶対に認めない)
「ええ、彼との愛が噓だなんて、それこそ噓よね?」
内なる紅が出る。パドックにも出走ウマ娘を見ようと沢山の観客がいるのだが、彼女の気配を徐々に感じ、冷や汗をかく。
「・・・まだよ、
「いやよ、もう待ちきれない・・・あなただってそうでしょう?」
内なる紅がスティルインラブを煽る。彼女自身、彼を否定されたような感覚がして、憤りを感じていた。
「だからこそよ、こんなところではしたない真似はやめて。せめてゲートを出るまで抑えて」
二つの強い気配が緊張を生み出し、さらにパドックを冷やしていく。
・・・そんななか、一つの叫び声がスティルインラブを呼ぶ。
「っ!」
彼だ。そばにトレーナーもいる。
「大丈夫!!あなたならいける!!」
「・・・!はい!」
彼女に光が戻った。
(ふふふ、楽しみね・・・!)
――――――――――――
そしてレース最中、スティルインラブは前方を走っている。一方のアドマイヤグルーヴは少し出遅れ、後方にいる。
(ねぇ、まだ出せるでしょう?ほら、目の前においしそうな獲物が・・・!)
「っ!!」
彼女は内なる紅に支配されそうになる。しかし今回はその逆を得ようとした。
つまり内なる紅を、
フリースタイルの事件以来、彼女は本能を活用すべく彼との走行を再開した。
むしろ悪化するかと思われたこの訓練。もちろん初めから上手くいったわけではない。
しかしスティルインラブの強い思い、そして支配されそうなときに彼の声を何度も聞きくことにより、次第に制御ができ、以前よりも確かに正気を保てている。
首にかけたプレートが胸に何度も当たる。それがより彼をそばに感じるきっかけとなる。
「はあああああああああっ!!」
声がまた聞こえる。実際に聞こえるわけではない。だけど確かに感じる。
彼の声が―――!
そして彼女は飛び出した。
―――――――――――
東京、彼の友人は自宅にてレースを見終わり。息を深く吐く。
「・・・勝っちまったな。あの人」
スティルインラブが1600mを一番最初に駆け抜けた。
「すごかったな。あの時とは違う。正直まだ怖さもある。だけど、輝いて見えた」
汗を拭いながら、そう呟く。友人は不思議な感覚だった。
あれほど怖かった彼女が、今や美しさのほうが増して感じる。
(・・・そうえば首にかけてたな。あのプレート・・・あれ俺が原因、になんのかな・・・)
実は友人、少年から相談を受けていた。彼女がレース場でも感じることが出来るものに何かないかを。
といっても、女子が欲しがるものがわからない二人。そこで友人はある案を思いつく。
自分がもらったら嬉しいものとかどうかと。
結果彼はあのプレートを選んだ。
(・・・まぁ選んだのはアイツだし・・・それに首にかけてもらってるから、別にいいか)
友人は深く考えなかった。
――――――――――
まだよ、アナタはまだ、こんなものなんかじゃない。
確かにワタシを支配していた・・・けど完全ではないし、なによりやり方が違う。
言ったでしょう?一つになれば、と・・・。
もっと正直になって?あなたが本当に欲しいのはティアラなんかじゃない。
ましてや周りの獲物なんかじゃない。
じゃないと、ワタシがアナタを先に・・・
いや、ワタシも、もう少し我慢しようかしら?
焦らしにはもう慣れっこだもの。
ああ・・・・・楽しみ。