スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
いつもの公園、その満月の日。
「えっ?出ない・・・?」
「はい・・・。あと少しで出せそうなのに・・・寸前で上がりきらないんです・・・」
「えぇ・・・?いったいどうして?」
「そこまではわかりません・・・満月だというのに。こんなこと、初めてです」
並走の最中、内なる紅が出てこない。少年もさすがにおかしいぞ、と思考にふける。
もしかして、支配が出来てきてる・・・?
「・・・違うと思います。確証はないのですが・・・あの子はおそらく、今の状況を楽しんでいると、思います」
「楽しんでる・・・?どういうこと?」
「・・・彼を追い抜こうとしているとき、あの子は沢山もどかしい思いをしました。もしかしたら、その感情を私にも味わってほしいのかと」
「ええ・・・なにしてんの、こんな大切なときに・・・っていうか、あの子のほうが、我慢できてるってこと!?」
「・・・そんなことが・・・?!」
あんなにも我慢という言葉を知らなそうな本能が、身を潜めることが出来ることに驚愕する三人。
少年はどうか、その本能に呼びかける。・・・彼女の抱きしめ、顔を寸前まで近づけて。
「ぅおぉおいっ!いきなりするなぁ!!」
「ひゃああっ・・・ち、近いっ・・・」
女子二人が顔を赤らめるが、少年はそのまま呼ぶ。
するとスティルインラブの目が
気づいた少年は止め、内なる紅が来るのを待つ。
「・・・・・」
目が光る。
そしてその紅は、抱き着くと同時に彼の首を噛んだ。
「」
水分を含んだ吸引音が響き、少年は顔をしかめる。かなり痛い。しかし決して振りほどかない。
一方の本能はお構いなしに吸い続ける。歯を食い込ませて、血が出るほどに。
その鮮血ごと彼女は
「・・・・・ぷはっ」
随分と色気ついた息継ぎをすると、今度は歯形と血の付いた首を舐め始める。
トレーナーは両手で顔を覆っているが、指の隙間からしっかりと見てしまっている。
ぞわぞわとする感覚があるが、それよりも衛生面が気になる彼。しかしこういう状態の彼女は止まらないこと知っている。
ならばとりあえず気が済むまで味あわせてやることにした。
「・・・・・そういうところ」
彼女が呟く。
「獲物でありながら、獣に好きなように味見させる・・・」
彼女の抱く力が強まる。聞こえてないのに
「アナタには危機感というものが、まるでない。私でさえ、我慢というものを学んだというのに・・・」
首から顔を話す。そして顔同士を面と向かわせる。
「温もりと優しさに育てられ、調教された獣とともに過ごした獲物は、本能を忘れ・・・自分がどれだけ取り返しのつかない領域まで足を踏み入れたのかがわからず、ただいつの間にか喰らわれる。
・・・・・それがあなたよ。――――さん?」
少年は彼女の言っていることが理解できる。彼もまた彼女の望まぬ悪評は昔、聞いていた。
やれ化け物だの、やれ恐ろしいだの。やれ支配されるのだと・・・。
だが問題はそこじゃない。どうして、いつものスティルに手を貸さないのか。と、問いかけた。
「アナタが言ったじゃない。力を分けてくれって。ワタシに頼らず力を引き出すために。ワタシが我慢してあげてるの。
アナタのために、ね?」
少年が問う。
「いいえ?ワタシもだけど、なによりあの子があなたのために・・・
いつものスティルインラブが少年を喰らう?どういうことだというのか。
「冗談でしょう?アナタに飢えているのがワタシだけだと?アナタはどれだけワタシたちを、焦らせば済むというの・・・?」
彼女は両手で、彼の顔を優しく、しかし逃がさないように掴む。
「忘れたの?ワタシはあの子で、あの子もワタシ。ワタシの飢えはあの子の飢え。
そしてワタシの獲物はあの子の獲物」
目を見開く。あの時、公園が紅に侵された時のような、狂気が自身の体に、直接流される感覚。
しかもあの時よりも強い。体が動かなくなる。ほんの微塵も。
「アナタが焦らせば焦らすほど、ワタシたちの愛は強くなる。そして誰にも邪魔されない世界を作ることができる。そこで一つになるれば、もうアナタは逃げられない。
永 遠 に」
少年はもう一度問う。力を分けてほしいと。
「ええ、もちろん。だからアナタも、ワタシたちから目をそらさないように・・・」
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『お、大外からスティルインラブ!!スティルインラブが抜け出した!!スティルインラブ!!スティルインラブが先頭!!』
トレセンの寮、スティルインラブとネオユニヴァースの部屋にて、後者が彼女のレース中継を見ている。
《オークス》、トリプルティアラの二つ目。彼女の存在感は、まさに圧倒的だ。
ほかウマ娘たちが、瞬く間に食われていく。そんな光景を、ネオユニヴァースは懸念的に眺める。
「・・・・・制御が、できている・・・。それが、
《領域》の完成まではまだ先、しかし・・・」
もう一度書くが、ネオユニヴァースはスティルインラブを不気味がらない。むしろ一人の友人といて見守っている。
そうであるゆえに―――――
「・・・イレギュラー。本当にこれでいいのか・・・検証、いくら行っても不明」
彼女らの行き先が誰よりも不安なのだった。