スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」   作:狸より狐派 ハル

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第八話《どういう感情?》

 スティルインラブらを否定すべく、二人彼女らの元へと向かおうとすらアドマイヤグルーヴ。

 

 そこに気づいたのがエアグルーヴだ。

 

「アルヴ、なにをしようとしている」

 

「あなたには関係ないことです」

 

「ダメだ。感情のまま動くんじゃない」

 

「別に感情的ではありません」

 

「そんなこと言ってる時点で感情的になっているだろう。いいから今はあの二人に━━━」

 

「関わらないでって言っているでしょう!!」

 

 アドマイヤグルーヴの叫びに、エアグルーヴも止まってしまう。こうなった以上もう止まらないだろうと、また見逃した。

 

 二人の並走が終わったとき、アドマイヤグルーヴは接触する。

 

 そして勝負を申し込んだ。

 

「......どうする?」

 

「......少し時間をください」

 

 そこで一度トレーナーと少年で三人集まり、臨時会議を開くことにした。

 

 少年はアドマイヤグルーヴに対して、良い印象は持てなかった。

 

「エアグルーヴさんという生徒会副会長に聞いたのですが、あくまでも()()()()()に対して憎んでいるそうです。ゆえに私たちのやり取りが、それに引っ掛かるのでしょう」

 

「愛、ね......私自身意識はしてないけど、どっちにしろ信頼関係がない、支えがないと、この先がキツイと思うけどなぁ......」

 

 そこで少年は、具体的にどうするかを聞く。やるかやらないか。

 

「......走ります。ですが本能のほうは......」

 

「いや、さっきの走りをやってみて。レースの楽しさを、思い出して。メイクデビューの時のように」

 

「よろしいのですか......?」

 

「本来レースはそう言うものなんだよ。それだけじゃない世界なのは、確かにそう。けど走るのが好きなのに、楽しめなきゃ勿体無(もったいな)いじゃん。だから深く考えずに全部、引き出してきて!」

 

「......はい!」

 

 スティルインラブはアドマイヤグルーヴに向かった。

 

 

 ━━━━━━━━━━

 

 

 立会人としてエアグルーヴが率先し、レースが行われた。

 

 二人のみのレースだというのに、多くの生徒、トレーナーが釘を刺すかのように見届けている。

 

 そしてレースの序盤から意外なことが起こる。

 

「っ!ペースが早い!」

 

 そう、スティルインラブは先攻し、アドマイヤグルーヴを気にせず、ただ気の(おもむ)くまま走っている。

 

 二年目、ましてやG1レースを複数回経験しているのなら、もっと慎重になると思っていたが、マトが外れたアドマイヤグルーヴは、急いで離れないようにする。

 

 だがそれがダメだった。スティルインラブはペースを気にしていない。コーナーですらドンドンと加速していく。

 

 焦るアドマイヤグルーヴ。こちらを見向きもしないことへ(しゃく)に触り、よりムキになってしまう。

 

 なによりもドロドロとした憎しみはしかし、楽しさという(つや)やかな光に当てられ、遮られてしまう。

 

 そして終盤には、オークスの時のように離され、《愛》が証明された。

 

 ゴールラインを思いっきり通りすぎ、十分距離をとって止まる。息を整えて、アドマイヤグルーヴがたどり着き、止まるのを確認すると、彼女は少年たちの方に向かった。

 

「スティル!すごく良かったよ!」

 

「はい......!━━━━さんを思いながら走りました......。とても......とても楽しかったです......!」

 

 そう喜びを()()()にした。

 

 一方のアドマイヤグルーヴだが、完全に意気消沈してしまった。

 

 絶対に相容(あいい)れない、触れたくもないものに直で当てられ、自身の意義が見えなくなっていった。

 

「......どうして?私と彼女......いったい......なにが違うと......いうの......?」

 

 フラフラと足を動かし、どこか行こうとしてしまう。

 

 そうなったアドマイヤグルーヴを、エアグルーヴは今度こそ見逃さなかった。

 

「アルヴ、ひとまず寮に戻るんだ」

 

「......イヤです、私は......」

 

「そんな状態でまともに動けるわけないだろう。いいからいくぞ」

 

 アドマイヤグルーヴの手を掴み、無理やりでも連れていく。

 

 それが何故だか、気温や体温とは違う、妙に暖かさを感じたのだった。

 

 

 ━━━━━━━━━━━━

 

 

 その日の夜、少年はレースコートに一人、戻っていた。

 

 日が出ている時間がウソのように、全く誰もいない空気は、いつもの公園のときのような、どこか似た空気がある。

 

 彼はアドマイヤグルーヴのことを思い出す。彼自身走りを見るだけで人間性がわかるような、そんな特技は持ち合わせていない。

 

 しかしスティルインラブとは違う、明らかな苦しさを持っていた。

 

 どうも引っ掛かってしまった。なぜあそこまで苦しんでいるのか、そこまでして否定したい原因はなんなのか。

 

 ほぼ他人である自分には、直接知るきっかけは訪れないだろう。

 

 そう諦めたそのとき、彼女とは他人ではなくなった。

 

「あなた......」

 

 声をかけられる。そちらを見ると、アドマイヤグルーヴ本人がいた。

 

 動く気力が切れたハズなのに、どうしてここにいるのか。

 

「......うの?」

 

 よく聞こえなかった少年は、耳を傾ける。

 

「私とあなたたちは......なにが違ったというの......??」

 

 主語がわからない彼は、つい聞いた。どうかしたのかを。

 

「......私はずっと一人で走ってきた。そうすることで自分を証明し続けた。なのにそれでも、彼女(スティルインラブ)に届かなかった......」

 

 視線が下に向く。少年は静かに待つ。

 

「愛なんて、そんなの間違ってる......けどあなたたちは、愛で強くなっていく......ねぇ、どうして......?どうしてそんなもので、強くなれるの......?」

 

 震える声でそう言う彼女。まずはいきなり返事をせず、言葉を思い選ぶ。

 

 そこで彼はこう言った。()()()()()()()()()()()()、と。

 

「......は?」

 

 そう、少年にとって、それが当たり前なのだ。とくに意味もなく、ただひたすらに走る。それが好きだった。

 

 一人で走っていたとき、もの足りないと感じた。ただ一緒に走ってくれる人がいればよかった。

 

 だが皮肉にも体力に恵まれ過ぎた彼の周りには、ともに走ってくれる存在が居なかった。

 

 ウマ娘は初めこそライバル視してきたが、圧倒的な実力差と種族による意識により嫌悪感を抱き、次第に離れていった。

 

 ヒトなんてもっての他だった。ゆえに一人で走っていた。

 

 確かに走ることは好きだし楽しい。しかしどうしても寂しかった。

 

 そんなときだった。スティルインラブと会ったのは。

 

 いつの間にか共に走り、気がつけばずっと側にいた。それだけですごく嬉しかった。

 

 ただ楽しかった。そんな時間が。

 

 何気ない一時(ひととき)、そんなときに一緒にいても良い存在。

 

 それが偶然速さに繋がったと言うのが、彼の持論だ。

 

「......なにそれ、そんなので、私は置いていかれたというの......?」

 

 彼女にとってそんなこと、であっても少年にとっては大事な時間なのだ。

 

 もちろん、これは少年らだけの特異体質なのかもしれない。人によって過程は違う。

 

 だがウソも微塵もついていない。ただ深く考えず、自分の出来ることと、やりたいことをやること。それだけだった。

 

 つまり噛み合っていたのだ。自分のやりたいことと、スティルインラブのやりたいこと。

 

 それが相性よく混ざりあい、そしてお互いの喜びと楽しみになり、それが高める結果となったのだ。

 

「......」

 

 結局人によるとしか言いようがないのだ。自身に合う手段を手に入れたかどうか、である。

 

 少年は聞く、今のやり方は自身に合っているのかを。

 

「っ......」

 

 言葉がつまる。彼女は答えきれない。今まで正しいと信じたやり方が揺らいでいる。

 

 いったいなにが正しいのか。

 

 しばらくしても、声がだせない。そこで少年は質問を変えた。

 

 どうして一人でやることに、固執するのかを。

 

 どうしても教えてほしかった。

 

「......」

 

 少年は強く願った。でなければこちらも、どう接すれば良いのかわからない、と。

 

「......昔から、昔から私は一人だった。一人で何でもやった。一人で出来ることは全部やった。だから愛なんて必要ない。そんなの与えられなくても、今まで......貴方たちが現れるまで出来てきた......それだけ......」

 

 多くは語らなかった。しかし少しは予測できる。家庭環境のせいなのだろう。周りに恵まれず、ただ走るために育てられた。

 

 孤高、というより孤独なのだ。昔から本当の意味で支えてくれる存在がいなかったため、人間不信になっているのだ。

 

 真義(しんぎ)に向かい合ってくれる存在が、少年とスティルインラブのような、無条件で手を出し会える者が。

 

 だが悲しいかな、それでも少年はうまく答えられない。

 

 そこで彼はあることを言った。それは━━━

 

「......は?」

 

 純粋なウマ娘であるアドマイヤグルーヴのことが、羨ましい、ことだった。

 

 

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