スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」   作:狸より狐派 ハル

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第九話《本物以上、紛い物以下》

 ......と、言っても昔のことだった。

 

 いや、もうないといえばウソになるのか。少年の言っていることが、チグハグだった。

 

 「......な、なにを言っているの......?」

 

 すこし昔話をする。まだ小さかったころだ。その時の自分は少しこじれていた。

 

 というのも複雑なものではない。一言でいうと、当時の自分はウマ娘レースに出たかったのだ。

 

 しかし、出ることができなかった。なぜだろうか。

 

 「そ、それは.........あなたが、あくまでも男の人だから......」

 

 そう、少年は生物学的に《男》である。そして再度問う、男はウマ娘レースに参加できるのかを。

 

 「......無理、だと思う」

 

 そう、無理だ。理屈的にも感覚的にも。ゆえにこう思った。

 

 自分の存在価値は何なんだろうと?

 

 「っ!!」

 

 もう一度いうが、昔のことである。その当時になんとなく思ったのだ。

 

 なぜ自分は純粋なウマ娘でも、普通のヒトでもないのだろうと、よく思った。

 

 前者ならウマ娘レースに出れたのだろう。もちろんその他の競技もあるから、そちらにも参加できる。

 

 後者も同じことがいえる。ヒトにはヒトの競技やできることがあるのだ。

 

 男として生まれたら、なおさらできる競技は、知名度問わず幅広いだろう。

 

 だがそれは、根本的に均衡(きんこう)していればの話である。ウマ娘レースは純粋なウマ娘が集まる。だからレースとして勝敗以前に成立する。

 

 実力、種族、そして性別。それらが成立して初めて競技が成り立つ。

 

 さて、《馬力症》である彼はどうだろうか。彼は男性である。だがヒトより圧倒的なウマ娘特有の超パワーを持っている。

 

 ウマ娘とヒト、まず均衡するはずがない。ヒトのトップアスリートと比べても、土台から違う。実際にヒト基準で計ったら、ヒト用は壊れるであろう。

 

 だからといってウマ娘の競技には出れるのか。まず否、である。

 

 いくらパワーに差があれど、ウマ娘は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その中に男性が入るのはもう倫理的におかしいものというはずだ。

 

 卓球ならミックスという競技で参戦できるかもしれない。

 

 だがまず、少年以外にいる馬力症持ちの男性は、近くにいるだろうか?

 

 いない、それが結論である。

 

 さてまとめよう。彼はヒトでありながら、ウマ娘の力を持っている。

 

 逆に言えば、純粋なウマ娘でもなければ、ただのヒトですらない。

 

 悪く言えば存在として中途半端なのである。彼に、確かにあった環境というのがないのだ。

 

 もっと悪く言おう。

 

 少年は《なりぞこないの、(まが)(もの)》である。

 

 「...............」

 

 アドマイヤグルーヴは、ゾッとした。曖昧(あいまい)であるが故、希少性が高すぎる故、定義が定まっておらず、どこも受け入れることができないのだ。

 

 競争ウマ娘にもなれない。ましてやヒトと平等にも公平にも、なれるわけでもない。

 

 そもそも土俵に立つことすら、許されない。生い立ちのせいで何もできない。平等に、公平にすら扱えない。

 

 なんて窮屈なのだろう。そんな生活、彼女にはとても恐ろしく感じた。

 

 もし自分がそんな生まれだったらどうなっていた?有り余る才能を持ちながら、それを向ける対象がどこにもない。

 

 明らかな宝の持ち腐れ、なんにも役に立たない代物(しろもの)

 

 間違いなく持て余す。一体何ができるのか。

 

 そこで少年は再三言う。これはあくまでも昔の話。今はそれ以上に感じる喜びを手に入れた。

 

 スティルインラブ。彼女が人生を一変させた。もし彼女がいなかったら、ずっと不満を抱えて生きていただろう。

 

 それと同時に、今はこう思う。彼女たちが純粋なウマ娘で、本当に良かったと。これはアドマイヤグルーヴにも含まれる。

 

 「私.........」

 

 たしかに今はつらいかもしれない。だが少年から見れば少しだけ舞台に立てる彼女たちが(うらや)ましいのだ。

 

 なんせこちらは、理由なく参加拒否されるような存在だからだ。

 

 そんな目に、今を走るウマ娘が味わうことがないのが、どこか救いでもあった。

 

 「.........」

 

 だから無理があるかもしてないが、それでもこういわせてほしい。

 

 どうか今という時間を、大切にしてほしいと。

 

 「.........」

 

 「アルヴ」

 

 さらに後ろからウマ娘が現れる。エアグルーヴだ。彼女は落ち着いてアドマイヤグルーヴに話しかける。

 

 「話の途中で悪いが、もう消灯時間だ。話がまだあるなら、明日まで我慢して寮に戻ってくれ」

 

 「.........いえ、もう終わったところです。.........それじゃあ」

 

 そう少年に伝え、去っていった。

 

 「.........すまんな、いきなり。規則もあるが、なによりアルヴのことが個人的にも気になっててな。

 

 .........話は逸れるが、キミは今の人生に、不満はないのか?」

 

 なかった。といえば少しウソになる。だが先も言ったようにそれ以上の喜びがある。

 

 スティルインラブ。彼女に出会えたとこが、この体でよかった、と心の底から思ったことである。

 

 「そうか.........よかったな。.........ところで、また話は逸れるのだが」

 

 今度はなにか恐る恐ると、話しかける様子になる。そして話したことが―――

 

 「.........スティルインラブとは、その.........健全な付き合いをしているだろうな...?」

 

 そんな質問に、少年は理解が少し追いつけなかった。そして自分なりに理解した。

 

 彼女とは今でも楽しく走っていると。

 

 「いやっ、そういう意味で聞いたんじゃ.........ああ、すまん。やはり何でもない.........変なこと聞いて悪かった。しかしまあ.........距離感も少しは気を付けてくれ.........それじゃ失礼する。キミももう帰るんだ.........」

 

 と、力が抜けていった。結局少年は、なんだかわからなかった。

 

 

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