スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
......と、言っても昔のことだった。
いや、もうないといえばウソになるのか。少年の言っていることが、チグハグだった。
「......な、なにを言っているの......?」
すこし昔話をする。まだ小さかったころだ。その時の自分は少しこじれていた。
というのも複雑なものではない。一言でいうと、当時の自分はウマ娘レースに出たかったのだ。
しかし、出ることができなかった。なぜだろうか。
「そ、それは.........あなたが、あくまでも男の人だから......」
そう、少年は生物学的に《男》である。そして再度問う、男はウマ娘レースに参加できるのかを。
「......無理、だと思う」
そう、無理だ。理屈的にも感覚的にも。ゆえにこう思った。
自分の存在価値は何なんだろうと?
「っ!!」
もう一度いうが、昔のことである。その当時になんとなく思ったのだ。
なぜ自分は純粋なウマ娘でも、普通のヒトでもないのだろうと、よく思った。
前者ならウマ娘レースに出れたのだろう。もちろんその他の競技もあるから、そちらにも参加できる。
後者も同じことがいえる。ヒトにはヒトの競技やできることがあるのだ。
男として生まれたら、なおさらできる競技は、知名度問わず幅広いだろう。
だがそれは、根本的に
実力、種族、そして性別。それらが成立して初めて競技が成り立つ。
さて、《馬力症》である彼はどうだろうか。彼は男性である。だがヒトより圧倒的なウマ娘特有の超パワーを持っている。
ウマ娘とヒト、まず均衡するはずがない。ヒトのトップアスリートと比べても、土台から違う。実際にヒト基準で計ったら、ヒト用は壊れるであろう。
だからといってウマ娘の競技には出れるのか。まず否、である。
いくらパワーに差があれど、ウマ娘は
その中に男性が入るのはもう倫理的におかしいものというはずだ。
卓球ならミックスという競技で参戦できるかもしれない。
だがまず、少年以外にいる馬力症持ちの男性は、近くにいるだろうか?
いない、それが結論である。
さてまとめよう。彼はヒトでありながら、ウマ娘の力を持っている。
逆に言えば、純粋なウマ娘でもなければ、ただのヒトですらない。
悪く言えば存在として中途半端なのである。彼に、確かにあった環境というのがないのだ。
もっと悪く言おう。
少年は《なりぞこないの、
「...............」
アドマイヤグルーヴは、ゾッとした。
競争ウマ娘にもなれない。ましてやヒトと平等にも公平にも、なれるわけでもない。
そもそも土俵に立つことすら、許されない。生い立ちのせいで何もできない。平等に、公平にすら扱えない。
なんて窮屈なのだろう。そんな生活、彼女にはとても恐ろしく感じた。
もし自分がそんな生まれだったらどうなっていた?有り余る才能を持ちながら、それを向ける対象がどこにもない。
明らかな宝の持ち腐れ、なんにも役に立たない
間違いなく持て余す。一体何ができるのか。
そこで少年は再三言う。これはあくまでも昔の話。今はそれ以上に感じる喜びを手に入れた。
スティルインラブ。彼女が人生を一変させた。もし彼女がいなかったら、ずっと不満を抱えて生きていただろう。
それと同時に、今はこう思う。彼女たちが純粋なウマ娘で、本当に良かったと。これはアドマイヤグルーヴにも含まれる。
「私.........」
たしかに今はつらいかもしれない。だが少年から見れば少しだけ舞台に立てる彼女たちが
なんせこちらは、理由なく参加拒否されるような存在だからだ。
そんな目に、今を走るウマ娘が味わうことがないのが、どこか救いでもあった。
「.........」
だから無理があるかもしてないが、それでもこういわせてほしい。
どうか今という時間を、大切にしてほしいと。
「.........」
「アルヴ」
さらに後ろからウマ娘が現れる。エアグルーヴだ。彼女は落ち着いてアドマイヤグルーヴに話しかける。
「話の途中で悪いが、もう消灯時間だ。話がまだあるなら、明日まで我慢して寮に戻ってくれ」
「.........いえ、もう終わったところです。.........それじゃあ」
そう少年に伝え、去っていった。
「.........すまんな、いきなり。規則もあるが、なによりアルヴのことが個人的にも気になっててな。
.........話は逸れるが、キミは今の人生に、不満はないのか?」
なかった。といえば少しウソになる。だが先も言ったようにそれ以上の喜びがある。
スティルインラブ。彼女に出会えたとこが、この体でよかった、と心の底から思ったことである。
「そうか.........よかったな。.........ところで、また話は逸れるのだが」
今度はなにか恐る恐ると、話しかける様子になる。そして話したことが―――
「.........スティルインラブとは、その.........健全な付き合いをしているだろうな...?」
そんな質問に、少年は理解が少し追いつけなかった。そして自分なりに理解した。
彼女とは今でも楽しく走っていると。
「いやっ、そういう意味で聞いたんじゃ.........ああ、すまん。やはり何でもない.........変なこと聞いて悪かった。しかしまあ.........距離感も少しは気を付けてくれ.........それじゃ失礼する。キミももう帰るんだ.........」
と、力が抜けていった。結局少年は、なんだかわからなかった。