スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」   作:狸より狐派 ハル

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あり得たかもしれない物語《孤高の氷山と紛い物》

 彼女が彼と出会ったのは、まったくの偶然だった。

 

 ある日、自主練として公園のなかを走ろうとしたとき、ある存在を見た。

 

 それは足の速い男の子である。

 

 ただ速いわけでなかった。自身よりも速い。そう思うほどに速かった。 

 

 しばらく見ていて、そんなことを思い、違うと頭を横に振り、そこから立ち去った。

 

 後日、そんな噂をまわりのウマ娘がしていた。そして彼女とどっちが速いかを、話していた。

 

 下手に盛り上がり、彼女にも飛び火するが、人付き合いの悪い彼女は適当に断った。

 

 が、そんなある日、その公園でトレーニングをすることになった。

 

 そしてその少年と出会った。いや、出会ったというより、まわりのウマ娘が彼に興味を持って、巻き込まれたというべきか。

 

 それが長い付き合いの始まりだった。

 

 

 ――――――――――――

 

 

 その少年は速かった。誰も勝てないほどに。

 

 そして彼女も思い知らされた。まわりが無駄に盛り上げて、付き合わないとより面倒なことになると見越して、彼と走った。

 

 その結果、追いつけなった。途中で切り離されておいて行かれた。

 

 彼女は途方もなく悔しかった。間違いだと思い、何度も挑んだ。

 

 しかし結果は変わらなかった。

 

 年頃、というにはわずかに幼い彼女はその日以来、少年を打倒するために死に物狂いのトレーニングを積んだ。

 

 今までよりも沢山走り、知識をつけ、心も誰よりも鍛えた。

 

 しかし届かない。何をしても、どれだけ努力を積んでも。

 

 まわりはもう無理だという。というか男には勝てないのでは?そんな話も出た。

 

 しかし彼女は関係なかった。どんな理由であれ、その少年には死んでも勝ちたかった。

 

 だがその願いもむなしく、何年かけても追いつけなかった。

 

 

 ――――――――――――

 

 

 彼女はトレセン学園に入った。日本のトップアスリートを作るためのこの施設で、誰にも負けないウマ娘になろうとした。

 

 彼女は昔からエリートと呼ばれた。ゆえに期待のまなざしも多かった。

 

 しかしそれらのものを、すべて雑音と切り捨てた。

 

 応援も、支えも、すべて拒否し、彼女は一人で強くなった。

 

 しかし、ある一人のウマ娘が、彼女の道を阻んだ。

 

 そのウマ娘の名はスティルインラブ。一見おとなしそうな彼女は、レースのことになると、人格が変わったかのように、狂気的になる。

 

 その狂気に、彼女は果敢に立ちむかった。

 

 二度挑んだものの、両方負けてしまった。

 

 まるで少年に負けてしまったように。

 

 

 ――――――――――――

 

 

 夏、合宿にきた彼女は、成長の実感が持てなかった。

 

 まるであの時と変わらない現実に、打ちひしがれていた。

 

 それでもと走るが、一向に良くならなかった。

 

 嫌気がさした彼女は、一人になった。

 

 するとそこで、あの少年と再会した。なんでも祖父母の家に泊まりに来たそうだ。

 

 そこで彼女は憂さ晴らしに、その少年に勝負を挑んだ。さすがに勝負の世界で強くいなった自分は、のほほんと暮した彼には勝てるだろうと、見せつけた。

 

 .........がそれでも勝てなかった。

 

 そこで彼女は完全に折れてしまった。公式レースで負け、そこら辺にいた昔のヒトにすら負けて、絶望した。

 

 膝から崩れ落ちる彼女、そんな状態に心配になった少年は声をかけるが、返事はとても悲しかった。

 

 私は一体何のために、そんな感情に支配されていた。そんな時だった。

 

 より恐ろしい存在が現れたのは。

 

 彼女の背後から、とてつもないプレッシャーが襲い掛かる。

 

 反射的にそちらを向く。するとそこには、本能をむき出しにしたスティルインラブがいた。

 

 今までにない迫力に、彼女は心の底から恐怖した。

 

 勝てるわけがない、食われる、誰か、助けて―――――

 

 横から誰かが彼女の前に立ち、スティルインラブと面と向かう。

 

 少年だった。あれほどの重圧を面と向かいながら浴びているのに、まったく恐怖していない。

 

 そして自分の代わりに少年が走ってくれた。

 

 いや、今思えば、スティルインラブの狙いは、彼女じゃなかったかもしれない。

 

 あの少年だったのだろう。彼は走る。スティルインラブの追い上げを背にして。

 

 あと少しで抜かれる。そう思った直後、そこから距離が縮まらなかった。

 

 そしてそこから、少年は突き放し、なんとスティルインラブに勝ってしまった。

 

 今まで勝てなかった存在にである。

 

 彼女は聞いた、なぜそこまで速くなったかを。

 

 少年は答えた。一人で走りまくったらこうなったと。

 

 彼女は前が暗くなった。

 

 

 ――――――――――――

 

 

 夜、彼女は一人になっていた。そこに少年に偶然会った。まるで昼間のように。

 

 そこで彼女は今までの思いをすべて少年にぶつけた。

 

 ぶつけて、ぶつけて、ぶつけて。

 

 そしていつの間にか、涙が止まらなかった。もう流したくないのに、勝手に流れてくる。

 

 どうすればいいかわからない彼女はとにかく泣きじゃくった。

 

 泣いて、泣いて、泣いて。

 

 気がつけば、少年に慰められていた。

 

 抱き着かれ、頭を撫でられ、そしてほめてくれた。頑張ったね、と。

 

 それがなぜだが無性に嬉しかった。ボロボロとまた泣いた。けどそれは、とてもあたたかいものだった。

 

 よくわからなかったが、その日以来、少年にはなぜかある程度素直になることができた。

 

 

 ――――――――――――

 

  

 「勝...った.........?」

 

 秋華賞。ついに彼女はスティルインラブに勝利した。

 

 レース場では彼女を(たた)える声が、爆発的に響いた。

 

 理解があとから追いついた。自分は勝ったんだと。

 

 しかし自分一人の力ではなかった。あの少年がいたからだ。あの日以来、少年は自分を真義に支えてくれた。だから今日があった。

 

 彼女は彼の元に向かった。

 

 舞台裏で少年を見つけた彼女は大きな声で呼び止める。

 

 なぜそこに彼がいるかは、わからない。だがそんなことを思っている暇もなかった。

 

 「.........あなたがいなければ、ここまでこれなかった.........。――――さん。本当に.........本当に、ありがとう.........!」

 

 感極まった彼女は、少年の胸に飛び込んだのだった。

 

 

 ――――――――――――

 

 

 そこで少年の目が覚めた。ここは祖父母の家、スティルインラブのために無茶を言ってここまで来た。

 

 少年は上半身を起こす。なにか夢を見ていた気がするが、上手く思い出せなかった。

 

 時計を見ると、二度寝できるくらいに早かったが、そのまま布団から出た。

 

 ふとアドマイヤグルーヴのことを思い出す。

 

 先日の夜、偶然彼女に会い、少し話をした。そこからの進展はなかったが、なんとなく思い浮かぶ。

 

 彼女は今、なにをやっているのか。とくに昔からの知り合いでもない彼には知る由もなかった。

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