スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」   作:狸より狐派 ハル

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第十一話《止まらない独占欲》

 レースでも見みないほど、今までにない圧が、スティルインラブから発生していた。

 

 これには少年も変だと気づくレベルのもので、アドマイヤグルーヴを抱く力が強くなる。

 

 その抱えられてる彼女も、自分の状態を忘れ、スティルインラブの変化に驚愕している。

 

 「......いつまで、そうしてるんですか?」

 

 なんのことかと聞く。こういうところが鈍感なのである、この男は。

 

 「いつまで抱いてるのって聞いてるの」

 

 意味をやっと理解する彼は、ゆっくりとアドマイヤグルーヴをおろす。そんな光景、とりわけ彼女のほうを見ていた。

 

 「っ......!?」

 

 恐ろしい。レースの時とはまったく違うその気配、アドマイヤグルーヴは反射的に彼の後ろに回ってしまった。

 

 それを見て、目を見開くスティルインラブ。今にも何かをしでかす彼女に、誰も迂闊に出れなかった。

 

 「......」

 

 「......っ!スティルっ」

 

 トレーナーは辛うじて声をかけるも、気にせずに彼女は歩を進める。アドマイヤグルーヴは何をすればいいかわからず、ただ少年の後ろに縮こまるしかできない。

 

 一方の彼は息をのみ、覚悟を決めて、スティルインラブに声をかける。できるだけ落ち着き、いつもと変わらない陽気な声を出して。

 

 一歩、一歩近づき、足の先端と先端が付きそうなほどに距離を詰める。

 

 ジロリ、では済まないようなにらみ方で、アドマイヤグルーヴに目線を向ける。

 

 ビクリ、と体を震える。もうどうしようもなく怖かった。あれはレースでは絶対に見なせてはいけないものだ。顔こそ真顔だが、あれなら狂気的に笑ってくれていたほうがマシである。

 

 死角からでも彼女が怖がっていることがわかった少年は、声を張ってスティルインラブの名前を呼んだ。

 

 しかし目線はこちらに向かない。彼はやむを得ず、彼女の両肩を手で掴み、無理にでも気をそらそうとする。

 

 刹那(せつな)、少年は顔を掴まれた。しっかりと固定されてビクともしないことがわかる。

 

 そしてゆっくりと彼女の前に、近づかされる。

 

 驚きのあまり肩から手を放し、何をすればいいかもわからず、その腕も固まる。

 

 「言いましたよね?」

 

 ハスキーな声であるのに、なぜか重みも感じられる声が、彼の耳を響かせる。

 

 「どこにも行かないって......」

 

 目玉さえも動かせない。細胞までもが彼女に束縛される。

 

 「だというのに、あなたは......」

 

 声を出そうとする。が、出せない。とにかく一息を入れて、彼女の名前を絞り出した。

 

 そっと、彼女の顔を包む。どこか目線が緩んだ気がする。

 

 大丈夫、どこにもいかない。もう一度、あの時の言葉をだす。

 

 これが出たのは、彼女のセリフから連想的に思い出したからだ。それが慌てたのか先に出た。

 

 アドマイヤグルーヴについては事故だと、伝えようとしたが寸前で上記のセリフと入れ替わった。

 

 「本当に......?」

 

 小さく頷く。こつんと(ひたい)同士があたる。そしてそのままくっつけたままにする。

 

 スティル、とまた声をかける。そのまま、ただそのままそらさないようにする。

 

 正解なんてわからない。なんなら、ないかもしれない。なら間違わないようにすることが大事なのだろう。

 

 今できることは、スティルインラブの気が済むようにさせることだった。

 

 「なっ、なにをやっている!!?」

 

 硬直したままその声に気が付く。正直それどころじゃないが、耳だけでも傾ける。

 

 「ス、スティルインラブ!!こんなところでなにを考えているんだ!!?こんなっ!こんなところでっ...!」

 

 「エ、エアグルーヴ......!」

 

 トレーナーの声で正体がやっとわかる。ひとまずこの状況を終わらせるために、少年はスティルインラブの声を再度かけた。

 

 軽く、本当に軽く、ぺちっと音が鳴るかも怪しいくらいに頬をあてる。

 

 目で訴える。今はこんなことをしている場合じゃないと。

 

 それが通じたのか、彼女はやっと手を離した。

 

 そこからゆっくりと、今度はエアグルーヴのほうを見た。

 

 「っ!?」

 

 もともと、ただことではないと思っていた。もしかして、もしかするかもと、変な考えもしていたが、やはり危険な状況下だと改めて確認する。

 

 「スティルインラブ......!」

 

 重圧がが変わらず、緊張が解くことが出来ない。だが少年はつきいるスキを見つけた。

 

 今度はスティルインラブを、お姫様抱っこをした。

 

 「「はっ!?」」

 

 トレーナーとエアグルーヴが驚く。そこにすかさず少年は一言断りを入れてから、彼女を抱えたまま、その場を去った。

 

 アドマイヤグルーヴ含め、そんな後姿を唖然としたまま眺めてしまった。

 

 

 ―――――――――――

 

 

 逃げ出した先は、人気のない岩場。

 

 さすがに疲れた少年は彼女を下す。

 

 膝に手を当てて、息を整えようとする。

 

 そんな彼を、少女は見下ろす。その表情は何を考えているのか、わからない。

 

 やっと肺が治った彼は上体をあげる。そこに彼女が再度近づいてきた。

 

 気づいてそちらを向くと、今度は体を当てられ、そして抱き着かれる。

 

 何度目かの、彼女への声掛け。すると顔が上がった。

 

 いまだに目は光っている。しかし表情こそは切なそうだった。

 

 「......いかないで。......いかないでください......」

 

 かすれそうな、声だった。

 

 「......いかないで......」

 

 今度は彼の胸に顔をうずめてくる。そんな彼女を少年は呆然としたが、すぐに考えることをやめ、自分も優しく彼女を包むのであった。

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