スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
やっとできたので初投稿です。
その1 彼女との夜
「お、おじゃまします」
スティルインラブがそう言いながら靴を脱ぎつつ家に入っていった。少年に先導され、居間に入っていくと、彼の母親と会う。
「ああ、いらっしゃい。こうしてここに来るのは初めてよね。ゆっくりしていってね」
「は、はい。ありがとうございます」
彼の母親とは小学生時代に顔を合わせており、トレセンに入ってからは久しぶりに再会できた形となる。そんなこの主婦はスティルインラブがくるのを楽しみにしており、今は食事を作ろうとしていた。
「――――、スティルちゃんの荷物をもちなさいよ。レディに力仕事なんてさせちゃだめよ?」
「い、いえ、そんなことをさせるわけには…」
「あらそう?まあなにかあったら頼ってね」
そういわれ、頭を下げつつ背中に少々大きめのリュックを背負った彼女を少年は案内した。
そして来たのが、彼の部屋である。中は意外とシンプルな和室である。というのも事実彼の実家は和風よりのなつかしさが混じった一軒家となっている。
少年は適当に荷物を置かせ、一度居間に戻った。
「ありがとうございます。それにしても…」
再度部屋を見てみると低い机に座椅子、本棚も高くなく、そして踏み心地のいい畳。
ゆっくりと座って落ち着くにはちょうど良かった。
スティルインラブが眺めていると、本棚を気にする。そこには走り方に関するものがいくつか並んでいた。
早く走るレース用のものだ。それ以外には古い漫画本や教科書がある。
「あっこれは…」
一冊の本が目に入る。その本はスティルインラブも持っている走り方の本があった。彼女は懐かしみながら、その本をとり、そして開いた。
少しすると、彼が戻ってくる。手にはコップと飲み物をのせたお盆があった。
「あっすみません。勝手に見てしまって」
少年はいいよいいよと軽く許し、畳にお盆を下す。そしてコップに麦茶を入れ、彼女に渡した。
「どうも。それにしても、あなたもこれを読んでいたのですね」
先ほどの本を話題にすると、少年にとってもこの本は初めて買った走りに関する本らしい。そして同時に自身のお気に入りの一つで、小学生のときにはそれを穴が開くほど読んでいたらしい。
「まあ、そうだったんですか。じつは私もこの本を参考に走りを整えていったんです。ふふ、奇遇ですね」
そうしてこの本に関する話をしていると、あっという間に時間が過ぎて、下から声をかけられる。
「ごはんよ~」
「あっはい!」
スティルインラブたちはとも居間にいくと、彼の母親、そして父親も机の上にいろいろと料理を置いている。サラダもあるがそれよりも揚げ物、焼き物が目立つ構成だ。そう、今夜はクリスマスイブ、この日のために彼の両親はこうして
「おお、いらっしゃい。初めましてだね」
「は、はい。初めまして。スティルインラブです…よろしくお願いいたします」
「うん、さあさあ、もう準備ができたから座ってね」
「あっはい、というかすでに準備されてあったのですね…よかったら手伝おうとしましたが…」
「いやいや、せっかく来てくれたのに、手間をとらせることはしたくないし」
「ありがとうね~そう言ってくれて、うちの子も普段からこう言ってくれたらいいのに」
少年が焼きを入れられ、それを見ていた彼女はなんだか微笑ましくなる。その後とくにつまづくことなく、みんなで食べ始めた。
「どう、スティルちゃん?」
「はい、とてもおいしいです」
「よかった。今日は
「ありがとうございます。あ、――――さん、これおいしいですよ」
そういわれ、彼は探す。スティルインラブはすぐに箸でとった。
「こちらです、はい」
つまれたそれを少年に向ける。それに対し、彼は自身の取り皿をその下に持っていった。
「え?あっごめんなさい!つい…」
彼女はやや驚きながら皿に置いた。少年はお礼を言い食べていく。それは確かにおいしかった。
自身にとって変なことをしてしまい、恥じる彼女。すると今度は彼がお気に入りをとってスティルインラブに渡そうとした。
「…!?」
先ほどのように目の前に渡されて、また驚く。少年は嫌いなのかと心配してきた。
「い、いいえ!ごめんなさい。いただきます」
彼女は慌てて、その箸につまれたものを、そのまま食べた。その食べ物も確かにおいしかったのだが、飲み込んだ後、彼に話しかけようとすると、父親が呆気にとらわれたような顔をしている。
「あら~仲いいわね~」
「え?あ、あの…なにかしましたでしょうか…?」
「…ああ、えっと…」
「普段からそんなことしてるの?」
「?」
「さっきのよさっきの」
「…!?」
自身がしたことをやっと頭が追いついたようだ。彼が彼の箸でつまんでいた食べ物を、スティルインラブの皿に盛らずそのまま食べてしまったことに、今更気づいたのである。
当然その箸はもともと彼が口に着けているものだ。そして彼はいまだにその箸で食べ物をつまみ、そして自身の口に運んでいっている。
「ち、違うんです…こ、これは…別に普段からこんなことしているわけではなくて…」
「別にいいのよ?こっち気にしなくて。というかちょっとはアンタは気にしなさい」
「あう~…」
スティルインラブは赤く沈み、父親は気まずく目線をそらす。こんなことがあってるのに、一向にブレていないのは、能天気な少年と、ホクホク顔の母親であった。
さて、食事は進みほとんどを平らげると、母親がケーキを持ってきた。
それはまさに、ベリー尽くしの丸ケーキと言えよう。イチゴはもちろん、ラズベリーにブルーベリー、果実そのもの以外に、
「まあ…」
「スティルちゃんといったらって感じのケーキがあったから、これしかないって思ったわ。さーて、キレイに分けるわよ~」
そういい、母親は丁寧にケーキを四等分に分けていく。そのあとに、それぞれの皿にのせていき、配った。
「ありがとうございます。いただきます」
「はーい」
ケーキを少年とともに食べ始める。口に入れた瞬間、甘酸っぱさが広がり、しかし全くきつくなく、中で溶けていくような触感が、彼女の頬を緩めていった。
「おいしい…」
「…うん、おいしい!これ選んで正解でよかった」
一口食べた後、母親はスティルインラブのほうを見る。もくもくと食べている彼女を見ていると、今度はこっちが笑みがこぼれはじめる。
「とてもおいしいです。これはどちらで手に入ったんですか?」
「近所にあるケーキ屋さんのなの。あとで教えてるね」
「はい、ぜひお願いします」
スティルインラブは喜ぶ。彼もおいしそうに食べているあたり、いつか自身が買って彼に食べさせたい。一つ彼女のやりたいことができたのであった。
――――――――――
一時間後・・・は経っていないが、それぐらいした時間。少年は今風呂に入っている。
一方のスティルインラブはすでに上がった後であり、桃色の長袖長ズボン、左胸にニンジンのマークがポツンとあるパジャマに着替えた後であった。
そんな彼女は今に戻り、彼を待っている。そこへ母親がやってくる。ちなみに父親は自身の部屋に戻っている。
「スティルちゃん、――――は迷惑かけてないかしら?」
「いえ、とんでもありません。――――さんには、いつも助けられてばかりです。私は目立たないので、何かと手伝ってもらうことが多いんです」
「そうえば、気が付かれにくいって――――も言ってた。そんなになの?」
「はい、お店に入るときも自動ドアが開かなかったりと、彼がいないと進めないんです」
「う~ん大変ね」
「ええ、ですが彼は何かと率先して進めてくれます。彼のおかげで日常が
「へ~そんなに?」
「はい」
「お~まさかそこまで言ってくれるなんて、思ってもみなかった。――――はその、なにかとおっちょこちょいからスティルちゃんが大変な目に合ってるか心配してたから…ほら、食事の時みたいになんか
「あっその、それに関しては、完全に私が悪いです…」
再度スティルインラブは顔を赤くした。湯上りのため、より派手に染まっている。
「ふふ…けど、本当にスティルちゃんと出会えてよかったって、心の底から思うわ」
「え?」
「いつの日だっけ。――――はね、スティルちゃんと出会ってからよく笑うようになったの。ずっと一緒に走れる子に出会えて。ほら、走るの好きだけど一緒に走ってくれる子がいなかったって聞いた?」
「はい、私と出会うまでは一人で走るのがほとんどだったと…」
「うん。けどスティルちゃんと走って以降は、目に見えて明るくなったの。それまでは退屈そうな顔してたから、なにかやらせようと思ってたけど。ホントによかった」
「…私も、――――さんに出会えて本当に良かったです。今でも昨日のように思い出せます。私も
スティルインラブはトーンをやや落とす。その後落ち着いて一つ一つ述べていく。
「そうならないよう、一人で出かけていたある日に出会ったのです。――――さんの走りを見ていたら、私はいつの間にか駆け出していました。あとを追って…突然だったので驚いていました。ですがそのあとは逃げることなく、ただ私に合わせて走ってくれました。そしてこちらが疲れきった時には、彼は待ってくれました。そしてこんな私に笑顔を向けてくれました。…本当にあの出会いは忘れられません」
微笑む彼女に、母親も嬉しくなる。親ほど子よりも
「そのときからいつも走ってくれたんでしょう?本当にありがとうね」
「はい、こちらこそありがとうございます。――――さんと出会えて、私は幸せでした」
「うん、これからも、あんな息子だけどよろしくね?」
「…はい、こちらこそよろしくお願いします」
―――――――――――
「すみません、ここまでしてしまって…」
「ええ、ちょっと古っぽいけど」
少年の部屋に二つ布団が並ばれる。偶然にも赤い紅葉の描かれた布団がありこの時のために、久しぶりに洗濯したらしい。
「それじゃあ、おやすみ」
「はい、おやすみなさいませ」
「――――、変なことしちゃだめよ?」
母親はついでに釘をさして出ていった。初めて友人が泊まりに来てくれたせいか、信頼がないんだか。
ともかく布団の上に座り、触り心地を確かめてみる。少し硬く今時販売されているものと比べ、少し折ったくらいではもとに戻るようだ。
「はい、大丈夫ですよ。こういう布団はなんだか新鮮な感じがします」
スティルインラブも座って触れてみる。とりあえずこれのせいで寝れないようなことはないはずだ。
しかし、いざこうしてじっとしていると意外とすることがない。解放感ある外で過ごすならともかく、限られた 空間にいると、なにか話さないといけないと思ってしまい、なにか絞ろうとするが、意外に出なかった。
ひとまず、少年はトレセン学園での暮らしを聞いてみることにした。
「そうですね…トリプルティアラを手に入れて以来、皆さんからは意識してくれるようになりました。おかげであの日以降、賑やかになって学園内でお話しする機会が増えました。
スイープトウショウさんっという普段から魔女の帽子を被っている方がいるのですが、どうやら私のことを吸血鬼と勘違いされまして…トマトジュースをいただきましたね。
ほかにもスポーツに誘われたり、本を進められたり…そうだ。これを持ってきてたんです」
リュックを取り出し、スティルインラブは一冊の絵本を取り出す。そのタイトルには《しあわせの青いバラ》と書かれていた。
「よかったら一緒に読んでみませんか?」
しあわせの青いバラ。バラがたくさん植えられた庭から始まり、そこからさまざまな色のバラが咲いていった。
しかし、そのなかから真っ青なバラのつぼみができていた。青いバラというのは現実でも存在しない品種とされており、絵本の住人はそんなバラを気味悪がっていた。
そこに《お兄さま(著者によってはお姉さま)》なる人物にとってはそれが魅力的に
という物語であった。読後、スティルインラブは一息つき、感想を述べる。
「素敵な物語でした。どんなに多くの人から認められなくとも、必ず理解してくれる人は現れる…。この青いバラに対して、なんだか他人事には感じなかったです」
これもひとえに、お兄さまがいたから青いバラは綺麗に咲くことができたのだろう。おそらく、この絵本の教訓はスティルインラブの言った通り、理解者の存在は必ずいる。ということなのだろう。
「…おそらくそれだけではありません。この青いバラはお兄さまの声を毎日聞き…つまり応援を受けてきました。おかげでこのバラ自身も勇気が湧いてきて、このように咲くことができた。そしてさらに周りの人たちにも認められ、幸せにしていく…きっと努力をすることで、理解者が増えていく。という解釈もできます。
こうして読んでみると、絵本は奥深いものですね」
感慨深く、スティルインラブはそういった。こうして考えると、なんだかますますスティルインラブに似たような物語である。
スティルインラブもまた誰に認知(理解)されない存在だった。しかし少年との出会い、そして受け入れ、さらにトレーナーとの努力の末、レースでの勝利は多くの人々に記憶として刻まれた。
少年は彼女のことを、誰よりも綺麗に咲いた赤いバラと称した。
「ふふふ。ありがとうございます。…ということは、――――さんがお兄さま、ということに…」
確かに、絵本の流れに
そんなもんだから少年は、お兄さまと呼んでみる?と聞いてみた。
「ええ?あの、その…」
まさかの流れに戸惑う彼女。少し考え事をしたあと、恐る恐るその口を開いた。
「え、えっと…お、お兄さま…」
実際に言ってみると、次第になんだか恥ずかしくなっていく。自分は何してるんだろうと無意識に思った。
一方の少年はなんだか嬉しくなった。彼自身一人っ子なため初めて感じる新しい感情が湧き、これからもそういってくれると嬉しそうだった。
「い、いえ…すみませんが、これからも名前で呼ばせていただきます…」
恥ずかしさのあまり、風呂に上がった後よりも顔を赤くさせた彼女であった。
――――――――――
誰もが寝静まった深夜。ふとスティルインラブは目が覚めた。暗さに慣れた目が当たりの空間の奥行が暗いなりになんとなくわかる。
横を見てみると、彼の顔がわずかながら見えた。何も考えてなさそうな、スヤスヤな寝顔である。
しかしその直後、顔を寒そうに揺らした。無理もなく今は真冬、クリスマスになった直後である。
そんな彼に、スティルインラブは手を伸ばす。そして彼の頬に触れる。
そこから温もりが徐々に手の平へ広がっていく。そして心なしか、少年も顔が緩やかになっていく。
(温かい…普段からこの体温をまとって、私に接してくれている…)
触れている手に集中する。元の寒さも相まって、より感じる。しかし伸ばした腕は徐々に冷えていき、出ている手の甲も凍てついていく。
(離したくない…このまま、どうかこのまま)
スティルインラブは寝たまま自身の布団から出て、彼の布団をめくりあげる。
あげたあと戸惑ったかのように止まるが、また震えた彼を見て彼女は慌てて入っていった。
そしてそのまま彼に引っ付く。すると彼女の体温がみるみると上がっていくのが分かった。
(ああ、なんて温かい…こんなはしたないこと、してはいけないのに…)
内なる紅が去ったというのに、それに似た高ぶりが出てくる。片方の脚を彼の両足の合間に入れる。そのあともう片方の脚を、彼女は器用に下布団と足の合間に入れていく。
(全身から彼の温もりを感じる…だめ、こんなはしたないこと。少ししたらもう出なきゃ…)
そう考えた直後だった。
「…!?」
彼女の脚のように、彼の腕が布団側と体の合間をやや強引にすり抜け、そしてそのまま背中を掴んできた。
(うそ…、これじゃあ抜け出せない…!い、いえそれよりも…この状況…!いけない!こんなの、こんなことされると高ぶりが抑えられない…!ああっ、彼のお顔が近い…)
レース本番の緊張よりも心臓の音があまりにも聞こえてくる。部屋中に響いているのではないだろうか。
すっかり目を覚ましたスティルインラブは内側で縮こまった腕をどうにもすることができず、ただ彼の顔を間近に見つめることしかできなかった。
スティル…
「っ!!」
彼の口から自分の名が聞こえる。すると羞恥だけでなく歓喜もわいてくる。
思考が回らない代わりに、その感情はひたすらに舞っていた。
そして彼女も彼の身体に腕を回していた。
(ああ…どうか、どうかこのまま…)
目をつむり、より体感を研ぎ澄ましていく。もう外の寒さなんてすっかり忘れていた。
そして感じていくうちに、激しかった感情はいつのまにか安らぎとなり意識も遠くなっていく。
(どうかこの…まま…)
ついに彼女は、二人だけの世界に落ちていったのだった。
…余談だが目が覚めた時には10時を回っていた。
なんでも彼が先に目を覚ましており、いつのまにかスティルインラブが入っていたのだが、疑問に思うことなく浅い意識のまま二度寝して今に至るらしい。
スティルインラブは今までで一番赤くなった。
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さらに余談
「そうえば一時期、首中に絆創膏貼ってたけど?なにか知らない?」
「ァ゛ッ…」
でけた…
…続きはできる限り頑張ります。