スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」   作:狸より狐派 ハル

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その3 一緒に

 気が付けばもう一月以上たっていた。

 

 少年とスティルインラブは公園のレース場で昔のように駆けている。

 

 いつものように、先に少年が駆け出し、そのあとに彼女が追う。

 

 コーナーを曲がり、二人は全力を出す。

 

 「っ…だめっ」

 

 スティルインラブは徐々に離される。間違いなく全力を出しているのに、去年と比べて体感的に遅く感じた。

 

 「…間違いなく速いはずなのに、正直らしくない。っていう思いが出てくるなぁ…」

 

 スティルインラブのトレーナーはそういう。事実、彼女の実力は今でもレース本番に十分通じる力を持っている。

 

 ウマ娘の身体について、本格化が発生して3年目ことシニア期になると、成長が緩やかになっていく。

 

 ここからは、今の身体能力を維持するかが大切になってくるもので、彼女らもそれをメインとした走りを行い始めているころだった。

 

 走っていた二人は、ゴールを過ぎると止まり、彼が彼女に話しかける。

 

 「…はい、大丈夫です…」

 

 正直そうは見えない。ひたすらに空回りを起こしているようで、しっくりと感じなかった。

 

 ひとまずトレーナーの元に戻る。彼女もまた思考の海から出て、二人に近寄った。

 

 「現状ケガとかの心配はないけど…今日はこれくらいにしようか」

 

 「はい。ところでですが次の休養日、ご予定はございますか?」

 

 「予定?とくにないけど」

 

 「でしたら、みなさんとお出かけしませんか?」

 

 「いいけど、私必要?」

 

 「ダメ…でしょうか?」

 

 「いや行きたい、めっちゃ行きたい。お願い連れてって」

 

 「わ、わかりました…」

 

 ――――――――――――

 

 というわけで、その日。別の公園に寄った三人は、あるキッチンカーを見つける。

 

 黄色くどこか温かみの感じる車には、《はちみー》と書かれた()()()が立てられている。

 

 ふと思うのだが、なぜ《つ》まで書かないのか。少年にとって長年の疑問だった。

 

 「あれ単純にそっちがかわいいからって聞いたなぁ。知らんけど」

 

 無責任なことは言わないでほしかった。しかしほかの、のぼりを見てみると《ホットはちみー》と書かれてあるものもあった。

 

 せっかくなので、少年はスティルインラブのも含めて買いに行こうとする。

 

 「ま、待ってください…!私に挑戦させてくれませんか?」

 

 不安に思いつつも、彼は一旦この場を彼女に預けてみる。

 

 スティルインラブは店の窓口のすぐそばまで行き、声を掛けた。

 

 「あの…ホットはちみーを、Sサイズをふたつ…」

 

 声が小さかったのか作業員は気づいていない。彼女はもう一度掛ける。

 

 「…ほ、ホットはちみー…」

 

 どうしてもダメなのかと思った少年は、助け船を出そうとする。しかしそれをトレーナーは止めた。

 

 「もう少し待ってみよう。せっかく挑戦してるんだしさ」

 

 彼女は片方の軽く作った拳をもう片方の手で覆う。そして決意したかのように、一歩前に踏み出した。

 

 「…あ、あの!ホットはちみーのSサイズをふたつ、お願いします…!」

 

 「あっかしこまりました!少々お待ちくださいませ」

 

 「…!」

 

 少年はつい、驚きの声が漏れた。これはまさに大きな一歩と言えるのではないのだろうか。

 

 スティルインラブはカップを受け取り、戻ってきた。そんな彼女の表情も達成感があった。

 

 「――――さん、やりました!」

 

 「うん!ホントよかったよ!成長したねスティル!」

 

 「はい…!」

 

 そうして飲んだはちみつは、より濃厚においしく飲むことができた。

 

 少年はもう一度飲みたくなったのか、今度こそ自分で買いに行こうとする。

 

 「あっ…待ってください。あなたに渡したいものが…」

 

 彼女がバックの中から、赤いリボンのついたチョコレート色の箱が姿を現す。

 

 「ハッピーバレンタイン、です」

 

 「…あっ、そうえば今日はバレンタインだったね。もしかして手作り?」

 

 「はい。チョコレートには、こだわりがありまして…色々なカカオをブレンドしてオリジナルを作ったんです」

 

 「そ、そこから…」

 

 「ええ。…あぁはい、もちろんこの場でぜひ」

 

 少年は丁寧に包みをほどいて、中を開けてみる。するとそこには、紅いハートで作られたチョコレートが桃のカップに乗っかっていた。ちなみに大きさは、両掌(りょうてのひら)ほどもある。

 

 「Oh…」

 

 少年はこれまた丁寧に掴み、しっかりと一口食べた。

 

 とても甘くておいしい。それにこの味には覚えがある。

 

 「はい、あのクリスマスの日に、貴方のお母さまから頂いたケーキを参考に作りました」

 

 またも大きなサプライズに、少年の味覚はバラの(とげ)のように鋭くなった。内なる紅もこのように喰らっていたのだろうか。

 

 「いやそれは違うでしょ」

 

 「…ふふふ」

 

 出会って以来毎年貰っているが、今までで間違いなくおいしかった、と少年は述べた。

 

 余談だが、彼女がトレセン学園への入試期間には、逆に彼がチョコレートを祈願込みで送ったのであった。

 

 ―――――――――――

 

 そのまま穏やかな外出は続き、今はとある花畑に来ている。

 

 2月のはずだが今日は快晴で日も照っており、暖かく感じる。つくづく晴れてよかったと、少年は思った。

 

 「いい景色ですね。絶好のお花見日和です」

 

 「うん。やっぱこういう日もいいね」

 

 「はい。今日は日記に上手く書けそうです」

 

 「あっ、日記書いてるんだ」

 

 「そうなんです。今毎晩寝る前にひとつずつ…やりたいことを書いてるんです」

 

 やりたいこと?と少年はオウム返しする。

 

 「はい。でもけっこう難しくて、いざ考えてみると何も思い浮かばず…でも昨日は、お花畑に行きたい。ふとイメージが湧いたのです。

 ここよりも、もっと広くて…見渡す限り全てお花で…!光と風と…そして…」

 

 そこで言葉が途切れた。遠くを見つめる彼女に、確認をする。

 

 「…このままでは、いけませんよね…」

 

 「スティル?」

 

 視線が下に行き、なぜか落ち込むようにつぶやく。心配になった少年はそばに近づく。

 

 「…」

 

 しばらくその状態が続いた。その後、彼女は少年のほうを向く。その表情は先ほどまでのことがなかったかのように、不安そうなものになっていた。

 

 「…。――――さん。貴方は今の私を…応援してくれますか?」

 

 少年は戸惑いながらも、肯定する。

 

 「…今の私は、ただのスティルインラブなんです。何者でもない…特別な力をなにももたない…ただの普通の子」

 

 普通もなにも、スティルインラブというウマ娘は少年にとって、かけがえのない存在である。文字通り普通だろうが、それ以外だろうが、ただ一緒にいたいと思うウマ娘なのだ。

 

 「…ありがとうございます。ですが、今のままではいけないのです」

 

 「…?」

 

 トレーナーも固唾を飲んで聞く。スティルインラブの表情に決意らしきものが徐々に見えてくる。

 

 「…私はこれからも。走り続けます。いつか戻ってくる、あの子のためにも…

 ――――さん」

 

 その合わせてくる目線は、まったくのブレがない。少年の知るいつものスティルインラブは、こうしてじっと見つめあうと、そらすはず。だけどこの日は違う、真剣さと切なさの混じる、そんな目だ。

 

 「…これからも、私のそばにいてくれますか?そのとき、まで…」

 

 そのときもなにも、今後ずっと一緒でいるつもりでいる。そしてあの時のようにまた走ろう、と伝える。

 

 「…」

 

 彼女はなにも返さなかった。ただ、小さく微笑んだ。

 

 少年は日記のことを思い出す。やりたいことを探しているのであれば、一緒に探そう。

 

 「…はい。喜んで」

 

 今度は切なさを抑えたような笑顔を見せる。そんな彼女を見て、トレーナーの内心は不安が生まれていた。

 

 (なんていえばいいんだろう…いまのスティルは、どこか危ない…)

 

 「…トレーナーさん。よろしければ少し、今後の予定でも立てませんか?」

 

 「…あっ、う、うん。わかった」

 

 杞憂であればいいのだが、と心にしまいながらトレーナーはふたりのあとを追った。

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