スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」   作:狸より狐派 ハル

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ACT1 《決意の先にあるもの》

 「チィ!あの姿じゃねぇのに速え!!」

 

 「っ!!」

 

 中京競馬場、G2レース《金鯱賞》。勝負服ではなく体操服を着たウマ娘たちは死に物狂いで走る。

 

 だがどれだけ全力を出しても前を走る彼女に追いつけない。

 

 美しいフォームで駆け、見る者を魅了するその走り。誰にも触れられないその姿はまさに女王の名にふさわしいと言えるだろう。

 

 しかしそれでもと抗う者の一人であるウマ娘、タップダンスシチーは抜かれた後も抜き返すために走り続ける。

 

 (あのMonster(モンスター)ありきの力じゃなかったのかよ!!…いや違う、必要ねえのか!私程度じゃ相手にならないってかぁ!?)

 

 ゴールの前に答えにたどり着いてしまい、歯を(きし)、ませる。一方のもう一人、アドマイヤグルーヴは違和感を感じていた。

 

 (あなたに何があったというの…?今のあなたは確かに新たな決意を抱いた。けどそれは、きっとよくないもの…それは本当にあなたにとって必要なものなの…!?)

 

 そう考えるうちに紅い女王はゴールラインを切っていく。その直後に続々と後続が走りを終えていく。

 

 彼女はあるところにいる一人の少年に顔を向け笑顔を向けている。

 

 その笑顔は普通なら微笑(ほほえ)ましいもので、ここには何故だかふさわしくないものだった。

 

 ――――――――――

 

 レース場から出て誰もいない連絡路を歩いていると、後ろからアドマイヤグルーヴが声を掛ける。

 

 「あなた…どうしたの?何があったというの…?」

 

 「…珍しいですね。アルヴさんが心配してくださるなんて」

 

 「そんなのどうでもいい。どうしてあなたは、自身を投げるような走りをしているの」

 

 「?なんのことです…」

 

 「私自身どう語言化すればわからないけど…少なくともさっきのあなたの走りは、よくないものだと感じた…ケガとかじゃない、もっと危ういもの…あの彼のためだというのならば、やめなさい」

 

 「…」

 

 目を一瞬細めるスティルインラブ。少し沈黙をしていると、他所を向く。

 

 「お気遣いありがとうございます。ですが…もう決めたことなのです」

 

 「決めたって…あなた自身はどうなるの!このままだと…あなたは…」

 

 先が見えない状態に、言葉に詰まるアドマイヤグルーヴ。そんな彼女に、スティルインラブは、また優しく微笑む。

 

 「…変わりましたね、アルヴさん」

 

 「え?」

 

 「以前の貴方なら、そのような気の仕方は考えられません…。ですが、貴方にも大切なものができた…。かけがえのない、絶対に守りたいもの…」

 

 「…」

 

 アドマイヤグルーヴは去年の夏の合宿を境目に、少しずつ変化していった。

 

 自身を終始心配してくれる先駆者のエアグルーヴ。そんな彼女の紹介で自分への憧れを伝えてきた、後にクラッシック二冠という快挙を成し遂げるある後輩。またそんなふたりの恩師でもあるエアグルーヴの母親もまた、アドマイヤグルーヴを応援してくれている。

 

 温もりを知り、ともに走ることを知った彼女は前よりも確かに強くなっていた。

 

 「今の貴方ならわかるはずです…自分の全てを賭け、欲する方のために捧げる…これが私の道なのです」

 

 「けど…!!」

 

 「はーっはっは!!そういうことだったか!!」

 

 後ろから高らかに笑いながら、タップダンスシチーがくる。納得したかのようにご機嫌な様子で腰に手を当てながら話してきた。

 

 「どおりであんな顔をしていたわけか!!いいじゃねぇか、その熱いLove!理屈では絶対に計れない情熱!文字()()()()()()()()()がないと手に入れられない、勝利以上のRomance(ロマンス)!!アンタも最高のPartner(パートナー)を手に入れてたんだな!!」

 

 「っ!違う、勝手なこと言わないで!そんな明るいものなんかじゃない!!」

 

 「今更だなアルヴ。ここを走る奴なんて、そんなもんだ。誰かしら必ず譲れないなにかを持っている。重賞なら尚更だ、アンタだってそうだろ?」

 

 「それとこれとは別!このまま走れば彼女は…!」

 

 「いいんです。アルヴさん」

 

 スティルインラブはアドマイヤグルーヴを見る。いまだ柔らかな表情をしているが、その瞳には確固たる思いが感じられた。

 

 「私の望みは、あの方の幸せなのです。それ以外には何も望みません…。だからアルヴさん、あなたもどうか、悔いがないように…」

 

 そういって一礼すると、彼女は(ひづめ)を返した。

 

 「スティルさん!」

 

 アドマイヤグルーヴの声は届いているのに、なにかに遮られ、そのまま去っていった。

 

 ――――――――――

 

 4月のトレセン学園には《ファン感謝祭》という催し物がある。簡単に言えば運動会の様なものだが、世間を騒がす少女たちのいるここに、一般入場することができる。

 

 そのため老若男女問わず在校生よりも多くの人たちが、ヒトとウマ娘問わずやってきてた。

 

 無論、少年も例外ではない。スティルインラブと、ともに可能な限りトレセン学園を巡っている。

 

 そしてこの学園はとんでもなく広いのである。入場可能な場所だけでも他校よりも面積があり、入学して間もないウマ娘などが迷うことなど恒例行事であった。

 

 少年は彼女と手をつないで歩いていく。実は彼からではなく、スティルインラブが先に手を繋いできたのである。

 

 「楽しめてますか?――――さん」

 

 一度は入ってみたかった場所に、彼は満足していた。まだまだこの中を見て回りたい。彼はここで特に広い場所へ目指したがった。

 

 「ふふ…ではレース場に行きましょう。確か今の時間は障害物レースが行われているはずです」

 

 そうしてやってきたトレセン学園内のレース場。公園のレース場よりも長く、広く整地されたこの場所は、本来の舞台である競バ場と大差ないほどである。

 

 さらに今日は客が多いだけでなく、派手な飾りつけや他では見たこともない機材などがあり、よりバラエティー感溢れる状態となっていた。

 

 「この日ならではの光景ですが、普段私たちはこのレース場でトレーニングをしているんです。私もよくここを借りています」

 

 観客席も本場のようになっているそこに彼らはいた。正確には最上階にて一面を見まわしている。

 

 今そのレース場では複数のウマ娘がやけに()った仕掛けに対処しながら競争していた。

 

 勝つことも大切だが、より楽しく盛り上がることのほうが重要な光景は、見ているだけでも明るくなるものだった。

 

 少年が傍にあった時計を見ると、11時になっている。お腹は減っているが、まだ早いと思ったため、しばらくここで時間をつぶそうとした。

 

 「…失礼」

 

 ふと声を掛けられる。ふたりはそちらを向くと、なんとアドマイヤグルーヴがいた。

 

 「アルヴさん?どうしてこちらに…?」

 

 「…彼を探してたの。話があるの」

 

 「話…」

 

 「せっかく楽しんでるところに、ごめんなさい。けど、どうしても彼に用があるの。一度ふたりきりにさせてもらえないかしら?」

 

 少年は断る理由はあるのだが、それを出さず重要性を確認する。

 

 「ええ。ここでは言えないけど…」

 

 申し訳なさそうに伝えてきた。それならばと彼はスティルインラブに断りを入れる。

 

 「…」

 

 だがスティルインラブはアドマイヤグルーヴをじっと見つめている。嫌悪感は一切ないが、代わりにこう(こぼ)した。

 

 「ふたりきり…」

 

 アドマイヤグルーヴは上手く聞き取れはしなかったものの、口の動きで察した。

 

 「…別に彼に気ができたわけじゃない。変な勘違いしないで」

 

 「あっ、はい…」

 

 一旦区切りがついたため、ひとまず少年は再度断りを入れた。

 

 「はい…では私はここで待っています…」

 

 なんだか寂しさが残った声だった。少年はアドマイヤグルーヴの後を歩いていく。

 

 徐々に離れていくその背中を見続けていると、スティルインラブの胸がより、ざわめいてきたのだった。

 

 ―――――――――――

 

 「ごめんなさい。ここまで歩かせて…ここぐらいしか人気(ひとけ)のない場所は、なかったから…」

 

 建物と敷地外を遮る壁の合間にやってきたアドマイヤグルーヴと少年。彼女は片手を肘に掴みながら話しかけてくる。

 

 「…彼女になにがあったの…?しばらく意気消沈していたはずなのに、急にただ事じゃなくなって…なんだか危うい雰囲気がある…」

 

 そう心配そうにしてくれているが、危うさに関してはわからなかった。

 

 「わからないの…?今の彼女は、まるで自分を投げ出さんとしてる…。あのまま放っておくと、いつ破綻するか…」

 

 そういわれ、彼は先日のバレンタインについて話す。内なる紅…いつものスティルインラブは、もう一人の彼女を待っているようだった。

 

 「…!やはり…」

 

 なにかアドマイヤグルーヴは確信めいて呟いた。しばらく考えていると、表情が真剣になる。

 

 「…よく聞いて。今のままだと取り返しのつかないとこが、起きてもおかしくない…正直いって私もどうすればいいか、わからないけど…このままだと危険なのは間違いないわ。

 いい?今の彼女から絶対に目を離さないようにして。でなければあなたたちは…いや、あなたに、とても恐ろしいことが起こるはず…。だから今まで以上にあの子との日々を大切にしなさい」

 

 それは警句というより、彼への心配だった。

 

 少年は彼女にここまで言われたのが意外だった。冷たかったはずだったのに、その影は見えなくなっている。

 

 「スティルさんにも似たようなこと言われたわ。…それくらい、あなたたちには、幸せになってほしいもの」

 

 少年は耳を疑った。ここまで言うとは思わなかった。

 

 「そうね…自分でも驚いてる。もしかしたら、あなたに会えたからかしら…。私はあなたたちが憎かった…、いえ、嫉妬していたのもしれない…一緒に全力で走りあえるのが…。

 …今ならわかる気がする。好きは人と、ともにいること…それは本来、素敵なことだって」

 

 それについては少年も同感だった。スティルインラブとの出会えたおかげで、今の自分がいるのだ。出会えなければ満足できない人生を送るハメになったかもしれないのだ。

 

 彼女にはいくら感謝もしても、しきれない。だからこそ、自分は彼女のそばに居続けたいのだ。

 

 もしも世界が彼女を否定するのであれば、その世界を殺すのも辞さない。それが答えだった。

 

 「そ、そう…。けど、だからこそ、あなたは選ばれたのかもしれない。もしも私が先にあなたに出会えれば…な、なにを言っているのかしら、私は…」

 

 なぜだかスティルインラブのことが羨ましく感じた。つくづくらしくないこの思いは、不思議と悪い気がしなかったのだった。

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