スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
次に目指すレース、宝塚記念はトリプルティアラやエリザベス女王杯に並ぶG1レースである。
スティルインラブは一切の妥協を捨てるべく、トレーナーに少年とのトレーニングをトレセン学園内で、できないかをジュニア期以来、再度申し込んだ。
トレーナーも工夫したらもしかしたら行けるのではないかと、学園秘書にうまい具合に申し込み、なんとか通すことに成功する。その方法とは…
――――――――――
「あの~…、トレーナーさん。あの方は一体…」
「あの人が今回私が呼んだ外部インストラクターのウマ娘です」
「えっと…骨格が女性ではないというか…そもそもウマ娘ではないような…。尻尾の揺れ方も不自然な感じがしますし…」
「生まれつきそういう体質なんです。尻尾は動かせない、そもそも男性ホルモンが過剰で体格や声が男性とほぼ大差ない、そんな異質な生い立ちなんですよ、彼…じゃなかった彼女は」
「そ、そうなんですか…(今、彼って言いましたよね)」
視察にきた当の秘書、たづなさんこと《
もちろんこのヘルメットは少年である。彼はトレーナーのアイデアで可能な限り正体を伏せつつ、走りに支障がない装備をした。
だがまぁそれはそれとして異様な光景である。横切ったり、同じ場所でトレーニングをしているウマ娘や大人たちからは奇異な目で見られた。
もっとも彼らはそんなのお構いなしに走りまくる。やることは変わらない、少年が
「あっ、終わったんでちょっと行ってきますね」
「あ、はい」
トレーナーはコートの外側にいつつスティルインラブたちの元へ行き、彼女らも他の者の邪魔にならないようコートフェイスをくぐった。
「思ったよりもよさそうだね。無理した甲斐があったよ」
「はい…ありがとうございます。こんな無茶を叶えてくださって…」
「まぁ私もいつか、こうできたらいいなって考えてたからね。ジュニア期はまだ私も浅かったから踏み込めなかったけど、今なら行けるって確信めいた思いがあったし…。そうえばキミは大丈夫?」
少年もここを走れて、よかったと思っている。本格的なレースコートを走れる機会はほとんどなく、また先日のファン感謝祭にて走ってみたい思いもあったため、今回借りれたことは
またスティルインラブが見ている景色を直接共有できたことも嬉しいものである。
「ふふ、私もこの日を楽しみにしていました。本当はそこまでお顔を隠さないで済めばよかったのですが…」
「まぁ余計なことは伏せるに越せることはないからね…なんかあったら私が何とかするから、気にせず走ってきて」
「はい!」
「ちょっと待ってくれ~~~!!」
大きな声が席側からこっちへと聞こえ、そちらを向くとトレセン学園の制服である紫色を基調としたセーラー服と、その上から化学実験で着る白衣を身に着けた一人のウマ娘が、どたどたとやってきた。
席を離れほぼ全力でやってくる彼女にトレーナーは見覚えがある。
「ア、アグネスタキオン!?」
この茶髪に髪が首まで伸びつつ、下ほどボリュームが小さくなった髪型もまた特徴的だが(ウルフカットというらしい)、それよりも特徴的な瞳を持っている。
古いブラウン管テレビのような光というべきか、そんな横線が目黒から下に引かれてあるように見える。
「キミは何者なんだい!?あきらかに男性なのだろう!?だというのにあの走力はどこから出しているんだい!?現トリプルティアラを上回るその走りは一体どうやって身に着けたというんだ!少なくともドーピングの
息を荒くしながらも満面の笑みでマシンガントークしつつ、実験という得体の知れないなにかを、やらせようとしてきた。
彼女について簡単に説明すると、生粋のレース学者であり特にウマ娘の直接的な身体に対する影響を観察することを生きがいとするほどである。
ゆえに検証がハマった時には何日か徹夜したり、生活そのものが
その一方で興味のないことに関しては、とことん気が引かない。また本人も競争ウマ娘として一時期活躍し、G1レースを勝ったこともある紛れもない実力者である。
「ちょっ、ちょっと」
「ああ!キミがスティルインラブと彼のトレーナーだね!頼む、私もトレーニングに参加させてほしい!必ずキミたちにとってもプラスになることをやる!!頼むよ!こんなことは天文学的な確率と言っても過言ではないんだ!!いやもうしよう!そうしよう!!なあ!?」
ここまでグイグイとくることに慣れていないトレーナーは、言葉に詰まってしまう。そんなおり、少年は助けるためにアグネスタキオンへ声を掛けるが、それがまずかった。
「キミ!!その身体を隅々まで調べさせてくれ!!おお、間違いなく質感はウマ娘とあきらかに違う!!男性ならではのガッチリとした体格!厚さ!バランス!それでいてウマ娘と大差ない…いやスティルインラブよりも速い時点で大差どころではない!!この脚!!うおおお凄い!!まるで鋼鉄のような脚だ!!キミはなんてとんでもないものを持っているんだ!!もしかして男性ならではの脚なのか!!本来男性は女性よりも頑丈で強く作られている!自分がウマ娘だから意識していなかったが、本物がいるなら話は別だ!!頼む!!ともに私と新たな可能性を見つけに行こうではないか!!」
まったく衰えることのないその勢いは少年もタジタジとなってしまう。そんな彼を気にせず、アグネスタキオンは彼の身体を
腕、肩、胴体、顔に太ももやら、
一通り触りつくすと、彼の両肩をガシッと掴んできた。
「くうううっ!もう辛抱たまらん!!早くその身体を私に調べ尽くさせてくれ!!もし疲れているのであれば、構わない!今すぐ専用の検査機のある部屋へ行こう!!さあさあさあさあさあ!はーやーくはーやーくはーやーくっ―――」
そのアグネスタキオンの腕を、スティルインラブは掴んだ。
存在を忘れていた彼女もさすがに引き金を戻し、その掴まれた手をつい見る。
そこから腕へ、そしてスティルインラブの顔を見る―――――
スティル…ッ!
少年はアグネスタキオンの手をほどき、すぐにスティルインラブを必死に掴み離そうとする。
以外にもスティルインラブは掴んでいた手はすんなりと距離ができる。その代わりか彼女の顔はアグネスタキオンから全く離そうとしなかった。
「ひぃっ…!!」
アグネスタキオンは命の危機を感じた。凍る―――いや違う、燃やされる。だというのに芯から固まっていく。その場から動けない。
おかしな汗が顔、体中から発生してくる。声が出せない。目線も動かせない。
知り合いになにかと不可解な現象を起こす友人がいるのだが、それとはなにか根本的に違う。そんな超えてはいけないライン。それを踏んでしまった。
彼は
そんなことされて彼女も反射的に少年の顔を見る。見たことのない焦りに焦った表情だった。
(なぜそのようなお顔を…?)
慌てた少年はトレーナーを呼び、ともにここを離れることを伝えながら走っていく。正気に戻ったトレーナーはそのあとを急いで追いかけた。
このレース場に残ったものは…まあ言わずもがなであった。
上手くないのにイラストに挑戦しました。
演出許して。
それと次回からは、朝五時に投稿を変更したいと思います。
ご愛読ありがとうございます。