スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」   作:狸より狐派 ハル

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ACT3《ほどけなくなった紅い糸》

 スティルインラブを抱え、コース反対側の人気のない雑木林(ぞうきばやし)に入った少年。

 

 誰もいないことを確認すると、いったん彼女を下した。スティルインラブは先ほどの様子はなくなっているが、表情は硬かった。

 

 声を掛け、様子を見る。あの気配は去年の夏合宿によく似た、いやより強くなって再発したものだと思われる。

 

 まず少年はお礼を述べた。あまりにも興奮したアグネスタキオンを彼女が離してくれたことより、事態を収束できたのだから。

 

 …それと同時に起きたスティルインラブの突然変異は伏せることにする。あまりにも強引だったため、少し感情的になってしまったのだろう、少年はとにかくなだめた。

 

 「はぁ、はぁ、ス、スティル…大丈夫…?」

 

 遅れてトレーナーも息を切らして、やってくる。別の話になるが、彼女もよほどこの事態に慣れているらしい。

 

 そのままスティルインラブに近づいた。

 

 「…」

 

 当の彼女は全く動かない。なにを考えているのかが、彼らには見通せなかった。

 

 なにかいい案がないか考えるものの、絞り出したのはここに座って休憩することだった。

 

 彼はその場に座り、スティルインラブにも促す。彼女は返事こそなかったものの、静かに伏せた。

 

 トレーナーも座ってスティルインラブの様子を見る。木陰(こかげ)も相まって表情が暗く見え、自分がもっとしっかりとしていればと、自分を責めた。

 

 (やらかした…そうだよ。ここは全国の十人十色(じゅうにんといろ)なウマ娘が集められた、天下のトレセン学園。在校生は一癖も二癖もある子たちが少なくないし、予測もつかないことをしても、おかしくなかったんだった。

 彼の格好で近づき辛い印象をあえて作ったんだけど、完全に裏目に出た。せっかくいいところだったのに…)

 

 しかし後の祭りとなったため、今はとにかく落ち着くしかなかった。

 

 そう思った後、ガサガサとここに近づいてくる足音が聞こえる。

 

 「っ!?勘弁してよ…!」

 

 「トレーナーさ~~ん!!こちらですか~~!!」

 

 その声は駿川たづなだった。さすがに世話になっている相手を気にしない訳にはいかず、トレーナーは立ち上がり、彼らに待機させて声のほうに行った。

 

 「…あっトレーナーさん!その、スティルさんは大丈夫なんですか…?」

 

 「え、ええ…今は落ち着いてます…お騒がせて申し訳ありません…」

 

 「いえ、今回はタキオンさんの強引な誘いのせいです。少なくともスティルさんには非がありません…ですが…」

 

 駿川たづなは、見えないがスティルインラブがいるであろう方向を見る。当秘書はこの学園の幹事を務める身として、ウマ娘たちの幸運を願う心の持ち主である。

 

 スティルインラブのような二重人格らしき症状を持つ相手事態、初めてであろう彼女は、それでもあの少女が心配であった。

 

 「…たしか、彼女はもう一人の自分に悩まされているのでしたよね?」

 

 「…もともと、そうでした。ですが今は、そのもう一つの人格が伏せて、現れるはずはないのですが…。

 …激しい方のスティルの力を、普段のおとなしいスティルが自分で引き出せる状態になっているんだと思います」

 

 「つまり…領域(ゾーン)、もしくはそれに似たものですか?」

 

 「おそらく…」

 

 領域とはスポーツ用語、またはそれに限らずひとまとめに説明すれば、極限の集中状態、俗にいえば何かと夢中になることである。

 

 そしてウマ娘の場合もう一つの意味があり、自身の本当本来の力とされるもので、そこに至った者は、自分だけの世界が見えるのだという。

 

 オカルトに片足入れたような話だが、領域を手に入れたウマ娘は事実、目覚ましい活躍と実績を手に入れ、歴史に刻まれるほどである。

 

 そしてスティルインラブはそれを持っていた。恐ろしい条件持ちとして。

 

 「…普通走りの中で目覚めるものです。一応例外もあるのですが、彼女の場合はいったい…」

 

 「彼が引き金なんです。実は、今回連れてきたインストラクターの正体は…本当は男性なんです」

 

 「あっそれは知ってます」

 

 「ですよねぇ…。ともかく、彼とスティルは…スティルにとって彼は欠かせない…救いの様な存在なんです。

 スティルがトリプルティアラを手に入れたのは、彼の支えが必要不可欠でした。

 まさに恩人なんです。そんな彼が勝手に奪われそうになって…あれが出てしまったんです…」

 

 「なるほど…ちなみに過去の発生例は?」

 

 「去年の夏合宿中ですね。誤解のせいで出てしまったんですが、そのときも彼が止めてくれました。あの状態のスティルを止められるのは、彼しかいません」

 

 「そうでしたか…

 …あの様子のスティルさんは私から見ても尋常でない、凄まじい気迫を感じました。そしてその分、心身ともに余りにも消耗しているはずです。

 今日はもう切り上げて、彼女を落ち着かせてください。必要な手続きがあれば、あとでお願いします」

 

 「わかりました…」

 

 駿川たづなは刺激を避けるため、この場を離れた。トレーナーは少し見送って、スティルインラブたちの元へ行く。

 

 少し近づいて確認すると、話し合っている合間に二人は抱きしめあっていた。

 

 正確にはスティルインラブが少年にかかる感じに、強く抱きしめている。

 

 そして彼のほうは片腕を胴体に、もう片腕もとい、その手は彼女の頭の上に乗って、ゆっくりと動いていた。

 

 そこ以外に全く動いていない彼女たちに対し、今はこのままにしておき、トレーナーは今後どうするか、再度悩み始めた。

 

 ――――――――――

 

 なお、駿川たづなは元凶であるアグネスタキオンのもとに向かったのだが…

 

 「あ…あう…ああ……」

 

 スティルインラブらがいた場所から動けず、その場にへたり込んで声を上手く出せないまま、号泣しながら激しく震えあがっていた。

 

 他のウマ娘、並びに外部にも迷惑をかけた彼女に厳重注意しようと思ったが、それよりも効果のありすぎる報いを受けた様子を見て、さすがに同情せざるを得ないほど(うれ)い、先ほどの少年がスティルインラブへの抱え方と同じように、保健室へ運んで行った。

 

 ――――――――――

 

 「いらっしゃい、スティルちゃん。…ちょっと大変なことがあったのね」

 

 「はい…ご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございません……」

 

 「気にしないで。いくらでも頼ってちょうだい。それと…」

 

 「初めまして。スティルインラブのトレーナーの明石(あかし)と申します。突然でも受け入れてくださり、ありがとうございます」

 

 あのあとについて簡潔にまとめると、スティルインラブは少年への依存が強くなってしまっていた。数時間消費しても一向に収まることのない束縛にトレーナーは察知し、今の彼女にとって最善になるであろう手を少年と出しあった。

 

 それが少年の実家へ泊ることである。皆は居間に集まり、トレーナーが事の経緯を説明した。

 

 聞いた母親は真剣に聞き、頷きながら整理していく。

 

 「…本当に辛かったのね、スティルちゃんは…。わかりました。可能な限りうちの子と一緒にいさせます」

 

 「え…」

 

 「い、いいのですか…!?」

 

 「ええ、こちらにとっても、スティルちゃんは恩人ですから。ね?」

 

 「…っ!」

 

 歯を噛む力が強くなるスティルインラブ。そして震え始め、なにか言いたそうだったが、それがうまく出せなかった。

 

 トレーナーもまた頭を下げる。まさかスティルインラブはともかく、知らずであるトレーナーの説明を信じてくれるとは思わなかった。

 

 「ありがとうございます。…それとなんですが、もう一つお願いがあるのですが…」

 

 そこに少年が待ったをかける。それに関しては自分が伝えたかった。

 

 「…いってごらん」

 

 少年が言ったこと、それは『スティルインラブの気が済むまで、彼女をここに泊まらせ続けることはできないだろうか』、ということだった。

 

 「なるほど…」

 

 「かなり無茶な、お願いではあります。ですが…正直に言ってほかに最善の案が全然ないんです。このままでは競技者としてはおろか、それ以降の生活に大きな影響を及ぼしてしまう可能性が…いえ、確実におきます。

 …どうか、受け入れていただけませんでしょうか?」

 

 「ええ、いいわよ」

 

 「え」

 

 まさかの笑顔の即答に、変な声がトレーナーから出た。しかしすぐに少し表情を硬め、スティルインラブに話しかける。

 

 「けど…しっかりとスティルちゃんの声から聞きたいわ。自分の意思を伝えることは、どんなに辛くても大切だからね」

 

 「っ…」

 

 顔を上げ、今にも泣きそうになるが、我慢をする。たくさん迷惑をかけてしまっているのだ。自身に泣く資格はない。そう思いながら口を動かそうとする。

 

 だが今にも決壊しそうだ。言いたくても言い出せない。

 

 そこへ少年は、彼女の背中をさする。後ろからくる温もりを感じ、スティルインラブはもっと緩んでしまう。

 

 「ゆっくりで大丈夫だよ。…落ち着いて、いくらでも待つからね」

 

 母親からも優しさを浴び、ついに彼女は我慢できなくなった。

 

 「お…お願いします…どうか…どうか私を…彼とともに、いさせてください…!!」

 

 「よく言えました。…頑張ったわね、スティルちゃん」

 

 「っ!!」

 

 この場には彼女の味方しかいなかった。




 余談
 トレーナーの本名は、明石(あかし) 糸織(しおり)

 由来
 赤もしくは紅→赤い、と呼ぶ→紅し、と類義語→(いん)を踏む、明石。

 スティルとオリ主は紅い糸でつながっている。しかし()()()が強すぎるため、その糸を調整する存在として、糸を織る者だからこの名前。

 以上になります。ご愛読ありがとうございます。
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