スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
「おはよう、アルヴ」
「エアグルーヴさん…おはようございます」
朝、トレセン学園とその寮の間にある通学路にて、エアグルーヴはアドマイヤグルーヴを見つけて共に登校する。
「聞いたか?スティルインラブについてだが…」
「ええ、彼が来ていたのでしょう?そこに乱入者が現れて、あわや惨事直前だったと」
「いや、それじゃない…と言っても関係なくはないが…。まったくアイツという奴は…」
アグネスタキオンは普段から、なにかと目をつけられている問題児で、一時期は退学寸前まで陥るほどの素行っぷりだった。
今は実績もあって、ある程度の自由は与えられているものの、なにかと実験と称してトラブルは今でも起こしてしまっている。
「ああ、あの人のこと…。いえ、それじゃない、というのは?」
「話が逸れてたな、すまない。スティルインラブが寮を離れた、ということだ」
「寮を離れた?」
「ああ、なんでも親戚の家から通うことになった、ということなのだが、その様子だと寝耳に水だったようだな」
「…もしや、いやさすがに…」
「どうした?心当たりでもあるのか?」
「いえ…なんでも…」
「そうか…しかし、あのたづなさんが、いつにも増して気疲れしていたからな…よほどなんだろうな…」
そう他愛のない会話をしながら歩いていき、校門がはっきりと見えるところまで行く。
すると前で話し合っていた別の二人組が横になにかに気づき、足を止めて呆然とした。
気になった二人もそっちを見てみると、別の方向からさらに二人並んで来るのを見て、同じく止まってしまった。
スティルインラブと少年である。彼女のほうはエアグルーヴらのようにトレセン学園指定のセーラー服を着ており、少年のほうは学ランである。
そんな異色的な存在は自然と、周りの視線を集める。
一方の彼らは、視線に気づきつつも正校門の目の前まで歩く。
そしてそこで彼らも立ち止まり、校舎を見上げる。
「…」
スティルインラブは残念そうだった。本当はまだ一緒にいたいのに、これ以上は彼が入れない。もっと居たかった。
少年のほうも同じ気持ちだが、居続けると周りの迷惑になるため、彼女に一言伝える。
彼女は視線を下げ、少しそうしていると彼のほうを向く。
「はい…また後で…」
彼はそんな表情を見ながら、軽く顔を縦に揺らす。そしてそのまま先ほど来た道を走っていった。
そしてその背中が見えなくなるまで、彼女は見続けていた。いや、見えなくなった後もその視線を離せなかった。
「…スティル」
はっとなって、声を掛けたエアグルーヴへ向ける。一方のこの副会長は、まあ困惑がしかと見える顔をしている。
「ど、どういう…ことだ…?なぜ彼がここまで…?」
「…彼がわざわざ、ここまで見送りをしてくれているのです…。親戚として」
「は?…あっ」
エアグルーヴは察した。駿川たづなとの会話にてある程度、事情を知った彼女に強く出れなかった。
一旦一呼吸おき、もう一度話し始める。
「………まぁ…親戚なら…仕方ないな…うん、親戚だもんな」
「えっ」
顔に自分の手を当てるエアグルーヴと、それでいいの?みたいな顔するアドマイヤグルーヴだった。
―――――――――――
さて、そんな放課後。スティルインラブはジャージを着て、トレーナーと別の校門で彼を待っていた。
彼の実家からなら正門が近いのだが、彼の学校からはここが最短である。
そこで準備運動もしていると、彼が姿を現す。スティルインラブの表情は明るくなった。
こうして大人兼担当であるトレーナーと入ることで円滑に、校舎内へ入ってからトレーニングを始めていくようになった。
さて、レース場にてトレーニングを行っていると、トレーナーはあることに気づく。
「あれ…周りに私ら以外に来てなくない…?スティルより速い人が走っているって、もう噂は広がっているのに、誰もいない…。もしかして…」
「まあその通りだ」
「あっ、エアグルーヴとアルヴ」
だいたいの事実、つまり今のスティルインラブに関わっては、恐ろしい目に合う、という事も拡散されたようだ。
それについて、納得と同時にこれはこれで、いい状況なのでは?と思ってしまった。
今走っている、二人を邪魔する可能性が減ったのだ。より集中して励むことができるのだ。利用しない理由はない。
「まあ確かに…しかしあまりこの状況を利用しないでくれ。他のウマ娘たちがここでトレーニングができなくなる」
「それはもちろん調整するよ。並走に癖ができないかが心配だし…ああ、どうしよう。そこ考えたら、デメリットもちゃんとあるよね」
「それについて、ですが…」
アドマイヤグルーヴが話し出す。意外と思いつつ耳を貸してみるトレーナー。
「…もし必要であれば、私が走ってもいいです」
「え?いいの?」
「あなたたちが、それでいいのであれば…」
「おお…」
(ここまで行くか。想像以上の成長だ)
トレーナーは感嘆して声を漏らし、エアグルーヴも笑みが
「…あ、待ってください」
「えっ?」
「いやその…去年のことを思い出してしまって…」
「ああ…いや待って、彼を混ぜずに走れば大丈夫…なはず」
「そこは確信していってほしいが…、むう…想像がたやすいな…」
あの時を思い出し、震えてしまう彼女たち。そこへ一旦走行を止めたスティルインラブたちが戻ってくる。
「アルヴさん?どうしてこちらに…?」
「…どうも」
「スティル。よかったら彼の代わりにアルヴと走ってみないか?実戦を想定したトレーニングができるはずだぞ」
「アルヴさんと…?」
「…よかったら…だけど…」
「!」
「ウィルコ」
「へ?うおっ!?」
いつの間にかネオユニヴァースがいた。ウィルコとは『了解』の類義語である。しかも彼女だけではない。後ろにはもう一人、フレームが太めの眼鏡をかけた
「あっ、キミは…」
「どうも…。その、私もスティルさんと走らせてもらえないですか?」
《ゼンノロブロイ》。本好きの図書委員で控えめな性格だが、彼女が持つ走りの実力は決して引けを取らないウマ娘である。
スティルインラブとも仲が良く、トレーナーも本探しのときになどに世話になったことがある。
「ネオユニヴァースもスティルインラブと、“走りたい”だよ」
「…よろしいのですか?」
「スティルインラブも、一緒に走りたい。はずだよ」
「…」
「スティル、私からもお願いできないかな…?」
トレーナーも頼み込む。スティルインラブは朝のように考えると、彼女らに顔を向ける。
「…わかりました。お願いします」
「そう…少し待ってて」
こうして少年と交代になり、今度はアドマイヤグルーヴとネオユニヴァース、そしてゼンノロブロイがともに走っていった。
先頭はスティルインラブが走っている。本来彼女はアドマイヤグルーヴとネオユニヴァースと同じ《差し》という脚質である。
つまりレース中どこにポジショニングするかについて、集団半ば辺りで位置する走りのものだ。
ゼンノロブロイの方は《先行》脚質で、先頭を走る《逃げ》との中間にいるものだが、彼女も追い抜いて前に出ている。
「スティルのペースが速い。気にしていない…というよりあれは確か…」
「うん、彼のように走ってるね。前と後ろを両方気にしながら、それでいて好きに走る。普通逃げるなら、あまり後ろを意識しない方がいいけど、彼の走りを今までずっと間近で見てきたから、うまく再現できてる」
「ああ。一時的なものとはいえ、ブランクがあるとは思えん。それにしても、断ると思ったんだがな」
エアグルーヴはトレーナーへ向き、一方のトレーナーはそのまま四人の走りを見続ける。
「スティルのことを考えると、混ぜない方がいいのではないのか?」
「私もそう考えてたけど…友達や仲間はいた方がいいからね。私も学生のころ部活入ってたんだけど、こだわりが過ぎて距離を置かれてちょっと後悔したし、スティルにはそんな思いをさせたくない。打てる手は打っていかないとね」
「そうか…そうだな。…明石トレーナー、アルヴを受け入れてくれて、感謝する」
「どういたしまして」
四人が近くまで、来始めている。ちょうど視界内に入ったフェンスにいる少年と見ながら、その走りを目に焼き付けた。
――――――――――
「ふ…心配だったが、なんとかなっているようだったな」
レース場観客席、最上階にこの学園の生徒会長《シンボリルドルフ》は、安堵しながら彼女らの走りを見ていた。
ウマ娘の幸せを願う存在として、噂を聞いて心配したためやってきた。
「…しかし、スティルインラブ。私は彼女個人については詳しくないが…今のラモーヌが見たら、どう思うか…」
それと同時に、最強と言われてもおかしくない実力を持った存在でもある。ゆえに、スティルインラブの走りを見てあることに気づく。
体の動きや性質だけでなく、人間性もある程度見抜けるシンボリルドルフ。しかし今まで感じたことのない、謎の不安がスティルインラブから感じたのであった。
毎日投稿やっぱ辛ぇわ…。