スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
二度目の夏合宿が始まった。
今年は少年も初日から合流しており、スティルインラブと共にすでに走っている。
「見て、あの二人…!」
「スティルインラブさんと運命の
楽しそうに走る二人を見て、羨ましそうに眺める周りのウマ娘たち。
彼女らは思春期の少女でもある。ゆえにレースという義務だけでなく他の趣味という権利も持ち合わせる。
そんなウマ娘たちの理想の一つが、自身の素敵な異性と走る、ことである。
この世界にはウマ娘という種族に、男性は当然いない。
だが走るために産まれてきた、と呼ばれる彼女らにとって、共に走ってくれる存在は本来、必要不可欠である。
そのため多くの少女たちは、まだ小さいころに出会いたかったのかもしれない。己についてこれる異性が。
だが父親や兄、小学校に行けばそんな存在はない、と自然とわかってくるものである。
しかしそれでもと、もしかしたらいるのでは?と未だに思う者も僅かながらにいる。トゥインクルシリーズという夢だけを、見ているわけではないのだ。
想像するだけなら、自由である。
が、そんな自由をスティルインラブは手に入れることができた。
初めは己の目を疑い、再確認して現実だと理解し、のちに詳しく調べて納得し、そして自分にもいればと幻想してしまう。
それがウマ娘という、少女たちである。
「本当に素敵…あんな楽しそうに走れるなんて…」
「ええ、私もあんな殿方と走れたのならば…」
スティルインラブらが、徐々に近づいてくる。
一番近くなる瞬間でも、砂埃が届くかどうかの場所にいるため、自身に負荷のない観察ができる。
…ゆえに、ゆえにである。
自分たちでは絶対に出せない高速で、横切っていった。
首を素早く動かしてあっという間に遠く走っていく二人を見て、会話していたウマ娘らは自身の理想が、どれだけ現実離れしているのかを思い知った。
さきほど例が通りすぎたというのに、なんだか落ち込み気分になった。
「…さぁ、始めましょう。自分よりも速く走れる、殿方に出会うために」
「ああダメだ、夢に
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夜の寮。消灯時間が近くなっているこの時間帯。スティルインラブはここにいた。
さすがに彼の祖父母の家に泊まるのは彼女にとっても、気まずかったためこの期間にいる合間は離れることになった。
一応説明すると、ここから彼の家までは離れてない。万が一姿を消した、という事態に陥ってもすぐにやってこれる。
「ネオユニヴァースは、スティルインラブと一緒に寝れるのが、“久しぶり”だよ」
「ええ、出ていくときは、お騒がせてすみませんでした」
「
気にしてないよ、という意味だろう。廊下で出会い、そして今回の自分の部屋である《116》に入ってく二人。
「あっ、来た」
「スティル!今日もあの男の人について教えなさいよ!」
先に来ていた四人の注目を集める彼女。
その四人の名はそれぞれ《ダイワスカーレット》《スイープトウショウ》《ウオッカ》《アストンマーチャン》。
ネオユニヴァース以外、中等部のメンバーである。
「お、おいスイープ。あの人は眷属じゃなくてだな…もっと素敵な…その…」
「なによウオッカ、前から思ってたのだけれども、はっきり言いなさいよ」
「いやその…スイープには早いというか…もっと大人な…」
「もう!意味わかんないわよ!もういいわスティルに聞くから!」
「うわー!やめろ!」
男勝りだが、なぜか他人事なのに恥ずかしがっているウオッカと、少年のことを言及するスイープトウショウ。
前者には周りと同じく、スティルインラブの恋人のような関係性と思っている。
後者…すこしスイープトウショウについて説明すると、魔法やファンタジーを信じるワガママ少女である。
何かにつけてそのような例えをするため、また勘違いというのもありスティルインラブのことを吸血鬼と思っている。そして彼女が自身のために召喚した存在というのが少年、というのがスイープトウショウの認識である。
「はいはい落ち着いて、まだ時間はあるからゆっくり聞きなさい。エアグルーヴさんから叱られるわよ」
「スティルさん。よかったらマーチャン人形を、その人に渡してくれませんか?」
「マーチャンもここぞと布教するのやめなさい」
まとめ役を担うしっかり者のダイワスカーレットは、自身をマスコットと自称するアストンマーチャンらを止める。
「そうですね…と言っても今日行ったことは、あくまでも暑いここを慣れるための、
「ふーん、ほかに何かしなかったの?トレーニングの時間以外。すくなくとも終わったあとも一緒にいたんでしょ?」
「ええ、もうしばらく浜辺にいました。ただそれだけ…ですね」
「なによ、アンタのことだから、あの男の人を吸血してるのだと思ってたわ」
「きゅ…吸血…!そ、それって…!」
「じゃなきゃあり得ないわよ。いくらウマ娘の力を持っているとしても、一緒にいるだけで速くなれるわけがない。
つまり私たちに隠れて、吸血すると同時に
「つ…つまり、首にかぷっと…!う、うわあああ!!」
「だから落ち着きなさいって言ってるでしょ!まったく、そんなことしてるわけないじゃない。たしかにあんなに速いのは気になるけど、仮に速くなるとしても、するわけないでしょ!ねえ、スティル…スティル?」
スティルインラブは顔を真っ赤にしていた。
「…え?まって?何よその顔、こっち向きなさいよ!ちょっと嘘でしょ!?まさか本当にしてたんじゃないでしょうね!?」
「い…いえ!そんなはしたないことなんて…!決して…!」
「その反応!ホントはしてたんでしょ!やっぱりスティルは吸血鬼だったのね!!」
「ムム、まさかの本物だったパターンですか。しかし、さすがのマーチャンも実際に噛みつくのは、ためらいますね」
結局見回りに来たエアグルーヴが来るまで盛り上がってしまった五人。そんな彼女らを見ていて、他は気づいてなかったが、ネオユニヴァースは静かに微笑んでいた。
一方の少年は、
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「なぜ一緒にトレーニングをしてくれるのか、ですって?」
後日の寮近くにあるレース場にて、共に来てくれたアドマイヤグルーヴに少年は聞く。
彼から見ても人付き合いはなさそうな印象なため、気になって聞いてみた。
「まあ…あなたには借りがあるから…。去年の合宿、階段から落ちた私をあなたは助けてくれた。そして今、あなたはスティルさんに協力してトレーニングに参加してる、だからまぁ…そんなところよ」
思うほか義理堅いようである。少年は彼女に感謝した。
「どうも…。それで、彼女についてなんだけど…あれ以来暴走は?」
アグネスタキオン襲来してからは、とくに問題らしい問題は起きていない。
「…本当かしら。もしあるなら細かいことでもいいから教えて」
となって彼はあれからのスティルインラブについて説明する。
彼の家に住み着いてからは、確かに暴走は収まっている。しかし夜、実は彼女は寂しがることがあった。
そのため始めこそ同じ部屋で別の布団に寝ているのだが、何度もいつの間にか彼の布団の中に入ってくるため、夏合宿が始まるまではもう片方のは予備になったのだとかと。
「…」
アドマイヤグルーヴはなぜか、聞くんじゃなかったと、夏の暑さのせい以外で顔が赤くなった。
小ネタ
部屋番《116》は史実スティルインラブの最後のレースの日付(2005.10.16)より。