スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」   作:狸より狐派 ハル

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ACT10《それはなに?》

 夏合宿が終了したからこそ、彼女らはより追い込むものなのだろう。

 

 事実9月から12月の間には多数のG1レースが開催される。

 

 種類、舞台は違えど、その空気に触発されるのは自然である。

 

 トレセン学園のレース場にて、スティルインラブ以外にも様々なウマ娘がいた。

 

 どうやら彼女の存在など、気にしてる暇もないのだろう。順番が来るのを少年と共に待つ。

 

 今コート内には、彼にとって身に覚えのないウマ娘たちが走っている。

 

 彼女らがどのレースに出るかはわからない。だが当の本人たちにとっては、譲れない何かのために走っている。

 

 自分とは違う、()()()()()()のためではなく、()()()()()()のために挑む。

 

 つくづく彼女らは立派だと、口にした。

 

 「ええ…。ですが、どうか貴方はそのままで…」

 

 あの花火のときのように、(さと)してくれる彼女。そう聞いて胸の内が安らぐ。

 

 スティルインラブの言うとおりだ、無理に変える必要はない。じゃないとまた目を離しかねない。

 

 自分のやりたいことは、後だ。全てが終わったら、いくらでも時間がある。だから今は彼女に集中する。

 

 「終わったみたいだね。行こうか」

 

 「はい。…行きましょう、――――さん」

 

 そう、伸ばしてくれた手を取る。それ、普通こっちがやるものでは?というと、二人とも笑ってくれた。

 

 ―――――――――――

 

 満月。それはあの()()が目覚めるとき。しかしあれから…秋華賞が終わって以来、一度も会えていない。

 

 もう一年弱たつのかと、なんだか以外に思う。

 

 (......私はしばらく眠るわ。そうする必要があるの

 

 アナタ、そしてワタシたちに必要なもののために......

 

 近い将来、ワタシたちはアナタと......ふふふ。さようなら、またいつか、必ず会う日まで......)

 

 今頃、内なる紅は何をしているのだろうか。

 

 (綺麗な薔薇にも相応の花壇が必要なように......)

 

 相応の花壇。それはなんだろうか。そういつもの公園のレース場にて、真ん中で思いにふける。

 

 いつものスティルインラブの、競争ウマ娘としての役目を終えたのなら、戻ってくるのだろうか。

 

 それとも…この世を(まっと)うするまで会えないのか…。

 

 そんなこと考えて、彼は横に首を振るう。

 

 答えの分からない問題を考えても仕方がない。いくらでも待てばいいのだ。

 

 それを彼女――――

 

 メジロラモーヌに言う。

 

 「………逆に同情するわ。貴方(スティルインラブ)が気の毒で…」

 

 心底隣の彼女とセットで呆れていた。彼自身中身がないのは自覚しているが、スティルインラブに良くない思いをするほどとは。

 

 ならばと聞く。どうすればいいのかと。

 

 「そう聞いてくる時点で、一生理解できないわ。貴方は、どんなものにも馴染み、そして決して他からは染まらない存在。

 貴方たちは混ざり合えない。どれだけ愛し合っても、すれ違いを起こし、気が付いた時には取り返しのつかないところまで崩れていく。

 そしてどこまでも底へ落ちていく……お互いの気も知れずに」

 

 横から殺気じみた気配を感じる。彼は腕を彼女の前に出す。

 

 「なにを…わかった気に…!!」

 

 「そういうあなたは、ただ彼と状況を利用しているだけ」

 

 「だから何をっ…!!」

 

 「あなたにとって、彼は確かに大切…。だけどそれは彼に理解できないもの。それを愛というのは、あまりにも醜いものではなくて?」

 

 「っ!!」

 

 これ以上ヒートアップをさせないために、彼は答える。

 

 要は、お互いまだ知り合えてないところがあるから、そこを見つけろ。ということなのだろう。

 

 「ええ。そしてそれは今のままだと、決して見つけることができない」

 

 灯台下暗(とうだいもとくら)し、と言いたいのか。お互いの本心を言い合っても、行動を起こしても、それでも気づけないものがあるのか。

 

 少年は聞く。ラモーヌならどうするのかと。

 

 「別に?」

 

 …ネオユニヴァースといい、どうしてこう、会話が成り立たないことを言う者がいるのだろうか。

 

 次にメジロラモーヌと会う時、あの電波ウマ娘も呼ぼうか?きっと宇宙の果てに行っても、ないようなものが起こるだろう。

 

 「ただ愛しなさい」

 

 愛する…つまりスティルインラブの思いを…いや、一方的に受けるのはダメなのか?

 

 しかし、それだと彼女の『変わらないで、いてほしい』という思いに反する。どんな思いも応えるのが、パートナーのあるべきものではないのか?

 

 答えはやはりわからない。もしかしたら、知らなくてもいいものかもしれない。

 

 でもこれは断じて、理屈ではないのだろう。

 

 だから答えは、変えないつもりで行く。

 

 これからも、スティルと共に行く。

 

 「…それはどこへ?」

 

 どこへでも。

 

 「そう」

 

 メジロラモーヌは(ひづめ)を返す。少し歩くと、また止まる。

 

 「…ジャパンカップ…そこで再度、答えを聞かせてちょうだい」

 

 そういい、立ち去って行った。

 

 「……」

 

 いなくなった後も、スティルインラブの緊張は取れなかった。

 

 今日は走らず、もう引き上げるか。と聞く。

 

 「いいえ、どうか今日は共に走らせてください…。貴方以外、なにも考えたくない…」

 

 ならばと走る。この答えが間違いなら?いや、答え合わせは、すべてが終わってからでいい。

 

 今はただ、彼女と走りあおう。

 

 その時までに備えて…

 

 ―――――――――――

 

 そうして訪れた《エリザベス女王杯》。スティルインラブの控室にて、トレーナーだけでなくアドマイヤグルーヴと共に彼女はいた。

 

 「どうぞ、――――さんのお母様から(さず)かったお茶です」

 

 「どうも…」

 

 紙コップを渡されると、一口つける。温かい口触りが緊張をほぐしてくれた。

 

 「…この期に及んで、迷い始めたの?」

 

 「…迷っていない、と言えば嘘になりますね」

 

 「…まだ時間があるから、相談に乗ってもいいけど」

 

 「ありがとうございます…先日、ラモーヌさんと彼と一緒に会いました」

 

 スティルインラブは経緯を話す。ずっと一緒に居続けたのに、まだ分かり合えていない。

 

 そこと、そこからの答えはどこにあるのか。洗いざらい伝えた。

 

 「そう…まだお互いに、教え合えるところがあるのね」

 

 「はい。今、冷静に考えたら、あの方は私たちの心中を、本当に見透かしているのでしょうね」

 

 「…認めていいの?それだとあの彼が……」

 

 「あの後、ゆっくり話し合ったんです。一度自分の気持ちを整理したいと」

 

 「そう…それはジャパンカップまでに?」

 

 「はい…」

 

 ジャパンカップ…それはこのレースが終われば間もない期間を経て開かれる、秋シニア三冠の一つ。

 

 そこでスティルインラブとメジロラモーヌはまた惹かれ合う。お互いに持つ、愛をぶつけるために。

 

 「……スティルさん。貴方が今持っているその愛は、正しいものなの?」

 

 「正しいか正しくないかと言われれば…、正しくないでしょう…。しかし彼なら、足してこういいます。

 それ以前に正しいかどうかなんて気にせず、自分の気持ちを優先したいって」

 

 「……言いそうね、なにも考えずに」

 

 「それが彼の魅力ですから」

 

 まだ冷めないうちに、お茶を飲み干す。そして一息ついて、また話し始める。

 

 「…これは、そうね…一友人(いちゆうじん)として言わせてちょうだい…

 

 まだ引き返せる」

 

 「……」

 

 「あなたも考え直して。今ならまだ間に合う…少し喋りすぎたわね。気を乱すようなこと言ってごめんなさい」

 

 「いいえ…アドマイヤグルーヴさん」

 

 「なに?」

 

 「…幸せ、ですか?」

 

 「…ええ。エアグルーヴさんや後輩に囲まれるのも悪くない…。そう思えるようになった」

 

 「そうですか。それはよかったです」

 

 「ええ」

 

 立ち上がり、紙コップを捨てて出口に向かう。ドアノブを手に取り、そのまま呟くように伝える。

 

 「…貴方たちにも、お互いがお互いを幸せになれるよう、ちゃんと探しなさい。

 …燃え尽きる前に」

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