スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
夏合宿が終了したからこそ、彼女らはより追い込むものなのだろう。
事実9月から12月の間には多数のG1レースが開催される。
種類、舞台は違えど、その空気に触発されるのは自然である。
トレセン学園のレース場にて、スティルインラブ以外にも様々なウマ娘がいた。
どうやら彼女の存在など、気にしてる暇もないのだろう。順番が来るのを少年と共に待つ。
今コート内には、彼にとって身に覚えのないウマ娘たちが走っている。
彼女らがどのレースに出るかはわからない。だが当の本人たちにとっては、譲れない何かのために走っている。
自分とは違う、
つくづく彼女らは立派だと、口にした。
「ええ…。ですが、どうか貴方はそのままで…」
あの花火のときのように、
スティルインラブの言うとおりだ、無理に変える必要はない。じゃないとまた目を離しかねない。
自分のやりたいことは、後だ。全てが終わったら、いくらでも時間がある。だから今は彼女に集中する。
「終わったみたいだね。行こうか」
「はい。…行きましょう、――――さん」
そう、伸ばしてくれた手を取る。それ、普通こっちがやるものでは?というと、二人とも笑ってくれた。
―――――――――――
満月。それはあの
もう一年弱たつのかと、なんだか以外に思う。
(......私はしばらく眠るわ。そうする必要があるの
アナタ、そしてワタシたちに必要なもののために......
近い将来、ワタシたちはアナタと......ふふふ。さようなら、またいつか、必ず会う日まで......)
今頃、内なる紅は何をしているのだろうか。
(綺麗な薔薇にも相応の花壇が必要なように......)
相応の花壇。それはなんだろうか。そういつもの公園のレース場にて、真ん中で思いにふける。
いつものスティルインラブの、競争ウマ娘としての役目を終えたのなら、戻ってくるのだろうか。
それとも…この世を
そんなこと考えて、彼は横に首を振るう。
答えの分からない問題を考えても仕方がない。いくらでも待てばいいのだ。
それを彼女――――
メジロラモーヌに言う。
「………逆に同情するわ。
心底隣の彼女とセットで呆れていた。彼自身中身がないのは自覚しているが、スティルインラブに良くない思いをするほどとは。
ならばと聞く。どうすればいいのかと。
「そう聞いてくる時点で、一生理解できないわ。貴方は、どんなものにも馴染み、そして決して他からは染まらない存在。
貴方たちは混ざり合えない。どれだけ愛し合っても、すれ違いを起こし、気が付いた時には取り返しのつかないところまで崩れていく。
そしてどこまでも底へ落ちていく……お互いの気も知れずに」
横から殺気じみた気配を感じる。彼は腕を彼女の前に出す。
「なにを…わかった気に…!!」
「そういうあなたは、ただ彼と状況を利用しているだけ」
「だから何をっ…!!」
「あなたにとって、彼は確かに大切…。だけどそれは彼に理解できないもの。それを愛というのは、あまりにも醜いものではなくて?」
「っ!!」
これ以上ヒートアップをさせないために、彼は答える。
要は、お互いまだ知り合えてないところがあるから、そこを見つけろ。ということなのだろう。
「ええ。そしてそれは今のままだと、決して見つけることができない」
少年は聞く。ラモーヌならどうするのかと。
「別に?」
…ネオユニヴァースといい、どうしてこう、会話が成り立たないことを言う者がいるのだろうか。
次にメジロラモーヌと会う時、あの電波ウマ娘も呼ぼうか?きっと宇宙の果てに行っても、ないようなものが起こるだろう。
「ただ愛しなさい」
愛する…つまりスティルインラブの思いを…いや、一方的に受けるのはダメなのか?
しかし、それだと彼女の『変わらないで、いてほしい』という思いに反する。どんな思いも応えるのが、パートナーのあるべきものではないのか?
答えはやはりわからない。もしかしたら、知らなくてもいいものかもしれない。
でもこれは断じて、理屈ではないのだろう。
だから答えは、変えないつもりで行く。
これからも、スティルと共に行く。
「…それはどこへ?」
どこへでも。
「そう」
メジロラモーヌは
「…ジャパンカップ…そこで再度、答えを聞かせてちょうだい」
そういい、立ち去って行った。
「……」
いなくなった後も、スティルインラブの緊張は取れなかった。
今日は走らず、もう引き上げるか。と聞く。
「いいえ、どうか今日は共に走らせてください…。貴方以外、なにも考えたくない…」
ならばと走る。この答えが間違いなら?いや、答え合わせは、すべてが終わってからでいい。
今はただ、彼女と走りあおう。
その時までに備えて…
―――――――――――
そうして訪れた《エリザベス女王杯》。スティルインラブの控室にて、トレーナーだけでなくアドマイヤグルーヴと共に彼女はいた。
「どうぞ、――――さんのお母様から
「どうも…」
紙コップを渡されると、一口つける。温かい口触りが緊張をほぐしてくれた。
「…この期に及んで、迷い始めたの?」
「…迷っていない、と言えば嘘になりますね」
「…まだ時間があるから、相談に乗ってもいいけど」
「ありがとうございます…先日、ラモーヌさんと彼と一緒に会いました」
スティルインラブは経緯を話す。ずっと一緒に居続けたのに、まだ分かり合えていない。
そこと、そこからの答えはどこにあるのか。洗いざらい伝えた。
「そう…まだお互いに、教え合えるところがあるのね」
「はい。今、冷静に考えたら、あの方は私たちの心中を、本当に見透かしているのでしょうね」
「…認めていいの?それだとあの彼が……」
「あの後、ゆっくり話し合ったんです。一度自分の気持ちを整理したいと」
「そう…それはジャパンカップまでに?」
「はい…」
ジャパンカップ…それはこのレースが終われば間もない期間を経て開かれる、秋シニア三冠の一つ。
そこでスティルインラブとメジロラモーヌはまた惹かれ合う。お互いに持つ、愛をぶつけるために。
「……スティルさん。貴方が今持っているその愛は、正しいものなの?」
「正しいか正しくないかと言われれば…、正しくないでしょう…。しかし彼なら、足してこういいます。
それ以前に正しいかどうかなんて気にせず、自分の気持ちを優先したいって」
「……言いそうね、なにも考えずに」
「それが彼の魅力ですから」
まだ冷めないうちに、お茶を飲み干す。そして一息ついて、また話し始める。
「…これは、そうね…
まだ引き返せる」
「……」
「あなたも考え直して。今ならまだ間に合う…少し喋りすぎたわね。気を乱すようなこと言ってごめんなさい」
「いいえ…アドマイヤグルーヴさん」
「なに?」
「…幸せ、ですか?」
「…ええ。エアグルーヴさんや後輩に囲まれるのも悪くない…。そう思えるようになった」
「そうですか。それはよかったです」
「ええ」
立ち上がり、紙コップを捨てて出口に向かう。ドアノブを手に取り、そのまま呟くように伝える。
「…貴方たちにも、お互いがお互いを幸せになれるよう、ちゃんと探しなさい。
…燃え尽きる前に」