スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」   作:狸より狐派 ハル

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ACT11《回答日まで、もう少し》

 すれ違いを起こしている…実のところ、とっくの昔に起こしていたのかもしれない。

 

 周りが目まぐるしく変わる中、スティルインラブはやけに落ち着いている。

 

 コーナーがもうすぐ迫っている中、アドマイヤグルーヴと共に集団から横へ離れようとする。

 

 そしてコーナーに入り、徐々にスピードを上げていくと他のウマ娘たちを外から抜いていく。

 

 彼女たちにとって、この二人のどこにそんな力があるのかと疑う。

 

 だがスティルインラブらは気にしない。ただ走る。

 

 (もう少し速く…いや素直に…もっと欲張って…!)

 

 直線に入り、スティルインラブは内なる紅の走りを思いだす。

 

 醜くて、酷くて、乱暴で、はしたない。

 

 それを合わせる。あの時のように、桜花賞、オークス、秋華賞のときのように。

 

 なくなったはずの本能の支配。疑似的にでも、偽物でもいい。

 

 本物かは重要じゃない。ただ自身の素直な気持ちを、今吐き出す。

 

 (そう…それがあなたの気持ち…!)

 

 アドマイヤグルーヴも今まで培ったものを、総動員する。

 

 否定し合うためではない。

 

 ただ表現する。受け取り方は所詮、人それぞれ。大切なのは出し切ること。

 

 自分のために、誰かのために。

 

 ((ただ今は、誰よりも前へ―――!!))

 

 お互いの足音しか聞こえない。お互いの気配しか感じない。

 

 ただ愛を示す。それが彼女たちの役割―――。

 

 ―――こうして彼女たちはまた歴史に名を刻む、ウマ娘の一人となった。

 

 ―――――――――――

 

 「わかったかしら。あれがあの子の答えよ」

 

 メジロラモーヌは少年と上の階で見ていた。

 

 ここで見ていた理由は、より俯瞰(ふかん)的に彼女の走りを確かめるためである。

 

 「あの子は愛を表現した。次はあなたの番」

 

 少年は走りで自分の答えを出すほどの器用さはない。だから言葉で伝えるつもりだ。

 

 もっとも今はまだじっくりと考えている最中なのだが。

 

 「時間は残されてないわ。早く決めることね」

 

 少年はメジロラモーヌ伝える。自分は夏合宿のときにみんなと走れたのが楽しかったことを。

 

 そんな話を彼女は静かに聞く。

 

 もう一度こう聞く。メジロラモーヌはあの時共に走れて楽しかったのかと。

 

 「まぁ、否定はしないわ」

 

 それはよかった、というべきか。

 

 だがそのせいで、スティルインラブはより追い込まれ、余裕がなくなった。

 

 あの時は彼女のことより、ただ走ることに、レースに集中していた。

 

 …思った。今のスティルインラブ自身はレースを楽しめているのだろうか。

 

 さっき見たにもかかわらず。そんな疑問が湧いて出た。

 

 「……」

 

 メジロラモーヌは無表情を貫く。

 

 彼女の本当に好きなものは、他にあるのではないのか、そんなことを考える。

 

 なにか見落としている。もっと根本的な、彼女という人物を。

 

 「もっとも、分かり合えたところで、解決するとは限らないわ」

 

 なら後はアドリブでどうにかする。

 

 伝えて、待って、動いて、できる手を全部打つ。間違ってるかは終わったら考える。

 

 それはなにも考えのない、ものだろう。それしか能がないのが少年だった。

 

 いまから彼はスティルインラブの元に向かう。メジロラモーヌはこの先どうするかを聞く。

 

 「次のレースにて、会いましょう。と伝えて」

 

 そう言って立ち去って行った。

 

 ―――――――――――

 

 「お疲れ様。今までで一番よかったぞ」

 

 「ありがとうございます」

 

 廊下にて、エアグルーヴに褒められるアドマイヤグルーヴ。

 このウマ娘こそが、自身を慕う後輩である。

 

 「……エアグルーヴさん」

 

 「どうした?」

 

 「……スティルさんはこのまま、自分の気持ちを貫き通すそうです」

 

 「……そうか」

 

 「このままでいいのでしょうか?」

 

 あのまま行けば、恐らくよくないことが起こる。スティルインラブの持つ思いはそれほどに重く、そして脆い。

 

 一方のあの少年の思いは軽く、しかし頑丈であろう。

 

 「そこについてはもう、当の本人らの問題だ。私たちが入っていいものではない」

 

 「わかってます…けど…」

 

 「なら信じるんだ。彼らが無事になることを」

 

 エアグルーヴが真っ直ぐな目で応える。それに対し、アドマイヤグルーヴはただ、力なく返事した。

 

 「……はい。あっ」

 

 奥からから見慣れた二人、トレーナーとその彼がやってくる。

 

 エアグルーヴも気づいてそちらに向き、声を掛ける。

 

 「ああ、スティルインラブはまだ奥にいるはずだ。しかし彼がここまで来て、大丈夫なのか?」

 

 「意外と大丈夫だったよ。私と一緒なら、不自然になることはないハズ」

 

 「おいおい…まあいい、早く行ってやるんだ」

 

 「あっ、待って」

 

 アドマイヤグルーヴが二人を止める。いや、正確には少年だけに声をかけた。同時に止まっていたトレーナーには、先に行くよう促す。

 

 そして彼女が去ったあと、少年に聞く。

 

 「あなたは、決まったの?彼女に伝えることは」

 

 現状、七八(ななはち)割と言ったところだ。あとは間違いがないかと、心の準備だけ。

 

 「そう…。ねえあなた、もし彼女に何かがあったとき、そのときにどうにかできるのは、あなたしかいないと思ってる。

 だから……スティルさんをお願い。

 …さあ、もう行ってあげて」

 

 頷いた彼は、急いで走っていった。

 

 「ふっ、いつからそんな心配性になったんだ?」

 

 「何度も釘を刺しておかなければ、またやらかすかもしれないと思って」

 

 「うーん、なぜか想像がたやすい。まあ、私たちは上手くいくことを祈ろう」

 

 そう、頼り甲斐はないが、不思議と嫌悪のない背中を見送った。

 

 ―――――――――――

 

 トレセン学園のとある部屋。

 

 様々な化学道具のある部屋に二人、ウマ娘がいる。

 

 「考えると意外だねぇ、キミがここに訪れるのは」

 

 「ネオユニヴァースはアグネスタキオンに“質問”するよ」

 

 「スティルインラブたちについて、かい?正直思い出したくないのだがねぇ…」

 

 いまだ昨日のように思い出す、あの時の臨死体験。それでも質疑応答に答えようとするのは、学者ゆえか。

 

 「特定のウマ娘のみがたどり着ける“場所”の行き方を、ネオユニヴァースは知りたい」

 

 「ふぅん、そういうのはキミの方が詳しそうな感じがするがねぇ…まあいい。知っていると思うが、ウマ娘には科学では言い表せない、不思議な力がある。領域(ゾーン)がその例だ」

 

 近くの本棚に歩き、そこから一冊の本を取り出す。それはとあるウマ娘のエッセイについてだった。

 

 「その領域に至るのには本人の体力的資質も当然必要なのだが…、それと同じくらい必要なものは、《思いの力》になる。

 思い込み、願い、欲望……なんでもいいから、自分の好きなものを濃く、深く、そして強く考える。

 資質と思い、この基本たる二つに高い次元の磨きが入ることで、領域に至ることができる」

 

 ペラペラと本をめくっていき、流し読みで探している文章を見つけようとする。

 

 少しすると、ピタッと止まる。

 

 「見ることのできる領域は、人それぞれ。至る者であれば、他者のモノも見ることができる。

 だが私はこの本を読んで、気になったものがある」

 

 「ネオユニヴァースは、それが()()()()()()()()()()()()()、と言うよ」

 

 「おお、キミもこれを読んだことがあるのかい?」

 

 その本に書かれてあること。それは要約すると『ある日、自分のではない、誰かから受け取った力がある』、

 

 というものだ。

 

 「これに関しては、私もこの著者と似たような体験をしたよ。三女神像の近くにいたときね。

 そのときに、よくわからないが不思議と力が湧いてね。自分にはないはずなのに、いつの間にか身に着けていたさ」

 

 その時の記憶を、嬉しそうに思い出すアグネスタキオン。そこでその表情のまま、「だが」と言う。

 

 「さすがにその能力の完全再現までは、できなかった。いや当時は正確にはその発想がなかったと言うのが正しいが…

 いずれにせよ、他者と全く同じ領域を習得できるかについては、全くと言っていいほど明らかになってはいない。なんならハッキリ無理と言ってしまったほうが、色々と確実だろうね」

 

 その本を持ったまま、自身のよく使っている椅子に座るアグネスタキオン。本を机の上に置いたあと、ネオユニヴァースの方に体を向ける。

 

 「しかし、その仮説は覆せるかもしれない」

 

 「――――がいるから」

 

 「そう、あの少年がまさにキーマンだ」

 

 実はあの時以来、しばらくおとなしくしていたのだが、どうしても気になったアグネスタキオンはコッソリと彼女らの走りを調べていた。

 

 そして気づいたことがある。

 

 あの少年からは、スティルインラブに似たなにかがあると。

 

 「不思議だねぇ。性別といい、種族といい、根本から違うはずなのに、スティルインラブに似た気配を感じる。

 スカーレットくん…ああ、彼女は私を慕ってくれててね。色々と聞いたんだ、スティルインラブというウマ娘について。昔から共に走りあい、今はいかなる時も一緒だという。食事のときも、就寝するときも……。

 話を戻そう。私はこう思った。彼なら、スティルインラブと全く同じ景色を見ることができるのではないかと。

 もっと言うと、そこに踏み込めるのではないかと。

 つまりキミのほしい答えはこれではないかね?」

 

 そう聞かれ、ネオユニヴァースは頷く。

 

 「スティルインラブがもし“遠く”に行ったとき、連れ戻せるのは彼しかいない。問題はまずそこに彼が行けるようにするには、とネオユニヴァースは疑問に思うよ」

 

 「ふむ……それについては…一緒に考えてみないかい?」

 

 また立ち上がり、今度は近くにあったティーポットを手にする。

 

 「せっかくだ。キミも飲みたまえよ」

 

 そして紅茶が注がれた。

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