スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
「なあ、お前怖くないのか?」
少年の通う小学校にて、彼は友人にそういわれた。
何のことやら、と聞くと、公園にて少女と走っている姿を見かけたようだ。
質問に少年は、全然、と答える。
「・・・嘘だろ?普通怖いだろ・・・?」
そんなこと言われても、少年にとって彼女はれっきとした女友達なのである。どういうところが怖いのか、今度はこちらが質問した。
「その、走ってる姿とか・・・なんかめっちゃ笑いながら追いかけてるし、喰らわせてとか変なこと言ってるし・・・あと目も真っ赤に光ってさぁ・・・なにあれ?」
それらに関しては、彼女も無意識に発動していたらしく、自身に悩まされたらしい。
だが少年から見て、なんだか変わった感じでしかない、むしろそれらがほかの女子にはない特徴的な印象だと思っているのである。
「お前精神状態おかしいよ・・・」
あんまりじゃね?とそう思いつつも、改めて先日の彼女のことを振り返ってみる。
雨の中、彼女は自分に向かって抱き着きながら、『大好き』と言ってくれた。
・・・
・・・
・・・
以上である。
「は?」
友人が呆気にとられる。
「・・・お前、食われんのか?」
なぜそういうことになるのやら。
「・・・たぶんそれ好きっていうか・・・たぶん
あっやっぱり?少年はなんだか楽しくなってきた。
「ええ・・・」
友人は彼の危機管理のなさに呆れた。
――――――――――――
そんな会話を彼から聞かされました。
私はとても恥ずかしくなりました。
やはり周りの方たちからはそのような目で見られてしまっていることに。
そして何より、彼がそんな目で見られるのが耐えられなかった。
彼は何も悪くない、私は無理やり彼の好意に甘えているだけである。
ですがやはり周りの方々は許してくれないのでしょう。
気づくのが遅すぎました。いいえ、彼を初めて見た時からすでに取り返しのつかないことになっていたのでしょう。
もはや私の体は、彼なしではどうすることも出来ない状態に陥ってしまっています。
内なる獣が常に彼を求めてしまい、私自身ごと
先日の・・・あのはしたない告白がより確信的なものになりました。
私も、私自身、彼のことが大好きなのです。
誰も受け入れなかった私を全肯定してくれて、ともに走ってくれて、まったく嫌気なく接してくれる存在。
何度もそれらしいことを言っているように、彼は私の運命の人なのです。
だからこそ、とてもつらいのです。彼がかつての私のように、誰にも受け入れない状態になってしまうのが。
もう彼に甘えてはいけない、と思ったのです。
・・・ある意味いい機会とも思ってしまってました。
私はトレセン学園、《日本ウマ娘トレーニングセンター学園》に行こうと思ったからです。
この思いに関しては彼と出会うずっと前から考えていました。
あらゆる年頃のウマ娘があこがれる舞台《URA》ならびに《トゥインクルシリーズ》、私もこの世界に夢見る一人のウマ娘なのです。
そしてこの学園は女子校改めウマ娘校、いくらウマ娘と同じ力を持っているといっても、男性である彼は入学ができません。
彼が普通のウマ娘であればともに行けたのでしょう。ですが現実はあまりにも無常です。
ああ、どうしてこんなことに。けど本当に別れてしまえば、内なる獣は私自身を許してくれないのでしょう。
(ダメよ・・・スティル。彼も・・・そこ(学園)にいる獲物たちも全部喰らうのよ)
それがダメなの・・・学園の方たちなら百歩譲っていい。だけど彼だけはダメなの。
わかるでしょう?もうお別れの時間だと。
(そこにいる獲物たちなんて前菜)
え・・・?
(言ったじゃない、彼のことが大好きなのだと)
確かに言った、けどそれは・・・
(彼もあなたのことが大好きなのよ?)
それはあくまでもそういう意味で思ってくれてはいない、はず。
(いいえ、彼もあなたのことが大好き・・・あなたのことを愛している・・・!)
「ダメッ!!」
声に出してしまった。そんな私を彼は心配になって近づいてくる。それがダメだというのに。
「まって・・・」
私は言いました。これ以上あなたを求めると、あなた自身がかつての私のようになると。
あなたにそうなってほしくないと。
だからもう会わないようにする、と・・・
そういいました・・・
すると彼は、
私を抱きしめてきました。
「・・・ふぇ?」
ダメ、そんなことされたら、今以上に依存してしまう。そう思って彼を振りほどこうとするも、力が入らない・・・いや彼自身の力も強いのでしょう。
私は彼をお顔を見ました。そしてその表情は、とても悲しみであふれていました。
彼も求めていたのです。ともに走ってくれる存在に。走ることに関しては彼もひとりぼっちでしたのです。
彼は特別速かった。周りに誰も勝てる娘はいなかった。次第に彼も一人で走るしかなかった。
そこに私が現れた。それがとてもうれしかったのだという。
ともに走り、ともに発散するのが幸せなのだと。
そして彼はこういいました。
この気持ちは、死ぬまで変わらない、と。
もうその言葉を聞いて、私は完全に
(喰らいたい・・)
あの雨のときのような、ぐつぐつと。
(喰らいたい・・!)
何度目かの、もう一人の私と意見が一致した・・・
(喰らいたい!)
この束縛。
(喰らいたい!!!――――)
・・・
・・・私はいつの間にか、彼の首筋に牙を立ててました。もちろん本気で嚙んだわけではありません。
彼は痛そうな声を出しました。
しかし突き放そうとはしません、むしろより抱き返してくれる。さらに気が済むまで好きにしていいと、耳の近くで言ってくれる。
もう私は止まりませんでした。その日も、次あった時も、その次も。
公園で、公園じゃないところで、陰で、日の下で、彼の通う学校で、彼の家で。
私はこう見えて影が薄いのです。
内なる私が現れていないときは、立ちふさがらないと気が付かれないのです。
ですが彼は、絶対に私を見つけてくれる。どんなところにいても、近くにいる気配を感じると、たとえ死角にいようと私を見つけてくれる。
そして私は彼と目線を合わせると、一気に抑えが吹き飛んでしまいます。
それがどうしようもなく幸せでした。
ああ、こんな状態であの学園に通えるのか。
そんな悩みまでもが至福に感じました。