スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
首を見ると、えらい噛み跡が残っている。
少女にすごく嚙まれてしまい、こうなっているのである。
本気ではないため突き放すほどではないが(当社比)まあ隠すのに困る。
まあ止めるつもりもないのだが。
今日も彼は少女に噛まれる。公園で走りまくったあと、休憩がてらに。
首あたりはもう噛めるところがないので、手首を差し出してみる。
すると本当にそこへ噛んできた。
なんだか犬の甘噛みみたいだ。少年はじっと夢中になる彼女を見つめた。
少女もこちらを見て、真っ赤に目を光らせながら見つめてくる。
宝石とは違う綺麗な輝きをみるのが彼は好きだった。
噛み終えると、今度は抱き着いてくる。その状態で彼女の心臓の音を聞くのも好きなのだ。
彼にとってそれが日常だった。
・・・しかしそんな時間もあまり残されていない。
いままでに色々なところに行った。いつもとは違う公園。夏祭りの神社。川の綺麗な河川敷。何時間かかけてたどり着いた海、そして砂浜に緑豊かな
秋になっても走り続けた。紅葉のカーペットを走ったりした。枯葉で焼き芋を作ったりした。
そして冬になって、寒い中でも走り続けた。お互い抱き合って
クリスマスの中でもそうだ。やっていたことはほとんど変わりはない。
正月も、ともにお参りをしたらやっぱり走っていた。
・・・その日以来、走る回数が減った。
彼女は受験勉強が必要になっていた。トレセン学園、彼女が小さいころから入りたがった場所への準備期間である。
彼はあいにく勉強が苦手でそういうのは手伝えそうにない。
その間彼は一人で走っていた。だがペースはガタ落ちになっていた。
しばらくたったある日のこと。というか受験前日、少女が先にやってきていた。
こういう日こそ勉強するべきなのではと言ったが少女が首を横に振る。
「こういう時だからこそ切り上げてあなたに会おうと思いました」
そして二人は走り始める。自分が前、彼女が後ろ。お互い今までため込んだ気持ちを足場にぶつける。
速かった。今までにないくらいに。
「フフフ」
彼女の笑い声が聞こえる。やっぱり楽しいんだな、と思う。
「ハハハハハ・・・!」
自分も楽しい、やっぱり一緒に走るのは何よりも楽しい。
「ハハハハハハ!アッハハハハハハハ!!!」
本当に、何度も思っているが、こんな時間がいくらでも続けばいいのに。そう思った。
――――――――――――
彼女の目の様な真っ赤な月が夜空にあった。
少女が受験でいないこの深夜、たまらず公園にやってきた彼。しかしそこに入ると、いつもとは全然違う雰囲気だ。
ベンチや地形が変わっているわけではない。ただ、その場が深紅になっているのである。どういうことなのだろと思いつつも、少年はとりあえず足を踏み入れた。
そしていつも走っている広場に行く。
彼女だ。いないはずの彼女がこんな時間帯にいる。
どうして、と近づいて声をかける。
しかしこちらを向かず空の真っ赤な満月を見つめている。
首を傾げた彼。
そして
まるで雑に動画の過程を切り取ったかのように、いつの間にか。
驚いたあまり、少年は後ろに倒れそうになる。
そこを少女が瞬時に抱きつかんできた。
おかげで足場に汚れずに済む。少年は彼女にお礼を言う。それと同時に質問した。どうしてここにいるのかと。
「愛してる」
「愛してる」
首だけを話し、見つめあう。彼女の顔は
「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる。愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる!!
アイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルッッ!!アイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテル!!アイシテル!!!アイシテルアイシテル!!
ア イ シ テ ル ッ ッ ッ ! ! !」
――――――――――――
紅い何かが少年を犯す。体も、心も、留まることなく注がれる。
強い声が内側から響き、全身を震えさせる。
何も考えれなかった。彼女の声しか聞こえない。
今までにはない謎の支配感。
はたしてどれくらいたったのだろうか・・・
そう思ったが、
比較的早く思考が元に戻る。
この感情は、自分の知る少女のものというより、もう一人の彼女のものが直接来ているのだろう。
そしてその彼女は自分の知る彼女でもあるということ。
ならばかける言葉は決まっている。
キミに出会えてよかった。
ピタッと止まった。彼女の顔が驚いたような状態になる。
じっとこちらを見つめてくる。
そしてしばらくすると、顔が近づいてきて―――――
そのあとのことは、覚えていない。
――――――――――――
気が付いたら自分の家で寝ていた。
少女に抱き留められてからの先は何も覚えていない。
時間もかなり進んでおり、もう昼前だ。
食事もとらず、彼はあの公園に急いで向かう。
そしてあの広場につく。ここまであの時の様な紅い何かは特になかった。
そのかわりか。すでに彼女がいる。
少年は声をかける。彼女がこちらを見る。
少女はこちらを見ると、笑顔になる。
そして頭を下げてきた。
「・・・ありがとうございます。あの娘も受け入れてくれて」
頭を上げてもう一度微笑んでくる少女。つぅーっと片目から雫が一滴たれた。
「正直もうダメかと思いました。あんな狂気は普通耐えれるわけがない。そう思いました。
ですがあなたは、あの娘の全てを受けてなお歓迎してくれた。
今回ばかりは心の底から、あの娘に対して喜びを噛みしめずにはいられません」
「――――さん。私もあなたに出会えて、本当に良かった」
今までで一番かわいらしく、純粋な笑顔を彼女は咲かすことができた。
もう少しだけ続きます。