スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」   作:狸より狐派 ハル

6 / 25
六本目《お互いに敬い、愛し、分かち合いましょう》

《日本ウマ娘トレーニングセンター学園》。通称トレセン学園に今年も多くのウマ娘が入学してきた。

 

ある者はレースを制覇するために。ある者は名誉を手にするために。ある者は何かのために。

 

とある一人の少女も、その校門をくぐり抜ける。

 

白いベールを付けた、少し変わった少女はしかし、誰にも気づかれることなく歩いていく。

 

そして不意に後ろを、先程通った門を見る。

 

ぞろぞろと新入生、在校生入り乱れて入ってくるが、彼女はさらにその先を見ているようだ。

 

「・・・いってきます」

 

誰にも届かない声は、自然とかき消されていった。

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

模擬レース。それはスカウトを目指してウマ娘が走るアピールの場である。

 

彼女ら、ひいてはこの学園の生徒が公式試合に出場するためにはトレーナーという担当が必要である。

 

彼らが承諾書を作ることによって原則出ることが出来るため。在校生らにとって欠かせないイベントだ。

 

そしてこれが必要なのはトレーナーの方もである。

 

彼ら彼女らの目的は、そんなウマ娘たちを育成し、勝利へと導く指導者なのである。

 

トレーナーは将来性のいいウマ娘のために、ウマ娘たちもよりいいトレーナーから誘いを受けるためにこのレースに参加した。

 

それはあの少女も例外ではない。自身を受け入れられるトレーナーを見つけるため、出走しようとする。

 

「・・・あれ、次の出走者があと一人足りない?」

 

「あ、あの・・・こちらに・・・」

 

「おかしい、どこにいったい?」

 

「あのっ!!」

 

「うわっ!い、いつの間に」

 

「えっと・・・先程からいました」

 

「えっ、あぁ・・・その、スティルインラブさんですね?気づかなくてすみません。ですがその、時間もなので早速ゲートにお願いします」

 

「は、はい」

 

そうして何とかターフ(芝)のレース場に立ち、鉄製のスタートゲートに入ろうとする彼女。そこであの大切な存在を思い出す。

 

(不安なのです。学園の人たちが、私を受け入れてくれるのか)

 

そう伝えても、彼はなにも返せなかった。代わりにこんなことを言ってた。

 

自分もトレセンに入ってみてそこのウマ娘たちと走ってみたい、と。

 

なんなら自分(少年)のために走ってくれ、と和ますために言ってくれた。

 

なら少女が行うことは一つである。

 

(せっかくトレセンに入ったんです。この場にいない彼にも届けるような、そんな走りを・・・

 

そしてその(かて)をたくさん手に入れ・・・将来、彼を喰らえるように・・・!)

 

彼女は自身の力を惜しまないようにした。それもこれも、あの少年のために。

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

「な、なにあれ・・・?!」

 

その日、競争ウマ娘やトレーナー、スタッフのいるレース会場が恐怖と狂気に支配された。

 

原因はたった一人の少女によってである。

 

迫力がありえないのだ。断じて初々(ういうい)しいものなんかではない。

 

鬼気迫(ききせま)るその尋常でない、最早(もはや)殺意ともすら感じ取れる存在。

 

あれは今までと同じウマ娘なのか?

 

その狂気は瞬く間に他の出走ウマ娘たちを追い抜き(喰らいつくし)、先頭を飾った。

 

「・・・フフフフフ」

 

突如、少女のような何かが不敵に笑う。その目線はいったいどこに向いているのやら。

 

いや、そのまま他所(よそ)を向いていてくれ。そう周りの者たちは皆思った。

 

だがギョロッ、と一気にこちらに向いてきた。

 

大の大人が情けない声を出し、まだ器が未成熟なウマ娘は震えが止まらなくなった。

 

笑顔でこちらを見てくるなにか、だが少しこちらを眺めると、なにかに諦めたように、そっぽを向き、どこかへ行ってしまった。

 

その場に残ったのは、過ぎ去った時間だけだった。

 

 

━━━━━━━━━━━

 

 

やはりダメでした。あの走りをすると、みな恐ろしそうに私を見てくる。

 

誰も・・・この場には私を受け入れてくれる存在がいないのでしょう。

 

それがわかると、無性に彼の元へと行きたくなる。

 

地球上で唯一全ての私を認めてくれる彼。ああ、どうしてそばにいれないのか・・・。そう落ち込んでしまう。

 

わかっていたのに、やはりこういうことが起きてしまうと、どうしても寂しくなります。

 

このまま彼の元に行こうかしら━━━━━

 

「み、見つけた」

 

そんな声がしました。そちらを向くと、スーツとその(えり)にトレーナーとしての証明であるバッチを付けた女性がいました。

 

「・・・あなたは?」

 

「え、あ、ああ、その、さっきの走りを見てて・・・いてもいられず・・・」

 

珍しい。あの姿を見せて、私の元に来る人が現れるなんて。

 

「その、・・・あの姿は、一体」

 

「・・・あれは、抑えようとしなかった時の私なのです」

 

「え・・・?」

 

私はこの方に自身についてある程度説明しました。ですが余りピンと来ていなかったようです。

 

「そ、そっか・・・それは、大変、だね・・・」

 

「・・・この力を受け入れる方を探しに、今回のレースに出させていただきました。しかし結果はあの通りです」

 

「・・・」

 

「・・・やはり、私を受け入れてくれるのは、あのお方だけなのでしょう」

 

「あ、あのお方?」

 

「はい、私の全てを認めてくださるあのお方・・・狂気に飲まれてなお私を受け入れてくれる・・・そんな運命の人なのです」

 

「うおお・・・それは、すごい・・・」

 

「ですがそのお方は、ここには・・・学園にはいないのです」

 

「・・・てことは、外部の人なの?」

 

「ええ、あの方が普通のウマ娘であれば、ともにここに立てたハズなのに・・・」

 

(普通のウマ娘であれば・・・?なにかワケアリで入学出来なかったのかな?)

 

「ああ、あの方のことを思い出すと溢れちゃう・・・!」

 

「!?」

 

いけない、目の前に人がいるのに、彼のことを思い出すとこの思いが止まらない・・・!

 

「フフフ、今すぐにでも会いたい・・・!もう我慢できない・・・!」

 

「・・・あぁ、えっとその」

 

はしたなくなっている私にそれでもと、話しかけてくれるこの方には、こう言いました。

 

「よかったら・・・その人のもとに・・・連れてってくれない、かな・・・?」

 

そう、この方こそがもう一人の理解者になってくれる、私のトレーナーなのです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。