スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
《日本ウマ娘トレーニングセンター学園》。通称トレセン学園に今年も多くのウマ娘が入学してきた。
ある者はレースを制覇するために。ある者は名誉を手にするために。ある者は何かのために。
とある一人の少女も、その校門をくぐり抜ける。
白いベールを付けた、少し変わった少女はしかし、誰にも気づかれることなく歩いていく。
そして不意に後ろを、先程通った門を見る。
ぞろぞろと新入生、在校生入り乱れて入ってくるが、彼女はさらにその先を見ているようだ。
「・・・いってきます」
誰にも届かない声は、自然とかき消されていった。
━━━━━━━━━━
模擬レース。それはスカウトを目指してウマ娘が走るアピールの場である。
彼女ら、ひいてはこの学園の生徒が公式試合に出場するためにはトレーナーという担当が必要である。
彼らが承諾書を作ることによって原則出ることが出来るため。在校生らにとって欠かせないイベントだ。
そしてこれが必要なのはトレーナーの方もである。
彼ら彼女らの目的は、そんなウマ娘たちを育成し、勝利へと導く指導者なのである。
トレーナーは将来性のいいウマ娘のために、ウマ娘たちもよりいいトレーナーから誘いを受けるためにこのレースに参加した。
それはあの少女も例外ではない。自身を受け入れられるトレーナーを見つけるため、出走しようとする。
「・・・あれ、次の出走者があと一人足りない?」
「あ、あの・・・こちらに・・・」
「おかしい、どこにいったい?」
「あのっ!!」
「うわっ!い、いつの間に」
「えっと・・・先程からいました」
「えっ、あぁ・・・その、スティルインラブさんですね?気づかなくてすみません。ですがその、時間もなので早速ゲートにお願いします」
「は、はい」
そうして何とかターフ(芝)のレース場に立ち、鉄製のスタートゲートに入ろうとする彼女。そこであの大切な存在を思い出す。
(不安なのです。学園の人たちが、私を受け入れてくれるのか)
そう伝えても、彼はなにも返せなかった。代わりにこんなことを言ってた。
自分もトレセンに入ってみてそこのウマ娘たちと走ってみたい、と。
なんなら自分(少年)のために走ってくれ、と和ますために言ってくれた。
なら少女が行うことは一つである。
(せっかくトレセンに入ったんです。この場にいない彼にも届けるような、そんな走りを・・・
そしてその
彼女は自身の力を惜しまないようにした。それもこれも、あの少年のために。
━━━━━━━━━━
「な、なにあれ・・・?!」
その日、競争ウマ娘やトレーナー、スタッフのいるレース会場が恐怖と狂気に支配された。
原因はたった一人の少女によってである。
迫力がありえないのだ。断じて
あれは今までと同じウマ娘なのか?
その狂気は瞬く間に他の出走ウマ娘たちを
「・・・フフフフフ」
突如、少女のような何かが不敵に笑う。その目線はいったいどこに向いているのやら。
いや、そのまま
だがギョロッ、と一気にこちらに向いてきた。
大の大人が情けない声を出し、まだ器が未成熟なウマ娘は震えが止まらなくなった。
笑顔でこちらを見てくるなにか、だが少しこちらを眺めると、なにかに諦めたように、そっぽを向き、どこかへ行ってしまった。
その場に残ったのは、過ぎ去った時間だけだった。
━━━━━━━━━━━
やはりダメでした。あの走りをすると、みな恐ろしそうに私を見てくる。
誰も・・・この場には私を受け入れてくれる存在がいないのでしょう。
それがわかると、無性に彼の元へと行きたくなる。
地球上で唯一全ての私を認めてくれる彼。ああ、どうしてそばにいれないのか・・・。そう落ち込んでしまう。
わかっていたのに、やはりこういうことが起きてしまうと、どうしても寂しくなります。
このまま彼の元に行こうかしら━━━━━
「み、見つけた」
そんな声がしました。そちらを向くと、スーツとその
「・・・あなたは?」
「え、あ、ああ、その、さっきの走りを見てて・・・いてもいられず・・・」
珍しい。あの姿を見せて、私の元に来る人が現れるなんて。
「その、・・・あの姿は、一体」
「・・・あれは、抑えようとしなかった時の私なのです」
「え・・・?」
私はこの方に自身についてある程度説明しました。ですが余りピンと来ていなかったようです。
「そ、そっか・・・それは、大変、だね・・・」
「・・・この力を受け入れる方を探しに、今回のレースに出させていただきました。しかし結果はあの通りです」
「・・・」
「・・・やはり、私を受け入れてくれるのは、あのお方だけなのでしょう」
「あ、あのお方?」
「はい、私の全てを認めてくださるあのお方・・・狂気に飲まれてなお私を受け入れてくれる・・・そんな運命の人なのです」
「うおお・・・それは、すごい・・・」
「ですがそのお方は、ここには・・・学園にはいないのです」
「・・・てことは、外部の人なの?」
「ええ、あの方が普通のウマ娘であれば、ともにここに立てたハズなのに・・・」
(普通のウマ娘であれば・・・?なにかワケアリで入学出来なかったのかな?)
「ああ、あの方のことを思い出すと溢れちゃう・・・!」
「!?」
いけない、目の前に人がいるのに、彼のことを思い出すとこの思いが止まらない・・・!
「フフフ、今すぐにでも会いたい・・・!もう我慢できない・・・!」
「・・・あぁ、えっとその」
はしたなくなっている私にそれでもと、話しかけてくれるこの方には、こう言いました。
「よかったら・・・その人のもとに・・・連れてってくれない、かな・・・?」
そう、この方こそがもう一人の理解者になってくれる、私のトレーナーなのです。