スティル「喰らわせて?」幼馴染み「ええで」 作:狸より狐派 ハル
少女、スティルインラブに連れてこられた場所は、ウマ娘が走るには十分の広さがあるとある公園。時間はすでに満月が出てきており、ライトだけでなく、その光で照らされ、奥まで見える。
そこにいたのが一人の少年、そのうち担当ウマ娘になるスティルインラブが言っていた運命のお方が、彼であるのだ。
とても意外だった。ずっとウマ娘だと思っていたのだから、ヒト、ましてや同年代の異性だとは考えてもいなかった。
「彼がその・・・あの?」
「はい、彼こそが私の、運命の人です」
そういわれると、照れそうになる目の前の少年。なんというか、想像以上にロマンチックだ。
スティルインラブの外見は白いベールも相まって、美しく
そんな彼女に運命の人だなんて言われるこの普通そうな少年は一体何者なのだろうか。
・・・いや、普通というには肉付きがそうじゃない。アスリートが持つそれだ。彼は陸上選手かなにかだろうか。
そう考えてると彼から話しかけられる。
「ああその、私、競争ウマ娘トレーナーなの。まだなり立てだけど・・・。この娘の走りを見て気になって、それで・・・きちゃった」
そういうと、彼はスティルインラブにさっそく目にかけられたことに喜んだ。
「ああ、まだ実際に契約はしてないけど・・・せっかくだし、もうちょっと知ろうかなって」
「それでしたら、今から私は彼とともに走ります。そこで・・・もう一人の私と見極めてくれませんか?」
「え?どういうこと」
「そのままの意味です。今夜は満月、あの娘がより現れる日。今は深く理由を聞かず・・・どうか見てください」
言い終えると彼女は彼を誘い、広場に入る。
「準備は、まだ待った方がいいでしょうか?」
そうスティルインラブが聞くと、どうやらすでに準備運動を終えていたらしい。彼は手を絡めながらこまねて彼女を見ている。
そして二人は並んだ。それはレースをするときのように。
いや、ホントに?走るつもりなの?
そう思う私をよそに、彼らは構えをとった。
そしてピタッと止まった状態から少しして。
二人は駆け出した。
「っ!?ウソ!?」
そして少年のほうが先を走り、スティルインラブがそのあとを追った。
ヒトとウマ娘にはかなりの身体能力差がある。ヒトは全力走ってもせいぜい時速20キロほどしか走れない。
一方ウマ娘はその気になれば時速70キロまで出すことができる。もちろん個人差はあるが、ヒトはウマ娘に力で
だというのにどうだろう。二人とも・・・スティルインラブは確かにウマ娘特有の超パワーを出して走っている。
そしてそんな力をヒトであるはずの少年が出しているのだ。
あれは一体、そう驚き、ふと昔ある知識を思い出す。
世の中にはウマ娘と同じ力を持つヒトがごく稀に現れることを。その中でもとくにウマ娘の血が濃い存在がいることを。
その力のことを《
そんな存在が目の前にいる。これは確かに、運命と呼ぶべき希少性なのだろう。
・・・しかし、その考えはすぐにそれ以上のものに上書きされる。スティルインラブのことだった。
「フフフ、フフフフフ!アハハハハハハハ!!」
「っ!!」
あの模擬レースの時の状態になった彼女が現れた。その存在はより獰猛で、より恐ろしいものだ。
目もなぜか紅く光っており、彼女を見るものは恐怖に支配されるだろう。
ましてやあのレース、ともに出場していたほかのウマ娘は、完全に心が折れていた。
無理もない、あんなものが真後ろから追いかけてくるのだ。怖くないはずがない。
だというのに彼はどうだ?
明らかに楽しんでいる。
あの狂気を。後ろからくる強圧を喜んで受けている。
怖くないの?そんな疑問が愚問になってしまうような光景が映っていた。
それらはさらに加速する。スティルインラブが近づいていくと、前の少年も呼応するように足が速くなる。そして彼女も追わんと駆ける。
とても入学したての少女たちの走りではない。一体何を体験したらあのように走れるのか。
そのスピードは危険なゾーンに入ってくる。彼女の動きが危ういものになっていく。
まずい、そう思う。しかし声が出ない。恐ろしい・・・とても恐ろしいのだ。
しかしそれと同時に、止めたくなかった。なぜか見入ってしまった。あの狂気を、あの走りを。
さらに私は、何度目かの驚愕を味わう。
あれだけすごい走りをしているのに、前の少年に届きそうで届かないのだ。なぜ?どうして追いつけない?あんなにも速いのに。
そして彼はコーナー当たりで徐々に突き放してしまう。狂気は確かに彼を覆っている。だがまったく意に介さず、逆に跳ね返していっている。
ありえない。なぜ彼は平気なの?
なぜ彼女よりも速く走れるの?
スティルインラブのほうが、あんなにも美しく走るのに――――――
はっ、となる私。気がつけば既に
対する少年はすでに次のコーナー手前にたどり着こうとしている。
なんて走りなの。間違いなく将来性の塊すぎる。もし彼が純粋なウマ娘ならば、国内最高峰のレース、《G1レース》を一体いくつ制覇できたのやら。
・・・あの走り、どうにかして彼女が追いつけないだろうか・・・?
彼女の脚ならば、いつか。
「・・・ハハハハハ、アッハハハハハハハ!!」
彼の元にたどり着いた彼女が突然笑い出す。
すると突然彼に抱き着いた。なにごとかと思った矢先。
彼女が彼の首筋に嚙みついた。
「はぁ!?」
そんな彼女を彼はそっと片手で、頭にのせる。
突然の奇行に追いつけなくなる私はただそれを見るしかできなかった。
――――――――――――
「す、すみません・・・あんなはしたないものを見せてしまって・・・」
「あっ・・・うん、大丈夫」
顔を赤らめながらそういう彼女。こうしてみると、先ほどの印象がウソのようだ。
ふと彼から声をかけられる。どうだったかを。
「うん・・・とてもすごかった・・・というかよく無事だったねキミ・・・」
そういうと彼は普段から、とりわけトレセン入学前まではしょっちゅう共に走っていたらしい。
「あの走りを毎回感じているの・・・?!」
「はい、彼は私の・・・あの姿が大好きなのです・・・初めて走ってくれた時から、彼から走りたがってくれる。――――さんは私を愛してくれているのです」
「オウ・・・」
もうなんというか、いろいろとすごい子供たちである。まさに運命というべきか。そんな彼女たちの行く先が、気になって仕方がなかった。これからこの子たちが、なによりスティルインラブの走りをよりよく知るために。
「・・・ねぇ、もしよかったら。私と一緒に走ってみない?」
「えっ・・・?それってもしかして」
「うん、私と契約してほしいの」
「っ・・・私で本当に・・よろしいのですか・・・?」
「うん、あなたがいいの。あなたの本能は、怖いくらい美しい。だから―――――」
これが私とこの少年少女たちとの始まりだった。
今後、よりとてつもない展開が待っていることも知らずに。