『あなたの転生』~一般通過宝具持ち転生者の人生~ 作:砂漠谷
『あなた』は――。
| 選択:活動案 |
| 同列1位『責任』と『仲間』 |
| 1で責任 2で仲間 |
| 1d2 = 1 責任 |
自らが引き起こしたこの悲劇の『責任』、それを皆と一緒に背負うと決めた。
自らの行いが大人たちを傷つけ、その運命を狂わせる。その現実を前にして、物語の結末を誰かに委ねることは許されないと、あなたは強く感じた。
そのための第一歩として、ハンター協会本部を訪ねる。そうと決まれば、目の前の老兵に頭を下げるのが最短の道だった。
あなたはノーウェルの前へ進み、その顔をまっすぐに見上げた。
ハンター協会へ、行きたい、と。自分も、念能力者の一人だから、だと。
未熟な言葉であっても、ゆるぎない覚悟を込めて。
ノーウェルは、あなたの小さな姿の奥にある意志の強さを見抜いたように、静かに、そして深く頷いた。
「うむ。幼い念能力者をハンター協会が保護し、その道を正しく示すのは理に適っている。それに……ウェルスもおそらく、協会本部に軟禁されるだろう。弟子ならば、師に面会する機会は多い方がいい」
その言葉に、自らの傷を庇いながらも、ウェルスが反応する。
「では、ノーウェルよ。おぬしも共に行くのかの?」
「いや、ルートが違う。お前たちにカキンからの正規出国記録はない。入国だけ正規ルートでは、どんな馬鹿でも怪しむ。まずはオチマの大陸横断列車を経由し、そこから貨物船でサヘルタへ渡れ。密入国の手引きは、信頼できる部下に任せる」
ノーウェルはそう言うと、札束で分厚く膨らんだ財布をいくつか取り出し、ウェルスに投げ渡した。
「当座の資金だ。遠慮なく使え」
「……感謝する」
ウェルスは短く礼を述べると財布を懐に仕舞い、車に乗ろうとして、折れた腕の激痛に顔をしかめた。
「――ああ、そうだ。オチマまでの運転手と、サヘルタまでの案内役は俺の"子"にやらせる」
「"子"、とな」
ウェルスの問いに、ノーウェルはこともなげに答える。
「『ノーウェル基金』の原則だ。子口座の持ち主は、親口座の持ち主の依頼を請ける義務がある。俺は親口座のナンバーゼロ、全ての子口座が紐づいている。付近で最も信頼値の高い傭兵を今から呼び出す。半日もすれば着くだろう。それまで、この村で傷を癒せ」
「――本当に、世話になるのう」
「なに、お前にはこの先、死ぬまで動いてもらう。その前金だと思え」
「無論じゃ」
旧友同士の短い会話には、言葉以上の覚悟と信頼が満ちていた。
ウェルスはノーウェルの指示を受けた民兵に、おそるおそるの応急手当を受け、村の空き家でしばしの休息をとることになった。
あなたは、横たわる師の傍らで、先刻の激闘を脳裏に焼き付けていた。
ウェルスの能力、『
実力は拮抗しているように見えた。それでも、結果はノーウェルの圧勝。念能力者の戦いは、決して能力の特異性やオーラの総量だけで決まるものではない。
その冷徹な事実を、あなたは心に深く刻み込んだ。
静かな時間が流れて、少しした後。
「よう、アンタがクライアントか?」
不意に、低い声が響いた。空き家の入り口に、逆光を背負って一人の男が立っていた。
陽光に透ける長い耳――伝承や童話で聞くエルフのような特徴を持つその男は、使い込まれた戦闘服に身を包み、その身からは油断なく研ぎ澄まされたオーラが放たれている。
ウェルスがゆっくりと半身を起こし、肯定した。
「いかにも。ワシはウェルスという。もっとも、支払はノーウェルじゃがの」
「ノーウェル閣下を呼び捨てかよ、よっぽど腕に覚えがあるらしい」
傭兵は皮肉げに口の端を吊り上げた。だが、その嘲笑は次の瞬間凍りつく。
彼の特徴的なエルフ耳が、いつの間にか出現していたオーラの掌によって、ふにふにと弄ばれていたからだ。
「ほう、この耳はこういう感触なのかの。面白いわい」
「んなっ、いつの間に……くそ、触るな!」
「ほほ、若造に悪戯するのは楽しいのう」
オーラの掌は、一通り耳を揉みしだくと霧散した。
「ま、この通り。おぬしの喉笛をオーラの貫手で抉るくらいは容易いわ。もっとも、ノーウェルには遠く及ばんことが、ついさっき発覚したがの」
「……そんなクソジジイが、なぜ俺に依頼する」
「なに、この、幼い弟子を守るためよ。護衛は不得手での。傭兵のおぬしならその道のノウハウもあろう?」
そこで初めて、傭兵はあなたに視線を向けた。
その幼い姿に不釣り合いな"纏"の精度を見抜き、彼は眉をひそめる。
「こんなガキンチョまで能力者とは、世も末だな。まあいい、仕事は請け負った。俺はミュヘル、見ての通り傭兵だ。さっさと車に乗れ、すぐに出発する」
「安全運転で頼むわい」
ミュヘルが乗ってきたオフロード車は、ウェルスのものよりさらに装甲が分厚く、対物ライフルすら弾きかねない威を放っていた。もはやほとんど装甲車である。
ウェルスとあなたは後部座席に乗り込む。ノーウェルと短い別れの視線を交わし、車は土埃を上げて村を後にした。
ここから、あなたのサヘルタへの長い旅が始まった。
車に揺られること半日。アイジエン大陸の荒涼とした国境地帯を抜け、海峡へと到達する。そこからはオチマ連邦のマフィアが手引きする貨物フェリーに乗り換えた。
東の港から西の港までは大陸横断列車で一週間。オチマ最大の湾岸都市で身分を偽り、サヘルタ行きの貨物船に潜り込む。それが、ノーウェルが示した逃亡経路の全貌だった。
車の振動にうとうとしているうちに、あなたはいつの間にかフェリーに乗せられていたらしい。
ウェルスに促され、錆びついた甲板へと出る。
「__よ、これが海じゃ、どうじゃ、凄かろう?」
潮の香りが鼻をつき、湿った風が肌を撫でる。眼前に広がるのは、どこまでも続く鈍色の水面。
そういえば、『今のあなた』は、海を見るのが初めてだった。絶え間なく揺れる波をぼんやりと眺めていると、時折、表情のない魚がこちらを覗き込むように顔を出す。
その時、悟ってしまった。父と母、そして姉の温もりから、どれほど遠くへ来てしまったのかを。
罪を師に背負わせ、その尻拭いを高潔な軍人にやらせ。
エラをあの絶望のままに死なせ、国の混乱を招き、大勢の人生を狂わせ。
『自分の力に責任を』――父との約束すら守れず。
母の愛に、姉の善意に、相応しい人間ではないのでは。
自分は、世界に厄災をばら撒くだけの害悪なのでは。
自分の存在、その価値すら、疑ってしまう。
思考と海面が、暗い渦を巻いて一つになる。
どこを見ているか分からない魚の瞳が、あなたを誘って――。
「おい!」
強い衝撃と共に、首根っこを荒々しく掴まれた。ミュヘルが、あなたの身体をフェンスの内側へと引き戻していた。
「危ないだろう、ジジイもちゃんと見ておけ!」
「お、おう……すまぬ。そこまで不注意とは思わなんだ」
「もうすぐ九つだろうが、ただのガキなんだ。不注意で当たり前だ!」
「そりゃそうじゃが……そうじゃの。__よ、すまなんだ。船の中に戻ろう」
ミュヘルの怒声と、ウェルスの後悔に満ちた声に、あなたは何も答えられなかった。
船に揺られ、オチマ連邦の東港へ上陸する。そこから大陸横断列車の駅までは、車ですぐだった。
雑踏に満ちた駅のホームで、ウェルスとミュヘルは、あなたの両手をそれぞれ固く握って離さない。
あなたはもう大丈夫だと訴えるが、ウェルスは静かに首を振った。
「今のおぬしは、少し不安定なようじゃ。生まれ育った祖国を出たのじゃから、無理もなし。サヘルタで落ち着くまでは、こうして守らせておくれ」
「まったく、このクソジジイは、こんな子供に一体どんな目に遭わせたんだか」
ミュヘルの呆れた呟きに、ウェルスは「……まあ、いろいろあったんじゃよ」とだけ返し、あなたは俯いて黙るしかなかった。
列車は二等車両。三人で座るには十分なスペースのあるコンパートメントだった。
「……ただ風景を眺めているだけでは、気が滅入るやもしれん。のう、__よ。"発"の修行でもしておくか」
「おいおい、正気かよ。雇われの護衛の前で能力開発なんざ」
あなたは、構わない、と首を振った。この傭兵が、不誠実な真似をする人間には思えなかった。
「……そうか。好きにしろ。だが、ジジイの指導に間違いがあれば、俺も容赦なく口を挟む。それでいいならな」
「ほう、ワシはシングルのプロハンターじゃぞ、指導者としても一流じゃ」
あなたはウェルスの指導に慣れている。ウェルスは鞄からメモ帳を取り出すと、そこに複雑な数式と図を書き込んでいく。
「良いか。おぬしが構想した『星屑の螺旋』に不可欠なもの。『螺旋』の基本式はこうじゃ。三次元的に書くと……こうなる。収束螺旋はここに係数を加え、発散螺旋はここの正負を逆転させる。これを、まずはおぬし自身のオーラ力学の方程式に置き換えてみよ」
あなたは頷き、ペンを握る。揺れる車内でも、紙の上で黙々と数式を解いていく。
二人の関係が、塾講師と生徒であれば、違和感はない。
だが、念の師匠と弟子の修行風景としては、明らかに異様な光景。
ミュヘルがそれに口を挟んだ。
「おいおいおい、待て。"発"の修行といえば、まずはイメージ修行だろうが。変化系であればその性質を肌で感じ、具現化系であれば、五感全てで。普通はそうだろう?」
「じゃから、そうしとるんじゃろう。数式を解いて現象への理解を深めるのは、立派なイメージ修行じゃよ」
「……マジかよ。心源流の修行は、もっと、こう、マインドとフィジカルが重視されていた気がしたが……これはアリなのか?」
「一部の放出系においてはの。オーラを外部――つまり、物理法則の世界に晒す、ということじゃ。なれば、内的な精神と肉体の理解だけでは足らぬのよ。念弾をぶっ放すだけが放出系ではないわ」
「……そういうもんなのか」
言いくるめられたミュヘルを尻目に、あなたは計算に没頭する。螺旋という現象への数学的理解が、そのままオーラの感覚へと繋がり始める。
「うーむ、基礎的な式の理解は十分じゃの。……お、こことここは計算ミスじゃな」
「おいおい、これ、大学院レベルの物理数学じゃねえか?こんな子供に解かせてんのかよ。俺ですら半分も分からないぞ」
「勉強不足じゃのう」
あきれ顔のウェルスに、ミュヘルは開き直る。
「俺の専門は戦場だ。弾道計算とロジスティックに必要ない数学は知らん」
その言葉に、師匠は納得していた。
「ま、それもそうか」
あなたは、自分が導き出した方程式を、オーラの力で現実に再現しようと試みる。
手のひらの上に、微弱なオーラを捻りながら放出する。だが、揺れる列車の中では、安定した流れを維持することさえ難しい。
「ふむ……、この五百ジェニー硬貨を使うといい。重力と拮抗するようにオーラ波を放ち、まず手のひらの上で浮かせてみよ。そこからオーラ波に螺旋を加え、浮かせたまま回転させるのじゃ」
コインをじっと見つめ、神経を集中させる。微弱なオーラの流れがコインを捉え、ふわりと宙に浮いた。
ここまでは良い。
ここまではいい。問題は、ここからだ。
螺旋を意味する脳内の
「そうじゃ、前腕を垂直に立てよ。軸を意識するんじゃ」
放出系のオーラ波に、変化系の性質、螺旋回転を加える。ただコインを浮かせるのではない。コインを螺旋の先端として、その力を一点に収束させるイメージ。
回転が、始まった。はじめはゆっくり。やがて加速する。
ヒィイイーン、と、甲高い風切り音が響き始める。列車の走行音にかき消されそうなほど微かだが、それでも、隣のウェルスとミュヘルの耳にはっきりと届いていた。
「うむ、第一段階は上出来じゃ。――もう、止めていいぞ?」
ウェルスの声が、耳には届いても、脳まで届かない。
螺旋、収束、加速、一点へ――。
思考が、それに囚われる。
コインは空気との摩擦で熱を帯び、陽炎のように空間を歪ませていく。
「止めいと言っとるんじゃ!」
突如、オーラで形成されたウェルスの念手が、赤熱するコインを鷲掴みにした。ジュッ、という焼ける音と、高速回転する金属に削られる軋みが響き、無理やり回転が止められる。
感覚のフィードバックにウェルスは顔をしかめたが、その衝撃であなたの過集中は解けた。
「――うむ、よくやった。今日の修行は、ここまでじゃ」
師に痛みを感じさせてしまった罪悪感と、達成感が入り混じる中、あなたは小さく感謝の言葉を述べた。
列車に揺られて数日が過ぎた。その日も、あなたは修行に打ち込んでいた。すると、向かいの席に座っていた老紳士が、穏やかな笑みで話しかけてきた。
「お嬢さん、手品の練習ですかな? そのコイン廻し――随分と興味深い」
ウェルスが、あなたに代わって応対する。
「ええ、ネタを明かせば、こう、見えぬ紐がありましてな。これを気づかれずにどう捻り続けるかが、この手品のコツでして」
「ほう! それは面白い。手品、とは少し違いますが――実は私も、ある意味で紐使いでしてね。弦の楽器の奏者なのですよ」
老紳士はそう言うと、背中にあったケースからヴァイオリンを取り出した。
「面白いものを見せてくれたお礼だ。一曲どうです?」
「ぜひとも」
彼の演奏が始まった。
老紳士が奏で始めた音色は、列車の揺れを感じさせないほどに安定し、美しかった。その旋律は、あなたの傷ついた心に静かに染み渡っていく。
しかし、その曲調はどこか深く、物悲しい。あなたは、思わずそう問いかけていた。
「ええ。本当は、これは歓喜の曲なのですよ。ですが……どうにも今の私の気分では、悲しい音色になってしまうようで。先日、知らせがありましてね。カキンに住んでいた娘夫婦が、動乱で亡くなった、と」
ウェルスが、あなたの掌をぎゅっと握りしめる。その力に、あなたは息を詰めた。
「特殊戒厳令の最中に、敵国の楽曲を聴いていた、という罪状だそうです。裁判も、何もなしに……」
老紳士は、悲しみを堪えるように目を伏せた。
「――お孫さんの前で、する話ではありませんでしたな。申し訳ない。ご清聴、ありがとうございました」
あなたの魂は、無数の針が突き立てられたかのように苛まれていた。
自分が引き金を引いた動乱が、また一つ、無関係な人の幸せを奪った。その事実が、重く、重くのしかかる。
「大丈夫、大丈夫じゃ。それはカキン帝国の罪。おぬしは、何も悪くない――」
耳元で囁かれる師の慰めに、あなたはただ縋りつくしかなかった。和らぐことのない苦痛から逃れるように、まだ高く日が昇っているにもかかわらず、あなたは深い眠りの中へと落ちていった。
列車が、軋むような長いブレーキ音を立ててようやく終着を告げる。
数日の間、あなたの世界の全てだった鉄の箱から一歩踏み出すと、蒸気と人いきれの混じった匂いが鼻をついた。
「ここが、オチマ連邦最大の湾岸都市、ザイングラードだ」
ミュヘルの声が、喧騒の中でもはっきりと聞こえた。彼は「少し野暮用だ」と言い残し、人混みの中へと消えていく。サヘルタへ密航するための船を探しに行くのだろう。
あなたはその間、ウェルスに連れられて、薄暗いネットカフェの扉をくぐった。
古いブラウン管の分厚いモニターには256色が踊り、画像を構成していた。
「おぬしはこのコインで修行を続けておれ」
ウェルスはそう言うと、慣れた手つきで情報サイトを開き、カキン帝国の現状を貪るように読み始めた。
あなたは修行に集中しようとしたが、どうしても師の肩越しに見える画面の文字が、心をざわつかせた。
『国王・第二王子・第三王子暗殺。第一王子は臨時国家元首に。ただし国王代理は名乗らず』
『特殊戒厳令下で、反体制派議員の逮捕相次ぐ。第一王子による大粛清か』
『第二王子カミーラが保護していた不可持民らが、各地で集団不審死』
『第四王子ツェリードニヒ、独自に暗殺犯の情報を収集か』
目を、背けてはならない。自分が引き起こした現実の、その続きだ。
そう思うのに、身体が、心が、拒絶する。
ぎゅっと瞼を閉じると、暗闇の中に、あの日の光景が鮮明に蘇った。
そこには――
「どうして」
血と泥に汚れたエラの顔。その唇が動き、絶望に濡れた瞳があなたを射抜く。
気付けばあなたは、喉を引き裂くような叫び声を上げていた。
その声に弾かれたように振り向いたウェルスが、あなたの小さな身体を、壊れ物を扱うように、それでいて力強く抱きしめた。
「大丈夫じゃ、大丈夫……。おぬしは悪くない。悪いとしたら、この世界じゃ。世界が、このように残酷なのが……」
師の震える声と、古びた外套の匂いに包まれて、あなたの荒れ狂う呼吸は、少しずつ、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「それでも、おぬしは生きねばならん。前に進んでほしい、その望みは皆が持っておる、その願いを裏切らぬためにも」
ウェルスはあなたを諭すようにそう言うと、皺くちゃの笑顔を浮かべた。
「外の空気を吸おうか。ここでは息が詰まるわい」
その笑顔に、ひび割れたあなたの心が、僅かに潤った気がした。
外へ出ると、ミュヘルが壁に寄りかかって待っていた。
「手配は済んだ。……ここで俺とはお別れだ」
彼はあなたとウェルスに、偽造した身分証を渡す。
「これを持って指定された貨物船に乗れ。向こうの港に着いたら、俺のパートナーがお前たちを協会まで案内する。じゃあな、ウェルス。それと……」
ミュヘルは一瞬言葉を切り、あなたの目を見て、仏頂面で言った。
「ガキ。何をやらかしても、大人は子供の尻拭いをしてやれる。……だが、命を捨てるような真似だけは、するなよ」
鉄と錆の匂いが立ち込める貨物船での旅は、数週間に及んだ。
あなたは船酔いをしなかったが、老練なハンターであるはずのウェルスは、最初の数日間、船室で青い顔をして呻いていた。
甲板の上で無心にオーラを練るあなたと、船内の寝台でうんざりしている師匠の姿は、奇妙な対比を描いていた。
列車の中ではできなかった、強力な放出系の修行が、遮るもののない大海原では可能だった。
『星屑の螺旋』を海に向かって放つ。オーラが海水に触れた瞬間、海水は渦を巻き、エメラルドグリーンの海面を抉る。
成長していく自分の力を振るうのは、存外楽しい。魚が時折渦の中に巻き込まれ、ミンチになってしまうのは、少し悲しかったが。
修行に夢中になっているうちに、時は過ぎていく。
港が見え始めた頃、あなたの実力は――。
| 念能力修行による成長1 |
| 運動技能点獲得判定A |
| 1~5:かなり(5点) 6~8:とても(6点) 9~10:驚くほど(7点) |
| 1d10 = 1 かなり(5点) |
| 念能力修行による成長2 |
| 運動技能点獲得判定A |
| 1~5:かなり(5点) 6~8:とても(6点) 9~10:驚くほど(7点) |
| 1d10 = 9 驚くほど(7点) |
| 念能力修行による成長3 |
| 運動技能点獲得判定A |
| 1~5:かなり(5点) 6~8:とても(6点) 9~10:驚くほど(7点) |
| 1d10 = 6 とても(6点) |
絶えず揺れる船上でオーラを精密にコントロールし続けるという、高負荷の修行。そのおかげか、オーラを自らの肉体のように動かす機能が、飛躍的に向上した実感があった。
そして、あなたの目の前に広がる光景。
オチマ連邦のそれとは比べ物にならないほど巨大な湾岸施設と、その向こうにそびえ立つ摩天楼の群れ。
あなたは、ようやくサヘルタ合衆国にたどり着いた。
船から密かに降り立つと、ミュヘルの仲間はすぐに見つかった。何しろ、彼と同じ長い耳を持つ、美しい女性だったからだ。
その雰囲気はミュヘルと対照的に穏やかで、瞳には好奇心を覗かせていた。
「――もし。あなたが、ミュヘルのお仲間さんかの?」
ウェルスの問いに、彼女は静かに頷いた。
「ええ、ウェルスさんと、そのお弟子さん、でしたよね。お待ちしていました。長い船旅、お疲れ様です。明日、ノーウェル閣下が例のものを携え、協会本部を訪れます。本日は宿を取りましたので、まずは旅の垢を洗い流してください」
「そうか……。では、ウチの__を任せてもええかの? 流石にワシが風呂に入れるわけにもいかず」
「ええ、もちろん」
ミュヘルのパートナーはデュマと名乗り、二人を清潔な宿へと案内した。
あなたはそこで、デュマに風呂に入れてもらうことになった。
貨物船のシャワーは、正規の乗組員に遠慮してほとんど使えなかったのだ。温かいお湯で身体を洗われると、垢がぼろぼろと落ちていく。
「こんなに汚して……ふふ、すっきりしたでしょう?」
デュマがスポンジで背中を擦るのがくすぐったくて、あなたは思わず身をよじった。彼女の指が、あなたの腕に、薄っすらとのみ残る跡――『無限の剣製』を初めて使った証――にそっと触れ、その動きが一瞬だけ止まった。
湯船に二人で浸かる。あなたは、デュマの豊かな胸に頭を預けた。心と身体の疲労が、じんわりとお湯に溶けていくのを感じる。
「大変だったでしょう。そして、これからもあなたはきっと、大変な目に遭う」
デュマは、静かに語り始めた。
「私はね、念能力者は皆、運命という大きな渦のさなかにいると思っているの。信じていると言ってもいい。その渦を泳ぎ切るには、自分だけの『しるべ』が必要よ。人でも、組織でもいい。でも、私のおすすめは『道具』。ラッキーアイテム、と言い換えてもいいわね。人は変わり、組織は裏切る。でも、モノはいつだってそこにあるだけ。それにね、最悪、代えが効くというのも、案外大事なことなのよ」
その言葉が、湯気の向こうから、あなたの心に真っ直ぐに届いた。
風呂から上がり、ふわふわのタオルで身体を拭いてもらう。用意されていたのは、白を基調に、緑と黄色の草花の刺繍が施された清潔なワンピースだった。
あなたは、宿の一室で荷物を広げ、整理を始める。
ラッキーアイテム。デュマの言葉が、頭から離れない。それは子供じみた考えかもしれないが、今のあなたには、何か確かなものが欲しかった。
目の前には、今のあなたの全てがベッドの上に並んでいる。
朱色の狐面。エラの遺品だ。もう異臭は消え去り、そこには木と漆の香りだけが残っていた。『太歳頭上動土』で彼女に止めを刺し、村を滅ぼした。その責任を背負うという覚悟の証だった。
拳銃・デザートイーグル。冷たい鉄の塊である。オーラで腕と肩を強化して、初めて引き金を引けるこの銃は、『無限の剣製』を放つ重要な媒介でもあり、大国の王を弑した凶器でもある。
壊れた銀のペンダント。かつて『太歳頭上動土』の呪いを封じていた、師の優しさの結晶。壊れてなお、その温もりは失われていない。そこに刻まれた神字は、師の技巧と意志を感じさせた。
157番のベンズナイフ。父からの贈り物。あなたが初めて『無限の剣製』で複製した記憶の象徴。自分に宿った『二つ目』に驚き、その発動で誰も傷つけないように意識したことを思い出す。
月の雫のイヤリング。母の無償の愛の証。宝石からは、光が散乱し、さまざまな模様が見える。これを身に着けていると、まだ自分には帰る場所があるような気がした。
タロットカード。年の離れた姉との、無邪気な日々の思い出。カードの裏に施された透かし彫りは、二人だけの秘密だった。電球の光を、タロット越しに眺めると、姉と語り合った様々な出来事を思い出す。
全てが、かけがえのない大切な道具だ。だが、デュマは言った。『しるべ』は一つだと。
運命そのものを手に取るのではなく、あくまでラッキーアイテム。そこまで重く考える必要は無い、とも彼女は言った。
だが、運命の荒波を乗り越えるための錨である、それもある側面では事実だった。
『あなた』は、ゆっくりと一つに手を伸ばした。
それは――。
| メッセージ |
| ラッキーアイテムは、あなたの無意識に深く根ざし、特定の将来性を伸ばします。 |
| 少年前期以降にラッキーアイテム自体が破損した場合でも、その影響は残ります。 |
選択
| 朱色の狐面 |
| 呪いはない。罪の記憶を思い出すだけである。 |
| 『太歳頭上動土』に関わるアイテム。 『太歳頭上動土』の成長方針が『王道(非殺傷・広域)』になる。 『太歳頭上動土』のLv2以降を獲得する場合、消費経験点に割引が入る。 |
| 拳銃・デザートイーグル |
| 国王ナスビを弑した凶器。 入念に洗浄したため、ナスビの血が検出されることはない。 |
| 『無限の剣製』に関わるアイテム。 『無限の剣製』の成長方針が『覇道(高威力・広域)』になる。 『無限の剣製』のLv2以降を獲得する場合、消費経験点に割引が入る。 |
| 壊れた銀のペンダント |
| 微かに師のオーラが残っている。 実用性を求めるなら、別のものを新しく作った方がよい。 |
| 『太歳頭上動土』に関わるアイテム。 『太歳頭上動土』の成長方針が『正道(非殺傷・狭域)』になる。 『太歳頭上動土』のLv2以降を獲得する場合、消費経験点に割引が入る。 |
| 157番のベンズナイフ |
| 微弱だが、わずかに恐ろし気なオーラがある。 呪いというほど強くはない。 |
| 『無限の剣製』に関わるアイテム。 『無限の剣製』の成長方針が『邪道(強敵弱化・狭域)』になる。 『無限の剣製』のLv2以降を獲得する場合、消費経験点に割引が入る。 |
| 月の雫のイヤリング |
| 『きらめいて、美しく、あなたを飛躍させる』――パッケージより。 |
| 『星屑の螺旋』に関わるアイテム。 『星屑の螺旋』(Lv2以降)の成長方針が『我道(強化付与・自己)』になる。 『星屑の螺旋』のLv2以降を獲得する場合、消費経験点に割引が入る。 |
| タロットカード |
| 占術のみで物事の運命を見透かすことはできない。 それでも、手がかりにはなるだろう。 |
| 『星屑の螺旋』に関わるアイテム。 『星屑の螺旋』(Lv2以降)の成長方針が『求道(探索・狭域)』になる。 『星屑の螺旋』のLv2以降を獲得する場合、消費経験点に割引が入る。 |
後悔のない選択肢はありません、ありませんが……
『あの決断』は強く主人公を苛みました。
それでも、生きていれば意味はきっとあるはずです。
主人公の周囲の登場人物はそう信じています。次の転生者を呼べばよい『他者』とは違って。
あの行動は正しかったのか、と悩み続ける少年期にはなるでしょう。
更新は一週間スパンで見ておいてください。早めに更新することもありますが。
キャラクター1 少年前期・ラッキーアイテム選択
-
朱色の狐面
-
拳銃・デザートイーグル
-
壊れた銀のペンダント
-
157番のベンズナイフ
-
月の雫のイヤリング
-
タロットカード