『あなたの転生』~一般通過宝具持ち転生者の人生~   作:砂漠谷

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旅回です。


少年前期シナリオ・成長パート3

 『あなた』は――。

 

選択:活動案

同列1位『責任』と『仲間』

1で責任 2で仲間

1d2 = 1 責任

 

 自らが引き起こしたこの悲劇の『責任』、それを皆と一緒に背負うと決めた。

 自らの行いが大人たちを傷つけ、その運命を狂わせる。その現実を前にして、物語の結末を誰かに委ねることは許されないと、あなたは強く感じた。

 

 そのための第一歩として、ハンター協会本部を訪ねる。そうと決まれば、目の前の老兵に頭を下げるのが最短の道だった。

 あなたはノーウェルの前へ進み、その顔をまっすぐに見上げた。

 ハンター協会へ、行きたい、と。自分も、念能力者の一人だから、だと。

 未熟な言葉であっても、ゆるぎない覚悟を込めて。

 ノーウェルは、あなたの小さな姿の奥にある意志の強さを見抜いたように、静かに、そして深く頷いた。

 

「うむ。幼い念能力者をハンター協会が保護し、その道を正しく示すのは理に適っている。それに……ウェルスもおそらく、協会本部に軟禁されるだろう。弟子ならば、師に面会する機会は多い方がいい」

 

 その言葉に、自らの傷を庇いながらも、ウェルスが反応する。

「では、ノーウェルよ。おぬしも共に行くのかの?」

 

「いや、ルートが違う。お前たちにカキンからの正規出国記録はない。入国だけ正規ルートでは、どんな馬鹿でも怪しむ。まずはオチマの大陸横断列車を経由し、そこから貨物船でサヘルタへ渡れ。密入国の手引きは、信頼できる部下に任せる」

 

 ノーウェルはそう言うと、札束で分厚く膨らんだ財布をいくつか取り出し、ウェルスに投げ渡した。

「当座の資金だ。遠慮なく使え」

 

「……感謝する」

 

 ウェルスは短く礼を述べると財布を懐に仕舞い、車に乗ろうとして、折れた腕の激痛に顔をしかめた。

 

「――ああ、そうだ。オチマまでの運転手と、サヘルタまでの案内役は俺の"子"にやらせる」

 

「"子"、とな」

 ウェルスの問いに、ノーウェルはこともなげに答える。

「『ノーウェル基金』の原則だ。子口座の持ち主は、親口座の持ち主の依頼を請ける義務がある。俺は親口座のナンバーゼロ、全ての子口座が紐づいている。付近で最も信頼値の高い傭兵を今から呼び出す。半日もすれば着くだろう。それまで、この村で傷を癒せ」

 

「――本当に、世話になるのう」

「なに、お前にはこの先、死ぬまで動いてもらう。その前金だと思え」

「無論じゃ」

 

 旧友同士の短い会話には、言葉以上の覚悟と信頼が満ちていた。

 ウェルスはノーウェルの指示を受けた民兵に、おそるおそるの応急手当を受け、村の空き家でしばしの休息をとることになった。

 

 あなたは、横たわる師の傍らで、先刻の激闘を脳裏に焼き付けていた。

 ウェルスの能力、『メトロポリタン美術館(ノック・ノック)』は何度か見たことがある。だが、ノーウェルは自身の"発"を一度も見せなかった。

 実力は拮抗しているように見えた。それでも、結果はノーウェルの圧勝。念能力者の戦いは、決して能力の特異性やオーラの総量だけで決まるものではない。

 その冷徹な事実を、あなたは心に深く刻み込んだ。

 

 静かな時間が流れて、少しした後。

 

「よう、アンタがクライアントか?」

 

 不意に、低い声が響いた。空き家の入り口に、逆光を背負って一人の男が立っていた。

 陽光に透ける長い耳――伝承や童話で聞くエルフのような特徴を持つその男は、使い込まれた戦闘服に身を包み、その身からは油断なく研ぎ澄まされたオーラが放たれている。

 

 ウェルスがゆっくりと半身を起こし、肯定した。

「いかにも。ワシはウェルスという。もっとも、支払はノーウェルじゃがの」

「ノーウェル閣下を呼び捨てかよ、よっぽど腕に覚えがあるらしい」

 

 傭兵は皮肉げに口の端を吊り上げた。だが、その嘲笑は次の瞬間凍りつく。

 彼の特徴的なエルフ耳が、いつの間にか出現していたオーラの掌によって、ふにふにと弄ばれていたからだ。

 

「ほう、この耳はこういう感触なのかの。面白いわい」

「んなっ、いつの間に……くそ、触るな!」

「ほほ、若造に悪戯するのは楽しいのう」

 オーラの掌は、一通り耳を揉みしだくと霧散した。

 

「ま、この通り。おぬしの喉笛をオーラの貫手で抉るくらいは容易いわ。もっとも、ノーウェルには遠く及ばんことが、ついさっき発覚したがの」

「……そんなクソジジイが、なぜ俺に依頼する」

「なに、この、幼い弟子を守るためよ。護衛は不得手での。傭兵のおぬしならその道のノウハウもあろう?」

 

 そこで初めて、傭兵はあなたに視線を向けた。

 その幼い姿に不釣り合いな"纏"の精度を見抜き、彼は眉をひそめる。

 

「こんなガキンチョまで能力者とは、世も末だな。まあいい、仕事は請け負った。俺はミュヘル、見ての通り傭兵だ。さっさと車に乗れ、すぐに出発する」

「安全運転で頼むわい」

 

 ミュヘルが乗ってきたオフロード車は、ウェルスのものよりさらに装甲が分厚く、対物ライフルすら弾きかねない威を放っていた。もはやほとんど装甲車である。

 ウェルスとあなたは後部座席に乗り込む。ノーウェルと短い別れの視線を交わし、車は土埃を上げて村を後にした。

 

 ここから、あなたのサヘルタへの長い旅が始まった。

 

 

 車に揺られること半日。アイジエン大陸の荒涼とした国境地帯を抜け、海峡へと到達する。そこからはオチマ連邦のマフィアが手引きする貨物フェリーに乗り換えた。

 東の港から西の港までは大陸横断列車で一週間。オチマ最大の湾岸都市で身分を偽り、サヘルタ行きの貨物船に潜り込む。それが、ノーウェルが示した逃亡経路の全貌だった。

 

 車の振動にうとうとしているうちに、あなたはいつの間にかフェリーに乗せられていたらしい。

 ウェルスに促され、錆びついた甲板へと出る。

 

「__よ、これが海じゃ、どうじゃ、凄かろう?」

 

 潮の香りが鼻をつき、湿った風が肌を撫でる。眼前に広がるのは、どこまでも続く鈍色の水面。

 そういえば、『今のあなた』は、海を見るのが初めてだった。絶え間なく揺れる波をぼんやりと眺めていると、時折、表情のない魚がこちらを覗き込むように顔を出す。

 

 その時、悟ってしまった。父と母、そして姉の温もりから、どれほど遠くへ来てしまったのかを。

 

 罪を師に背負わせ、その尻拭いを高潔な軍人にやらせ。

 エラをあの絶望のままに死なせ、国の混乱を招き、大勢の人生を狂わせ。

 『自分の力に責任を』――父との約束すら守れず。

 母の愛に、姉の善意に、相応しい人間ではないのでは。

 自分は、世界に厄災をばら撒くだけの害悪なのでは。

 自分の存在、その価値すら、疑ってしまう。

 

 思考と海面が、暗い渦を巻いて一つになる。

 どこを見ているか分からない魚の瞳が、あなたを誘って――。

 

「おい!」

 

 強い衝撃と共に、首根っこを荒々しく掴まれた。ミュヘルが、あなたの身体をフェンスの内側へと引き戻していた。

 

「危ないだろう、ジジイもちゃんと見ておけ!」

「お、おう……すまぬ。そこまで不注意とは思わなんだ」

「もうすぐ九つだろうが、ただのガキなんだ。不注意で当たり前だ!」

「そりゃそうじゃが……そうじゃの。__よ、すまなんだ。船の中に戻ろう」

 

 ミュヘルの怒声と、ウェルスの後悔に満ちた声に、あなたは何も答えられなかった。

 

 

 船に揺られ、オチマ連邦の東港へ上陸する。そこから大陸横断列車の駅までは、車ですぐだった。

 雑踏に満ちた駅のホームで、ウェルスとミュヘルは、あなたの両手をそれぞれ固く握って離さない。

 あなたはもう大丈夫だと訴えるが、ウェルスは静かに首を振った。

 

「今のおぬしは、少し不安定なようじゃ。生まれ育った祖国を出たのじゃから、無理もなし。サヘルタで落ち着くまでは、こうして守らせておくれ」

「まったく、このクソジジイは、こんな子供に一体どんな目に遭わせたんだか」

 ミュヘルの呆れた呟きに、ウェルスは「……まあ、いろいろあったんじゃよ」とだけ返し、あなたは俯いて黙るしかなかった。

 

 列車は二等車両。三人で座るには十分なスペースのあるコンパートメントだった。

 

「……ただ風景を眺めているだけでは、気が滅入るやもしれん。のう、__よ。"発"の修行でもしておくか」

「おいおい、正気かよ。雇われの護衛の前で能力開発なんざ」

 

 あなたは、構わない、と首を振った。この傭兵が、不誠実な真似をする人間には思えなかった。

「……そうか。好きにしろ。だが、ジジイの指導に間違いがあれば、俺も容赦なく口を挟む。それでいいならな」

「ほう、ワシはシングルのプロハンターじゃぞ、指導者としても一流じゃ」

 

 あなたはウェルスの指導に慣れている。ウェルスは鞄からメモ帳を取り出すと、そこに複雑な数式と図を書き込んでいく。

 

「良いか。おぬしが構想した『星屑の螺旋』に不可欠なもの。『螺旋』の基本式はこうじゃ。三次元的に書くと……こうなる。収束螺旋はここに係数を加え、発散螺旋はここの正負を逆転させる。これを、まずはおぬし自身のオーラ力学の方程式に置き換えてみよ」

 

 あなたは頷き、ペンを握る。揺れる車内でも、紙の上で黙々と数式を解いていく。

 二人の関係が、塾講師と生徒であれば、違和感はない。

 だが、念の師匠と弟子の修行風景としては、明らかに異様な光景。

 ミュヘルがそれに口を挟んだ。

 

「おいおいおい、待て。"発"の修行といえば、まずはイメージ修行だろうが。変化系であればその性質を肌で感じ、具現化系であれば、五感全てで。普通はそうだろう?」

「じゃから、そうしとるんじゃろう。数式を解いて現象への理解を深めるのは、立派なイメージ修行じゃよ」

「……マジかよ。心源流の修行は、もっと、こう、マインドとフィジカルが重視されていた気がしたが……これはアリなのか?」

「一部の放出系においてはの。オーラを外部――つまり、物理法則の世界に晒す、ということじゃ。なれば、内的な精神と肉体の理解だけでは足らぬのよ。念弾をぶっ放すだけが放出系ではないわ」

「……そういうもんなのか」

 

 言いくるめられたミュヘルを尻目に、あなたは計算に没頭する。螺旋という現象への数学的理解が、そのままオーラの感覚へと繋がり始める。

 

「うーむ、基礎的な式の理解は十分じゃの。……お、こことここは計算ミスじゃな」

「おいおい、これ、大学院レベルの物理数学じゃねえか?こんな子供に解かせてんのかよ。俺ですら半分も分からないぞ」

「勉強不足じゃのう」

 

 あきれ顔のウェルスに、ミュヘルは開き直る。

「俺の専門は戦場だ。弾道計算とロジスティックに必要ない数学は知らん」

 

 その言葉に、師匠は納得していた。

「ま、それもそうか」

 

 あなたは、自分が導き出した方程式を、オーラの力で現実に再現しようと試みる。

 手のひらの上に、微弱なオーラを捻りながら放出する。だが、揺れる列車の中では、安定した流れを維持することさえ難しい。

 

「ふむ……、この五百ジェニー硬貨を使うといい。重力と拮抗するようにオーラ波を放ち、まず手のひらの上で浮かせてみよ。そこからオーラ波に螺旋を加え、浮かせたまま回転させるのじゃ」

 

 コインをじっと見つめ、神経を集中させる。微弱なオーラの流れがコインを捉え、ふわりと宙に浮いた。

 ここまでは良い。

 ここまではいい。問題は、ここからだ。

 螺旋を意味する脳内の数式(ことば)を、体の、魂の、オーラの概念(ことば)に翻訳する。

 

「そうじゃ、前腕を垂直に立てよ。軸を意識するんじゃ」

 

 放出系のオーラ波に、変化系の性質、螺旋回転を加える。ただコインを浮かせるのではない。コインを螺旋の先端として、その力を一点に収束させるイメージ。

 回転が、始まった。はじめはゆっくり。やがて加速する。

 

 ヒィイイーン、と、甲高い風切り音が響き始める。列車の走行音にかき消されそうなほど微かだが、それでも、隣のウェルスとミュヘルの耳にはっきりと届いていた。

「うむ、第一段階は上出来じゃ。――もう、止めていいぞ?」

 

 ウェルスの声が、耳には届いても、脳まで届かない。

 螺旋、収束、加速、一点へ――。

 思考が、それに囚われる。

 コインは空気との摩擦で熱を帯び、陽炎のように空間を歪ませていく。

 

「止めいと言っとるんじゃ!」

 

 突如、オーラで形成されたウェルスの念手が、赤熱するコインを鷲掴みにした。ジュッ、という焼ける音と、高速回転する金属に削られる軋みが響き、無理やり回転が止められる。

 感覚のフィードバックにウェルスは顔をしかめたが、その衝撃であなたの過集中は解けた。

 

「――うむ、よくやった。今日の修行は、ここまでじゃ」

 

師に痛みを感じさせてしまった罪悪感と、達成感が入り混じる中、あなたは小さく感謝の言葉を述べた。

 

 

 列車に揺られて数日が過ぎた。その日も、あなたは修行に打ち込んでいた。すると、向かいの席に座っていた老紳士が、穏やかな笑みで話しかけてきた。

 

「お嬢さん、手品の練習ですかな? そのコイン廻し――随分と興味深い」

 

 ウェルスが、あなたに代わって応対する。

 

「ええ、ネタを明かせば、こう、見えぬ紐がありましてな。これを気づかれずにどう捻り続けるかが、この手品のコツでして」

「ほう! それは面白い。手品、とは少し違いますが――実は私も、ある意味で紐使いでしてね。弦の楽器の奏者なのですよ」

 老紳士はそう言うと、背中にあったケースからヴァイオリンを取り出した。

 

「面白いものを見せてくれたお礼だ。一曲どうです?」

「ぜひとも」

 

 彼の演奏が始まった。

 老紳士が奏で始めた音色は、列車の揺れを感じさせないほどに安定し、美しかった。その旋律は、あなたの傷ついた心に静かに染み渡っていく。

 しかし、その曲調はどこか深く、物悲しい。あなたは、思わずそう問いかけていた。

 

「ええ。本当は、これは歓喜の曲なのですよ。ですが……どうにも今の私の気分では、悲しい音色になってしまうようで。先日、知らせがありましてね。カキンに住んでいた娘夫婦が、動乱で亡くなった、と」

 

 ウェルスが、あなたの掌をぎゅっと握りしめる。その力に、あなたは息を詰めた。

 

「特殊戒厳令の最中に、敵国の楽曲を聴いていた、という罪状だそうです。裁判も、何もなしに……」

 

 老紳士は、悲しみを堪えるように目を伏せた。

 

「――お孫さんの前で、する話ではありませんでしたな。申し訳ない。ご清聴、ありがとうございました」

 

 あなたの魂は、無数の針が突き立てられたかのように苛まれていた。

 自分が引き金を引いた動乱が、また一つ、無関係な人の幸せを奪った。その事実が、重く、重くのしかかる。

 

「大丈夫、大丈夫じゃ。それはカキン帝国の罪。おぬしは、何も悪くない――」

 

 耳元で囁かれる師の慰めに、あなたはただ縋りつくしかなかった。和らぐことのない苦痛から逃れるように、まだ高く日が昇っているにもかかわらず、あなたは深い眠りの中へと落ちていった。

 

 

 列車が、軋むような長いブレーキ音を立ててようやく終着を告げる。

 数日の間、あなたの世界の全てだった鉄の箱から一歩踏み出すと、蒸気と人いきれの混じった匂いが鼻をついた。

 

「ここが、オチマ連邦最大の湾岸都市、ザイングラードだ」

 

 ミュヘルの声が、喧騒の中でもはっきりと聞こえた。彼は「少し野暮用だ」と言い残し、人混みの中へと消えていく。サヘルタへ密航するための船を探しに行くのだろう。

 あなたはその間、ウェルスに連れられて、薄暗いネットカフェの扉をくぐった。

 古いブラウン管の分厚いモニターには256色が踊り、画像を構成していた。

 

「おぬしはこのコインで修行を続けておれ」

 ウェルスはそう言うと、慣れた手つきで情報サイトを開き、カキン帝国の現状を貪るように読み始めた。

 あなたは修行に集中しようとしたが、どうしても師の肩越しに見える画面の文字が、心をざわつかせた。

 

『国王・第二王子・第三王子暗殺。第一王子は臨時国家元首に。ただし国王代理は名乗らず』

『特殊戒厳令下で、反体制派議員の逮捕相次ぐ。第一王子による大粛清か』

『第二王子カミーラが保護していた不可持民らが、各地で集団不審死』

『第四王子ツェリードニヒ、独自に暗殺犯の情報を収集か』

 

 目を、背けてはならない。自分が引き起こした現実の、その続きだ。

 そう思うのに、身体が、心が、拒絶する。

 ぎゅっと瞼を閉じると、暗闇の中に、あの日の光景が鮮明に蘇った。

 そこには――

 

「どうして」

 

 血と泥に汚れたエラの顔。その唇が動き、絶望に濡れた瞳があなたを射抜く。

 

 気付けばあなたは、喉を引き裂くような叫び声を上げていた。

 その声に弾かれたように振り向いたウェルスが、あなたの小さな身体を、壊れ物を扱うように、それでいて力強く抱きしめた。

 

「大丈夫じゃ、大丈夫……。おぬしは悪くない。悪いとしたら、この世界じゃ。世界が、このように残酷なのが……」

 

 師の震える声と、古びた外套の匂いに包まれて、あなたの荒れ狂う呼吸は、少しずつ、少しずつ落ち着きを取り戻していく。

「それでも、おぬしは生きねばならん。前に進んでほしい、その望みは皆が持っておる、その願いを裏切らぬためにも」

 ウェルスはあなたを諭すようにそう言うと、皺くちゃの笑顔を浮かべた。

「外の空気を吸おうか。ここでは息が詰まるわい」

 その笑顔に、ひび割れたあなたの心が、僅かに潤った気がした。

 

 外へ出ると、ミュヘルが壁に寄りかかって待っていた。

「手配は済んだ。……ここで俺とはお別れだ」

 彼はあなたとウェルスに、偽造した身分証を渡す。

「これを持って指定された貨物船に乗れ。向こうの港に着いたら、俺のパートナーがお前たちを協会まで案内する。じゃあな、ウェルス。それと……」

 ミュヘルは一瞬言葉を切り、あなたの目を見て、仏頂面で言った。

「ガキ。何をやらかしても、大人は子供の尻拭いをしてやれる。……だが、命を捨てるような真似だけは、するなよ」

 

 

 鉄と錆の匂いが立ち込める貨物船での旅は、数週間に及んだ。

 あなたは船酔いをしなかったが、老練なハンターであるはずのウェルスは、最初の数日間、船室で青い顔をして呻いていた。

 甲板の上で無心にオーラを練るあなたと、船内の寝台でうんざりしている師匠の姿は、奇妙な対比を描いていた。

 

 列車の中ではできなかった、強力な放出系の修行が、遮るもののない大海原では可能だった。

『星屑の螺旋』を海に向かって放つ。オーラが海水に触れた瞬間、海水は渦を巻き、エメラルドグリーンの海面を抉る。

 成長していく自分の力を振るうのは、存外楽しい。魚が時折渦の中に巻き込まれ、ミンチになってしまうのは、少し悲しかったが。

 

 修行に夢中になっているうちに、時は過ぎていく。

 港が見え始めた頃、あなたの実力は――。

 

念能力修行による成長1

運動技能点獲得判定A

1~5:かなり(5点) 6~8:とても(6点) 9~10:驚くほど(7点)

1d10 = 1 かなり(5点)

 

念能力修行による成長2

運動技能点獲得判定A

1~5:かなり(5点) 6~8:とても(6点) 9~10:驚くほど(7点)

1d10 = 9 驚くほど(7点)

 

念能力修行による成長3

運動技能点獲得判定A

1~5:かなり(5点) 6~8:とても(6点) 9~10:驚くほど(7点)

1d10 = 6 とても(6点)

 

 絶えず揺れる船上でオーラを精密にコントロールし続けるという、高負荷の修行。そのおかげか、オーラを自らの肉体のように動かす機能が、飛躍的に向上した実感があった。

 

 そして、あなたの目の前に広がる光景。

 オチマ連邦のそれとは比べ物にならないほど巨大な湾岸施設と、その向こうにそびえ立つ摩天楼の群れ。

 あなたは、ようやくサヘルタ合衆国にたどり着いた。

 

 

 船から密かに降り立つと、ミュヘルの仲間はすぐに見つかった。何しろ、彼と同じ長い耳を持つ、美しい女性だったからだ。

 その雰囲気はミュヘルと対照的に穏やかで、瞳には好奇心を覗かせていた。

 

「――もし。あなたが、ミュヘルのお仲間さんかの?」

 

 ウェルスの問いに、彼女は静かに頷いた。

「ええ、ウェルスさんと、そのお弟子さん、でしたよね。お待ちしていました。長い船旅、お疲れ様です。明日、ノーウェル閣下が例のものを携え、協会本部を訪れます。本日は宿を取りましたので、まずは旅の垢を洗い流してください」

「そうか……。では、ウチの__を任せてもええかの? 流石にワシが風呂に入れるわけにもいかず」

「ええ、もちろん」

 

 ミュヘルのパートナーはデュマと名乗り、二人を清潔な宿へと案内した。

 あなたはそこで、デュマに風呂に入れてもらうことになった。

 貨物船のシャワーは、正規の乗組員に遠慮してほとんど使えなかったのだ。温かいお湯で身体を洗われると、垢がぼろぼろと落ちていく。

「こんなに汚して……ふふ、すっきりしたでしょう?」

 

 デュマがスポンジで背中を擦るのがくすぐったくて、あなたは思わず身をよじった。彼女の指が、あなたの腕に、薄っすらとのみ残る跡――『無限の剣製』を初めて使った証――にそっと触れ、その動きが一瞬だけ止まった。

 湯船に二人で浸かる。あなたは、デュマの豊かな胸に頭を預けた。心と身体の疲労が、じんわりとお湯に溶けていくのを感じる。

「大変だったでしょう。そして、これからもあなたはきっと、大変な目に遭う」

 デュマは、静かに語り始めた。

「私はね、念能力者は皆、運命という大きな渦のさなかにいると思っているの。信じていると言ってもいい。その渦を泳ぎ切るには、自分だけの『しるべ』が必要よ。人でも、組織でもいい。でも、私のおすすめは『道具』。ラッキーアイテム、と言い換えてもいいわね。人は変わり、組織は裏切る。でも、モノはいつだってそこにあるだけ。それにね、最悪、代えが効くというのも、案外大事なことなのよ」

 

 その言葉が、湯気の向こうから、あなたの心に真っ直ぐに届いた。

 

 風呂から上がり、ふわふわのタオルで身体を拭いてもらう。用意されていたのは、白を基調に、緑と黄色の草花の刺繍が施された清潔なワンピースだった。

 

 あなたは、宿の一室で荷物を広げ、整理を始める。

 ラッキーアイテム。デュマの言葉が、頭から離れない。それは子供じみた考えかもしれないが、今のあなたには、何か確かなものが欲しかった。

 目の前には、今のあなたの全てがベッドの上に並んでいる。

 

 朱色の狐面。エラの遺品だ。もう異臭は消え去り、そこには木と漆の香りだけが残っていた。『太歳頭上動土』で彼女に止めを刺し、村を滅ぼした。その責任を背負うという覚悟の証だった。

 

 拳銃・デザートイーグル。冷たい鉄の塊である。オーラで腕と肩を強化して、初めて引き金を引けるこの銃は、『無限の剣製』を放つ重要な媒介でもあり、大国の王を弑した凶器でもある。

 

 壊れた銀のペンダント。かつて『太歳頭上動土』の呪いを封じていた、師の優しさの結晶。壊れてなお、その温もりは失われていない。そこに刻まれた神字は、師の技巧と意志を感じさせた。

 

 157番のベンズナイフ。父からの贈り物。あなたが初めて『無限の剣製』で複製した記憶の象徴。自分に宿った『二つ目』に驚き、その発動で誰も傷つけないように意識したことを思い出す。

 

 月の雫のイヤリング。母の無償の愛の証。宝石からは、光が散乱し、さまざまな模様が見える。これを身に着けていると、まだ自分には帰る場所があるような気がした。

 

 タロットカード。年の離れた姉との、無邪気な日々の思い出。カードの裏に施された透かし彫りは、二人だけの秘密だった。電球の光を、タロット越しに眺めると、姉と語り合った様々な出来事を思い出す。

 

 全てが、かけがえのない大切な道具だ。だが、デュマは言った。『しるべ』は一つだと。

 運命そのものを手に取るのではなく、あくまでラッキーアイテム。そこまで重く考える必要は無い、とも彼女は言った。

 だが、運命の荒波を乗り越えるための錨である、それもある側面では事実だった。

 

 『あなた』は、ゆっくりと一つに手を伸ばした。

 それは――。

 

メッセージ

ラッキーアイテムは、あなたの無意識に深く根ざし、特定の将来性を伸ばします。

少年前期以降にラッキーアイテム自体が破損した場合でも、その影響は残ります。

 

選択

 

朱色の狐面

呪いはない。罪の記憶を思い出すだけである。

『太歳頭上動土』に関わるアイテム。

『太歳頭上動土』の成長方針が『王道(非殺傷・広域)』になる。

『太歳頭上動土』のLv2以降を獲得する場合、消費経験点に割引が入る。

 

拳銃・デザートイーグル

国王ナスビを弑した凶器。

入念に洗浄したため、ナスビの血が検出されることはない。

『無限の剣製』に関わるアイテム。

『無限の剣製』の成長方針が『覇道(高威力・広域)』になる。

『無限の剣製』のLv2以降を獲得する場合、消費経験点に割引が入る。

 

壊れた銀のペンダント

微かに師のオーラが残っている。

実用性を求めるなら、別のものを新しく作った方がよい。

『太歳頭上動土』に関わるアイテム。

『太歳頭上動土』の成長方針が『正道(非殺傷・狭域)』になる。

『太歳頭上動土』のLv2以降を獲得する場合、消費経験点に割引が入る。

 

157番のベンズナイフ

微弱だが、わずかに恐ろし気なオーラがある。

呪いというほど強くはない。

『無限の剣製』に関わるアイテム。

『無限の剣製』の成長方針が『邪道(強敵弱化・狭域)』になる。

『無限の剣製』のLv2以降を獲得する場合、消費経験点に割引が入る。

 

月の雫のイヤリング

『きらめいて、美しく、あなたを飛躍させる』――パッケージより。

『星屑の螺旋』に関わるアイテム。

『星屑の螺旋』(Lv2以降)の成長方針が『我道(強化付与・自己)』になる。

『星屑の螺旋』のLv2以降を獲得する場合、消費経験点に割引が入る。

 

タロットカード

占術のみで物事の運命を見透かすことはできない。

それでも、手がかりにはなるだろう。

『星屑の螺旋』に関わるアイテム。

『星屑の螺旋』(Lv2以降)の成長方針が『求道(探索・狭域)』になる。

『星屑の螺旋』のLv2以降を獲得する場合、消費経験点に割引が入る。




後悔のない選択肢はありません、ありませんが……
『あの決断』は強く主人公を苛みました。
それでも、生きていれば意味はきっとあるはずです。
主人公の周囲の登場人物はそう信じています。次の転生者を呼べばよい『他者』とは違って。

あの行動は正しかったのか、と悩み続ける少年期にはなるでしょう。


更新は一週間スパンで見ておいてください。早めに更新することもありますが。

キャラクター1 少年前期・ラッキーアイテム選択

  • 朱色の狐面
  • 拳銃・デザートイーグル
  • 壊れた銀のペンダント
  • 157番のベンズナイフ
  • 月の雫のイヤリング
  • タロットカード
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