『あなたの転生』~一般通過宝具持ち転生者の人生~   作:砂漠谷

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2月10日18時投稿予定


少年前期シナリオ・成長パートAppendix3

 ギチリ、と。蟲の顎が鳴る音が、壺の内側より。

 それを契機とし、ギチギチ、ギチギチと盛大に群れの鳴き声が玄室に響き始める。

 それは、吉兆丸を通じてこちらにも響いている。

 否。明らかに、()()()()()()()響かせている。

 

『我らの救い主、創世主の継承者』

『血の継統は腐り果てた。肉は干からび機構と堕した。骨子の継承者がとうとう現れた』

『黙示録の主、我らが神、我らが王!』

「っち、ちが、違う!」

 鳴き声を通じて頭蓋の内側に反響する言葉の思念を、あなたは反射的に拒絶し、否定する。

 訳が分からない。いきなり、壺の中の蟲たちに崇められる状況に、困惑を通り越して恐怖を覚えた。

 

 それを受けてか、蟲たちの鳴き声が、ひと時止まり。

 再度、先ほどの鳴き声とは違う、鈴虫の音が和音を奏でる。

 和音を聞いたあなたの脳裏に、言葉ではなく映像のイメージが、流れ込んできた。

 

 

 

 壺に吸い込まれるようにして視界に飛び込んできたのは、極彩色の地獄。

 どぎつい桃色の太陽が中天に輝く、紫色の空。大地は赤黒く、草木は骨や爪のように色が薄い。

 建造物は、古代から中世のものに似た、大きな城郭と堀が目立つ。

 その大地では、血みどろの争いが繰り広げられていた。

 赤い甲殻の戦士。半透明の蜂の踊り子。エイリアンめいた青い蜻蛉。

 人に近い姿をした姫たちが、それらを駒として争わせている。

 喰らい、産み、また殺す。壺の中の小宇宙は、外への渇望で膨れ上がっていた。

 

 異形の蟲たちによる争いが、大陸の全土で繰り広げられていた。

 場所によっては、戦陣を組んで殺しあう蟲たちも。

 あるいは集落を襲い、無勢を蹴散らす山賊の所業も目に付く。

 

 二足歩行の蟲は大きく分けて三種類。

 赤く屈強な外殻を持つ甲虫。毒針を尾に持ち、緑の内臓が透ける蜂。

 そして、青い体表に蜻蛉の翅を伴い、形容しがたい流線形の頭部を持つ蟲。見る人が見れば、映画に出てくるエイリアンのようだと表現するだろうか。

 多くの昆虫は、二足歩行をしているだけで人間型とはいいがたい。しかしながらその多くが、未熟ながらオーラの操作を身に着けていた。

 

(――気色悪い)

 

 人間大の昆虫は、あなたに悍ましさを感じさせる。

 

 そんな中で、明らかに人間に近い容姿の蟲が、三体だけいた。

 

 赤い髪と鎧を装備した、妙齢の美女。その目元には、赤をベースとした濃い化粧。きりりとした眼は、塔から戦場を見下ろしていた。

 半透明の髪に羽衣のような布をまとう、美しい少女。ガラスか水晶でできた食器をカチャカチャと鳴らし、創作料理を頬張っている。

 青い髪に、青を基調とした軍服を着る、幼い児童。場違いにも戦場の後方にいるが、護衛に守られており、その中でおぼつかないステップを踏んで笑顔を見せる。

 複眼と触角だけが昆虫を思わせる、亜人と表現すべき彼女たち。

 彼女たちは、その色に応じた他の蟲たちに傅かれ、指示を出し、従わせていた。

 彼女らが宿すオーラは、量も質も明らかに他の蟲とは異なる。特に質に関しては特筆すべきだろう、王威と呼ぶべき覇気を感じさせる。

 

 二足歩行の条件を除外すれば、もう一種類、蟲がいる。

 ばらつきのあるその大きさを除けば、ごく普通の黒蟻の外見である。

 戦場では牛車を牽かされ、集落では家畜として飼われ、時には解体され、その場で食されている。

 野生の蟻は地下に巣を作り、大多数は食事すらせず、石を削った奇妙な像をひたすらに拝んでいる。

 

 黒い蟻のみが、あなたの視線に気づいているようで、視点が近づけば、こちら側を時折見つめる仕草が見られた。

 

『壺の内には卵がある。卵の内には国がある。国の内には蟻が棲む』

『我ら、正統なる蟻。我ら、創世主のしもべ。我ら、注がれた不幸の分解者。我ら、今や少数派なり』

『この地を統べる偽の王が、異端のものどもの殲滅と統合により、まもなく現れるだろう』

『候補者――姫は三翅。一つは生き血で顔を飾り立てる、赤銅の姫。一つは涙の塩味を好んで呑み食らう、水晶の姫。一つは絶命の叫びを子守歌に好む、蒼玉の姫』

 

 あなたには、彼ら――正統を自称する黒い蟻の意図が見えない。

 これをなぜ自分に見せているのか。疑問がぐるぐると渦巻いていた。

 

『三翅の姫は、ひとしく卵の外を望む。広大な領土を、新たなる資源を、まだ見ぬ世界を――新天地を』

 

 視界が分割される。焦点が合うのは、三人の『姫』。

 赤の姫は、精巧な天球儀の外側に置かれたエイジアン大陸の地図を前に、侵略の機を窺う。

 水晶の姫は、外の世界の摩天楼を模した料理を、優雅に咀嚼する。

 青の姫は、外の風景画が描かれた絵本を胸に、無邪気に笑う。

 

『我らは僭称者を認めない。我らは醜い延命を認めない。我らは分解の責務を全うする』

『我らの望みは一つ。――真なる王として。外を穢す前に、この醜い世界を。滅びと浄化で、満たし給え』

 

 ブツリ。映像のイメージは途切れる。

 気がついたら、あなたの掌には、宝剣・吉兆丸――ではなく、それが姿を変えたのだろう、異質な短剣があった。

 蟲の翅の意匠が柄に刻まれ、反った刀身に黒い光沢を持つ短剣。人間の怨念は蟲の信仰でコーティングされ、無機質ながら輝いていた。

 

 短剣の表面は、それを見つめるあなたの顔の他には何も映さず。

 あなたの本能は、なぜだろうか、それを美味そうだ、栄養がありそうだと、否応なしに感じてしまう。

 本来であれば、常識がその本能を否定する。蟲の甲殻に似た鋭利な呪物を美味そうだと感じるのはあり得ない。

 だがあなたは、大量の情報を立て続けに流し込まれたことで疲労していた。ゆえに、その本能に忠実に動いてしまった。

 刀身を持つ右手は、無意識にゆっくりと口に近づく。

 そして、歯がそれに触れる直前。

 

(それは拙い。使いたくはなかったが――『嗤う鉄心(フルメタル・ロストハート)』)

 

 本能は急激に冷却される。空腹も食欲も、意味をなさないただの情報と化す。開いた顎は、それが投入される前に、固く閉じられた。

 

(わたしは、一体何を)

 

 同時に、監視カメラで見ていたのだろうボトバイが、音を立てて鉄の扉を開き、部屋に押し入った。

 

「今すぐ"それ"から手を離せ!」

 

 飛び込んできたボトバイの焦った表情を見て、完全に我に帰ったあなたは、短剣を持っていた右手を開く。

 しかし、そこからは何も落ちない。

 それを見て、ボトバイの顔色が急変した。

 

「――――遅かったか! ゲル、原因不明の精神もしくは肉体干渉による呪物誤飲! 開腹手術の準備だ! ハイランド、手術室までの最短ルートを探せ! オレが背負う! __ちゃん、意識は!」

 

「だ、大丈夫です、食べてないです!」

 

「くっそ、認識阻害も……典型的な操作系、要請型か!?」

 

「ち、違っ!」

 

 そう言って、両手を上げる。右の掌を見たボトバイは、動きを停止した。

 太極図の意匠。白い部分はなく、黒い部分だけが深く、強く、そこに刻み込まれていた。

 

「――誤飲じゃない、身体融合型!?」

 

 次いで鉄扉から入ってきた二人、ルーペとゲルもそれを直視する。

 

「そんな、呪物との融合、って。しかも、国宝級の! 一体、どうすれば……」

「れ、冷静に! 一旦、能力の分析が最優先です! 憑念分析に強い念使いと除念師をすぐに手配しみゃ、しまっ、しましょう!」

 

 もっとも混乱しているルーペと、絶望しつつも、冷静に状況を分析しているゲル。

 あなたは、三人を通して、自分の状況を客観的に見ることができた。まずは、信頼できる大人に、解析の結果、どうなったかを伝えなければ。

 

 吉兆丸を通して見た場面、そして、吉兆丸を通し、壺中卵から流れ込んできた映像思念の話を、あなたは一つ一つ冷静に伝えた。

 自身の心象風景に関しては伏せる。おそらく、あれはカキンの神器には関係がないだろう。

 

「そうか。神器創造時に想定された機能は、蠱毒の壺ではない。――コンポストだ」

 

 ボトバイは冷静に、カキンの念システムを分析する。

 コンポスト、家庭の生ゴミを入れ、微生物で分解する土の入った容器。あなたの母も一時期使っていたが、それがどう壺中卵につながるのだろうか。ボトバイを除く三人の頭上にはハテナのマークが浮かぶ。

 

「壺の中に入れた虫は、『キメラ=アント』。親指大の貪欲かつ凶暴な蟻だ。不幸を蟻に喰わせ、分解させる。外に這い出さないように、念で強固に封をして。内側から外側には出られないように、外側から内側に、不幸のエネルギーを注ぎ込み、食べさせて分解させる。吉兆丸で幸福を徴収するのは、封印が薄くなったときに熱を加えて増強するため。不幸の力で育った蟻たちにとって、幸福のエネルギーは天敵のはず」

 

 この念システムの欠点は三つある、そう言ってボトバイは三本の指を立てる。

 

「まず、死後強まる念の暴走可能性(アンコントローラビリティ)を軽視したこと。子孫に支配権を継承して安心したつもりでも、理念は世代を経るごとに失われ、それに伴い能力の内容も歪曲、変質していった」

 

 謝肉祭や継承戦といった風習がいい例だろう、と彼はつぶやき、薬指を折る。

 

「次に、キメラアントという凶暴な昆虫の性質を軽視したこと。食した動物の性質を次代に引き継ぐ『摂食交配』、王祖の血液を食し、人間の遺伝子情報と念能力の才能の種を宿した蟻たちは、不幸のエネルギーを陽光や草木として吸収し、健やかに――否、歪に成長し、繁栄していった。壺の内部があそこまで広大なのは、蟻たちの相互協力型能力(ジョイント)か、もしくは協力要請型能力による念空間の拡張に違いない」

 

 ノヴが聞いたら白目剥くぞ、と言いつつ、中指を折る。

 

「最後に。不幸感情エネルギーの影響を軽視したこと。不幸のエネルギーを継続的に吸収・分解させられ、内部での繁殖を行わせたなら、たとえキメラアントでなくても醜悪な生態・性質に変貌するだろう。君にメッセージを伝えた、『正統な』黒蟻ですら、自分たちの世界の滅びを望む邪教徒だ。他の蟻たちは言わずもがな」

 

 そう言って人差し指を折るボトバイの分析を聞き、ゲルは大きな目を更にまんまるにし、ルーペは驚愕にメガネを取り落としそうになった。

 

「独覚型の天才って、こうも壮大な大失敗をするのね……」

 

「善意による永久機関建造、ただし老朽化による爆発は考えてない、みたいな? 発想が突飛すぎて恐ろしいですね」

 

 二人の反応にボトバイは深く頷き、一方で首を捻る。

 

「だが、如何に内部のキメラ=アントが邪悪に変貌したとはいえ、壺の封印が内部から破れるようにはできていないはず。この能力を考えるなら、誰しも最初に思いつくリスクが『内側からの食い破り』。すなわち孵化だからだ」

 

 あなたは、どこか引っかかる。今まで学んだこと。今まで体験したこと。そして――自分が行使する能力に、なにかヒントがある気がして。

 

(世界卵の論理だな。境界を破らずに裏返すことは、理論としては可能だ。内部が物理的な拡張空間なら、心象風景の展開より遥かに容易い)

 

 ひび割れた男の声。心象風景から、デミヤがそう囁いた。

 それが引き金になり、今まで師から学んできた幾何学の定理、念能力の仕組み、実体験としての宝具の感覚、それらが一気に脳裏で結合する。パズルのピースが一斉に並べられて、一つの大きな絵を表していく。

 

 思考より先に、手が動いた。

 懐の革ケースからベンズナイフを引き抜き、切っ先をペン代わりに、コンクリートの床へ数式を刻みつける。

 幾何学の定理。特に、位相幾何学(トポロジー)

 三人の視線が集まる中、あなたは書きなぐった図式を指差し、結論だけを告げた。

 

 壁を壊す必要はない、彼らは、空間ごと『裏返って』出てくる、と。

 薬剤師でもあるゲルは、あなたの言葉の意図を、数式を見て理解した。

 

「たしかに、そうね。元々が真社会性の動物。ジョイントタイプの念能力開発のハードルは、人間より遥かに低い。それに、数学を理解するほどの知能を加えれば」

 

「はい」

 

 危機は、まもなく訪れる。

 そして、それに対抗する術が、陰陽魚の片割れのこの紋章。

 短剣が変じ、あなたの掌に刻まれた刻印。

 『正統なる』、すなわち王祖の意志に今なお忠誠を誓う黒蟻たちの相互協力型(ジョイント)がその正体だろう。

 死者の念も多分に含まれていることが、肌で感じ取れた。

 

「壺中卵へのアクセス権が、蟻たちによって改造された代物。エイジアン大陸の、否、人類の破滅を未然に防ぐための鍵。それが、君の掌にある。――念能力としては、『壱世壊を恕す憲章(ティアラメンツ・レイノハート)』とでも呼ぶべきか」

 

 ボトバイは自分の言葉に頷いた。

 あなたの中で、この数時間の濃密な経験に、一段落がついた気がした。

 

システム

取得した3つの能力の概要は以下の通りです。

『幸福変換 C』:

周囲に幸せを感じている人々がいる場合、その数と質に応じて判定に補正。最大で+15

『運命燃焼 C』:

ダイスを「幸運」で振り直した場合、その振り直した判定に限って補正。+15を振り直した回数だけ。

最大で+45。

『殲世資胚 A』:

『空間』『異界』『法則』などの非物質を攻撃対象に取ることができる。

攻撃判定は対象の強度が一定以下の場合のみ発生。

また、『人類の脅威』との戦闘判定に+25の補正。

念能力としては、『壱世壊を恕す憲章』と命名された。

未だ胚である。

 

システム

第三フェーズの突破により、Cランクの技能点取得判定を3回行います。

 

製作技能点(剣製)獲得判定C

1~5:普通に(3点) 6~8:そこそこ(4点) 9~10:かなり(5点)

1d10 = 1, 3点

 

精神技能点(太歳の禍)獲得判定C

1~5:普通に(3点) 6~8:そこそこ(4点) 9~10:かなり(5点)

1d10 = 4, 3点

 

感覚技能点(違法接続)獲得判定C

1~5:普通に(3点) 6~8:そこそこ(4点) 9~10:かなり(5点)

1d10 = 3 3点

 

現在技能点

運動技能点8

白兵技能点0

移動技能点0

生存技能点1(単独1)

精神技能点3(太歳の禍3)

感覚技能点3(違法接続3)

製作技能点7(剣製7)

交渉技能点2

 

 

 その時である。

 鉄の扉の外側から、乾いた音が鳴らされた。

 コンコン、……コン。

 二回の後に一回。家族と暮らしていた時の習慣だった、()()()()()()()入室ノック。

 だが、ここはサヘルタ。あなたの危機感が全力で警鐘を鳴らす。

 

「誰だ? この部屋を知るのは、会長と十二支んの他にはいないはず」

 

 ボトバイは扉に近づき、開けようとするが、あなたは全力で飛びのき、扉から距離を取る。

「開けないで!」

 

 その言葉は半秒、遅かった。

 開かれた扉の向こうには、眼鏡をかけたスーツの男が、大口径のショットガンを氷のような微笑(スマイルゼロ)と共に構えていた。

 危機感の正体に気が付いても、もはや意味はなく。

 

シナリオの策定はすでに終了しています。

少年前期冒険シナリオ『愚者は龍が如く』が開始しました。

 

「おやすみ」

 

 ボトバイの胸部目掛け、鉛玉(スラッグ弾)が銃口から放たれた。




ボトバイのネーミングセンスが決闘者とかいわんといて……
筆者はMtGプレイヤーです。マスターデュエルは一度ダイヤモンドに行って中退しました。
次話は今月末を目処に投稿する予定です。
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