凡才のレベルアップ無双   作:パラレル・ゲーマー

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王子と側近そして最初の模擬戦

カキン王子軍の特別協力者。

俺たち三人は、その新しい、そしてあまりにも不釣り合いな肩書を得てから、数日間の座学と軍の規則に関する講習を受けた。ガドは退屈そうに鼻をほじっていたが、俺にとっては、カキンという国の軍事組織の構造や、その中におけるベンジャミン王子の立場を知る、非常に興味深い時間だった。

 

そして今日、俺のこの軍における最初の「仕事」が始まる。

 

場所は、王宮の敷地内にある、第一私設部隊専用のだだっ広い練兵場。磨き上げられた石畳の上で、俺は一人の男と向かい合っていた。

男の歳は、20代前半といったところか。涼やかな目元を持つ、長身の青年。その立ち姿には一切の隙がなく、彼がベンジャミン王子の数多い部下の中でも、選りすぐりのエリートであることが伺えた。

 

彼の名は、ビンセント。

 

(うわー…マジかよ。噛ませ犬のビンセントさんじゃん!!!!)

 

俺は、内心とんでもないテンションの上がり方をしているのを、必死に平静を装って隠していた。

ビンセント。原作の王位継承戦において、ベンジャミン王子の忠実な私設兵として登場した、あの男だ。彼の能力の名前や、その後の末路を俺は知っている。

未来の重要人物(の噛ませ犬役だが)と、こうして20年以上も前に手合わせできるとは。転生者冥利に尽きるというやつだ。

 

「カイ殿でしたかな」

ビンセントは、穏やかな、しかし芯のある声で俺に話しかけてきた。

「王子より直々にご指名を賜りました。我が名はビンセント。以後、お見知りおきを」

「…どうも。カイです」

俺が短く答えると、ビンセントはふっとその涼やかな表情を、好戦的な笑みへと変えた。

「王子がこれほどまでに執心される貴殿の実力…このビンセントが、しかと見届けさせていただきます。では、お手並み拝見と参りましょうか。ええ…」

 

語尾に独特の「ええ」という口癖を付けるのが、彼の特徴らしい。

(放出系のビンセント…! 原作知識は、最大限利用させてもらう!)

 

練兵場の片隅に設けられた観覧席では、ベンジャミン王子と、その隣に特別師範として招かれたドウセツ老師が、俺たちの戦いを見守っている。ガドは、少し離れた場所で腕を組みながら、面白くなさそうな、それでいて興味深そうな複雑な顔で、こちらを見ていた。

 

俺は、闘拳(ナックルダスター)を嵌めた両拳を軽く打ち合わせる。

「じゃあ戦闘開始。…行きますね」

 

俺はそう言うと、野球のピッチャーがボールを投げるような大きなモーションで、右腕を振りかぶった。そして、その手に凝縮させたオーラを弾丸のようにして、ビンセントへと投げつけた。

 

「なっ…!?」

ビンセントの顔に、驚愕の色が浮かぶ。

「ビンセントさん!!!」と叫びたくなるような、見事な驚きっぷりだった。

だが、彼はベンジャミン王子の側近。ただの雑魚ではない。

俺が放った念弾が、その巨体に似合わず、威圧感(プレッシャー)に欠けていることを瞬時に見抜いていた。

 

(大きいが、圧がない…。これは目眩ましか!)

 

ビンセントは念弾を回避せず、その意識を俺自身の動きへと集中させる。

正解だ。

だが、その一瞬の思考のタイムラグが、勝負の世界では命取りとなる。

 

俺は、念弾を投げると同時に、地面を蹴っていた。

ビンセントが念弾を「フェイント」だと判断し、俺の位置を再確認しようとした、そのコンマ数秒の隙。

俺は、既に彼の懐に潜り込んでいた。

 

「――もらった」

 

俺のレベル30のオーラを全力で込めた、右の正拳突き。

それが、がら空きになったビンセントの胴体へと、深々と突き刺さった。

闘拳の特殊能力『応報』が発動し、俺のオーラを純粋な破壊力へと変換する。

 

ドゴォッ!!!

肉を打つ音とは思えない、重い、重い破壊音。

体重80キロを超えるであろうビンセントの強靭な肉体が、まるで木の葉のように、2メートルほども吹き飛ばされた。

 

「ぐっ…はぁっ…!」

地面を転がったビンセントは、苦悶の声を漏らし、脇腹を押さえている。ダメージは、そこそこ食らったはずだ。

だが、彼は倒れない。

瞬時に体勢を立て直し、俺を睨みつけるその目には、まだ闘志の光が宿っていた。

 

(…防がれたか)

俺は、内心舌を巻いた。

俺の今の渾身の一撃。並の念能力者であれば、一撃で戦闘不能になっていたはずだ。

だが、彼は殴られるその寸前に、咄嗟に胴体部分のオーラを『堅』で硬化させ、ダメージを大幅に軽減していたのだ。

さすがは、王子の側近。基礎能力のレベルが、地下闘技場の連中とは全く違う。

 

「…おお、すごいですね。ビックリしましたよ。ええ…」

ビンセントは、痛みを堪えながら、それでも穏やかな笑みを浮かべてそう言った。

その目は、もはや俺を「子供」として見てはいなかった。

一人の油断ならない「敵」として、その脅威度を最大レベルにまで引き上げていた。

 

「素晴らしい一撃でした。ええ…。ですが、ここからは私の距離で戦わせていただきます」

ビンセントはそう言うと、俺から素早く距離を取った。

そして、これまでの体術の構えとは違う、両の掌を俺へと向ける独特の構えを取る。

来る。

放出系の本領が。

 

「――虚空拳(エアブロウ)」

 

ビンセントが、静かに技名を呟いた。

そして、右の掌底を俺に向かって突き出す。

何も見えない。

念弾が飛んでくる気配も、オーラの揺らぎもほとんど感じられない。

だが、俺のレベルアップで研ぎ澄まされた戦闘直感が、最大級の警報を鳴らしていた。

(…来るッ!)

俺は、咄嗟にその場から真横へと跳んだ。

 

直後。

俺が先ほどまで立っていた練兵場の石畳が、何の前触れもなく爆ぜた。

ドォン!!という轟音と共に、直径50センチほどのクレーターが穿たれている。

 

(…空気弾か!)

俺は冷や汗を流しながら、ビンセントの能力を分析する。

不可視の圧縮された空気の塊のようなものを、高速で撃ち出す能力。銃以上の威力という前評判は、伊達じゃない。

 

だが、それだけではなかった。

最初の爆発からコンマ数秒遅れて、今度ははっきりと目視できる高密度のオーラの弾丸が、全く同じ軌道を描いて、俺が回避した先へと飛んでくる。

「しまっ…!」

これが二重攻撃!

不可視の空気弾で相手を回避させ、あるいは体勢を崩させ、その回避先に本命の念弾を叩き込む! なんていやらしい能力だ!

 

俺は、空中で無理やり体勢を変え、左腕に『スティールスキン』を発動させる。

鋼鉄と化した俺の腕が、念弾をガードする。

バチィィン!という凄まじい衝撃。

スキルでダメージは無効化できたが、その威力は俺の体をさらに数メートル吹き飛ばした。

 

地面に着地した俺の腕には、まだ痺れが残っていた。

「…驚きました。今のを防ぎますか。ええ…」

ビンセントは表情を変えずに、再び掌をこちらへと向ける。

まずい。このまま彼の距離で戦い続ければ、俺はいずれ回避しきれない一撃を食らうことになる。

 

(…どうする? このままじゃジリ貧だ)

俺は、思考を巡らせる。

そして、一つの結論に達した。

 

「――面白い」

 

俺は、不敵に笑った。

このギリギリの死線の上で踊るような感覚。

これこそが、俺が求めていたものだ。

俺のレベルをさらに次のステージへと引き上げてくれる、最高の「経験値」が、今、目の前に立っているのだから。

俺の体から、これまで以上の濃密なオーラが立ち昇った。

戦いは、まだ始まったばかりだ。

 

観覧席でその光景を見ていたベンジャミンの瞳に、これまで以上の強い光が宿っていた。

「…見事だ」

隣に座るドウセツ老師に、語りかける。

「あのカイという少年。彼は、ただ力が強いだけではない。戦いの組み立て方が、あまりにも合理的で老獪だ。最初の念弾は、ただの目眩ましではない。あれは、ビンセントの『思考』を誘導するための罠だった」

 

ベンジャミンは、的確に俺の狙いを分析していた。

「ビンセントは、放出系の能力者。遠距離からの攻撃を得意とする。そんな彼に対し、カイ君はあえて自分も放出系の攻撃ができるかのように見せかけた。ビンセントはそれを『ブラフ』だと見抜いたが、それこそがカイ君の本当の狙いだったのだ。『ブラフだと見抜かせ、思考させた』その一瞬の隙を突いて懐に飛び込む。…恐ろしい少年だ。あれは、天性の戦術家の目を持っている」

 

ドウセツ老師は、黙ってその言葉を聞いていた。

そして、一言だけ誇らしげに呟いた。

「…あやつは『凡才』故に、考えることをやめなかった。それだけのことですじゃ」

 

ベンジャミンは、再び練兵場へと視線を戻した。

その心は、決まっていた。

 

(カイ…。あの少年は、ただの兵士として使うにはあまりにも惜しい。彼の力、彼の知略、そして彼の持つあの異常なまでの成長能力。その全てが、俺の…いや、このカキンという国の未来にとって、必要不可欠な『駒』となる)

 

高レベルの戦いをいとも容易く繰り広げる、あの少年。

ベンジャミンは、心の底からカイという存在を「欲しい」と思っていた。

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