凡才のレベルアップ無双   作:パラレル・ゲーマー

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譲渡される力、戦慄する王子

俺とビンセントの模擬戦は、俺の勝利という形で幕を閉じた。

練兵場にいた兵士たちは、その結末に静まり返っていた。王子軍の中でも屈指の実力者であるビンセントが、年端もいかない少年に、それも知略と見たこともない奇妙な技の連携によって敗北したのだ。その事実は、彼らのプライドとこれまでの常識を大きく揺さぶっていた。

 

「…見事だった、カイ君」

観覧席から降りてきたベンジャミン王子が、俺に声をかけた。その表情は、もはや俺を「面白い少年」として見るものではなかった。一人の油断ならぬ念能力者として、その実力を認める武人の目に変わっていた。

「君の戦術、そしてあの奇妙な移動能力…実に興味深い。後で、詳しく聞かせてもらおう」

 

その時、ベンジャミンの隣にいた側近の一人が進み出た。

「王子。次の模擬戦準備が、整っております」

「うむ」

ベンジャミンは頷くと、練兵場の中心へと視線を移した。

次にリングに上がるのは、ガドだ。

 

「おい、カイ」

俺の元へ、腕を組みながらガドが歩み寄ってくる。その顔には、俺の勝利へのほんの少しの嫉妬と、そしてそれ以上の、自分も戦いたくてうずうずしているという闘争心が浮かんでいた。

「なかなか派手にやったじゃねえか。だが、次は俺の番だ。お前以上に、観客を沸かせてやるぜ」

「…そりゃどうも」

俺は、肩をすくめて答える。

そして俺は、自分の拳に嵌められていた『闘拳(ナックルダスター)』をこともなげに外した。

 

「ほらよ」

俺は、その無骨な鉄の塊をガドに向かって放り投げた。

「…あ? なんだこりゃ」

ガドは、驚きながらもそれを見事にキャッチする。

「お前の戦い方なら、ナイフよりそっちの方が合うだろ。貸してやるよ。俺のレア装備だ。傷つけんなよ」

「…ちっ、誰に言ってやがる」

ガドは、憎まれ口を叩きながらも、その手に収まった『闘拳』のずっしりとした重みと、そこに込められた尋常ならざるオーラの気配を感じ取っていた。彼は何も言わずに、その『闘拳』を自分の巨大な拳へと嵌めた。まるで、あつらえたかのようにその手にしっくりと馴染んでいた。

 

ガドの対戦相手は、ビンセントと同じくベンジャミンの私設部隊に所属するエリート兵士だった。歳は20代半ば。ビンセントのようなスマートさはないが、その肉体は分厚い筋肉の鎧で覆われ、見るからに頑健そうだった。

 

「始め!」

号令と共に、相手の軍人が即座に臨戦態勢に入る。その全身から放たれるオーラは、実戦経験の豊富さを物語っていた。

 

だが、ガドは動かない。

彼は、ただゆっくりと己が拳を握りしめると、堂々と宣言した。

「――俺は、強化系だ!」

 

その言葉と同時に、ガドの全身から、これまでとは比較にならないほど純粋で濃密なオーラが爆発するように噴き出した。それは、かつて盗賊団の頭領として俺と戦った時の、荒々しく制御の効かないオーラではない。ドウセツ老師の下での地獄のような修行によって不純物を取り除かれ、極限まで練り上げられた鋼のようなオーラ。

 

「おーし、いくぞ」

ガドはそう言うと、パンッ!と一度だけ大きく手を叩いた。

それが、彼の戦いの開始の合図だった。

 

次の瞬間。

ガドの姿が、その場から消えた。

 

「なっ!?」

対戦相手の軍人が、驚愕の声を上げる。

(早い! これが、純粋な強化系の極致の俊敏性か! そして、あの巨体からは想像もつかないほど動きがしなやかだ! ただの筋肉だるまじゃない、素早い!)

 

彼がガドの姿を捉えようと視線を巡らせた、その時。

既に、ガドは彼の頭上にいた。

空中で、まるで仁王像のように腕を組み、そして落下してくる。

 

軍人は、咄嗟に防御態勢を取った。だが、ガドが狙っていたのは彼の体ではなかった。

ガドの巨大な足が、軍人のすぐ横の石畳へと叩きつけられる。

ドゴォォン!という轟音と共に、練兵場の床が蜘蛛の巣状に砕け散った。

その衝撃で、軍人は体勢を大きく崩される。

 

そして、その一瞬の隙をガドは見逃さなかった。

体勢を立て直そうとする軍人のその頭を、ガドの巨大な左手が鷲掴みにした。

 

「!!!」

軍人の顔が、驚愕と恐怖に染まる。

(…万力(まんりき)だ…ッ!!)

ガドのオーラを纏った五指が、彼の頭蓋をまるで巨大な万力のように締め上げる。

完全に頭が固定されてしまった。

身動き一つ取れない。

 

そして、ガドの右拳。

そこに嵌められた『闘拳』が、禍々しいオーラを放ちながらゆっくりと引き絞られていく。

「――終わりだ」

 

ガドのオーラを込めた右の腹パン(ボディブロー)が、軍人のがら空きになった腹部へと叩き込まれた。

衝撃は、音を置き去りにした。

軍人の体は、「く」の字に折れ曲がり、白目を剥いて意識を失った。

ガドは、気を失った軍人を、まるでゴミ袋でも捨てるかのようにそっと地面に転がした。

 

練兵場が、再び静寂に包まれる。

カイがビンセントを倒した時とは、また違う種類の圧倒的な「暴力」の光景。

それは、あまりにも一方的な蹂躙だった。

 

ガドは、倒れた相手を一瞥すると、観覧席のベンジャミンに向かって言い放った。

「後遺症が残んねえように、腹を狙ってやったぜ。オーラでちゃんとガードも出来てたみてえだから、内臓も大してダメージはねえはずだ。…どうだ、俺の勝利だろ?」

 

その言葉は、かつての盗賊の頭領が発していた下卑たものではなかった。

そこにあったのは、自らの力への絶対的な自信と、そして武人としての最低限の矜持。

彼は、この半年で確かに変わっていた。

 

観覧席でその一部始終を見ていたベンジャミンの背筋を、一つの戦慄が駆け抜けた。

なんだ、今の戦いは。

圧倒的すぎる。

あのビンセントに匹敵するはずのエリート兵士が、まるで赤子のように一撃で沈められた。

あのガドという男の、純粋な戦闘能力。

そして、その破壊力をさらに数段階も引き上げていた、あの無骨な鉄の拳…。

 

ベンジャミンの鋭い視線が、ガドの拳から、リングサイドに立つカイへと移された。

彼は、信じられないという表情でカイに問いかけた。

その声は、彼らしくもなくわずかに上ずっていた。

 

「…カイ君。今、ガド殿が使っていた念具は君のもののはずだ。…お前の念具は、本人以外でも使えるのか!?」

 

その問いに、俺はこともなげに答えた。

「そうですね。俺の能力でドロップした装備は、誰でも普通に使えますよ」

 

その、あまりにもあっさりとした答えが、ベンジャミンの脳髄を激しく揺さぶった。

(…なんだと…!?)

彼のこれまでの念能力への常識が、根底から覆される。

 

(…具現化系能力者が創り出す念具は、その多くが術者本人にしか使えないか、あるいは他者が使ってもその性能が著しく劣化するはずだ。それは、念能力におけるほとんど原則と言ってもいい。それを、このガキは…その原則を完全に無視しているというのか!?)

 

ベンジャミンの思考が、高速で回転する。

カイの能力。

敵を倒し、成長する。

そして、敵から念具をドロップする。

その念具は、不壊・不滅。

そして何より…他者への譲渡が可能。

 

その事実が意味する、恐るべき結論。

ベンジャミンの全身に、鳥肌が立った。

 

(…この少年は、ただの強力な兵士ではない。彼は…彼は、一人で一個師団にも匹敵する武具を、際限なく生み出し続けることができる、『移動する兵器廠』なのだ…!)

 

ベンジャミンは、カイという存在を、全く新しい次元の違う戦略的な資産として再認識した。

彼を手に入れる。

いや、彼という「能力」そのものを、我がカキン軍の独占的なアドバンテージとする。

そのためならば、どんな対価も厭わない。

 

ベンジャミンのカイを見る目が、完全に変わった。

それは、もはや興味や好奇心の色ではない。

国の未来を、己が覇道を左右する最重要資源を見る、冷徹な支配者の目だった。

 

俺は、そんなベンジャミンの粘つくような視線を感じながら、内心ほくそ笑んでいた。

(…食いついたな)

俺の能力の本当の価値。

その一端を、この国の未来の王に、これ以上なく効果的に見せつけることができたのだから。

俺たちのカキンでの「武者修行」は、今、全く新しい、そして遥かに危険なステージへとその駒を進めた。

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