凡才のレベルアップ無双   作:パラレル・ゲーマー

2 / 23
最初の狩りとレベル2

最初の狩りとレベル2

 

特質系。

そのあまりにも特異な才能の在り処を自覚してから、俺、カイの修行は新たな段階へと移行した。ドウセツ老師は俺が特質系であることに驚きながらも、「己の魂の形がそうであるならば、それを歪めることなく、ただ真っ直ぐに磨き上げよ」と、その事実を静かに受け入れてくれた。

 

それからの日々は、まさに修行、修行、また修行。四大行の基礎を、血肉に刻み込むための反復訓練。

 

朝一番、まだ夜の気配が残る道場で、ひたすらに「纏」を維持し続ける。体中を覆うオーラの膜を、呼吸をするように、瞬きをするように、無意識の領域へと落とし込む。最初の頃は数分もすれば途切れていた集中も、今では道場の掃除をしている間くらいなら、意識せずともオーラを留めておけるようになった。

 

昼間は、老師との組み手の中で「練」を叩き込まれる。全身の精孔から一斉にオーラを噴出させる荒業。老師の放つ、熟練者のそれとは比べ物にならないほど貧弱な俺の「練」だが、それでも繰り返すうちに、オーラの噴出量と持続時間は着実に向上していった。老師の木刀が俺の胴を打つ寸前、咄嗟に「練」でオーラを張り、衝撃を和らげる。そんな芸当も、少しずつ様になってきた。

 

そして、最も重要なのが、戦闘におけるオーラの応用技術だ。

手に持った木刀にオーラを流し込み、その強度を高める「周」。

敵の攻撃を見切るため、眼球にオーラを集中させる「凝」。

気配を断ち、闇に紛れるための「絶」。

 

これらすべてが、俺が考案した能力『狩人の対価(ハンターズ・リワード)』を十全に機能させるための、必要不可欠な土台だった。俺の能力は、あくまで「敵を倒した結果」として強くなるものであり、「戦闘の過程」を補助してくれるものではない。つまり、最初の獲物を仕留めるまでは、俺はただの「念の基礎をかじった少年」に過ぎないのだ。

 

設計図だけがどれほど素晴らしくても、それを形にする技術がなければ意味がない。逸る気持ちを抑え、俺は来るべき「最初の狩り」の日に備え、地道な基礎訓練に明け暮れた。

 

そんなある晴れた日の午後だった。

「カイ。基礎は身についた。だが、お前のオーラにはまだ『覚悟』が足りん」

縁側で茶をすすっていた老師が、静かに俺に告げた。

「覚悟、ですか?」

「うむ。今のままでは、ただの『型』だ。真の強者と対峙した時、お前のオーラは恐怖で霧散しよう。力を血肉に変えるには、実戦…『死線』を潜る経験が必要不可欠だ」

 

老師の目は、穏やかだが、有無を言わせぬ光を宿していた。

「裏山へ行くぞ。お前の『発』…その力が本物か、試させてもらう」

 

心臓が、ドクンと大きく跳ねた。

裏山。道場の裏手に広がる広大な森林地帯。そこには、時折、街の猟師でも手を焼くような「動物」が出没すると聞く。老師は、俺にそれを狩れと言うのだ。

 

俺の能力の、記念すべき初陣。レベル1の俺が、レベル2へと至るための、最初の試練。

「はい、老師」

俺は静かに、しかし力強く頷いた。

 

裏山は、昼間だというのに薄暗く、湿った土と濃い緑の匂いが立ち込めていた。巨大な木々が天蓋のように生い茂り、木漏れ日がまだら模様を地面に描いている。

 

「カイ。気配を探れ。『絶』を使い、己の気配を消し、相手の気配のみを拾うのだ」

老師の声に従い、俺はオーラを体内へと完全に収納する。フッと、自分の存在が周囲の自然に溶け込んでいくような感覚。その状態で、意識を研ぎ澄ます。

 

風の音。木の葉の擦れる音。遠くで鳴く鳥の声。

その、ありふれた自然の音の中に、一つだけ異質なものが混じっていた。

ザッ…ザッ…と、重い何かが地面を削る音。そして、荒い鼻息。

 

「…あちらです」

俺が指さした方向を、老師は黙って頷き、ゆっくりと歩を進める。

音のする方へ近づくと、開けた場所に出た。そこに、そいつはいた。

 

体長は2メートルほど。猪に似ているが、その体表はゴツゴツとした黒い岩のような皮膚で覆われ、口からは刃物のように鋭い二本の牙が突き出ている。

「岩猪(いわいのしし)…動物の一種だ。硬い皮膚は、並の刃物では傷一つ付かんぞ」

老師が小声で教えてくれる。あれが、俺の最初の獲物。

 

「良いか、カイ。ワシは手を出さん。お前の力で、あれを仕留めてみせよ。それができぬなら、お前の能力も所詮はその程度ということだ」

厳しい言葉だったが、それは俺を信頼してくれているからこその言葉だと分かった。

 

俺はゆっくりと息を吸い、懐から一本のクナイを抜き放つ。心源流の修行の一環で、体術だけでなく、簡単な武器術も学んでいた。

クナイを握る手に、オーラを集中させる。「周」。クナイが淡い光を帯びる。

そして、静かに岩猪へと近づいていく。

 

俺の存在に気付いた岩猪が、ブゴォッ!という威嚇の声を上げ、血走った目でこちらを睨みつけた。

次の瞬間、岩猪はその巨体に見合わぬ驚異的なスピードで、一直線に突進してきた。

 

「速い…!」

だが、驚いてはいられない。俺は眼球に「凝」を使い、オーラの流れを集中させる。突進してくる岩猪の動きが、僅かにスローに見えた。最小限の動きで、その突撃を右へと躱す。

 

ゴッ!という鈍い音と共に、岩猪は俺が先ほどまで立っていた場所の地面を、その牙でえぐり取っていた。もし食らっていたら、ひとたまりもなかっただろう。

 

俺は躱した勢いのまま、岩猪の側面へと回り込み、オーラを纏わせたクナイをその脇腹へと突き立てた!

ガキンッ!

しかし、手応えは硬質ゴムを叩いたような感触。クナイは岩のような皮膚に弾かれ、浅い傷しか付けることができなかった。

 

「クソッ、硬すぎる…!」

反撃の体勢に入った岩猪から、慌てて距離を取る。

どうする。このままではジリ貧だ。心源流の体術と、付け焼き刃の「周」だけでは、決定打を与えられない。

 

ここで、俺は覚悟を決めた。

脳内で、己の能力の発動を強く念じる。

 

――『狩人の対価(ハンターズ・リワード)』、起動。

 

瞬間、何か特別なオーラが溢れ出たわけではない。見た目には、何も変わらない。

だが、俺の中の「世界」は、確かに切り替わった。

目の前の岩猪が、単なる動物ではなく、「経験値を持った敵性オブジェクト」として、俺の魂に認識された。

 

これでいい。あとは、こいつを倒すだけ。

倒せば、俺は強くなれる。

 

俺はクナイを捨て、両の拳を固めた。心源流は本来、徒手空拳こそが真髄。

「一点に、オーラを集中させろ」

老師の教えが脳裏に蘇る。ただ「周」で覆うだけじゃない。拳の、その先端の一点に、ありったけのオーラを叩き込む。

 

再び突進してくる岩猪。

今度は避けない。正面から迎え撃つ。

俺は腰を深く落とし、心源流の構えを取った。全身のオーラを練り上げ、右の拳へと収束させていく。

 

岩猪の牙が、俺の喉笛を捉える、その寸前。

俺は地面を強く蹴り、半身で牙をいなしながら、岩猪の眉間、その一点へと、オーラの全てを叩き込んだ。

 

心源流拳法・奥義「岩砕(がんさい)」!

 

ゴシャァッ!!!

これまでとは比較にならない、鈍く、重い破壊音。

俺の拳は、岩猪の硬い頭蓋を粉々に打ち砕いていた。巨体がぐらりと揺れ、そのまま勢いを失って地面に倒れ伏す。ピクピクと痙攣していた足が、やがて完全に動きを止めた。

 

「はぁ…はぁ…っ…!」

全身のオーラを使い果たし、俺はその場に膝をついた。

やったのか…? 俺が、倒したのか…?

 

その時、俺の脳内に、機械的で、しかし明瞭な「声」が響いた。

 

【岩猪を討伐しました】

【経験値50ポイントを獲得】

【レベルアップ! LV 1 -> LV 2】

【スキルポイントを1獲得しました】

【『運命の戦利品(ドロップ・オブ・フェイト)』が発動しました…『岩猪の牙』(レアリティ:N) を獲得】

 

直後、倒れた岩猪の体から、淡い光の粒子が立ち上り、それが俺の手元で実体を結んだ。現れたのは、先ほどまで岩猪に生えていたものと全く同じ、鋭利な牙だった。これが、俺の最初の戦利品。

 

そして、それ以上に劇的な変化が、俺の肉体を襲っていた。

レベルアップ。その言葉が脳内に響くと同時に、消耗しきっていたはずのオーラが、内側から、まるで泉のように湧き上がってくるのを感じた。それだけじゃない。オーラの「器」そのものが、一回りも二回りも、大きく、頑丈になったような感覚。

 

これが、レベル2…!

 

「…見事だ、カイ」

いつの間にか、背後に立っていたドウセツ老師が、静かに声をかけてきた。

その声には、確かな感嘆の色が混じっていた。

「今の一撃、見事なオーラの集中だった。だが…それだけではないな。お前の今のオーラ…先ほどとは明らかに『強度』が違う。まるで、別人のようだ。一体、何が起きた?」

 

鋭い。さすがは心源流の師範。オーラの絶対量が増えただけでなく、その質の変化までも見抜くとは。

俺は、この人になら話してもいい、と直感的に思った。

この世界で、初めて俺を認め、導いてくれた人。俺の、第二の親のような人。

そして何より、俺の能力の制約『開示された天啓』を試す、最初の相手として、これ以上ない人物だった。

 

俺は息を整え、老師に向き直った。

「老師。俺の『発』…『狩人の対価』について、お話しします」

 

俺は、転生者であることには触れず、能力のシステムについて正直に説明した。敵を倒すことで経験値を得てレベルアップすること。レベルが上がれば、スキルポイントで自身を強化できること。そして、その力の源が「二度と帰れない」という俺自身の覚悟にあること。さらに、「戦闘から逃げれば弱くなる」というリスクも。

 

俺の話を、老師は黙って最後まで聞いてくれた。

全てを話し終えた時、老師は俺の頭に、ゴツゴツとした大きな手を置いた。

 

「…なるほどな。そういうカラクリだったか」

老師は、呆れるでもなく、気味悪がるでもなく、ただ深く頷いた。

「カイ。お前は、とんでもない覚悟をその小さな背中に背負っておるのだな。そして、その覚悟を力に変える、見事な能力を開発した。なかなか良い能力だ。ワシがお前の歳だった頃よりも、お前は遥かに強いぞ」

 

その言葉は、俺の心の奥深くに、温かい光のように染み渡っていった。

褒められた。この世界の、第二の親に。

素直に、嬉しかった。目頭が、少しだけ熱くなるのを感じた。

 

道場に戻った俺は、早速レベルアップで得たスキルポイントを使うことにした。

精神を集中させると、脳内に半透明のスキルツリー画面が浮かび上がる。

【カイ:LV 2】

【スキルポイント:1】

【取得可能スキル】

・オーラ総量 LV 1 (消費SP: 1)

・身体強化 LV 1 (消費SP: 1)

・近接攻撃基礎 LV 1 (消費SP: 1)

・etc…

 

迷わず、俺は「オーラ総量 LV 1」を選択した。まずは、全ての基本となる器を大きくするべきだ。

【オーラ総量 LV 1 を取得しますか? YES/NO】

俺が心の中で「YES」と念じると、スキルが有効になったことを示す淡い光が、スキルツリー上で灯った。

 

再び、あのレベルアップの時と同じ感覚が訪れる。

腹の底、丹田のあたりが、カッと熱くなった。自分の内側にあるオーラの湖が、一気に拡張され、水位が倍になったような、圧倒的な感覚。

 

「すげぇ…」

 

思わず声が漏れた。

試しに立ち上がって、道場で素振りをしてみる。

違う。明らかに違う。体が軽い。一振り一振りの重みが、全く苦にならない。

スタミナが一気に2倍くらいになった、という実感があった。元が子供の体力だから、その伸びしろは絶大だ。

これが、レベルアップの恩恵。これが、俺の能力の真価。

 

「良い能力だな、これ…」

 

俺は、自分の拳を握りしめながら、改めてそう呟いた。

天才じゃない。特別な血統もない。

だが、俺にはこの「成長する」能力がある。

一歩ずつ、しかし、誰よりも確実に。

 

これが俺の戦い方だ。

岩猪の牙を、道場の神棚にそっと供える。俺の、最初の戦いの証。

明日からは、もっと厳しい修行が待っているだろう。

だが、今の俺には、確かな手応えと、未来への希望があった。

修行の日々は、まだ始まったばかりだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。