凡才のレベルアップ無双   作:パラレル・ゲーマー

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共同戦線制圧兵器の誕生

カイがビンセントとの模擬戦に勝利してから、数日が経過した。

練兵場には、どこかぎこちない空気が流れていた。兵士たちは、俺を見るたびに畏怖と好奇の入り混じった複雑な視線を向けてくる。そして当のビンセントは、あの日以来俺と距離を置き、ただ黙々と己の修行に打ち込んでいた。

彼は敗北を糧に、さらに強くなろうとしている。そのストイックな姿に、俺は彼に対する敬意を改めて感じていた。

 

その日の昼下がり、俺は一人で自主訓練に励むビンセントの元へと足を運んだ。

彼は俺の接近に気づくとピタリと動きを止め、訝しげな顔でこちらを見る。

「…何か用かな、カイ殿」

その声には、まだ敗北の屈辱がわずかに滲んでいた。

 

俺は何も言わずに、一つのアイテムを彼に向かって放り投げた。

それは俺が地下闘技場で、ある放出系の強敵を倒した際にドロップしたレア念具。

『弐連装・気弾倉(ツイン・オーラマガジン)』。

 

「…これは?」

驚きながらも、それを見事に受け止めるビンセント。

「あんたへの貸しだ」と、俺は言った。

「あんたの『虚空拳』は強力だ。だが、一発撃った後の隙があまりにも大きすぎる。それが、あんたの唯一にして最大の弱点だ」

俺は彼の目を見て、はっきりと言った。

「そいつはオーラを事前に溜め込んで、連射を可能にする念具だ。それを使えば、あんたの弱点はある程度克服できるはずだ」

 

ビンセントは絶句していた。

自分の弱点を的確に指摘されたこと。

そして、その弱点を克服するための最適な答えをこともなげに差し出されたこと。

その全てが、彼のこれまでの常識を超えていた。

「…なぜだ。なぜ私にこれを…? 私は、君に敗北したのだぞ」

「だからだよ」と、俺は不敵に笑った。

「今のあんたじゃ、俺の訓練相手に物足りない。もっと強く、もっと厄介なあんたと戦ってみたい。…ただ、それだけだ」

 

それは半分は本心だった。そして、もう半分はこの誇り高き武人が、俺からの「施し」を素直に受け取るための口実だった。

ビンセントはしばらくの間、手のひらの上の異質な念具と俺の顔を交互に見つめていた。

やがて彼は、全ての屈辱とプライドを飲み込むように一度強く目を閉じた。

そして再び目を開けた時、その瞳には迷いを振り切った武人の光が宿っていた。

 

「…この借りは、必ず返す。ええ…」

彼はそう言うと、『弐連装・気弾倉』を自らの両腕へと装着した。

まるで最初から彼のために作られたかのように、その腕甲は彼の腕にぴったりとフィットしていた。

 

 

その翌日。

俺とビンセントはベンジャミン王子に呼び出され、再びあの練兵場に立っていた。

だが、今日の状況はこれまでとは全く違っていた。

俺たちの目の前には、約三十名からなる王子軍の一個小隊が、完璧な陣形を組んで整列していたのだ。

 

「今日の模擬戦は、一対一ではない」

観覧席から、ベンジャミン王子の冷徹な声が響く。

「カイ、ビンセント。君たち二人を一つの戦闘単位(ユニット)と見なす。その小隊を、三十秒以内に無力化してみせろ」

 

無茶な命令だった。

相手は、ただの兵士ではない。その全員が念の基礎を叩き込まれ、完璧な連携で動く軍隊だ。

その三十人を、たった二人で、三十秒で。

だが、俺の隣でビンセントは静かに燃えていた。

その腕には、昨日俺が渡した『弐連装・気弾倉』が鈍い光を放っている。

 

俺はビンセントの横に並び、小声で告げた。

「…ビンセントさん。先手は任せます」

「…いいのかね?」

「ええ。あんたの新しい力、見せてくださいよ」

俺の言葉に、ビンセントはふっと口元を緩めた。

「承知した。…では、刮目してもらうとしよう。ええ…」

 

ビンセントが、一歩前に出る。

小隊の兵士たちが、一斉に緊張に身を固くした。

ビンセントは、ゆっくりと両の掌を前方へと向ける。

腕甲の水晶レンズが彼のオーラに呼応して、淡い光を灯し始めた。

 

「――弾倉解放(マガジンリリース)」

 

その呟きと同時に、ビンセントの全身から凄まじいオーラが噴き出した。

そして、それは始まった。

「虚空拳(エアブロウ)ッ!!」

 

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

これまで一発撃つごとに数秒のインターバルを必要としていたはずのあの必殺の技が、まるで機関銃のように練兵場に撃ち込まれていく。

最初に、不可視の空気弾の嵐が兵士たちの陣形を内側から蹂躙する。

そして、その直後を追うようにして目視可能な高密度の念弾の豪雨が降り注いだ。

 

兵士たちの悲鳴、衝撃音、そして舞い上がる砂埃。

わずか数秒の、一方的な爆撃。

その結果、三十人いた兵士たちのうち半数近くが、その場に倒れ伏していた。

 

「…すげえ」

俺は、その光景に思わず呟いた。

俺が渡した念具が、ビンセントの能力をここまで凶悪なものへと変貌させるとは。

 

だが、王子軍の兵士たちもただの雑魚ではない。

「怯むな! 突撃ィッ!」

無事だった残りの兵士たちが、一斉にこちらへと突撃を仕掛けてきた。

彼らの狙いは明確だった。

今の大技を放った直後で、無防備なビンセントだ。

 

「――おっと。俺を忘れないでくれよ」

 

俺は、突撃してくる兵士たちの前に立ちはだかった。

ビンセントを守るように。

「カイ殿!」

「あんたは次のチャージに集中して。ここは俺が時間を稼ぐ」

 

俺は突撃してくる兵士の、その先頭にいた男の襟首を掴むと、心源流の体術を使い、まるで独楽のようにその体を回転させ、後続の兵士たちへと叩きつけた。

投げる、投げる、投げる。

俺は殺意のない、ただ相手を無力化するためだけの柔の技術で、屈強な兵士たちを次々といなしていく。

彼らは俺を倒すことができない。

そして俺もまた、彼らに決定打を与えることはしない。

俺の目的はただ一つ。

背後にいるビンセントが、再びその牙を剥くまでの時間を稼ぐこと。

 

そして、その時は来た。

「…4、3、2、1」

背後から、ビンセントの冷静なカウントダウンの声が聞こえる。

「――チャージ完了です」

 

俺は目の前の兵士を蹴り飛ばし、その場から大きく後方へと跳んだ。

俺がいた空間を、再びあの光の豪雨が通り過ぎていく。

「二弾目、行きますよ。…ええ」

 

「虚空拳(エアブロウ)」の二度目の掃射。

それは、抵抗する術を失った残りの兵士たちを、容赦なくその場に薙ぎ払った。

三十秒後。

練兵場には、三十人の戦闘不能になった兵士たちと、そして傷一つなく佇む俺とビンセントの姿だけがあった。

完全な、勝利だった。

 

 

観覧席でその全てを見ていたベンジャミンの心は、興奮と、そして一種の戦慄に打ち震えていた。

(…なんだ、今の連携は)

彼は、ビンセントがカイからあの腕甲を受け取る場面も見ていた。

そして、その結果何が起きたか。

 

(…カイという少年から譲渡されたあの念具。『弐連装・気弾倉』とでも呼ぶべきか。放出系の能力者に、オーラの事前蓄積による連射能力をプラスする能力付きか…)

ベンジャミンの、戦術家としての脳が高速で回転する。

(ビンセントに譲ったようだが、その相性は抜群だな。単発の必殺技しか持たなかったビンセントの戦術の幅が、格段に広がった。あの念弾の弾幕は、もはや一個人が使う技ではない。一つのエリアを完全に制圧する、『制圧兵器』だ)

 

ベンジャミンの視線が、カイへと注がれる。

(…これは、強い)

彼の心の中に、一つの途方もない野望が浮かび上がった。

 

(もし、この『譲渡可能な念具』を、我が軍の優秀な念能力を持つ兵士一人一人に行き渡らせることができたなら…? それぞれの兵士の能力特性に、完全に合致した最適な念具を。カイという規格外の『兵器廠』が、それを供給し続けることができるのなら…)

ベンジャミンの口元に、笑みが浮かぶ。

 

(ふふふふ…。想像しただけで、ワクワクするな)

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