凡才のレベルアップ無双   作:パラレル・ゲーマー

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器の拡張、マフィア演習

ビンセントさんとの模擬戦に勝利してから、数日が経過した。

あの一戦は、練兵場にいた兵士たちの俺への認識を決定的に変えた。当初は「王子が連れてきた物珍しい子供」程度の認識だったものが、ビンセントさんを圧倒し、あまつさえ彼を強化するという常識外れの戦いぶりを見せたことで、それは畏怖と、そして一種の聖域に触れるような緊張感を伴う視線へと変わっていた。

 

その空気の変化は、俺自身も肌で感じていた。だが、俺の意識はもっと内側へ、自分自身の新たな課題へと向けられていた。

きっかけは、ビンセントさんとの戦いの後の自己分析だった。

確かに、勝利はした。だが、その内容は薄氷の上を渡るようなものだった。もし、彼が俺の能力を最初から知っていて、もっと慎重に立ち回っていたら? もし、あの場にビンセントさん級の敵がもう一人いたら?

考えれば考えるほど、冷や汗が滲む。

 

(…ダメだ。今のままじゃ)

俺は自室のベッドに座り、静かに自分のオーラの流れを感じていた。

(『ウェポン・マスタリー』は強力だ。『獣咬』も『星砕き』も、間違いなく俺の切り札になる。だが、その切り札を切るためのコストがあまりにも高すぎる)

 

以前のデモンストレーションで二つの武器スキルを連続で使用した際のオーラ消費量は、レベル40になった俺のオーラ総量の4分の1近くにも達していた。つまり、全力の必殺技は現状では4、5発撃てばガス欠になる計算だ。

これは、あまりにも燃費が悪すぎる。

プロの念能力者同士の戦いは、1時間に及ぶことも珍しくない。そんな長期戦にでもなれば、今の俺は序盤で切り札を使い果たし、あとはジリ貧になるのが目に見えていた。

 

(選択肢はいくらあっても、それを使うためのMPが足りなきゃ意味がない…!)

俺は、自分の成長が新たな「壁」にぶつかっていることを痛感していた。俺は答えを求めて、師であるドウセツ老師の元を訪れた。

 

道場の縁側で静かに茶をすすっていた老師に、俺は自分の現状の悩みを正直に打ち明けた。

「…なるほどな。器に対して注ごうとする、水の勢いが強すぎるということか」

老師は俺の話を静かに聞き終えると、湯呑を置いて深く頷いた。

「お前の言う『AOP』、つまり顕在オーラ量とは、いわば桶から水を汲み出す『両手』のようなものじゃ。日々の修行は、その両手を鍛え、一度に多くの水を汲み出せるようにする行為に他ならん」

「はい」

「じゃがな、いくら両手を鍛えようと、汲み出すべき水が入っておる『桶』そのものが小さければ、いずれ限界が来る。お前が今ぶつかっておるのは、その桶の大きさ…すなわち、お前の生命エネルギーの総量そのもの、『POP(潜在オーラ量)』の壁じゃ」

 

老師の言葉は、俺が漠然と感じていた問題の核心を的確に突いていた。

日々の修行でAOP(実際に使えるオーラ)は、確かに増えている。だが、その上限であるPOP(オーラの最大容量)が低ければ、成長はいずれ頭打ちになる。

AOPをさらに伸ばすためには、まずPOPという器そのものを拡張する必要があった。

 

「師範。俺、スキルポイントを使います」

俺は決意を固めた。

「俺の潜在能力…POPそのものを、無理やりこじ開けてみます」

 

自室に戻った俺は、精神を集中させ、スキルツリーを展開させた。

現在のSPは33。

俺は、【基礎能力向上型】のカテゴリにある一つのスキルへと意識を向けた。

 

【オーラ総量強化】

 

このスキルは、AOPではなく、その上限であるPOPを直接強化する、俺の能力の中でも極めて特殊なスキルだ。

以前、レベルが低かった頃に、LV1だけ取得したことがあった。そのおかげで、今の俺の急成長の土台が築かれたのだ。

だが、ここから先は未知の領域。レベルが上がるごとに、消費するSPも増大する。

 

【オー-ラ総量強化 LV2】

【消費SP: 2】

【効果:POP(潜在オーラ量)が増大する】

 

俺は迷わなかった。

俺は、10ポイントのSPをこの一つのスキルに注ぎ込むことを決めた。

2ポイントずつ5段階、LV6まで一気に強化する。

【『オーラ総量強化 LV2』を取得しますか?】

「YES」

【『オーラ総量強化 LV3』を取得しますか?】

「YES」

【『オーラ総量強化 LV4』を取得しますか?】

「YES」

【『オーラ総量強化 LV5』を取得しますか?】

「YES」

【『オーラ総量強化 LV6』を取得しますか?】

「YES」

 

俺が立て続けにスキルを取得した瞬間、俺の内なる世界が激震した。

まるで、体という器の内側から、もう一つの巨大な世界が無理やりこじ開けられるような凄まじい圧迫感。腹の底、丹田のあたりにあったオーラの「海」が、その水平線を遥か彼方へと押し広げ、もはやその底が見えないほどの深淵へと変わっていく。

全身の精孔が開き、制御しきれないオーラが部屋中に溢れ出し、びりびりと空気を震わせた。

 

「…っは……ぁ…っ!」

数分後、ようやくその嵐が収まった時、俺は全身汗だくになりながら荒い息を繰り返していた。

だが、俺の体には疲労感はなく、むしろこれまで感じたことのないほどの万能感が満ち溢れていた。

 

【スキルポイントが 33 -> 23 に減少しました】

【『オーラ総量強化』が LV6 になりました】

【POP(潜在オーラ量)が 20000 -> 38000 に上昇しました】

 

POPが、およそ倍近くまで跳ね上がっている。

 

その日の夜だった。

俺の私室に備え付けられた、王子との直通電話がけたたましく鳴り響いた。

俺が受話器を取ると、スピーカーからベンジャミン王子の落ち着いた、しかしどこか楽しげな声が聞こえてきた。

『カイ君か。素晴らしいニュースがある』

 

「ベンジャミン殿」

『君の武勇伝は、私の耳にも届いている。おかげで話が非常にスムーズに進んだ』

ベンジャミンは、用件を切り出した。

『カイ君。君に新たな演習相手を用意した。国内のマフィア、シュウ=ウ一家、エイ=イ一家、シャ=ア一家の三組織だ。私の持つ王族としての伝手で、彼らのボスたちと繋ぎが取れた』

 

「…マフィア、ですか?」

俺の脳裏に、カキンの裏社会を牛耳るという三大マフィアの噂が蘇る。

『いかにも。私はこう提案したのだ。『我が王子軍とマフィア各組との合同軍事演習』という名目で、互いの念能力者を戦わせてみてはどうかとね。もちろん、王子である私が主催する演習だ。彼らに否やはない』

 

ベンジャミンの声には、自らの権力を巧みに利用したことへの確かな満足感が滲んでいた。

『表向きは、カキンの治安維持のための協力体制の構築。だが、その裏では各組がどれほどの念能力者を抱え、どれほどの質なのかを合法的に探ることができる。そして、君にとっては…』

『おっ、ありがとうございます、ベンジャミン殿』

俺は王子の言葉の意図を即座に理解し、礼を述べた。

 

『そうだ。君にとっては、これ以上ない経験値稼ぎの舞台となる。王子軍の兵士とは違う、裏社会で生き抜いてきた、より狡猾で、より多彩な能力を持つ者たちと心置きなく戦える。各組の念能力者の質を測ることも出来るし、経験値を稼ぐことも出来る。一石二鳥だ』

「そうですね。願ってもない機会です」

俺の心は、新たな強敵との出会いの予感に高鳴っていた。レベル40の壁を越えるための、最高の舞台だ。

 

『詳細は後日伝える。せいぜい腕を磨いておくことだ。期待しているぞ、我が国の『英雄』君』

「ええ」

『じゃあ、また』

ピッ、と無機質な音を立てて電話は切れた。

 

俺は受話器を置くと、そのまま老師とガドの部屋へと向かった。

二人に事の経緯を説明すると、その反応は対照的だった。

「マフィア達との演習が決まりました、師範」

「うむ。新たな演習相手が増えるな。王子殿の狙いがどうであれ、お前にとってはまたとない機会。あらゆる相手と戦い、その経験を己が血肉に変えることだ。良いな」

「オス、師範!」

 

老師が俺の成長の糧としてこの演習を捉えたのに対し、ガドは裏社会の住人としての顔を覗かせた。

「へっ、三大マフィアをまとめて相手にか。ベンジャミンの奴、とんでもねえことを考えやがる。あの連中は、一枚岩じゃねえ。互いに腹の探り合い、潰し合いを常にやってるような連中だ。そんな奴らが集まる演習なんざ、どう考えたって一筋縄でいくわけがねえ」

ガドはニヤリと、獰猛な笑みを浮かべた。

「…面白くなってきたじゃねえか。血の匂いがプンプンするぜ。おい、カイ。俺もその演習、参加させてもらうからな」

 

俺は、力強く頷いた。

新たな舞台は、整った。

拡張されたオーラの器、無数の可能性を秘めた武器スキル、そして一癖も二癖もあるであろうマフィアの念能力者たち。

レベル40の壁をブチ破るための最高の環境。

俺は来るべき戦いの日に備え、静かに闘志を燃やす。

俺の正念場は、まだ始まったばかりだ。

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