凡才のレベルアップ無双   作:パラレル・ゲーマー

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驕れる強化系、凡才の知略

俺と盗賊団の頭領との間に、張り詰めた沈黙が流れる。

男が放つオーラは、これまで対峙してきたどの魔獣とも比較にならないほど濃密で、そして邪悪だった。それは、まるで暴力そのものが形を成したような、どこまでも純粋で混じり気のない悪意の塊。

 

対する俺は、レベル10になったばかりの若輩者。だが、俺の背後には決して退くことを許さない師の視線と、『敗者の烙印』という自らに課した制約がある。

恐怖で震える膝を、無理やり叱咤して踏みしめる。

やるしかない。ここで全てを出し尽くす。

 

「…ひひっ」

男が下卑た笑い声を漏らした。

「なんだこの殺気は。ただのガキじゃねえな。なるほど、俺の可愛い手下どもを掃除してくれたのはお前か。その歳でなかなか見所があるじゃねえか」

男はゴキゴキと首の骨を鳴らしながら、品定めするような目で俺を見る。

「だが運が悪かったなガキ。俺は強化系だぜ? お前みたいな、まだ乳臭いガキに負けるわけねえだろうが!!」

 

男が自らの念系統を叫んだ。

その瞬間、俺の脳内は恐怖とは別の冷静な思考で満たされた。

 

(…おいおい、こいつ自分から系統をバラすのかよ。馬鹿なのか? いや違う…これは何らかの能力を発動させるための『制約』か!)

 

ハンターの世界において、能力の情報は生命線だ。それを自ら開示するということは、それ相応の見返り(メリット)があるということ。おそらく、系統を自己開示することを条件に、自身の強化系能力をさらにブーストさせるタイプの能力。単純だが、それ故に強力。いかにも目の前の男のような、脳まで筋肉で出来ていそうなタイプが好みそうな能力だ。

 

男の邪悪な笑みが、さらに深くなる。

「フハハハ! その通りだぜ勘の良いガキ! 系統をバラした事によって俺の強化系の能力は発動した! この戦闘中、俺の肉体を流れる念は通常時よりもさらに強化される!」

 

言葉と同時に、男のオーラがボッと音を立てて膨れ上がった。先ほどまでの威圧感が、さらに倍増する。

これが制約の力。情報を開示するリスクを負う代わりに、純粋なパワーを上乗せする。

 

「じゃあ、最初はこちらから貰うぜ!」

男の姿が消えた。

いや、消えたように見えた。強化系の爆発的な脚力による高速移動。ドウセツ老師の洗練された動きとは全く違う、ただただ直線的な暴力の化身のような突進。

 

速い!

だが、目で追えないほどじゃない。俺はレベルアップで向上した動体視力と「凝」を併用し、男の軌道を予測する。

目の前に、巨大な拳が迫る。

回避…!

俺は咄嗟にバックステップで後ろへ跳んだ。

ゴッ!という轟音と共に、俺が先ほどまで立っていた石の床がクレーターのように陥没した。拳から放たれた余波だけで、これほどの威力。

 

(…やばい。一発でも食らったら即死だ)

冷や汗が頬を伝う。

だが、恐怖に支配されている暇はない。俺は回避した勢いを殺さず、逆に利用して男の懐へと潜り込んだ。

鉄の短剣を逆手に持ち、がら空きになった脇腹を全力で斬りつける!

 

ガギィィィィンッ!!

凄まじい金属音。俺の手に返ってきたのは、肉を斬った感触ではなく、鋼鉄の塊を殴りつけたような硬質な衝撃だった。

男は俺の斬撃を、その腹筋だけで受け止めていた。体表を覆う「堅」のオーラが、俺の攻撃を完全に防いでいる。

 

「ひひっ、豆鉄砲かよガキ!」

俺は慌てて距離を取った。

 

(硬い…! ほぼダメージが通らないな。ナイフでの攻撃は、もう無駄か…)

俺は冷静に分析する。

男の「堅」のレベルは、俺の「周」を遥かに上回っている。これでは何回斬りつけても、雀の涙ほどのダメージしか与えられないだろう。

 

(いや…手はある。オーラを刃先の一点に集中させる『硬』。あれなら、あるいはこの鉄壁の防御を突破できるかもしれない)

だが、『硬』は俺がまだ習得していない高等技術だ。見様見真似で使ったところで、隙を晒すだけ。

 

(どうする…? 正面からの殴り合いじゃ絶対に勝てない。俺の武器は、レベルアップで得た身体能力とこの頭脳だ)

 

俺は男の動きを観察する。

速い。重い。硬い。

だが、その動きはあまりにも単調で大振りだ。

そして、何よりその目。俺を完全に見下している、驕り切った目。

 

(…慢心。それこそがお前の弱点だ)

俺は、一つの作戦に賭けることにした。

それは心源流の体術と俺のハクスラ能力、そしてこの状況そのものを利用した乾坤一擲の奇策。

 

俺は牙のナイフを抜き放った。鉄の短剣よりは、こちらの方が強度も切れ味も上だ。

そして、再び男へと突っ込む。

今度は、先ほどよりもさらに大振りで無駄の多い動き。まるで自暴自棄になったかのような、素人の剣筋。

 

「フン、芸がねえな!」

男は俺の動きを鼻で笑い、カウンターを合わせるように再びその剛拳を振るった。

俺が狙っていたのは、まさにその一撃。

俺は男の拳が振り抜かれる寸前、突進の勢いを殺してその場で身を屈めた。

男の拳が、俺の頭上を空しく通り過ぎていく。

 

がら空きになった腕。

今だ!

 

俺は伸ばし切られた男の腕に、まるで蛇のように絡みついた。

そして、心源流に伝わる関節技で、その肘を俺の肩を支点にしてテコの原理で逆方向へと折り曲げにかかる!

 

「なにぃっ!?」

男が、初めて驚愕の声を上げた。

だが、時すでに遅し。

俺は全身の筋肉をバネのようにしならせ、レベル10の筋力とありったけのオーラをその一点に集中させた。

 

「お前のその腕、貰い受ける!」

 

ボキィッ!!!

 

肉と骨が、嫌な音を立てて砕け散る。

「グワアアアアアァァァッ!!」

砦中に、男の絶叫が響き渡った。

男は、あり得ない方向に折れ曲がった自分の右腕を見て、苦痛と驚愕に顔を歪めている。

 

やった…!

俺は男から飛び退き、距離を取る。

(…右腕は完全に折った。これであの厄介なパンチはもう来ない。負傷により片腕を落とした。こちらが圧倒的に有利か…?)

俺が戦況を分析し、次の一手を考えようとしたその刹那。

 

「小僧ォ…テメェ…!!」

怒りに我を忘れた男が、残った左腕で俺に殴りかかってきた。

 

俺は、その隙を見逃さなかった。

俺が分析に集中していたのは、隙ではない。男を誘うための罠だ。

俺は、男のパンチが来ることを完全に予測していた。

そして、あえてそれを受ける。

 

ドゴォッ!

男の左拳が、俺の胸部にまともに叩き込まれた。

凄まじい衝撃。俺の体は数メートルも吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 

「…げほっ…ごほっ…!」

口から、血の混じった唾を吐き出す。

だが、俺は笑っていた。

男は、信じられないものを見るような目で俺を見ていた。

「な…ぜだ…? なぜ立っていられる…?」

 

俺の胸部を守っていたのは、盗賊からドロップしたNランクの【盗賊の革鎧】。

そして俺は、殴られる瞬間、オーラを胸部に集中させていた。

装備による物理防御と、オーラによる念防御。

その二つが合わさって、男の渾身の一撃の威力を、致命傷からなんとか耐えられるレベルのダメージにまで軽減してくれていたのだ。

 

「…いてーなおい。今の、結構効いたぜ」

俺は壁に寄りかかりながら、わざと軽口を叩いてみせた。

 

その言葉が、男の心を完全に折った。

自分の最強の武器であった右腕は折られた。

残った左腕での渾身の一撃も、目の前のガキには大したダメージを与えられなかった。

自分のオーラは右腕の激痛で乱れ、もはや先ほどまでの威力は出せない。

そして何より、このガキは自分の全てを見透かした上で、あえてこの状況を作り出した。

その事実に、男は戦意を完全に喪失した。

 

「…ちっ」

男は大きく舌打ちをすると、折れた腕を庇いながら忌々しげに吐き捨てた。

「…くそ。俺の負けだ」

 

その言葉が、俺の脳内に勝利のファンファーレを鳴り響かせた。

【盗賊団頭領を無力化しました】

【経験値2500ポイントを獲得】

【レベルアップ! LV 10 -> LV 11】

【レベルアップ! LV 11 -> LV 12】

【スキルポイントを2獲得しました】

 

凄まじい経験値。一気に二つもレベルが上がった。

全身を、これまでで最も強大な力が駆け巡る。

傷ついた体が、瞬時に癒えていく。

 

そして、脳内に新たな通知が届いた。

【『運命の戦利品』が発動しました…】

【『闘拳(ナックルダスター)』(レアリティ:R) を獲得】

 

男の体が淡い光に包まれ、その光が俺の目の前で一つの装備品を形作った。

それは、メリケンサックのような、拳にはめて使う無骨な鉄の塊だった。

だが、俺には分かる。これはただの鉄塊じゃない。

俺が初めて手に入れた、特殊能力付きのレア装備だ。

 

【闘拳(ナックルダスター) (R)】

【特殊能力:応報】

【オーラを込めれば込めるほど、打撃の破壊力が増加する】

 

強化系のための、強化系による、強化系の武器。

今の俺に、これ以上ないほどの最高の戦利品だった。

 

「…おっしゃーっ!!」

俺は思わず、天に向かって叫んでいた。

「実践初勝利だ…!」

恐怖も痛みも、全てがこの勝利の快感に塗り替えられていく。

俺は勝ったのだ。念能力者に、タイマンで。

 

広間の入り口で静かに戦いを見届けていた老師が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

その表情は、いつも通り厳格で読めない。

だが、俺がその顔を見上げると、老師はただ一言、

「…うむ」

と、深く満足げに頷いてくれた。

 

その一言だけで十分だった。

俺はまた一つ、大きな壁を乗り越えたのだ。

レベル12になった俺の手に、新たな武器が握られている。

俺の千里の道は、まだ始まったばかりだ。

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