凡才のレベルアップ無双   作:パラレル・ゲーマー

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特質系と強化系

ガドが心源流の門下生として迎え入れられ、一月が過ぎた。

俺とガドの間に流れる空気は、依然として険悪なままだ。だがそれは、最初の頃のような憎悪と反発が剥き出しになったものではなくなっていた。

ドウセツ老師が課す、常軌を逸した修行。それを、毎日来る日も来る日も共にこなしていく。血反吐を吐くような苦痛と、疲労困憊の極致。そのあまりにも過酷な日常の共有が、俺たちの間の個人的な感情を、良くも悪くも摩耗させていた。

 

今の俺たちの関係は、「兄弟子と弟弟子」というよりは、同じ地獄の釜で煮込まれている「同類」とでも言うべきものに近かった。

 

その日、俺とガドは道場の中心で、あの地獄の修行…『練』の維持訓練を行っていた。

向かい合って座し、ただひたすらに己のオーラを放出し続ける。

以前は20分で音を上げていた俺も、今ではレベルアップと日々の鍛錬の末、一時間近くはその状態を維持できるようになった。対するガドは、元々のオーラ総量が桁違いなのだろう。俺よりも遥かに強力な『練』を、平然と一時間以上も維持し続けている。

 

だが、その表情は苦悶に満ちていた。

彼のような、常に動いていることで真価を発揮する純粋な強化系にとって、この「静」の修行は、肉体的な苦痛以上に精神的な苦痛が大きいのだった。

 

道場には、二人のオーラがぶつかり合う、ビリビリとした音だけが響く。

その重苦しい沈黙を最初に破ったのは、意外にもガドの方だった。

 

「…おい、ガキ」

低い、唸るような声。

「なんだよ」

俺は、オーラを乱さないように短く答える。

「…お前のその妙な強さ。ありゃあ、一体どういうカラクリなんだ?」

 

その問いに、俺は少しだけ驚いた。

これまで、ガドは俺の能力について一切触れてこなかった。プライドが邪魔をしていたのか、あるいは興味すらなかったのか。

だが、今日の彼は違った。

その声には、純粋な疑問と、そして力の本質を探ろうとする武人のような響きがあった。

 

俺は一瞬考える。

こいつに、俺の能力の秘密を話すべきか?

だが、答えはすぐに出た。

俺の能力には、『開示された天啓(アカシック・レコード)』という制約がある。能力を他者に説明することで、俺は僅かながら恩恵を得られるのだ。

そして何より、今のガドは老師の絶対的な監視下にある。彼が、俺に危害を加えることは万に一つもないだろう。

これは、リスクの少ない絶好の機会だった。

 

「…俺の能力は、『狩人の対価(ハンターズ・リワード)』」

俺は、淡々と説明を始めた。

「敵を倒すと、ポイントが手に入る。そのポイントが一定値に達すると、レベルが上がって俺は強くなる。それだけだ」

転生者であることや大誓約については、もちろん伏せた。話したのは、能力の最も基本的なシステムの部分だけだ。

 

俺の説明を聞いたガドは、しばらくの間、何も言わなかった。

ただ、その目が大きく見開かれていた。

やがて、その口から確信に満ちた言葉が漏れた。

 

「…なるほどな。そりゃあお前、特質系だろ」

 

今度は、俺が驚く番だった。

「…なんで分かった?」

俺が自分の系統を誰かに明かしたのは、ドウセツ老師だけだ。ガドが知るはずもない。

 

「ハッ、決まってんだろ」

ガドは、鼻で笑った。

「そんなゲームみてえに複雑で、理屈に合わねえ強さの能力は、特質系しかありえねえんだよ。強化系はもっと単純だし、変化系や具現化系はもっと分かりやすい『何か』を作り出す。放出も操作も違う。そんな、世界の法則そのものを捻じ曲げるような能力は、特質系の専売特許だ」

 

ガドのあまりにも的確な分析に、俺は言葉を失った。

この男、ただの脳筋の悪党だと思っていた。だが、違う。彼は、多くの念能力者と、それこそ命のやり取りをしてきた本物の実戦家だ。その経験が、俺の能力の本質を一瞬で見抜かせたのだ。

 

「面白い能力だな、お前のそれは」

ガドは続ける。その声には、もはや敵意はなく、純粋な興味の色が浮かんでいた。

「普通、念能力ってのは敵にバラしたら、対策されて終わりだ。だから、みんな必死こいて自分の能力を隠そうとする。だが、お前の能力はバラしても問題ねえ。むしろ、バラした方が厄介だ」

「どういうことだ?」

 

「考えてもみろ。お前の能力は、『強くなる過程』そのものが能力なんだろ? それに、どうやって対策するってんだよ。ねえだろうが。むしろ、敵はお前の能力を知れば知るほど、その異常な成長速度にビビるだけだ。戦うたびに、際限なく強くなるガキ。考えただけで反吐が出るぜ。全くだ、えげつねえ能力だよ」

 

そして、ガドはどこか羨むような目で俺を見た。

「実際、俺たちみてえに何年もかけて血反吐吐いてやるような基礎練習を、ある程度飛び越えてオーラそのものを直接強化できるってのは、正直ずるいぜ? そりゃあ、強くなるわけだ」

 

その言葉は、俺の心に奇妙な感覚を呼び起こした。

「ずるい」。

これまで、俺は自分の能力を、天才たちに抗うための唯一の手段だと考えてきた。

だが、ガドのような正統派の(道は踏み外したが)念能力者から見れば、俺の力はあまりにも異質で、反則的な「チート」のように映るのかもしれない。

 

「…俺も、そこそこ戦闘経験は積んできた。念能力者も、何人か殺った。だが、特質系とまともに戦ったことは無かったな」

ガドは、どこか遠い目をして呟いた。

「へえ…。特質系って、そんなに珍しいのは知ってるけど、そこまでか?」

俺の問いに、ガドは苦々しげに頷いた。

 

「ああ。数が少ないってのもあるが、何より奴らはとにかく、『戦い方が読めねえ』んだ。強化系、変化系、操作系…他の系統の奴らは、大体やることがある程度予測できる。だが、特質系だけは別だ。奴らは、自分だけの自分勝手な『ルール』を戦場に持ち込んでくる。そのルールにハメられたら、もうどうしようもねえ。何が起きるか、分かったもんじゃねえんだよ」

 

ガドの言葉は、実戦経験に裏打ちされた重みがあった。

俺は、自分の能力について改めて考えさせられた。

俺の能力の「ルール」。レベルアップ、スキルツリー、そして制約と誓約。

俺と戦う相手は、否応なくこの「ゲーム」のルールに付き合わされることになるのだ。

 

「まあ、その点、俺たち強化系は分かりやすいぜ」

ガドは、自嘲するように言った。

「俺も強化系だが、良くも悪くも単純な脳筋が多いしな。考えることは、ただ一つ。『いかにして相手をブチのめすか』。それだけだ。小細工はねえ。だから、対策も立てやすい。まあ、その分、対策が通用しねえほどの圧倒的なパワーで押し切るのが、強化系の醍醐味なんだがな」

 

その言葉は、俺が戦った時のガドそのものだった。

「操作系は、また違う。あいつらは、やらしい奴が多いぜ?」

ガドは、心底嫌だという顔で言った。

「奴らは、常に『ワンチャン』を狙ってやがる。何か一つの『条件』を満たせば、それで勝ちみてえな能力が多いんだ。だから、戦ってる時の雰囲気が、もうもろにそういう感じなんだよな。何かを隠してるような、こそこそした粘っこいオーラ。だから、逆に分かりやすい。『ああ、こいつは何かを仕掛けてくるな』ってな」

 

ガドの実践的な念系統講座。

それは、ドウセツ老師が教えてくれるアカデミックな知識とは全く違う、血と硝煙の匂いがする生きた情報だった。

この男は、確かに俺よりも多くの死線を潜り抜けてきたのだ。

 

俺とガドは、その後も『練』の苦しさに喘ぎながら、ポツリポツリと言葉を交わした。

具現化系の能力者が、いかに準備に時間をかけるか。

放出系の能力者が、いかに距離の取り方が上手いか。

変化系の能力者が、いかに気まぐれで予測不能な攻撃を仕掛けてくるか。

それは、もはや敵同士の会話ではなかった。

同じ「念」という力と向き合う、二人の修行者の情報交換だった。

 

やがて、修行開始から一時間が経過した頃。

俺のオーラが限界を迎え、霧散した。

俺は、そのまま道場の床へと倒れ込む。

その数分後、ガドのオーラも力尽きたように消え、彼もまた俺の隣に巨体を投げ出した。

 

二人分の荒い呼吸だけが、静かな道場に響く。

憎しみも反発も、もうどこにもなかった。

ただ、同じ地獄を共有し終えた者同士の、奇妙な一体感だけがそこにはあった。

 

俺は、倒れたまま天井を見上げた。

(…師範がこいつを道場に連れてきた理由、少しだけ分かった気がする)

ドウセツ老師は、俺に武術の師として、念の基礎とその王道を教えてくれる。

だが、ガドは違う。

彼は、俺にこの世界の裏側で繰り広げられる、念能力者たちの、もっと生々しくて、汚くて、そして実践的な「戦い方」を教えてくれる。

俺に足りなかったのは、まさにその視点だったのかもしれない。

 

俺とガド。

俺たちは、まだ仲間じゃない。

だが、敵でもなくなった。

今は、ただ互いを高めるための、最悪で最高の修行相手。

俺は、隣で大の字になって転がっているかつての宿敵の横顔を、初めてただの「同門」として見ていた。

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