俺の【勇者】はどこにいる? 仲間を救うため、魔人の捕虜となった。それから一年。変わり果てた俺を見て泣いた   作:addict@書籍化

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サナリー=グリノールside

私━━━サナリー=グリノールは異端だった。

 

グリノール家は代々僧侶(ヒーラー)を輩出する家系だった。この血筋に生まれた者は皆、例外なく【回復魔法】の才を授かり、人々を癒すことを使命として生きてきた。

 

確かに、私にも【回復魔法】の才はあった。だが、それだけでは終わらなかったのだ。私の魔法にもう一つの性質が混ざっていた。

 

━━━【毒魔法】

 

火・風・水・土・雷。

 

世界を司るとされる五元素を元にした基本魔法。それから、特殊な修行や知識を得ることで発動できる応用魔法。それ以外の前例のない異質な力━━━世界ではそれを【固有魔法】と呼んでいる。

 

固有魔法自体は悪い物ではない。希少であり、珍重されるものであるからだ。

 

ただ、私の家は回復魔法を生業とするグリノール家だった。私の毒魔法は癒しの性質とは真逆、侵すもの。

 

最悪なのは、この魔法が自分の意思で制御できるものではない。例えば、回復魔法を使うと、毒魔法が同時に発動されてしまう。他の五元素にしても同じだった。

 

癒すはずの手には常に死の力を内包するようになってしまった。

 

「疫病神」

「死神」

「一族の恥」

「呪いの女」

 

そう言われるのに、時間はかからなかった。

 

家族には、疫病神のように遠ざけられ、必要最低限の言葉もかけられない。

 

外に出れば、同年代の子供や周囲の大人たちが私の魔法を聞きつけて、囃し立てた。

 

「触ると、毒がうつるぞ!」

「サナリーって死神の子なんだって!」

「お前のせいで、隣の家のノイが体調を崩したんだろ?」

 

身に覚えのないことで責められ、病原菌のように晒される毎日。私はもう疲れてしまった。

 

━━━いっそ、このまま

 

「今日は白か」

 

ふいにスカートの裾がふわりと持ち上がる感覚。

 

「ッ」

 

頬が一瞬で熱くなる。咄嗟に後ろを振り返れば、そこにはニヤケ顔のアイツがしたり顔で私のスカートを捲っていた。

 

「死ね!」

 

「ぐへ!?」

 

私は思わず、全力でアイツの股間を蹴り上げると、情けないうめき断末魔を漏らしながら崩れ落ちる馬鹿男。

 

ボサボサの黒髪を無造作に伸ばしたごく平凡な顔立ちの少年。名前をマイス=ウォント。私の幼馴染……腐れ縁だ。

 

「ま、魔法、使ってないから…い、痛いんだけど……」

 

「ふん。人のスカートを覗いた罰よ」

 

「酷いよぉ……サナリーが暗そうにしてたから、ちょっと、明るくしてやろうと思ったのに……」

 

「もう少しやり方があるでしょう。やり方が……」

 

溜息をつくが、マイスのおかげでさっきまでの鬱屈とした気分が晴れたのは事実だった。少しだけ、ほんの少しだけ心の中で感謝する。

 

マイスは近所に住む幼馴染。特別な家柄でもなく、裕福でも貧しいわけでもない。ただの普通の家庭に生まれ、普通の両親に育てられた少年。

 

けれど、マイスにはそんな普通を覆す固有魔法を持っていた。

 

━━━【状態異常無効】

 

膨大な魔力を消費する代わりに、火傷も、麻痺も、病気も、疲労も、そして、痛みすらも感じない。もちろん、私の毒すらだ。

 

今は魔人との戦争中。喉から手が出るほど、戦闘に活かせる魔法の天才を欲している。そんな時勢ではマイスの固有魔法を欲する人間はいなかった。

 

けれど、【状態異常無効】こそがマイスを【勇者】になるための根幹だった。

 

というのも、マイスは生粋の魔法オタクだった。珍しい魔法を見かければ、目を輝かせて、

 

「俺に使ってくれ!」

 

と飛び込んでくる始末。普通なら、躊躇うような危険な魔法ですら、マイスは平然と身を差し出してわざと攻撃を喰らう。

 

そして、マイスは一度自分の身で受けた魔法を”習得”できるという天才性を持っていた。まさに、好奇心と無敵の肉体に支えられた化け物。

 

ただし、マイスは私の魔法、【毒魔法】は習得できないらしい。理由は分からない。

 

ただ、そのせいで、マイスは事あるごとに無邪気に私に絡んできた。マイスにとって私は面白い玩具なのだろう。

 

デリカシーのない変人。けれど、不思議と嫌いになれない。

 

なぜなら、マイスだけは私の【毒魔法】を気味悪がることも、差別することもなかったからだ。むしろ、興味津々で、まるで宝物でも見るような目で私の力を見ていた。

 

マイスは私にとって唯一、気を許せる存在だった。変人だけど。

 

すると、マイスは訝しそうに私を見た。

 

「なぁ、その傷……大丈夫か?」

 

「え、ええ」

 

……本当は、マイスに気付かれないように、ここへ来る前に治しておきたかったが、そんな余裕はなかった。村の人たちは、私を忌み嫌っているので、時々こうして憂さ晴らしをされることがある。今日は、石を投げられた。

 

皮肉なことに、私自身には毒魔法は効果がないらしい。だから、純粋な回復魔法として自分を癒すことができる。

 

すると、マイスは私の回復魔法を興味深そうに見ながら、呟いた。

 

「相変わらず、凄いよな。サナリーの魔法」

 

「……宝の持ち腐れだけどね」

 

純粋な回復魔法なら、誰にも負けない才能があると自負している。毒魔法がなければという条件付きだけど。

 

「どれだけ回復魔法を極めようとしても━━━」

 

「違う違う。そっちじゃないって」

 

マイスが手をぶんぶん振りながら、否定をする。そして━━━

 

「サナリーの毒魔法。俺は良いもんだと思うけどな」

 

私は眼を見開いた。けれど、すぐに俯いた。

 

「マイスに毒魔法が効かないからでしょ……後は、面白がって実験台にするための」

 

言ってて悲しくなった。

 

そういえば、私の毒魔法をマイスが使えるようになったらどうなるのだろうか。

 

マイスは一度興味を持ったものには誰よりも熱中する。けれど、すぐに習得してしまうから、飽きてしまう。

 

マイスに飽きられたら、私はまた、独りぼっちになってしまう。そんなことを考えて勝手に暗くなってしまった。

 

けれど、そんなことを知らずにマイスは無邪気な笑みを浮かべて、ニヤリと笑った。

 

「最近、面白いことを知ったんだ。毒と薬の違いってなんだか知ってる?」

 

「さぁ……身体に良いか悪いかの違いじゃないの?」

 

「ぶっぶー」

 

当然過ぎる答えだった。けれど、マイスは馬鹿にしたような口調で言う。腹立つな。

 

「違うんだなぁ、これが。毒と薬ってさ、成分が同じなんだってさ」

 

「……そうなの?」

 

「ああ、商人に聞いたんだ。結局は量と使い方。それによっては毒にもなるし、薬にもなる」

 

そんなこと、全く知らなかった。マイスは昔から誰とでも仲良くなって、私の知らない世界の知識を簡単に手に入れてくる。

 

「最初はさ、サナリーに回復魔法なんかに固執してほしくなかったんだ。一緒に冒険者になって、パーティを組んで、魔人を滅ぼして英雄になろう!……そう説得するつもりで、色々ヒントをもらいにいったつもりだったんだけど」

 

「余計なお世話よ……」

 

拗ねたように言ったものの、胸の奥が少しだけ温かくなる。

 

「でもさ、サナリーは自分の力で誰かを助けたいと思ってるんだろ?」

 

「━━━」

 

その言葉に、私は言葉を失った。

 

「だったら、毒魔法を極めて、誰かを助けるための薬を作ろうぜ。サナリーならできるだろ?」

 

夢のようなことを簡単に言う。

 

「で、でも。結局、毒魔法の使い手だってバレたら……」

 

「だから、俺がいるんだろ?」

 

マイスは当然のように笑った。その笑顔は、迷いのない光だった。

 

「いつか二人で一緒に薬屋を経営しよう」

 

「それってッ」

 

頬が熱くなるのを感じた。そんな未来、考えたことなかった。でも、マイスが隣にいるなら……

 

「信じていいの……」

 

「俺はマイス=ウォントだぜ?信じてくれ(・・・・・)

 

不安と期待が入り混じった声で問う私に、マイスは胸を張って答えた。

 

━━━その言葉が、私の心をそっと救ってくれた。

 

やがて、私とマイスは十五歳になった時、レティシンティア王国の最高教育機関、ウィズダム学院へと進学した。

 

私は自分の持つ毒魔法の研究とコントロールのために、マイスは魔人を滅ぼす英雄になるために。

 

結局のところ、毒魔法はコントロールはできるようになったものの、完全に抑えることはできなかった。生まれ持った「毒」は、どう足掻いても消せない運命なのだと、何度も思い知らされた。

 

それでも、私は諦めなかった。

 

模索の果てにたどり着いた答えは「毒」と「回復」の融合だった。

 

回復魔法に、量を抑えた毒を敢えて織り交ぜる。治癒の際に一度人体を壊し、再生機能を限界まで引き出す方法。それによって、回復した後に肉体が強化されるという特典付きだった。

 

この技術は回復魔法にバフをかける革新として認められ、私はようやく自分の存在意義を見出すことができた。

 

ウィズダム学院ではレティシンティア王国の王女と親友になり、【星屑の集い】の仲間の二人と出会った。孤独だった私は、気付けば大切な絆に囲まれていた。

 

夢だった薬屋からは距離が離れてしまった気がしたが、魔王を倒した後に叶えればいい。

 

そう思えるほどに、私は幸せの絶頂にいた。

 

あの日まで━━━

 

私たちは【星屑の集い】、レティシンティア王国の筆頭冒険者パーティでありながら、王女直属の近衛騎士団として魔人討伐に貢献し続けていた。

 

誇り高く、誰よりも強く、そして━━━仲間を信じていた。

 

運命が狂ったのは、王女からの一つの依頼だった。

 

【白龍の森】と呼ばれるほど、白い霧に覆われた森がある。そこで、魔獣が不審な行動をしているので調査依頼が入った。

 

だが、そこで待っていたのは魔人の四天王【灰燼】のガブリエルとその配下千余人。霧でよく見えないが、その禍々しい魔力を私たちは探知していた。

 

魔獣の不審な動きはガブリエルが私たち【星屑の集い】を仕留めるために仕掛けた罠であった。

 

「降伏しろ」

 

黒き鎧に包まれ、頭には威圧的な大角。空気すら焦げるような殺気を放ちながら、ガブリエルは冷たく告げた。

 

私たちは当然、戦う覚悟を決めた。ここが死地となることは本能的に理解していた。けれど、恐れる理由などなかった。

 

だが━━

 

「━━━なぁ、サナリー。ガキの頃にした俺との約束を覚えているか?」

 

不意に前衛のマイスが戦闘態勢を解き、穏やかな声色で私に声をかけてきた。

 

「……急に何よ」

 

「お前は、いつか多くの人を救う薬屋になるよ。絶対に」

 

「ねぇ、何を言って……」

 

胸の奥が嫌な予感で締め付けられる。マイスは優しく微笑み、仲間一人一人に短く声をかけ始めた。その意味を悟った時にはもう遅かった。

 

「降参だ」

 

マイスは静かに、自らの剣と防具を地に捨てた。

 

「俺の命は好きにしろ。ただ、仲間だけは見逃してくれ━━━」

 

「ふざけないで!」

 

震える声でマイスを止めようとした。だが、ガブリエルは嘲笑を浮かべる。ガブリエルの取り巻きたちもだ。

 

「マイス=ウォント……勘違いをするな。我らが欲するのは貴様一人の命ではない。【星屑の集い】全員を、誇りも尊厳も粉々になるまで踏みにじること。そして、いずれはあの王女の絶望した顔を見ることだ」

 

付きつけられたのは、絶望そのものだった。

 

交渉など、最初から成立するはずもなかった。

 

すると、マイスは不敵に笑った。

 

「【灰燼】ガブリエル。俺は頼んでるんじゃない。命じてるんだよ。さっさと俺を連れてけってな」

 

「……何だと?」

 

訝し気にガブリエルがマイスを見ると、魔力がマイスに集中し、瞳に静かに光を帯びた。周囲の魔人たちに緊張が走り、仲間の私たちでさえ、何をしているのか分からなかった。

 

いや、賢者のあの子だけはマイスが何をしようとしているのか理解して、止めようとしたが、もう既に遅かった。

 

「━━━【白剥の呪縛】(ホワイト・チェーン)」

 

轟音すら飲み込むような光が瞬間、世界を塗りつぶす。視界も、気配も、すべてが消え失せ、ただ圧倒的な白の濃霧が支配した。

 

光が収束すると、何もなかったかのように辺りはまた白い霧に包まれた。

 

「……何をした?」

 

異様な雰囲気に包まれ、警戒心を露わにするガブリエル。その声には、僅かに焦燥が滲んでいた。対するマイスは、まるでいつものように飄々と答えた。

 

「何、簡単なことだ。もし、お前らが俺の仲間に危害を加えた瞬間、魔力を封じる魔法を使っただけだよ」

 

「何……?」

 

すると、魔人たちの間で動揺が走る。ガブリエルの褐色の手の甲には白い呪印が浮かび上がっていた。

 

「本当は俺の仲間に手を出したら即死する、みたいな契約を結ばせたかったが、俺の力じゃ、そこまでは無理だった」

 

吐き捨てるように言いながら、マイスの声色には一切の後悔も迷いもなかった。

 

「ま、中途半端になっちまったが俺の仲間には手を出せない。そうだろう?」

 

ガブリエルの鋭い眼光がマイスを射抜く。だが、その視線の裏には確かな警戒があった。

 

「……貴様のその魔法。確かに脅威だ。【白剥の呪縛】(ホワイト・チェーン)……その名に違わぬ縛鎖だ。しかし、そんな禁忌を……ただで、発動できるはずがない」

 

声が低く、重く響く。魔人たち千の視線が一斉にマイスへと突き刺さる。

 

「言え……この規模、この力。何を犠牲にした」

 

「俺の、全魔法」

 

瞬間、誰かの呼吸が止まった。

 

「な、何をしているのよ……!」

 

震える声が漏れる。

 

誰よりも魔法を愛し、魔法に魅せられていたマイスが、自らそのすべてを手放したというのか。

 

信じられない。理解が追い付かない。

 

だが、当の本人は微動だにせず、前だけを見据えたまま背中越しに呟く。

 

すると、マイスは私たちの方を振り返ることなく、言った。

 

「俺の全魔法を差し出せば、お前らを救えるなら━━安いもんだ」

 

静寂を切り裂く決意の声。その声に、胸を締め付けられるような痛みが走った。胸の奥が締め付けられ、呼吸すら忘れてしまった。

 

「……愚かなことを」

 

ガブリエルが吐き捨てるように言葉を返す。その瞳は侮蔑と憐れみが滲んでいた。

 

「貴様、一人が犠牲になったところで結局、レティシンティア王国への侵攻が止まることはない。そして、魔王様が天下を取る未来もな」

 

静かに、しかし確実に絶望を突きつけるその言葉。

 

けれど━━━

 

「だろうな」

 

マイスは否定もしない。ただ、肩をすくめるだけだった。

 

悔しさも、恐怖も、諦めも━━━その背中からは何一つ感じられない。ただ一つの真実だけが淡々と告げられる。

 

「俺はな……驚くほどに民というのに執着がないらしい。そして、国もだ。だけど、【星屑の集い】、仲間だけは何があっても失うわけにいかない……」

 

背を向けたまま呟くその声に、私は思わず膝が崩れそうになった。私たちのために、すべてを捨てたというのか。

 

「……ふん、勇者失格だな」

 

「間違いない」

 

互いに皮肉を交わし、そして、マイスは一度も振り返ることなく歩き出した。

 

「さぁ、問答はこれくらいでいいだろ?さっさと地獄に連れて行けよ」

 

乾いた声でそういうと、マイスは躊躇うことなく、魔人たちの軍勢へと歩みを進めた。その背中はあまりにも無防備で、堂々としていた。

 

魔人たちは容赦なくマイスの両手に魔力封じの手枷を嵌める。その音が響いた瞬間、私の心に冷たい絶望が突き刺さる。

 

━━━もう本当に戻れない

 

そして、魔人たちの周囲に転移門が現れた。空間が歪み、黒い闇が口を開く。その光景を目にした瞬間、胸の奥で張り詰めていた何かが切れた。

 

「待って……」

 

伸ばした手は震え、足は地面に縫い付けられたように動かない。

 

「さよなら。幸せにな」

 

振り返りもせず、マイスはただその一言だけを残した。

 

「待って!!」

 

絶叫が響くが、その瞬間誰もいなくなった。ただ、静寂だけが残り、私たちはその場に立ち尽くす。

 

なぜ死んでもマイスを止めに行かなかったのだろう。一緒に戦って死のうと言えなかったのか。

 

ただ一つ言えることは、残された私は……私たちは、マイスが遺してくれた日常の中で、この日を一生呪うことになる。

 

それから一年後。私たちは再会した。

 

けれど、再会した時のマイスは……もはや人間と呼べる姿ではなかった。

 

「いやあああああああああ!」

 

悲鳴を上げるしかなかった。

 

私の手から放たれた回復魔法が、まるで毒のように身体を蝕んでいく。いや、違う。私の毒魔法はささやかな刺激で、普通なら壊れた細胞を再生させるための導火線に過ぎない。

 

それなのに、マイスの身体はその僅かな毒でさえ、崩れ落ちてしまうほど、脆くなっていた。

 

「そんな……どうして……」

 

肌という肌は裂け、あのボサボサだった黒髪は雪のように白く変色していた。魔術回路は見る影もなく消失し、魔術回路があった場所には、何か得体のしれない異物が巣食っている。

 

四肢があることは救いだが、それでも指は欠損していた。息をしているのが奇跡━━━いや、それすらも仕組まれたものだと分かる。

 

マイスは死ぬことを許されなかった。

 

「酷い……」

 

理解した瞬間、全身の血が引いていく。

 

これは救いなんかじゃない。ただの地獄だった。

 

魔人の拷問の一巻なのだろう。マイスの身体は魔人たちによって弄られ、改造され、死ねない存在へとなり果てた。

 

不老不死━━━そんな言葉では到底、美化できない。

 

これは呪いだ。永遠に死ねず、永遠に痛みに囚われるだけの終わりなき拷問。

 

肉が裂け、骨が砕け、心臓が止まり、死の一撃を受けても、そのたびに無理やり命を繋がれ、痛みだけが永遠に刻まれ続ける。

 

魔人がマイスを使って一生実験するために、遊び半分で改造したのは間違いなかった。

 

「酷い……酷すぎるッ……!」

 

涙が止まらない。

 

私の回復魔法は追いつかないどころか、触れるたびにマイスを苦しめてしまう。だから、私にできることはただ静観するだけだった。

 

そんな苦しい時間が一月ほど経った時、マイスの身体は私の回復魔法に耐えられるくらいには回復した。

 

目を覚ました。

 

私たちは嬉しかった。奇跡だと思った。

 

だけど、すぐに気付いた。

 

そこにいたのはかつてのマイスじゃない。

 

無理やりに作った笑顔でかつてのように会話をしたが、瞳は虚ろで、心はどこか遠くに置き去りにされていた。

 

私の回復魔法は肉体を癒すことはできる。ただ、心は別だ。

 

『ゆうしゃ』なんてものに縋らないと生きていく気力さえ持てない人形。

 

それが今のマイス=ウォントだった。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

声を震わせながら、何度も謝るしかなかった。

 

あの時、私たちに力がもっとあれば、マイスがこんな目に遭うことはなかったのに。

 

後悔は刃のように胸を抉り続ける。

 

それでも、私は、いや、私たちは諦めるわけにはいかない。

 

「絶対に助けるから……貴方を元に戻してあげるから……ッ」

 

命に代えてもマイスを救う。

 

それが私の生きる意味だ。




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