あー、あー、マイクチェック・ワンツー。こちらは異世界放送局です   作:獅子飼い

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1-04:神様気取りの娯楽品

「確か、我がギルドで見た顔だな、クライヴ……とかいう名前だったか? なんの騒ぎだ」

 

「ギ、ギリオン様……」

 

 ライオン男の登場にクライヴと呼ばれた露天商は顔を青くしながら口をパクパクとしている。

 獣人というのだろうか。猫の姿のまま流暢に話すロロさんは例外として、初めて見た人から離れた見た目に気圧される。

 とはいえ、完全に頭はライオンであり、イメージした獣人よりかなりストレートだ。

 

「いえ、なんでもございません! 少し商売の声に熱が入ってしまっただけです!」

 

 頭を下げ、叫ぶクライヴに対してギリオンが顔をしかめる。

 嫌悪感が明らかに顔が出ている。

 

「くさい。嘘の匂いは鼻が曲がりそうだ」

 

「あの、それは……」

 

「見ない衣装の男。後ろにいるのは魔人族か? 何があったか説明しろ」

 

 ギリオンがぎろりとこちらを睨む。

 こわ……

 

 思わず一歩下がりそうになるが、すぐ後ろにシオンが居ることを思い出して踏みとどまる。

 

 どうする、露天商にとっては目上の人間のようだが彼も魔人族に偏見を持っていたら説明したところで面倒なことになるだけでは……?

 ってか、俺商業ギルドと取引しに来たと嘘をついてしまった。その設定は続けるべきか?

 

「この少女が摘んできた薬草が不当な取引で買われたので意見を口にしてました」

 

「おい、あんた!」

 

 クライヴが慌てたように俺に叫ぶ。

 ギリオンの登場で大通りの一帯は沈黙が広がっており、クライヴの声はよく響いた。

 

 よく分からないがこの人はクライヴの嘘を看破した。なら取り繕わず話したほうがまだマシだ。

 

 活気があった商人たちは皆黙り、客たちも顔を伏せて足早に去っていく。

 

「ほう、どれだ」

 

 ギリオンに尋ねられたのでクライヴの後ろにある薬草の山を指し示す。

 

 ギリオンはちらりと見ると、ずかずかと商品を跨ぎ、薬草へと向かう。

 

「シーズリー草、マイラ草、ソウゲツ草。おい、魔人族の小娘。これをどこで取ってきた?」

 

 ギリオンに尋ねられるが当然シオンは解答できない。

 なので、代わって俺が答える。

 

「魔獣の森って場所です」

 

「なんだ、口がないのか貴様……いや、あの黒猫の言っていた奴か……」

 

「ロロさん?」

 

 1人得心が言ったようにギリオンが鼻を鳴らす。

 黒猫とはロロさんの事だろう。

 知り合いなのだろうか。

 

「で、あれば。小娘。セリム動言語が使えるのであろう。それで話せ、多少は理解がある」

 

 そういわれると慌ててシオンは頭を下げて、セリム動言語で自己紹介をする。

 

「……ふん。クライヴ。貴様これをいくらで買い取った」

 

 シオンの自己紹介には返さずにギリオンはクライヴへと身体を向ける。

 ギリオンの身長が高いせいでクライヴは見下ろされる形になっており、もはや大人と子供だ。

 

 嘘もつけないのだろう。クライヴは聞かれるがままだ。

 

「メ……メリテイル銅貨6枚です……」

 

「正当な鑑定か?」

 

「いえ、魔人族であり、言葉も話せないため不当な金額を持ちかけました」

 

「ならばよい」

 

 は?

 ……え、良いってなんだ?

 

 ギリオンが再び商品を跨ぎ、通りへと戻る。

 

「両者の合意が取られているならば正当な取引だ。鑑定の目が腐っているのでないなら文句はない」

 

「な……っ!」

 

『……』

 

「足元を見て、不当に仕入れ値を下げてるだけでしょう! 魔人族であることと、シオンが話せないことをいいことに!」

 

 噛みつくようにギリオンに声を荒げる。

 

 ギリオンは意に介さないようにこちらを見下ろす。

 ライオン顔の表情は読み取れないが無感情に見える。

 

「そんなのは関係がない。何故、小娘の身の上をこちらが気にしないといけない?」

 

「だけど!」

 

「魔人族に対して快く思っていないのもその種族故、仕方のないことだ。受け入れろ」

 

「なっ……」

 

 これをふざけていると思うのは俺が日本出身だからだろうか。

 

 魔人族が何者なのかは分からないが、そこまでされる謂れがシオンにあるのだろうか。

 

 クライヴは胸をなで下ろし余裕を取り戻したようにこちらを見下すように睨んでいる。

 

「我は獣人族だ」

 

 人間ではないのは分かるがやはり獣人族って奴なのか。

 

「この国では名目上は人族以外も受け入れているが獣人族を毛嫌いする人間も多い。

 そのために我は有無も言わせぬ実力を示し、商業ギルドを立ち上げ、今や貴族どもも顔色を窺っている」

 

 ギリオンは値踏みをするように俺の背中にいるシオンを見ると、ため息をつく。

 

「発言力も決定権も有するのは強者だ。文句があるなら力を付けろ。以上だ」

 

「……」

 

 言い返せなかった。

 

 ギリオンに有無も言わせぬ重圧があったのも事実だが、恐らくこの世界には俺もよく分からない認識があるらしい。

 それに意を唱えても、恐らく意味がないだろう。

 

「――では次の話だ」

 

 次?

 

 そういうとギリオンは既に安全圏に居るつもりのクライヴへと向き直る。

 

「クライヴ。貴様、そんな安値で薬草を仕入れていたようだが、ギルドへの報告と違うのではないか?」

 

 首を傾げ、ギリオンがそういえば、クライヴの顔がますます青くなる。

 

「い、いや! それは!」

 

「仕入れ値を虚偽に報告し、不当に売り上げを上げていたことになる。と、なると今までのギルドへの会員費にも問題がある様に思うがどうだ?」

 

「きょ、今日が初めての仕入れで、報告している仕入れに嘘は……」

 

「クライヴ」

 

 ギリオンの表情が険しくなる。

 鼻を鳴らして煙たそうにクライヴを睨んだ。

 

「不当な儲けに対してのギルドからの請求は追って行う。以上だ」

 

 ギリオンはそれだけ言い残し大通りを後にしていく。

 クライヴは茫然自失としている。

 

 売り上げに応じたギルド会員費を虚偽の申告で安くしていたのか?

 請求がどんなものかは分からないが、どうにもこのギリオンって男の不興を買ったことのほうが問題らしい。

 

『……』

 

 シオンが俺のすそを引っ張った。

 

「悪い、余計なことをした……」

 

 素直に謝罪するとシオンは優し気に微笑んで首を横に振った。

 

『感謝』

 

 ただ、それだけを告げて、シオンはクライヴへ頭を下げると、空になった籠を受け取り俺の手を引く。

 

 魔人族とはどういう存在なのだろうか。

 そもそものこの世界での認識が分からないため、うまく声をかけてあげることすら難しい。

 

 俺の手を引いて、喧騒から逃げるようにその場を後にするシオンに俺は無言でついていった。

 

■ ◆ ■ ◆ ■

 

「ソウジ、戻ったね」

 

 取引が終わり、俺はロロさんの店へと戻ってきた。

 ロロさんは俺を待っていたかのように扉の前の机に座っている。

 

 シオンは最終的に手にした銅貨のうち半分を俺に渡そうとしてきたので無理やり握らせて帰らせた。

 恐らく雀の涙ほどのお金を迷いなく俺に渡そうとするシオンには少し呆れてしまう。

 

「その顔はあの子がどういう存在か知ったようだね?」

 

「ロロさん」

 

「――なんだい?」

 

「こうなると分かっていたんですか?」

 

 ロロさんは尻尾をくるりと回し、片目を閉じる。

 

「君を異世界人だと信じた理由で言わなかった最後は、シオンを魔人族だと気付かなかったことだ。

 どの国で生きていようと、紫の髪に黄金の瞳を見れば魔人族の特徴だと分かる」

 

「さっき魔王がどうとか言ってましたよね? 関係ありますか?」

 

「あぁ、大いにあるとも。魔人族は魔王の率いた種族の名だよ。

 人禍戦役と呼ばれる長い争いは人族の大英雄たちによって終結した」

 

 概ね予想していた通りのバックボーンだ。

 むしろ、理解しやすくて苛立ちすら覚える。

 

「人禍戦役は多くの犠牲者を出した。その結果起きたのが魔人族狩りさ。

 シオンと私が出会ったのもその時だ、両親を殺され、自身も死に体のあの子を私はこの国に連れてきた」

 

「なんで、こんな魔人族への偏見も強いこの国に……」

 

 街の人たちが騒ぎを見る目――シオンを見つめる目は刺すようなものだった。

 恐らく全員が魔人族に酷い差別意識を持っている。

 

「違うよ、ソウジ。

 この国は魔国からも離れており、実質的な被害者となった人も少ない。

 そのため、比較的魔人族に対して寛容なのさ」

 

「寛容……あれが寛容ですか!?」

 

「現に魔人族の血が混じっているだけで粛清の対象とする国だって少なくない。生きていけるだけマシだよ」

 

 つまり、根強い戦争での被害が、あの子への差別へ繋がっているのか。

 

「シオンは魔人族の血があるってだけで、何もしてないんですよね」

 

「……そうだね、シオンは人を傷つけるような子ではないだろう」

 

 ロロさんの答えには少し間があった。

 その間に込められた意図は分からないが、言い知れぬ無力感に床を見る。

 

「――あの子が気になるなら声をあげてみるかい? 君の世界ではどうだったか知らないが、それで世界が変わるほど甘くはない」

 

 確かに俺の世界にも偏見や差別はあるかもしれない。

 それを俺は身近で起こる事じゃないので対岸の火事だと思っていたことも事実だ。

 

 だが、自分の目の前で、かつ自分に手を差し伸べた子を前に見て見ぬふりは出来ない。

 

 ロロさんの言う通り、俺が一人で声をあげても意味がない。

 俺にはそんな影響力などありはしない。

 

「いや」

 

 俺の中で小さく燻ぶる何かが生まれる。

 その小さな火を手繰り寄せ、根源を確かめる。

 

 ロロさんが何故、魔人族であるシオンの身の上を俺に実感させたのか、それはロロさんの優しさなのかもしれない。

 俺が変に肩入れする前に彼女の現状を救うことが難しいと伝えたかったのか。

 

 確かにそうだろう。

 

 シオンを見る周りの人の目、言葉から発せられる嫌悪感。

 何より、シオンがそれを受け入れている。

 

 だからシオンは言葉を話せない以上に自由に意思表示が出来ず、基本的に他者と関わる時は俯いて嵐が去るのを待っているのではないのか。

 シオンを害しているのは世間だ。

 世間のすべてがシオンを否定している。

 それは世界が敵対しているようで、個人の力ではどうにもならないのかもしれない。

 

「いや、そうじゃない」

 

 ようやく、自分の中で燻ぶっているものを認識できた。

 それは俺が不自由の象徴として切り捨てていたものだ。

 

 俺は知っている。

 

 俺の世界ではどうかは分からない。

 だが、この世界であれば、世界に対抗出来得る手段を。

 ギリオンも言っていた。発言力も決定権も有するのは強者だ。

 

 ならば、俺がその強者になればシオンの環境を変えられるか?

 

 メディアの影響力は時に大衆全ての意識を神様気取りに操作することが出来る。

 俺がこの世界に連れてこられて、シオンに救われたことに意味を見出すのであれば――

 

「――俺が認識を変えて見せます」

 

 なら、この世界に存在しない最強の発信力を俺が手に入れてやろう。

 

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