あー、あー、マイクチェック・ワンツー。こちらは異世界放送局です   作:獅子飼い

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1-05:服屋“ミス・ミスタブランド”

 エルズイム王国、王都ガリアの4番街。

 正門があり、以前シオンと一緒に露天商を渡り歩いた商業地区といった区画だ。

 そこにはこの世界で一風変わった服と百風変わった店主が出迎える商店がある。

 

「オチくん、これのもう一回り大きなサイズあるかしら?」

 

「はいはい! 少々お待ちください!」

 

 客に呼び止められ、整理の仕事の手を止めてる。

 明るくにこやかに言葉を返し、バタバタと店内を駆け回って客の持っている服の種類を確認する。

 異世界では工場での大量生産などはされていない、ゆえにサイズごとに服が用意されているわけではないので、あくまでサイズ感を注視する。

 少し色合いが鮮やかになるが水色のシャツを手に取った。

 

「こちらなんてどうです?」

 

「あら、サイズは良いけどちょっと若々しくないかしら……」

 

 壮年の女性は少し悩まし気にシャツを受け取る。

 不本意だが、セールストークは得意だ。

 こちとらスポンサーの無茶ぶりで興味のない商品をその道のプロフェッショナルもありなんといった口ぶりで話してきたんだ。

 

「いえいえ、確かに少し鮮やかな色合いですが、上からベーシックカラーである茶色のアウターを羽織って、黒のスカートなどで締めると全体的に落ち着いた感じになりますよ」

 

「そういうものかしら……」

 

「はい、むしろ地味目に落ち着くよりかは華やかな感じがお似合いかと思います」

 

「そうかしら、――じゃあこれにしようかしら!」

 

「ありがとうございます!」

 

 にこやかと笑顔を返し、金貨を受け取る。

 

 すると後ろから別の客から声をかけられる。

 

「ねぇ、この靴、少し大きいのだけれど……」

 

「靴でしたら中敷きを入れることでフィットすると思いますよ? 店長に聞いてみますね?」

 

 服屋“ミス・ミスタブランド”は大盛況だった。

 

■ ◆ ■ ◆ ■

 

 俺の異世界での目標は最強の発信力となり得る予定のラジオ作りとした。

 もちろん元の世界に帰るという考えを捨てているわけではないが、シオンの境遇をどうにかする可能性に気付いた以上、知らんぷりは出来ない。

 

 とはいえ、ラジオ作りにおいて課題となっているのはその製法だ。

 俺も手作りラジオ程度なら作ったことはあるが、俺が作った手作りラジオの素材がそもそも異世界では手に入らない。

 仮にそれが作れたとしてもラジオの発信側の技術については未知数だった。

 

 しかし、ここは魔法が存在する異世界。

 加えて、大英雄のルージェリカ・オランダの使い魔を自称するロロさんもいる。

 ラジオの使い方や考えを説明すれば閃くものがあるらしく、その活動の一環で俺はこの店で臨時のアルバイトをしている。

 

 もとより、異世界での生活する中で働く必要はあったし、願ってもない機会だ。

 こうして俺は日中は服屋で働き、夕方からはロロさんの店の掃除をする慌ただしい日々を続けている。

 

「オチちゃんお疲れぇ。ちょっと店内落ち着いたわねぇ」

 

 来客のラッシュを乗り切り、一息ついたところで店主のミス・ミスタさんが声をかけてくる。

 緑とピンクと青のカラフルな衣服をまとい、赤と黄色の坊主頭のくねくねとした男性だ。

 異世界で見た人間ではライオン頭のギリオン以来の見た目の衝撃だ。

 

「オチちゃんが来てから売り上げも上々でアタシ嬉しいわぁ」

 

「いえいえ、ミスタさんの商品がいいからでしょう」

 

 異世界で暮らす人々の服装は想像から大きく逸脱しないファンタジー色な服……言ってしまえば地味な衣装なのだが、ミスタさんの店で売っているのはこの世界では異質だ。

 服から靴、果てはアクセサリーまで作るミスタさんの商品は少し突飛すぎるものもあるが、デザインセンスは日本でも通用する可能性もあるし、時代が――というより世界が追いついていない。

 とはいえ、異世界では異質なセンスの服は最近じゃあまり売れ行きが良くなかったらしい。

 

「オチちゃんが考えてくれたマネキンも服装をイメージしやすくていいしぃ、何よりオチちゃんのセンスが結構アタシの服に合ってるのよねぇ」

 

「俺も意外な才能を見つけて驚きです」

 

 タレント業をするうえでスタイリストさんから軽くファッションのコツを聞く機会はあった。

 付け焼刃も甚だしいが、残りは持ち前のしゃべりでフォローしていく。

 

「結構お店に来てくれる人たちからも人気あるのよぉ、貴方。アタシの店に永久就職しちゃう? アタシのれん分けしちゃうぅ」

 

「ロロさんには引き抜かれないように釘刺されているんですよ。すみませんね」

 

「あらやだぁ、ロロちゃん抜け目ないわぁ。ロロちゃんとアタシに引っ張りだこだなんて男冥利に尽きるわねぇ」

 

「はは……」

 

 猫とオカマに求められるのは男冥利に尽きるのか甚だ疑問だ。

 

「ま、オチちゃんのおかげで売り上げ上々で、商業ギルドへの会員費は増えちゃうけど、代わりにリピーターも続出! お給金期待してねぇ」

 

 商業ギルドという名前でギリオンの事を思い出す。

 確か、あのギルドは売り上げに応じた会員費を回収しているとのこと、所得税のようなものだ。

 儲かれば儲かるほど出費がかさむわけだが、それだけあのギルドに加入する価値があるのだろう。

 

 実際、俺とロロさんの狙いはそこにあった。

 

「ロロちゃんにお願いされてた依頼は昨日冒険者ギルドに出しといたから、安心してねん」

 

「ありがとうございます。ロロさんに伝えておきます」

 

 ラジオ作りの技術はロロさんに任せるほかない。

 その作成に必要な素材を俺が採りに行くこともできないので、この街にある冒険者ギルドに依頼する必要がある。

 商業ギルド経由で依頼すればさらに安上がりとのこと。

 ということで、ロロさんの知り合いだったミスタさんに代理で素材収集の依頼を出してもらったわけだ。

 

 俺はともかく何故、ロロさんが出せないかといえば……

 

『商業ギルドと冒険者ギルドのギルド長はなんか私のことを嫌っててね。こんなに愛らしいのに』

 

 だそうだ。

 

 居候させてもらっている身ではあるものの、ロロさんは謎が多い人物……猫だ。

 

 そんなことを考えていると店の扉が開かれ、小柄な人影が店へと入ってきた。

 

「いらっしゃいませ!!」

 

 ミスタさんに代わり、にこやかに出迎える。

 どうにもミスタさんのにこやか笑顔は初見だと不気味に映るらしい。

 俺が店にいる間は自然と俺が接客担当となっている。

 

 店に入ってきたのは修道服を着た少女だ。

 黒と白で統一された清廉な服装にウィンプルから覗かせる顔はあどけなさも残る少女だ。

 金色の髪は目元できっちりと切り揃えられ、少し吊り上がった目じりが生真面目さをにおわせる。

 

「……」

 

 少女は俺の接客に少し目を見開いて驚きを見せるが、すぐに鋭い目つきへと戻る。

 

 ぷいっとそっぽを向き、店内を歩き始める少女に肩をすくめてミスタさんのもとへと戻った。

 

「ガリア大聖堂のシスターちゃんねぇ。めずらしいわぁ」

 

「メジウム教って奴ですか?」

 

 俺の問いにミスタさんがにっこりと頷く。

 

 聞くところによれば、メジウム教というのはこのエルズイム王国内の多くが信徒らしい宗教とのこと。

 そのため、かなりの権力を持っており、その発言力は貴族やギリオンに並ぶほどだとか。

 

 まぁ、貴族や一大宗教と肩を並べるギリオンの方が異質ではあるが……

 

 とはいえ、確かにアパレルショップに修道女は若干アンバランスな印象を覚える。

 服を難しい顔で眺める少女もどこか緊張した様子だ。

 

 しかし、今の俺はアパレル店員だ。

 このまま観察しているわけにもいかないだろう。

 俺は大きく息を吸うと、少女へ近づき、接客を開始する。

 

「何かお探しですか?」

 

「ぇ……!?」

 

 なるべく怯えさせないように話しかけたが少女は息を飲むように反応する。

 

「な、なによ……っ!」

 

 続いて威嚇。

 

「いや、このお店結構服の種類が多いから探すの大変かなって、どういう服をお求めかで相談に乗れるかなぁと思いまして」

 

 声色は少し高めて、なるべく優し気に話す。

 普段の声量は要らない、むしろ目の前の人物にしっかり届くように話す。

 

 少女は少し悩むように視線を逸らし、頬を紅潮させる。

 

 背丈はシオンより少しだけ高いくらい、見た目だけなら10代中頃、もっと若い可能性もある。

 そんな子が店員に話しかけられるのは少し緊張するのだろう。

 俺は落ち着いて次の言葉を待つ。

 

「その…………探してて……」

 

「え? すみません、よく聞こえなくて」

 

 俯いた少女からか細い声で何かがつぶやかれた。

 全く聞き取れなかったのでアパレル店員の仮面は外さないように耳を澄ます。

 

 少女は意を決して顔を上げる。

 紅潮した頬のまま、鋭い目つきで俺を見つめてくる。

 

「うるさいわね! 話しかけてこないでよ!(可愛い服を探してるの!)」

 

「なんて!?」

 

 副音声的に聞こえる謎の言葉にアパレル店員の顔を保つことは難しかった。

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