あー、あー、マイクチェック・ワンツー。こちらは異世界放送局です   作:獅子飼い

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1-09:誤った望み

 商業ギルドは王都ガリアの中で行われる商業のすべてを取り仕切り、商業ギルドに所属していない人間はエルズイム王国で商売をすることが容易ではない。と、いうのが評判ではあるが、ギリオンと対話した異国の商人という肩書を振りかざした身からすればすべてが嘘とも言い切れない。

 

 それを証明するかのように商業ギルドは冒険者ギルドと比べても施設内の設備はなんとも高級そうだし、その最奥にあるギルド長の執務室に至っては入るものを委縮させる力は十分にあった。

 ロロさんはそんな俺の横を風のようにするりと抜けて、来客用のソファにちょこんと座る。

 そのふてぶてしさはギリオンを前にしても飄々としたものだ。

 俺も出遅れながらもロロさんの隣へと座った。

 

 そうして役者が揃う。

 

 執務室に居るのは俺とロロさんとギリオンの三人だ。

 久しぶりに会うギリオンは室内で見ることでさらにでかく見える。

 

「久しいね、ギリオン」

 

「猫か」

 

「君も猫じゃないか、ロロさんと呼んでくれないかい?」

 

 ケタケタと笑うロロさんにギリオンはフンと不機嫌そうに腕を組んだ。

 

「貴様、いつまで我がギルドの所有する店舗を不法占拠するつもりだ」

 

「……あれ、不法占拠なんですか?」

 

 絶句した。

 丁寧に看板まで掲げた店は不法占拠らしい。

 

「ソウジ、知らないのかい? 商業ギルドに所属しなければ店舗の経営許可は下りないんだよ

 そして、私は商業ギルドに所属してない」

 

「再三立ち退きを勧告しているのだがな」

 

「意味ない意味ない。私を立ち退かせる実力がある人間などいないのだから」

 

 絶句した。

 この人、普通に犯罪者だ。

 普通に犯罪してる人の家に居候してもらってる事実を最悪のタイミングで知らされる。

 

「小僧は先日大通りを騒がせてた奴だな」

 

「越智 宗次です。人を迷惑人みたいに……確かにあの時は感情的になりましたがそれ以降は大人しく過ごしてますよ」

 

「先日より我と比類する権力を持つことを笠に着て、騒ぎを起こしている奴がいると聞いた。心当たりは?」

 

「ぐっ……」

 

 ないと言えば、ギリオンは嘘の匂いとやらで看破してくるのだろう。

 黙っている事しかできなかった。

 

「まぁいい、それで何の用だ」

 

 興味を無くしたように視線を戻すと、ギリオンは話を本筋に戻す。

 

 開幕のスタートダッシュは不穏だが、俺たちも本題に戻ることにする。

 

 ギリオンの元を訪れた理由は当然ラジオ製作についてだ。

 技術面はロロさんが魔導具としての作成を考えているらしく、試作機作成のための素材はミスタさんから冒険者ギルドへ採取依頼を出した。

 しかし、ラジオは1台2台作ればいいわけじゃない。

 普及させるためにも大量生産が必要になる。

 

 大量にラジオを作成できる権力と財力を持った人間はこの国に1人しかいないらしい。

 

「ギリオンさん、ラジオ製作に力を貸してください」

 

 それが俺たちがこの場を訪れた理由だ。

 

「らじお?」

 

 当然聞きなれない言葉にギリオンは眉を寄せる。

 

「ラジオは放送を送信機となるものを使って声を飛ばし、遠く離れた受信機となるものを使ってその声を流す、それらの魔導具の総称です。

 つまりこれを使えば遠く離れた不特定多数の相手に声を届けることが出来ます」

 

「ほう……」

 

 ギリオンも聞いたことのない魔導具の存在に鬣をいじり感嘆の声を漏らす。

 

「遠距離での対話を可能とする魔法か。未知の技術だ。そんなものが可能なのか?」

 

 それは俺にもよく分かってない。

 なので、この場にはロロさんがいる。

 

「結論から言えば、可能だ。

 送信する側の声を術式に通し、マナへと変換する。そしてそれを出力する魔導具で対を為す術式が刻まれた受信側へと飛ばす。

 それをマナから声へと変換する。人ではなく発せられた言葉のみを術式の対象とする解釈だよ。考えたこともなかったが、モデルケースがあったもので理論上は可能なはずだ」

 

「声をマナに変換など可能か」

 

「魔獣の器官を使う。魔獣の中にはマナを通し、遠方の同類へ危険を伝える種類がある。彼らの器官は鳴き声をマナへと変換する能力がある。ならば術式次第で人間の声もマナへと変えれるさ」

 

 ここら辺は言ってることはさっぱりだ。

 魔力を持たない俺からすれば感覚がつかめない話でもある。

 

 しかし、ロロさんの説明はギリオンを唸らせるほどのものだったようだ。

 

「まだ空論にすぎぬが面白い考えだ。して、大事なのはそこで流す声の内容だ」

 

 話が早い。

 頭が良いのだろう。柔軟にラジオの仕組みを理解している。

 

「そこで俺はラジオ放送を行なおうと思ってます」

 

 思った以上に想定通りに商談は進んでいる。

 

「ラジオ放送とは娯楽の一種であり、その放送内で行われる放送者の話を楽しむことにあります」

 

「続けろ」

 

「イメージとしては夜、暗くなり明かりを使わなければ本も読めない、もしくは1人寂しい市民は、まるで隣にいるかのように軽快な話術を見せる放送者の話に耳を傾けます。

 語られるのは軽い日常の話から、大きな情勢について。場合によっては天気や災害・魔獣に関する危険を伝えることも可能です」

 

 ラジオ放送は娯楽だが、ニュースによる情報発信を有効活用するのはメインだ。

 この世界では田舎にいるものは王都でどんなことが起きているのか知る方法もない。

 危険な魔獣が出る街道に知らずに足を踏み入れる可能性もあるだろう。

 

「それらをラジオを購入した人は無料で楽しむことが出来ます!」

 

「……」

 

 ひとしきり捲し立てると、ギリオンはソファへどっぷりと身体を預ける。

 俺たちから視線を外し、しばし思案しているように見える。

 

「面白い」

 

 よし。

 

「突飛な発想だが、実現できれば我が国での情報戦は1つ上の次元へと到達するな」

 

「軍事……利用ですか?」

 

「戯け、戦が軍事のみと思うな。商業においての経済戦略にすら組み込めるという話だ」

 

 まぁ、通信技術など確立すれば軍事利用されない理由はないが、ギリオンの言いたいのがそこではなかったので安心する。

 

「それで、いくつか気になる部分はあるが、何より我に何を望む?」

 

「私が出来るのは発信機となる魔導具の作成と受信機となる魔導具の試作機の作成だ。

 受信機は先ほど言ったように流通・販売させるための大量の素材とそれを作る人手が必要だ」

 

 ロロさんが答えると、ギリオンは指を一本立てた。

 

「我がギルドへのメリットは?」

 

 これには俺が答える。

 

「ラジオが大衆に広がれば利益が発生します。

 魔導具作成の師事としてロロさんへの報酬が発生した後のラジオの販売利益は商業ギルドのもので良いです」

 

「……ラジオを作り、それがこの国で流通し、利益を発生できる保証はあるまい?」

 

「ないです。なので、そこは先ほどのラジオの有用性を聞いたギリオンさんの商人としての勘に委ねる他ありません」

 

 しばし、考えた後、ギリオンはもう一本指を立てる。

 

「今の話ではラジオ放送とやらをする貴様らはどうやって利益を得る?

 まさか情報発信のラジオ放送は無償でやるわけではあるまい?」

 

 当然そういう話になる。

 ラジオの製作で大きな資金が動く以上、ラジオ制作の利益は商業ギルドが懐に入れるのが道理だ。

 ロロさんはラジオ作成法の師事を行ってもらい、それに見合うお金が入るが、今の話ではラジオを行う側へのメリットがない。

 当然、道楽でやるわけじゃない。

 

 なので――

 

「……ラジオ放送を行う上での維持費は商業ギルドから出資をいただければ」

 

「何?」

 

 これは賭けだ。

 

「ラジオ製作と販売、ラジオ放送とその出資は別の話です。

 ラジオ製作に関してはこちらはアイデアを提供し、販売を行う。

 放送に関しては、ラジオ放送を維持するために出資してもらい、代わりに――商業ギルドの宣伝を行います」

 

 スポンサー契約。

 これがなければラジオ放送は立ち行かない。

 ラジオの販売はともかく、ラジオ放送でお金は発生しない。

 ならば、そこにはお金を出してくれるスポンサーが必要だ。

 

 これはこの世界にはない概念のはずだ。

 

「……続けろ」

 

「ラジオ放送を行う途中途中で商業ギルドの有利になる発信……例えば売りたい商品を宣伝します。

 商業ギルドのメンバーの商品が売れればギルドへの会員費も増え、ギルドも儲かるのでしょう?」

 

 このギルドはあらゆる店舗に絡み、そこから会員費を少しずつ吸い上げているようだ。

 そのため、街が潤えば、ギルドが儲かる。なら、すでに知名度もある商業ギルドがスポンサー契約をするメリットは存在する。

 

「他にも会員募集の宣伝。ラジオが多くに知られれば他国から商人がこの街に来てさらにお金が回る可能性があります」

 

「嘘は……ないか」

 

 当然だ、不安点はあるが、こちらは真摯に協力体制を結ぶつもりでいる。

 騙すつもりも、理由もない。

 強いて言えば、ラジオ放送の真の目的である魔人族の差別意識操作は言っていないだけだ。

 

 とはいえ、おいしい話にも聞こえるかもしれないが、これらはラジオが普及できればの話だ。

 作った結果大して売れなければラジオの製作費に出資と商業ギルドは赤字となる。

 

「条件をいくつか提示しよう」

 

「はい!」

 

 乗ってきた。

 

「ラジオが真に期待に沿うものかは分からない。

 まずはラジオは限定数作成し、そのラジオ放送とやらを我が聞く。その中身で真価を見極める」

 

「構いません。放送の中身は尽力します」

 

「次に、ラジオの製作と販売権を我が商業ギルドが独占しよう」

 

「それは……」

 

 今は良いが、もしギリオンが指先三寸で流通がしなくなる。

 

「構わないよ。その代わり、ラジオの販売金額は基本的に双方同意のものにしよう。私たちはラジオを流通させることが目的だ。流通を絞り、金額を跳ね上げられて貴族だけの道楽になるのはごめんだ。構わないね、ソウジ」

 

「――はい」

 

 確かにそれはごめんだ。

 

「最後だ」

 

 概ね、ギリオンの提示はある程度同意が置けるものだ。

 ロロさんが居てくれたのも助かった。

 

「ラジオの放送内容に関して我がギルドが介入する」

 

「……え?」

 

 何?

 

「貴様は先ほどラジオ放送の途中で我がギルドの宣伝を行うといったがそれでは足りぬ。

 放送内容は我がギルド内で決定し、通達する。それを貴様らが放送を行うがいい」

 

「ダメだ!!」

 

 俺は机をたたきつけてソファから立ち上がる。

 

 ラジオの放送内容にすべて口出しするだと?

 それじゃ元の世界でのあのつまらないラジオ放送と同じだ。

 

「何故だ?」

 

「……せ、政治的な意図が介入した放送は娯楽として毛嫌いされる可能性があります……」

 

「大衆が楽しめる娯楽とはなんだ? 街中を歩き回らずとも商品情報などを受信できる物など大衆は喜ぶと思うぞ」

 

「ですが……」

 

「貴様の目的はなんだ? ラジオ内容が変わろうが、スポンサーとしての出資が変わらなければ貴様の儲けは変わらんだろう。

 それとも、貴様にそういったことを企画出来る才や経験があるのか?」

 

「……くっ!」

 

 ない! 放送作家の経験も企画の経験もない!

 俺はただのラジオパーソナリティだ。

 

「しかし、俺は数多のラジオを聞いてきました。経験値が違います……」

 

 嘘は言っていない。

 仮に異世界人だと明かしてもギリオンには真偽は分かる。

 

「目的はなんだ?」

 

 ギリオンが大きく息をついた。

 

「貴様の目的はなんだ? 何故ラジオとやらをする」

 

「……俺は、魔人族への差別意識を排除するために発信力を手に入れたいのです」

 

 嘘は付けない。

 ギリオンに差別意識がどれほどあるかは分からないが、いつかは伝えることだ。仕方がない。

 

「小僧」

 

 ギリオンの鼻がピクリと動いた。

 

「――嘘だ」

 

「……は? 嘘?」

 

 何が嘘だというのだろう。

 俺はシオンの姿を見て、こんな常識はおかしいと感じて、ラジオの発信力で認識を変えよう……と。

 

「貴様はあの魔人族の小娘の事を考えての行動だと考えているのだろうが、そうではない」

 

「いや、俺は!」

 

「貴様は我にラジオの内容で口出しされるのが、堪らないといった様子だ。

 貴様がやりたい放送をしたい。小娘はついでか?」

 

「違います!」

 

 確かに元いた世界でのラジオ放送は嫌いだったが、それをこの世界でリベンジしたいなど……

 

「じゃあ、何故拒む」

 

「そうだよ。ソウジ」

 

 ロロさんが横から優しい声色で俺に語り掛けた。

 

「発信力を手に入れるのであれば、君自身がやっても、ギリオンが中身を決めても確実性はない。

 なんなら民衆をよく知るギリオンの方がやや軍配が上がるかな?」

 

「……」

 

「ギリオンとは交渉次第で魔人族への意識改革は相談可能だろう。

 ギリオンに放送内容を決められても、その後、ギリオンと交渉して徐々に意識改革を行う方法はあるはずだ。

 君がシオンの事を考えるのであれば介入をそこまで拒む理由は薄い」

 

 ラジオの放送内容に関しては概ねの決定権をギリオンに渡して、プロットを俺が用意する協力形態が好ましい。

 そうした譲歩の姿勢を取るのが正しい対応だったはずだと、ロロさんは言っているのだろう。

 

 ――嫌だ。

 

 譲歩してもいずれ、ギリオンはこちらの意見を無視することが出来る。

 その場合は協力は成り立たない。

 

 ――それが、嫌だ。

 

 シオンの顔が頭に浮かぶ。

 シオンとラジオ放送の権利が俺の中で天秤に置かれる。

 

 当然、天秤はシオンへ……

 

「……お、俺の方がラジオ放送を上手くやれます」

 

「ソウジ……」

 

 ギリオンの顔をキッと睨む。

 そう、大前提はラジオ放送の成功だ。

 それがなければ魔人族への意識改革などできない。

 

 民衆の認識など、俺だって後から学ぶことが出来る。

 この世界の常識だってそうだ。

 

 それを含めればそこに加えて元の世界での経験値がある俺の方が相応しい。

 

 放送作家や番組企画の経験はないが、元の世界で利権を気にすることしかできない奴らよりかは上手くやる。

 

「シオンを助けるためです! 俺がやるのが一番確実だ!」

 

「小僧、自分すら騙せていないぞ」

 

「ラジオの試作機は出来るんですよね、ロロさん!?」

 

「本格的なのは無理だ、そこまで距離も離れず、対象が1台の受信機相手なら私が直接補佐すれば術式も機能するだろう」

 

 ロロさんは俺から視線を外し、落胆したかのように言い捨てる。

 でも今は気にしない。

 

「テストで俺がラジオ放送をします。それを聞いてから決めてください!」

 

「いいだろう、元より貴様にラジオ放送とやらをやる才がなければ話はなかったことになるのだ。聞いてやろう」

 

 そういって、ギリオンは席を立つ。

 話は終わったということだ。

 

 俺は利権に縛られないラジオ放送を作り上げ――

 

 ――シオンを助けるんだ。

 

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