現パロス   作:かゆ、うま2世

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やべえ夢/お姉ちゃん

「ふぁ……」

 

 

あくびを噛み殺しながら、柔らかなベッドの上で目覚める──のも慣れたものだ。今日は少し遅く起きたみたいで、既に隣にアグさんはいなかった

 

 

「おはよう、ねぼすけさん♭」

「……おはよ」

 

 

代わり、と言ってはアレだが、長夜月さんはいつでも僕の隣にいる

 

 

「……あれ」

 

 

体を起こして部屋を見渡せば、見覚えのないものが目に入る。何というか、ゴージャスな、どことなくアグさん味を感じる人形?だ。アグさんの私物だろうか。あの人はデザイナーだし、作った服をあれで試したりするんだろうか

 

 

「幽霊じゃないよ」

「だよね」

 

 

妙に気になって、ベッドから降りてその人形に近付いてみる。……やっぱり、普通の人形じゃない。なんだかファンタジーというかなんというか、そんな感じのものを秘めている気がする───ん?

 

 

「えっ」

「ふふ、動くんだ」

 

 

人形がひとりでに動いて、肩を掴んできた。重々しい感じも、それどころか温度さえ感じないけど、なんか動くし肩掴まれてるから間違いなく人形だ

 

 

「───お久しぶりです、我が主の最愛!」

「おわわわ」

 

 

ぐわんぐわんと人形が僕の身体を前後に揺らす。頭がぐわんぐわんする。どうなってんのこれ

 

 

「申し遅れました。どうかラフトラとお呼びください」

「口ないのにどうやって喋ってんの?」

「それはまぁ、アレです」

 

 

どれだよ

 

 

「何はともあれ──改めて、お久しぶりです、我が主の最愛。皆、あなたにお会いするのを心待ちにしておりました」

「………皆?」

「わ、すごいね」

 

 

がたがたと、クローゼットから音が聞こえる。恐る恐る。何となく展開が予想できるから本当に恐る恐る、クローゼットに目を向けて────

 

 

「お久しぶりです!」「お久しぶりです!」「お久しぶりです!」「お久しぶりです!」「お久しぶりです!」「お久しぶりです!」「お久しぶりです!」「お久しぶりです!」

 

「ぎえー!?」

「どうしたのですかアムール!?」

 

 

クローゼットから氾濫した無数のラフトラが、僕に向かってくる──寸前で、アグさんが寝室に乱入した

 

 

「全員戻るように」

 

 

あれだけいたラフトラ達が、とぼとぼとクローゼットに収監(?)される。アグさんのおかげで助かった。死ぬかと思った

 

 

「申し訳ありません、驚かせてしまいましたね」

「……アグさぁん」

「あら、ふふふ、よしよし」

 

 

流石にびびったので、そのままアグさんに抱き着いてしまった。我ながら情けないとは思うけど、仕方ないのだ……

 

 

「アタシの方には来ないんだ」

「……その、また後で」

「なら、許してあげる」

 

 

 

──────────────────

 

 

 

あれから何だかんだして、朝の散歩に出かけることにした。冬の朝は寒いけど、それでも僕は外に出て、外の空気を吸いたかった

 

 

「ワタシも、連れて行け」

「はあい」

 

 

長夜月さんを連れて外に出てすぐ、何を察知したのかヘレクトラさんが扉を開けて出てきた。色々聞きたい事はあったけど、目が怖かったのでやめることにする

 

 

「どこまで行くんだ?」

「雪遊びした公園までです」

「……少し距離があるな。手を貸せ」

 

 

返事をする前に、ヘレクトラさんの手が動いた。手を繋ぐ──とはいっても、五指が絡んだ……恋人繋ぎってやつじゃないのか、これ

 

 

「随分、仲良しなんだね」

 

 

ふよふよと周囲を漂っている長夜月さんの視線が痛い。なんかやましいことをしてる気分になってきた。いや、別にやましいことはしてないはずなんだけども

 

 

「どうかしたか?」

「いえ、その」

「……手を繋ぐのは嫌だったか?」

「あ、いや。そういうわけじゃ……ないんですけど……」

「なら、このままでいいだろう」

 

 

そのままヘレクトラさんは歩き始める。僕は手を握られたままだ。どうしよう、長夜月さんの視線が痛い。いやでもこれ不可抗力だし……

 

 

「今度、アタシともやろうね」

「はい……」

 

 

所々雪は積もっているが、概ねいい天気である。肌寒くはあるけど、まぁ気にならない程度だし、手も握ってもらってる

特に何を話すでもなく、気づけば公園の近くまで来ていた

 

 

「アムール」

「なんですんむっ」

 

 

不意に、包まれるような感触。抱きしめられた、と気づくのにそう時間はかからなかった

 

 

「すまない、急にしたくなった」

「そ、そうですか。……その、満足、しました?」

「まだだ」

「えぇ……」

 

 

めっちゃ強い力でハグされる。ぐえ、折れそう。ヘレクトラさんは満足してないみたいだけど、でもなんというか……意外と悪い気はしない

ただすっごい恥ずかしいので空でも見て全力で気を紛らわせることにする。青い空、飛ぶ鳥、紫色のドラゴン────

 

 

「はぁ!?」

「どうした」

「ど、ドラゴン!ドラゴン飛んでましたよ今!」

「何?」

 

 

ヘレクトラさんが空を見ても、ドラゴンは既にどこかへ飛び去った後だった。本当になんなんだあのドラゴン。幻覚でも見てしまったのだろうか

 

 

「ドラゴン……というと、チョウチョウウオの………アムール、ひとまず公園に行こうか」

「そもそも抱きしめられたせいで止まったんですけど」

「さぁ、知らないな」

 

 

まぁ、いいか。変な幻覚を見たってことで片付けておこう。ドラゴンなんているわけないしね。よし、公園到着────

 

 

「……アムール?」

「ドラゴンいたじゃないですか!」

 

 

ヘレクトラさんと一緒に姿勢を低くして、植え込みから僅かに頭を出して公園内を見る。いくら目を擦っても、紫色のドラゴンが中央に鎮座している。あれ幻覚じゃない

 

 

「隠れる事はないだろう」

「ありますよ!ドラゴンですよ、ドラゴン!」

「落ち着け。あれはチョウチョウウオ……キャストリスの飼いドラゴンだ」

「キャスさんがアレ飼ってるわけないじゃないですか!そもそも何ですか飼いドラゴンって!」

「大丈夫だから、一旦落ち着け。怖いのなら、ワタシが側に居る」

 

 

何でこんなに冷静なんだこの人。ドラゴンですよドラゴン、あんなのビビるに決まって───あれ、噂をすればってやつだろうか

 

 

「ほら、キャストリスが来たぞ」

「アムール様!セイレンス様も……あの、何故屈んでいらっしゃるのですか……?」

「キャスさんも屈んで!ドラゴンいるから!」

「ドラゴン───あぁ!ここにいたのですね、ボリュクス!」

「え、ボリュクスって」

 

 

キャスさんが、公園のドラゴンに向かって歩いていった。その姿を見たヘレクトラさんが、背中を叩いてくる

 

 

「な?大丈夫だと言ったろう」

「……飼いドラゴンって本当だったんですね」

「行こうか」

 

 

ヘレクトラさんに手を引かれて、ドラゴン……ボリュクスの元へと歩いて行く。近くで見ると……うん、やっぱりドラゴンだ

 

 

「散歩に出掛けていたのですが、途中でどこかへ飛んで行ってしまいまして…」

「散歩????この子を????」

「……?ええ、そうですが…」

「これ僕がおかしいのか…?」

 

 

常識を疑う時が来たのかもしれない。この世界ってドラゴンいたんだな。しかも飼えるんだ、へぇー……

 

 

「……その、どうしてセイレンス様の後ろに?」

「なななななんでもないよ!?」

「まぁ、あまり気にするな」

「は、はぁ」

 

 

飼ってる、というのは嘘ではないようで、ボリュクスはキャスさんに懐いてる様子が見てとれる。普通に頭を撫でてるし、撫でられてるし

 

 

「ボリュクス、あまり遠くに行ってはダメですからね」

「…………」

「…?どうかしましたか?」

 

 

あれ、なんかこっち見てない?ていうか頭近づけてきてないかな!?

 

 

「へへへへヘレクトラさん!」

「落ち着け。何もしてこない」

 

 

ずい、と頭を伸ばして…狙いはヘレクトラさんじゃない、明らかに僕だ。あまりに圧が強すぎる。こんな近くでドラゴン見るの初めてだし、さすがに怖い

 

 

「ひっ」

「アムール様のことが気に入ったようですね。撫でてあげてくださいますか?」

「撫でっ、や、その……」

「ワタシが手を握れば、できるか?」

「そ、それなら…まぁ……」

 

 

ヘレクトラさんに手を握られて、二人でボリュクスの頭に触れてみる。感触は硬い。毛並みなんてものを期待してたわけじゃなかったけど、動物に触ったという体験にしては珍しい触り心地だ

 

 

「わぁ…すごい……」

 

 

撫でてる間は動くことなく撫でられるがままになっていた。へぇ、意外と人懐っこいのかな……?あんまり怖くないかも?触ってる間にヘレクトラさんの手は離れたけど、これなら大丈夫かも

調子に乗って喉の下とか撫でてみたらぐるるって鳴った。やっぱ怖い!

 

 

「やば、やばいです。手握ってくださいぃ……」

「わかったわかった」

「ふふ」

 

 

驚いてばかり、びびってばっかりだったけど、そんな事がありつつも僕らの散歩は無事に終了した。この世界には、僕の知らない事がたくさんあるらしい………

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「はぁ……」

「そんなに黄昏てどうしたの?」

 

 

大きな窓から夕暮れ……と言うには暗い空を眺めながら、僕はため息をひとつつく。特に何をするでもなく、隣に長夜月さんがいるだけ

 

 

「この世界には色んなものがあるんだなあと…」

「ふふ、ちょっと刺激が強かったかな?」

「強かったですねぇ」

 

 

ドラゴンのボリュクス。勝手に動く人形のラフトラ。しかも喋る。……僕が物を知らなさ過ぎるだけで、ああいうのは普通だったりするのだろうか

 

 

「……へぇ、こうなるんだ。ねぇ、空を見てみて」

「へ?」

 

 

長夜月さんの顔から、空へと視線を向け直す───キュレネさんだ。それもでっかい。なんと惑星サイズ。うーん

 

 

「ハーイ、あたしに会いたかった?」

「えっえっえっえっ」

「ふふ、すごいね♭」

「へあ」

 

 

惑星サイズとはいったが、見る限り顔だけでも月を超えるサイズだ。全体で見れば地球よりも遥かに大きいんじゃないのか。何だこれ、何?

 

 

「怖がらないで、もっと触れ合いましょう?」

「うおわーっ!?」

 

 

巨大な指が、宇宙から僕に向けて伸ばされる。逃げようとしても逃げられない、そのまま指が僕に届き──────

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

「あ」

 

 

見慣れた天井。慣れた感触に体温──あれ、ベッドだ。どうなったんだっけ、クローゼットからラフトラが氾濫して、ドラゴンのボリュクスを撫でて、巨大キュレネさんが指を伸ばしてきて───

 

 

「──夢、かぁ」

「ふふ、おもしろい夢だったね」

「あんたは本人かーい」

 

 

夢の中に出てきた長夜月さんは、恐らく本人だろう。今更夢の中に入れますとか言われても驚かないし

それはそれとして……こうなると、やっぱりクローゼットが気になる。もしかして開けるとラフトラが氾濫してきたり…

 

 

「しないよ」

「しないんだ」

 

 

長夜月さんが代わりにクローゼットを開けて確認してくれた。ほっとした気持ちもあれば、何だか少し寂しいような気持ちもある

 

 

「起きたばっかりなのに疲れたなぁ」

 

 

どうやらまだ早朝のようで、アグさんはすぐ隣で寝息を立てて眠っている。起きる気にもなれないし、また眠る、しかないのだけれど

 

 

「せっかくだから、おいで」

 

 

アグさんの反対側に寝転んだ長夜月さんがいつもの笑みを浮かべながら両手を広げて待っている。夢の中での約束を、彼女はしっかり覚えているのだ

 

 

「……長夜月さぁん」

「ふふ、よしよし」

 

 

遠慮も抵抗もなく、長夜月さんの胸に飛び込む。柔らかくていい匂いがして、暖かい

 

 

「目を閉じて。しー………ふふ、おやすみ。何があっても、アンタの事はアタシが守るからね♭」

「はい……」

 

 

長夜月さんに抱かれながら、僕は再び眠りにつく。ああいう夢も悪くないけど、今度は普通に寝られるといいな

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「サフェルさんってお姉ちゃんなんじゃないかと思うんですよ」

「どうちたのいきなり」

「お前はまた…突拍子もないことを言うな」

 

 

アグさんとサフェルさんは二人で買い物に出掛けている。よってこの家にはトリビー先生達と、僕のことを見に来たらしいケリュドラさんだけだ

 

 

「同じアグさんの養子で、そうなったのも僕より早くて、歳も上ですし」

「何だかその通りな気がしてきたぞ…」

「アムールは、お姉さんが欲しいのですか?」

「うーん、そういうわけではないんですけど……なんか、サフェルさんを見てるとお姉ちゃんってこんな感じなのかなーって思うんですよ」

「ふふ、そうですか」

 

 

と微笑むトリノン先生はやっぱり大人びて見える。実際僕に兄弟なんて居たら大変なことになってただろうし、居なくてよかったのだろう

 

 

「だからサフェルさんってお姉ちゃんなんじゃないかと思うんですよ」

「論理の飛躍を感じるが」

「カイザーでもいいんですよ」

「なるほど、見境もないのか」

 

 

余談だが、僕はケリュドラさんのことをカイザーと呼ぶことにした。何だか呼びやすいし、しっくりくるのだ。水族館の時にも思ったけど、何だか随分長い間そう呼び続けたような、そんな感覚のあるあだ名だ

 

 

「一回呼んでみたらどうかちら。きっとすっごく喜ぶわよ」

「呼んでみる……うーん、サフェル姉さん、みたいな?」

「問題はないように思えるが」

 

 

姉さん、姉ちゃん、そこが問題だろう。さんとちゃんには単なる発音の違いだけでは説明しきれない大きな違いがあるのだ

 

 

「……なら、試しに僕を呼んでみろ。どうせ見境もないのだから」

「あー!ずるいぞカイザー!」

「ふん、何のことだか」

 

 

ケリュドラさんから思わぬ提案が飛んできた。確かに一理ある

 

 

「………じゃあ、ケリュドラ姉さん」

「ん"っ」

「んー…ケリュドラ姉ちゃん?お姉ちゃんの方がいいかな……」

「───これは、良いな」

「アムちゃんアムちゃん!ボクもお姉さんだぞ!」

「いやートリアン先生はなんか…ちょっと」

「振られちゃったわね」

「カイザーだけずるーい!」

 

 

ケリュドラさんは満足気だ。アグさんのあだ名の時もそうだったけど、呼び方一つでそんなに喜べるものなのか。どうあれ喜んでもらえるのは嬉しいけど

 

 

「僕は、お前の姉だったのかもしれないな……」

「論理の飛躍を感じます!」

「妹でも構わないが」

「なるほど、見境もないんですね」

 

 

ケリュドラさんがおかしくなった。姉、妹、ケリュドラさん。立場とか関係とか諸々を考えた時に、一番姉っぽいのはサフェルさんだったけど、振る舞いだけを考えるなら………

 

 

「ヘレクトラさんが一番姉っぽいような」

「…………………ほう?」

「あ」

 

 

ケリュドラさんが、めちゃくちゃ怖い顔でこちらを見つめてきていた。蛇に睨まれた蛙の気分だ、いやそれよりひどいか

 

 

「ボ、ボクしーらない」

「あたちも〜」

「アムールさん、頑張ってください」

「ちょっ」

 

 

トリビー先生達にも速攻で見捨てられ、逃げ場がない。さっきまでの和やかな空気はどこへやら、まるでお説教をされる時みたいな雰囲気だ

 

 

「先の言葉は嘘だったと?」

「た、試しにってカイザーが────ケリュドラ姉さんが言ったんじゃ」

「ん"っ…………まぁ、一理あるか」

 

 

あれ意外とちょろいか?これもしかしてずっと言ってれば何とかなるんじゃない?

 

 

「そ、それに姉って一人じゃなくても良いと思いますよ。ケリュドラ姉さんもちゃんと姉っぽいですし」

「ん"んっ───わかった、許そう」

「やったー」

 

 

なんとか許して貰えた。他の三人もほっとした顔をしているし、これで丸く収まっただろう。まぁ、結構楽しいし、飽きるまではこの呼び方を続けるのも良いかもしれない。あぁでもあんまり人に聞かれるのは良くないかもしれないな。特にサフェルさんとか

 

 

「姉さんね〜、面白そうなことしてんじゃん?」

「カイザー、アムールに一体何を吹き込んだのですか?」

「サフェルさん!いや〜これが結構楽しくて…………?」

「金織卿か。中々良いものだぞ、体験してみなければわからな………?」

 

 

あれ、今誰と話してる?うーんと、うーんと………

 

 

「───弟よ、どうにかしろ」

「アグライア姉さん!サフェル姉さん!ヘレクトラ姉さん!キャストリス姉さん!ヒアンシー姉さん!キュレネ姉さん!」

「ん"っ……乱れ打ちですか。私も姉なのですね?」

「に"ゃ……こりゃ確かに悪くないね〜」

「───アナクサゴラス姉さん!」

「アムちゃん、よくわからないことになってるわよ」

 

 

結局、お姉さんブームが続いたのは一週間ぐらいだった

 

主人公の名前いる?

  • いる
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