舞台がオンパロスでなければ、黄金裔達は平和に暮らすことができる…はい、本当にそうですね
てことで主人公の名前はアムールに決定しました!
『クソっ!クソっ!見た、見た!見やがったな!?クソっ、クソクソクソクソ!俺の人生、てめえらみてえなやつのせいで!』
確か───そう、夜だった。眠っていたのに、何か騒がしくて起きてきたんだ。血を流して倒れた母と、赤く染まった包丁を持った父に、子供ながらによくない予感を感じた
『てめえも死ね───っ!』
父が、包丁を手に切りかかって来て───それからは、あまりよく覚えていない。どうやったのかわからないけど、何年経っても手にはあの感覚がこびりついている
包丁を奪って、足を切って、それから首に何度も何度も包丁を振り下ろした。死ぬまで──死んでからも、何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も
振り下ろして、肉を切り裂いて、骨に触れて、それでも止まらなかった。窮地に陥った人間の馬鹿力か、何度も何度も包丁を突き立てて、結局あれは───そうだ、頭を、完全に切り落として────
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「っ───!?は、ぁ…はぁ…はぁ……っ」
あぁ──まただ
正式にここに引き取られて、もうすぐ一週間が経つ。昔の夢を見るようになったのは、ここに住み始めてからだった。僕にとってはもうどうでもいい過去だが、あんなものを何度も何度も見せられれば気が滅入る
「はぁっ、ふ、ぅ──」
汗まみれの身体を起こす。隣にはいつも通り、アグライアさんが寝ている。一人で寝ると言っても許してもらえなかったが、ここ最近の状況を考えると、一人で眠らなくて良かったと心底思う
「……はぁ、何だって今になって…」
殺されかけて、だから殺した。それだけの過去だ。残っているのは記憶と、感触と、傷跡だけ。決してトラウマなんかじゃない。今更夢に見るようなものじゃないんだ
「……ふぅ」
息を整えて、今度はアグライアさんを起こさないようにそっとベッドを抜け出す。このまま何事もなかったかのように眠るのは、流石に無理があるように感じた
「んっ……ふぅ」
水を一杯飲んだ。時計を見れば、時刻はちょうど午前3時。外は当然、まだ暗い
水を飲んで、多少は落ち着いた。とは言え、眠れるかと言われれば微妙なところだ
「……………」
それに、キッチンにいれば、嫌でも包丁が目に入る。普段は気にも留めないけど、あんなものを見た後だ。どうしても連想してしまう
「大きさも……確かこのぐらいだった」
一つ、手に取れば、その大きさは僕の手にちょうど良く収まっている。夢の中では大きかった。こんな事で成長を実感したくはなかったけど
……今考えても、よくもまあこれで首を切り落とせたものだ。今より体も弱いだろうに
「…………」
刃先を指で撫でてみる。少しざらついた感触と、冷たい温度が伝わる。切れ味はまあまあ。肉ぐらいなら簡単に切れそう────
「痛っ」
指先に、ほんの僅かな痛み。ぷっつりと赤い球が浮かび上がっている。ほっといても治る。傷とすら呼べないような小さな傷だ
「何やってるんだろ、馬鹿馬鹿しい」
水で流して、血を拭って、また包丁を戻す。こんな些細な事で感傷的になって、馬鹿みたいだ
もう寝よう。ベッドに戻って、今度こそ眠ろう。アグライアさんが起きていないといいけれど────
「ふぁ……あれ、アムっち?」
「あれ…サフェルさん」
意外な人物の登場と同時に、指先を身体の後ろに隠した。溢れた血は拭った。至近距離で見なければ傷があるなんてわからないだろうから、隠す必要なんてないのに
「奇遇だね、アムっちも起きちゃったんだ」
「あー……まぁ、はい。眠れなくって」
嘘は言っていない。実際今日は寝つきが悪くて、起きて水を飲んできたわけだし。サフェルさんも、あくびを噛み殺しながら僕の隣に立つ
僕より一つ年上らしい彼女は、年齢通り僕より背が高かった。あくびで潤んだ瞳と、寝癖の残った髪では、年上らしい雰囲気は微塵もないが
「寝れそう?」
「ちょっと苦労しそうですね、あんまり眠気もなくて。サフェルさんは?」
「あたしも…ちょっと苦労しそう」
「あらら」
深夜に目覚めてしまえば、もう一度眠るのは難しい。それは僕やサフェルさんに限らず、この家の全員がそうだろう
「ちょっとお話しする?」
「そうですね」
二人でリビングに向かう。深夜のリビングは当然誰もおらず、ただ静寂が広がっていた。電気もつけず、僕らはソファに腰掛ける
「アムっちさ……その……大丈夫?」
「……何がですか?」
「えっと……ほら、顔色…そんなに良くないから」
「あぁ……ちょっと夢見が悪くて」
「怖い夢でも見たの?」
「……まぁ、そんなとこです。でもそんなに気にするほどじゃないですよ」
別に恐怖を感じたわけじゃない。ただふと思い出しただけ。本当にそれだけなんだ。人に細かく言うようなことじゃない
「本当?嘘ついてないよね?」
「何で嘘をつかなきゃいけないんですか」
「……じゃあさ、指に何かあるの?さっき隠したよね?」
「っ」
しまった、と思わず手を後ろに回したが、時すでに遅し。サフェルさんは僕に詰め寄って、僕の腕を掴んできた
「見せて」
「……どうぞ、大したものじゃないですよ」
渋々、隠していた傷を見せた。血は既に止まっている、近くで見なければわからないような傷。まぁ、近くで見られた以上はごまかすのは無理か
「ついさっき切った傷だよね?これ」
「そうですね。包丁触ってたらちょっと」
「何で?」
「……何でって、言われても」
理由は…人に言えるようなことじゃない。包丁を見て、殺しの記憶を思い出して、ちょっと感傷的になった……だなんて、言えるわけがない
「言えないです。言えるような事じゃないので」
「………そっか、大丈夫なんだよね?アムっちは」
「はい。大丈夫ですよ、サフェルさん」
「うん、ならいいや」
傷が小さかったこともあってか、それ以上の追及はされなかった。頭に向かって伸びてくる手を、もう避けることはなくなった。ちょっとむず痒いけど、やっぱり心地よさが勝つ
「あたし、どんな話でも聞くからさ。別に、何でも話してくれていいんだよ」
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。もう終わった事ですから、今更何か思うようなこともないですし」
「本当に?」
「本当です」
サフェルさんの手が頭から離れるのを見届けて、僕は立ち上がった。そろそろ眠くなってきたし、部屋に戻ろうかな
「そろそろ寝る?」
「そうですね。サフェルさんも、あんまり夜更かししちゃだめですよ」
「わかってるって。じゃ、行こっか」
リビングを出て、寝室へと向かっ───うん?
「何でついてくるんです?サフェルさん」
「え?一緒に寝ようと思って」
「……はい?」
「だって怖い夢見たんでしょ?だったらあたしが一緒に寝てあげる。大丈夫、ライアもいるなら一人増えてもそんなに変わんないって」
「わ、ちょ、ちょっと」
「ほらほら、早く寝よ?」
押し込まれて、あれよあれよとベッドに横になった。アグライアさんはまだ寝ていた。こうして挟まれるような体制は、初日以来か
「おやすみ、アムっち」
「あ……はい。おやすみなさい」
アグライアさんの体温と、サフェルさんの匂いに包まれている。何だかんだでこの感覚は嫌いじゃないし、すぐに眠れるだろう
「……」
しかし、今日はそうはならなかった。またあの夢を見てしまわないだろうか。そんな不安が頭をよぎって、中々眠れない。どうでもいい夢だけど、そう何度も見たいものでもない
「……ねぇ」
そんな僕を見かねてなのか、それともただ寝相の問題か。サフェルさんが僕の身体に抱き着いて来た。思わず身体が強ばる
「大丈夫だって。怖い夢を見ても、あたしがいるから。大泣きしてたら皆飛んできてくれるって」
「………泣かないですよ」
季節が冬だとしても、こんなに密着してたら暑いぐらいだった。でも、不思議と悪い気分はしなかった
「大丈夫、大丈夫だよ」
サフェルさんが僕の頭を撫でる。その手つきは、まるで子供をあやすようなものだったけど、それが妙に心地いい
「……?え、わ」
寝ぼけているのだろうか、アグライアさんも、サフェルさんと同じように抱き着いて来た。二人分の暖かさが、僕を包む
「あはは、ライアもアムっちのこと大好きみたい」
「そう、なんですかね……」
「そうだよ。じゃなきゃこんなくっついて寝ないって」
「……まぁ、確かに……そうかもですね」
暑いな、とは思っても、やっぱり嫌な気分はしない。サフェルさんの言う通り、こうして三人で寝るのも悪くないかもしれない
「おやすみ、アムっち」
「……おやすみなさい」
二人の温もりに包まれながら、僕の意識はまどろみの中に落ちていった。悪夢を見ることもなく、その日はぐっすりと眠れたのだった
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目を開けて、まずは美人がいた
「………い、いつからそうしてるんですか?」
「一時間ぐらい前からだよ〜。おはよアムっち」
前には一時間ぐらいずっと僕の寝顔を見つめていたらしいアグライアさん。後ろにはそれを知っているあたり同じく一時間前から見ていたサフェルさん
「おはようございます、アムール。よく眠れましたか?」
「……その、おかげさまで…」
恥ずかしい。あまりにも恥ずかしい。あんな夢を見ないで、ぐっすり眠れたと思ったらこれだ。安らかな眠りも考えものらしい
「え〜?照れてんの?かわいいなぁ」
「揶揄わないでくださいよ……」
頬をつんつん、と突いてくるサフェルさんを払い除ける気にもなれず、されるがままにされる。アグライアさんはそれを微笑ましそうに見ていた
………これに慣れるのは、なんか良くない気がする。距離感がおかしいと前に言ったけれど、そのおかしな距離感に慣れ始めている自分がいるのも、なんか良くない気がする
「……その、近いと思います…」
「今更?一緒に寝たのに?」
「う……」
そう、今更すぎるのだ。とっくに慣れてしまったのもそうだし、こうしてサフェルさんに抱き着かれることに不快感を覚えなくなっているのも。これも全部皆の距離感がおかしいせいだ。僕が変なわけじゃないと自分に言い聞かせた
「……でも、もう起きなきゃですよね」
「んー、そうだね。朝ごはん作らなきゃ」
カーテンから差し込む光を見るに、もう太陽は昇っているだろう。アグライアさんは二度寝を許してくれない。……僕以外には、だけど。
「作るなら、手伝います」
「構いませんが……アムール、今のあなたは包丁を扱えますか?」
「包丁……って、サフェルさん…」
「流石に黙っとくのは無理。ライア相手だと嘘ついても意味ないし」
僕が寝ていて、二人が起きていた一時間ほどの間だろう。昨晩の傷のことを話されていた。別に、構わない。何をするでもなく包丁を持って刃を触っていた、なんて明らかな異常行動だ。マークするに決まってる
「……その、今は、多分大丈夫です。皆が、いてくれたから」
「ならいいんじゃない?あたしも見てるからさ」
「……そうですね。あまり、心配する必要はないかもしれません」
ちょっと感傷的になっただけだ。今はそうなる心配はない。……多分、だけど
「では、改めて───ふふ、おはようございます、アムール」
いつも通りの"挨拶"と共に、アグライアさんはベッドを出て────ん?
「にゃは〜、前から隠してたのはそれかぁ。良いものみーちゃった」
「え、あ……」
やらかした。何回言ってもやめてくれないから諦めてたら、まさかこんな形でサフェルさんにバレるなんて。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい、今すぐ布団を被ってしまいたい
「あたしもしたげよっか?」
「け、結構です……」
「えー。いいじゃん、減るもんじゃないし」
減る。僕の中の何かがゴリゴリに減ってる気がする。でもだからってどうしろと言うのだ。布団に籠もっても引きずり出されるだけだし……逃げ場がない!
「うぅ……」
顔から火が出そうなほど熱い。その羞恥から逃れられるのなら、もう死んだって構わないとさえ思えた。いややっぱり死にたくはないな。こうなると次はトリビーズになるのかな。あぁ最低なこと考えた
「ねぇねぇアムっち」
後ろから呼ばれて、恥ずかしかったけど頑張って振り返っ───
「ちゅっ」
頬だ。額じゃなく、頬に
「!?!?!?!?!?!?」
「あたしのはおはようじゃないよ〜。愛情表現ってことで」
「は、え……?」
混乱したままの僕を見て、サフェルさんはいたずらっぽく笑ってる。何で僕ばっかり照れてるんだ。こういうのってやる側も照れるもんじゃないの?
「それじゃ起きよっか」
「えっこのまま行くんですか!?何事もなかったかのように!?」
あまりに気ままなサフェルさんに、猫の姿を幻視した
主人公の名前いる?
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いる
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いらん