いつも通りの朝だ。どこかで事故が起きたとか、宇宙飛行士が帰ってきたとか、僕らの生活には関わりのないようなニュースが流れては消えていく
いつも通りの朝、であっても僕は年明けを控えた受験生。少しだけいつも通りじゃないイベントもある──そう、進路の話だ
「んー……高校出たら働こうと思ってるので…」
「え?アムっち大学行かないの?」
「流石にそこまで迷惑かけらんないですよ」
アグライアさんにふと尋ねられ、トリビーズとサフェルさんも同席する中、僕は進路について話した。ここに引き取られて人生設計を見直したかと言われれば、別にそうでもない。中学を卒業した後の一人暮らしの予定が丸ごと消し飛んだぐらい
「引き取られた身で大学まで通わせてもらうのは……」
「気にする必要などありませんよ」
「そーだぞ!アムちゃんのやりたいことをすればいいんだ!」
「そう言ってもらえるのはありがたいですけど……」
僕みたいなのにお金を使うぐらいなら、サフェルさんやトリビーズにお金をかけてあげてほしい
「僕よりも、トリビーちゃん達やサフェルさんに使ってあげてください」
「?あたちたち成人してるわよ?」
「あはは、冗談が上手だなあ」
「信じていませんね」
「資格だってあるんだぞ!」
「へぇ、何の資格?」
「機械設計技術者」
「待って話が違う」
ちびっ子の冗談だと思ってたらガチな名前が登場。その辺には明るくないけどそんな簡単に取れるもんじゃないだろ絶対。えっ流石に嘘だよね?
「それだけじゃないわよ!CAD利用技術者に、機械・プラント製図技能検定に……」
「待って」
「持ってきた!全部一級だぞ!」
「待って?」
「まぁ、普段は探偵のお仕事をしているんですが……」
「本当に待って???」
ちびっ子の口から大量に出てくる資格群。流石に嘘だろと思ってたけど、証拠を持っている以上信じざるを得ない。目を白黒させる僕を見て、アグライアさんは微笑みを浮かべ、サフェルさんは腹を抱えながら笑いを堪えて、トリビーズはドヤ顔をしている。凄いのに釈然としない
てかそんだけ色々持ってて探偵ってなんだよ
「ちなみに、師匠は私より年上ですよ」
「はぁ!?」
「ぷっ、くくっ……更にね、『黄金裔♡ファミリー』の中でも一番年上」
「はぁ!?!?!?」
情報量に脳の処理が追いつかない。僕の今の気持ちを表すなら、ただただ「は?」って感じだ。いやそれしか言えないからそうとしか言えないんだけども……えっ本当に?あのちびっ子が一番年上……?
「僕末っ子!?」
「末っ子だね」
「末っ子ですね」
「末っ子だな!」
「末っ子よ!」
「末っ子ですね……」
サフェルさん、アグライアさん、トリビーズの順に答えが返ってきて、僕の末っ子が確定した。何かがおかしい。随分と立派な幼稚園児だと思ってたら、実は僕よりも年上だったとか……僕は何を信じれば良いんだ…
「……ですので、あなたが気にする事は何もありません。あなたは、あなたのやりたいように生きればそれで良いのです。その道には、私達が寄り添いますから」
「ていうか!あたしアムっちと一緒に学校行く気満々だったんだけど〜?」
「学校…サフェルさんと……」
年が違うから一緒のクラスとかは無理だけど……それでも、すごく楽しそうだ。きっと、この前会いに来てくれたヒアンシーさんやキャストリスさんもいるだろうし
「……じゃあ、その、甘えさせてもらっても、いいですか?」
「ふふ、もちろんですよ」
進路、やりたいこと……まだよくわからないけど、それはおいおい決めていけば良い。やりたいことを決めた時に、助けてくれる人がいて、それに甘えると決めたんだ
今は、とりあえずそれで充分
──────────────────
学校から帰ってきても、一人な事はまあまあある
トリビーズとアグライアさんは仕事。サフェルさんはまだ学校。夕飯でも作ろうかとは思いつつ、実行するにはまだ早いのでとりあえずテレビを見ている
内容は、昨日も見た宇宙飛行士が地球に帰ってきたとか言う話。こういうのって記者会見とかするものだと思うけど、今回はどうやら違うらしい。何でも「優先すべきことがある」とか何とか
珍しいこともあるんだなぁ、なんて思いながらテレビを眺めていると、インターホンが鳴らされた。サフェルさんかな、と思いつつ「はーい」と返事をして扉を開ける
「………ええっ、と?」
ドアを開けてみれば、そこにいたのはサフェルさんではなく、ヒアンシーさんと同じぐらいの背丈の少女───いや、待った。この顔には覚えがある。それもついさっき
「ケリュドラさん、ですよね?宇宙飛行士の……」
「優先すべきことがある」と言って、地球に帰還後全てを無視してどこかに行った宇宙飛行士とは彼女のことだ
何故彼女がここに……いや、『黄金裔♡ファミリー』にメッセージを送った事は何度かあったが、いつも既読の数がメンバー数と合わなかった。最後の一人が彼女だとするなら…辻褄が合う
「っ……………」
ケリュドラさんは僕をじっと見つめている。睨んでるわけではないと思う…どちらかと言えば、探していたものを見つけたような、そんな感じの……感動?
「ど、どうしたんですか?」
「…………」
何故何も喋らないのか。何かやらかしてしまったのだろうかと不安になるが、そもそも彼女について知っていることは少ない。困るしかできなかった
「…………」
ドアの内側へと入り、ケリュドラさんは僕の目の前に立つ。小さな身体だけど、何とも言えない圧が感じられる
「……っ、あの……」
「……屈め」
「え?」
「二度は言わない」
「は、はい……」
高圧的な言い方だ。でも不思議と反発心は湧いてこない……いやちょっとあるけどそれよりも恐れの方が勝ってる。言われたままに少し屈むと、ケリュドラさんが更に一歩前に出て───
「……?ケリュドラさん……?」
僕を、抱きしめた。それも力一杯に。離さないとでも言わんばかりに抱きついている
「あの……えっと……」
「……」
「な、何か言ってくださいよ……」
本当に何なんだこの状況は?どうして僕は初対面の女の子に抱きつかれてるんだ?いや確かに可愛いしいい匂いだし柔らかいけども。ちょっと痛いぐらいだけど
「……あ」
ふと、ケリュドラさんの腕が緩んだのでその隙に離れる。そして改めて彼女を見ると、すっごい穏やかな瞳と目が合った
「───よく、戻った」
戻ってきたのはあなたの方では?と僕は思った
「お、お茶淹れてきますね……!」
「不要だ、ここにいろ」
「で、でも」
「ここに、いろ」
「は、はぁい……」
あれよあれよとリビングに引きずられ、ソファに座ったケリュドラさんの隣に座らされる。何か言われるでもなく、本当にただ座っているだけ。困った……
「……」
「……?」
じーっとこっちを見ている……気がする。何だろうか、何かしたかな僕。心当たりはないけども
「博愛きょ………アムール」
「は、はい!何でしょう!」
「緊張しすぎだ、楽にしてくれ」
「無理っす」
緊張するな?無理だが?この状況で緊張しないやつがいたらそいつは人間じゃない
「その……何か用があったんですか?アグライアさんなら、まだ帰るまでは時間が…」
「違う。僕はお前に会いにきたんだ」
「あ、そすか…」
何だか、ヘレクトラさんとの出会いを思い出す。感覚としてはあの時に似ている
「…………」
「…………」
じっ…………と僕の顔を見つめ続けている。わからんわからん。こわいこわいこわい。さっきから一回でも瞬きしたかこの人?してないよな絶対
何なんだこの人。何で僕がこんな思いをしなきゃならないのか───対抗だ。見つめられたなら見つめ返してやるしかない!
「カイザー、戻っていたの───何をやっているんだ…?」
「ヘレクトラさん!」
我らが救世主の登場だ。とりあえずヘレクトラさんのそばに行きたい。なんなら抱きつきたい。とにかく何かしらの安心を得たい。ガン見対決とか勝てるわけなかった
「ヘレクトラさ……ん…………」
しかし現実は残酷である。立ち上がる素振りを見せた瞬間、ケリュドラさんの手が僕の腕を掴んだ。僕がヘレクトラさんの元へ行くのを完全に阻止する行動──しかし、当然相手の方からこちらに来ることもある
「………カイザー、手を離せ」
「断る」
「はぁ、全く…」
ケリュドラさんの言葉にヘレクトラさんは呆れてため息を吐いた。すぐ隣に座ってくれたからだいぶ安心感がある。心臓のバクバクも落ち着いてきた
「アムールが怖がっているだろう…」
「怖がる?アムールが?僕を?あり得ないな」
「意外とあり得ないことないかも…」
「何か言ったか?」
「何でもないです!」
「アムール……」
可哀想なものを見るようなヘレクトラさんの視線が痛い。この圧には勝てなかった。許してほしい
「カイザー、いきなり尋ねて何も言わずに見つめ続けるのは良くない。それはこの子も怯える。すまないアムール、怖がるなとは言わないが…少しだけ我慢してくれないか」
「まぁ…ちょっとびっくりしただけなんで」
「そうか……いい子だ。頭を撫でてやろう」
ヘレクトラさんは優しいなぁ、と思うと同時に安心できる場所であることを再認識した。とりあえずずっとこのままでいたい
「む……なら僕も撫でる」
「んえっ!?」
優しく頭を撫でられる心地よさに浸っていたのも束の間、ヘレクトラさんの反対方向から手が伸びてきた。ケリュドラさんだ。その小さな手で僕の頭を撫でている
「………お前に会ったら、何を話そうか考えていた。だが──金織卿からお前のことを聞いた」
「カイザー」
頭を撫でながら、ケリュドラさんは話し始める。それをヘレクトラさんが咎めるように呼んだが、彼女はそれを無視して続けた
「父を殺したようだな、アムール」
「───カイザー!」
「えぇ……?この流れでその話するんですか…?いやまぁ、はい。しましたけど」
ヘレクトラさんがまた咎めるが、僕は特に気にすることなく答えた。ケリュドラさんの言葉にも、怒りや悲しみといったものは一切感じない。ただ事実確認をしてるだけだ
「ヘレクトラさんも、別に気にしなくて良いですよ。もうどうでも良い、終わったことですから」
「アムール……まぁ、キミがそうなら、ワタシも気にしないが……」
「そうか、お前の中ではそういう認識なのか」
驚いたような、納得したような……そんな様子を見せるケリュドラさん。そして、彼女は言葉を続けた
「トラウマになっていないか知りたかったんだ。金織卿や駿足卿は踏み込まないだろうからな」
「トラウマ、ですか。うーん……まぁ確かに、人を殺すのは悪いことだって認識でしたけど……今は特に何も」
「……そうか、ならいい。こうしてお前は、僕の元に戻ってきたわけだからな」
ケリュドラさんは僕の答えを聞いて安心したのか微笑んだ。その笑顔は見た目相応で可愛らしいものだった
「……改めて、キミを見つけることができて幸運だった」
「もう少し早く見つけられれば良かったが……まぁ、良い」
二人して、ずっと僕の頭を撫でている。……戻った。戻った───何だ、戻ったって。ヘレクトラさんも、他の皆も、何故か僕のことを知っているような口ぶりだった。記憶が確かならすれ違ったことすら無いというのに
皆、僕の知らない僕を知っている。その正体は何だ──と言われても、今の情報で判断するなら前世とかのオカルトを信じるしか無い
どういうことなのか……と考えているうちに、玄関が開く音が聞こえた
『ただいまアムっち〜。おかえりのキスはしてくれないの〜?』
玄関で叫んだのか、ドア越しにそんな声が聞こえてきた。全くの嘘だ。そんなことしたことない
「アムっち〜?寝てん…の…………」
そうしてサフェルさんはリビングに辿り着く。靴は置いてあったはずなのに何故迂闊な行動をしてしまったのか。片側のやばい気配の矛先は明らかにサフェルさんだけには留まらないだろうに
「え…カイザー!?何でここに!?」
「駿足卿、話を聞こうか」
「……アムール、ワタシの側を離れるなよ」
「はぁ…わかりました……」
やばい状況のはずなのに、そこまで焦りを感じない。それどころか少し安心感があるくらいだ
こんな風にあれやこれやと騒がしいのは、普通のことのはずなのに──それが、何故だか彼女達にとってはあり得ないことのようにも思えてくる
「ちょちょっ──!アムっちも何とか言ってよ!」
「僕がいない間に、僕のアムールに何をした?法の権能は消えようとも、僕は何も変わらないぞ…!」
「あわわわ……サフェルさんが…」
「キミに非はない。ネコザメは……まぁ、自業自得だろう」
「そんなぁ……」
サフェルさんの行く末は……まぁ、そんなに悪くはならないだろう。多分
「……ふふっ」
怯え、怒り、呆れ。その中にも確かな喜びを滲ませている皆の姿に、僕も思わず笑みがこぼれた
主人公の名前いる?
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いる
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いらん