16歳→サフェル
15歳→アムール、ファイノン、モーディス、キュレネ、キャストリス、ヒアンシー
なんと、雪が降った
それも結構な大吹雪。年明け前にここまでの雪が降るのは最近だと珍しいことで、皆仕事も学校も休み。少し前に出した炬燵に群がって、皆でぬくぬくと過ごしている
「サフェルさん、寒くないですか?」
「おかげさまで…」
三人固まって炬燵を布団にすやすや眠っているトリビー先生達と似て、サフェルさんは僕の膝でぬくぬくと暖をとっている。炬燵を布団にしているのは同じだ。猫は炬燵で丸くなる、と言うけれど、こうして見るとサフェルさんはまんま猫だ
「セファリア、あまりアムールに迷惑をかけては……」
「こんぐらい全然大丈夫ですよ」
「そうそう、こんぐらいだいじょぶだって〜…」
すりすりと、膝に頬を擦り付けてくるサフェルさん。こっちを向く時の顔はいつも変わらないけれど、眠そうというか、ちょっと気を抜いている顔だ
「ん〜………すんすん…アムっちはいい匂いするよね〜」
「ありがとう、ございます……?」
褒められているのだろうか。それにしては言われ慣れない言葉だったけれど……まぁ、悪い気はしないし良しとしよう
とは言え、そんなに匂いを嗅がれると少し恥ずかしい。信頼してくれているのだろうけど、こんな美人に膝に乗られると、どうしてもそわそわする
「ん〜…アムっち……あったか〜い……」
「僕じゃなくて炬燵が暖かいのでは……」
「アムっちがあったかいんだよ……ふわぁ……」
あくびまでし始めてしまった。いよいよ僕の膝で眠りそうな勢いだ。そりゃあこのぐらいどうってことないが、やっぱりすごいドキドキする
「セファリアは正しいですよ。あなたは本当に暖かいですから」
「……毎日一緒に寝てる理由それだったりします?」
「たとえ熱帯夜であろうと、私があなたを離すことはありませんよ」
じっとりとした、執着のようなものすら感じる視線。向けられていて心地の良い、愛とは恐らくこういうものなのだろうと、感じられる視線。彼女らしいといえば彼女らしい
「今はあたしと寝てるからね………」
「と、というよりもが、な気がしますけど……」
眠りに落ちる寸前の、蕩けた声でサフェルさんが言う。僕は眠くはないので、こうして枕として仕事を果たすだけだ
「眠いなら、このまま寝ても良いですよ」
「んー……ありがと……」
自分の頭の重みを僕に任せ、サフェルさんの瞼が閉じ始める。それに抗うこともせず、やがて完全に閉じ────
──ピンポーン
「………お化け?」
「雪女、でしょうか…」
「雪犯罪者かもしれませんよ」
この大吹雪の中、まさかまさかの来訪者だ。寝かけていたサフェルさんの目も完全に開いちゃったし、これは……
「僕が出ます」
「いえ、ここは私が…」
「なんかあったらぶん殴るんで大丈夫ですよ」
サフェルさんには少し悪いけど、膝の上から頭を退けてもらい、玄関へと歩き出す。リビングを抜ければ、そこはもう別世界だ。温度が全然違う──寒い
「誰かな………」
ドアスコープに片目を当て、来訪者を確認する。綺麗な長い黒髪に、特徴的な貝殻の髪飾り、あとはすっごい美人が、雪の吹き込む通路の中立っていて────
「───雪ヘレクトラさんだ!」
「雪ヘレクトラ?」
すぐさまドアを開けて、外に立ってるヘレクトラさんを中に引きずりこんだ。隣室からここまで、そう長い時間外にはいなかっただろうに、もう頭には少し雪が積もっていた
「む…あぁ、助かる」
「何だってこんな日に…?」
頭や服についた雪を手で払えばすぐに落ち、改めて彼女を見れば、鼻も耳も赤かった。どうも寒い中長い間過ごしたような、そんな雰囲気だ
「まぁいいや。取り敢えず中入って……や、これだと風呂に入れた方が良いかな……」
「そうか。なら一緒にどうだ?」
「はい?」
「……ダメに決まっているでしょう」
「アグさん!」
しれっとアグさんも登場だ。危ない危ない。あんな風に言い出したヘレクトラさん相手だと普通に風呂まで連れ込まれる可能性があった
「アムールは戻っていてください。ここからは私が」
「はぁい」
「む……まぁいい」
ヘレクトラさんは少し名残惜しそうにしながらも、素直にアグさんに連行されて行った
そうして僕はリビングに戻り、再びサフェルさんの頭を膝に乗せ、何をするでもなく二人の帰りを待った結果────
「ん、ぅ……暖流を泳いでいるようだ…ふふ、キミは暖かいな…」
「何で?」
膝上のサフェルさん。隣に座って僕に身を寄せるヘレクトラさん。それをどこか不満げに見つめるアグさん。何だこの状況
眠気が吹っ飛んだはずのサフェルさんは何故か膝の上から退かないし、ヘレクトラさんは何故か僕の手を取り、五指を絡めて握っている。アグさんは僕の反対側に座って、こちらをずっと見つめている
「……取り敢えず一旦離れません?」
「ヤダ」
「断る」
「あ、そすか……じゃあいっか!」
そういうことなら諦めるしか無い。僕も暖かい…というより暑いぐらいだけど、外はこんなに寒いんだからこれぐらいでちょうどいいのかもしれない
「それで、ヘレクトラさんは何があったんですか?」
「あぁ、ワタシの部屋は寒くてな。少しは耐えていたんだが…限界を迎える前に避難したんだ」
「炬燵とかは?」
「壊れた」
「エアコンは?」
「壊れた」
「今度トリビー先生を送りますね!」
やっぱり大寒波はつらい。そんな状況で暖房器具全滅とは可哀想に
「それまでに何かなかったのですか…?予兆などは…」
「壊れたとしても、キミ達が助けてくれるだろう?」
「はぁ……………」
アグさんには珍しい、でっかいため息だ。でもなんか慣れを感じる。似たようなこと前にもあったのかな
ていうか話してる途中もずっと手をにぎにぎしてくるから落ち着かない。それを見てるサフェルさんの視線もどんどん鋭くなって……い、居心地が悪い…
「まぁ、凍える前に来てくれてよかったです。寒くないですか?」
「あぁ、キミが暖かいからな」
「そうですか。ならそろそろ手離しません?」
「断る」
「そすか…」
離れるどころか、さらに強く体を寄せてきたように感じる。それに対抗するようにサフェルさんも腕を僕の背中側に回してくる。あ、暑い…
「アムっち顔赤くない?照れてんの?」
「くっつかれてるから暑いんです」
「ふーん……」
またじーっとサフェルさんに見られる。それに呼応するようにヘレクトラさんも僕に体重をかけて、更にアグさんの眼光も鋭くなって────
「だー!暑いんで離れてください!炬燵出ます!」
「あ」
「あぁ…」
二人を振り払って炬燵から脱出。炬燵から出て人から離れただけでもだいぶマシになった。そして振り返ると、少し残念そうにしているサフェルさんとヘレクトラさん。若干心が痛んだが、あのまま熱中症になるよりはマシだ
「アムール」
アグさんが僕に手招きした。素直にそれに従って近づくと、ぽんぽんと自分の膝を叩いている
「……………」
不思議な誘惑に抗えず、アグさんの膝の上に頭を乗せる。当然炬燵には入らないまま。温度のある、不思議な柔らかさだ
「アムっち〜?」
「セファリア、私の膝がありますよ」
「う……しょうがないから我慢したげる」
炬燵の中から現れたサフェルさんのことも、アグさんは難なくキャッチして膝に乗せている。やっぱりこの二人は仲良しだ
「アムール…アムール………」
炬燵は出ないままに、ゆらゆらとこちらへ寄ってくるのはヘレクトラさん。そんなに僕の名前呼んでるとちょっと怖いけど、近くまで寄ってやることは僕の頭を撫でるだけだった。さっきみたいに暑くはないどころか、身体の末端はまだ少し温度が低いようで
「すまなかったな。暑くはないか?」
「さっきよりは…」
「そうか」
手持ち無沙汰を慰める為か、僕の髪の毛で少し遊んでいる。表情が穏やかなのでまぁ良しとして……あぁ、サフェルさんの気持ちが少しわかった気がする
「ふぁ………あ、ごめんなさい」
「ふふ……眠たいのなら、眠っても構いませんよ」
膝に頭を乗せてすぐ、強い眠気が襲ってくる。頭を撫でられるのも、膝の温もりも、全てが心地良い。それに抗えるほど僕は強い人間じゃない
「………なら、甘えて…おきて、ます…」
「はい。おやすみなさい」
段々と瞼が閉じていく。頭を撫でてくれる優しい手つきと、賑やかだった皆の声も遠くなっていった
──────────────────
そんな大吹雪の日を乗り越えて翌日。当然雪は積もり、街は一面銀世界だ。そして今、僕は───僕たちは公園にいる
「どうした、お前の力はそんなものか!」
「ははっ、まだまだこれからさ!」
銀髪と金髪の、同い年のはずなのにやたらと筋骨隆々な男たちが、まさかの雪合戦をしているのだ。銀髪はファイノンくん。金髪はモーディスくん。大きいから一見怖いけど、その実とっても優しい二人だ
「ふふっ、男の子って本当に元気よね。それで言うと、あなたもあれぐらい元気な方が健全だと思うのだけれど…?」
「アグさんに編んでもらった服汚したくないんだ。雪合戦するってわかってたら別の服着てきた」
僕の隣で彼らの雪合戦を眺めているのは、桃色の髪のキュレネさん。キャストリスさんぐらいの身長で、これまた同い年なのだが、大人っぽさと少女っぽさが同時に存在していて何だか不思議な感じがする人だ
「まぁ、アグライアが編んでるの?」
「うん。気づいたら色々作って持ってきてくれて………流石というか、どれも出来が滅茶苦茶良くて…」
「確かに、それを着て雪合戦はできないわね」
「あ、でも雪だるまぐらいなら作れるよ」
「なら一緒に作りましょうか」
「うん」
どんなに大きな雪だるまも、小さな塊から始まるものだ。その過程を彼女たちと一緒に過ごしていけることが、何だか嬉しく感じられる
「丸めて、転がして……あはは、冷たいね!」
「そういえば、手袋はしてこなかったの?冷えちゃうわよ?」
「持ってなくてさ。アグさんが今作ってるらしいんだけど」
「あら……ならあたしのを使う?」
「流石に悪いよ。我慢できるから大丈夫」
「そう………」
手袋を外そうとしたキュレネさんを止めて、ころころと雪玉を転がしていく。雪だるまを作ったのは……いや、そもそも雪で遊ぶのなんて久しぶりだ。長らく冷たくて邪魔なだけの存在だったから───うん、やっぱり、楽しい
「ふふ、楽しんでもらえてるみたいで良かったわ」
「あ、やっぱりわかる?なんかこう、童心に返ったというか。いや子供なんだけども」
そんな思いも、キュレネさんにはお見通しだったらしい。ちょっとした気恥ずかしさも覚えるけど、それすら心地良い
大きくなってきた雪玉を二人で押して、大きく大きく、それはもう大きく……とやっているうちに、流石に手が悴んできてしまった
「アムール?やっぱりあたしの手袋を貸すわよ?」
「や、大丈夫だよ」
「………もう!」
「え?」
少し怒ったような声と一緒に、キュレネさんは僕の手を掴んで、なんとそのまま袖の中に突っ込んだ
「何してんの!?」
「暖かいでしょう?あたしの手袋も使ってないし、これならいいわよね?」
「ま、まぁそうだけど……」
インナーがある分素肌には触れていないが、それでも直に体温が伝わる距離だ。前々から思ってはいたが、キュレネさんは自己肯定感が高くて距離が近いからかなりグイグイ来る
「冷たいでしょ」
「冷たいけれど、あなたを暖められている証拠よ」
微笑みがあまりに眩しい。ちょっといい人すぎて、その眩しさに耐えきれない。すっごいキラキラしてて直視できない………あれ?
「アムール!」
「あれって……セイレンスよね?」
「うん、ヘレクトラさん…」
思わず目を背けて、視線が公園の入り口に向いた。そこには何とヘレクトラさん。高そうなコートを羽織って、手を振りながらこちらに歩いてきている
「ヘレクトラさんも遊びに来たのかな」
「あなたの様子を見に来たのかもしれないわよ?」
白い息を吐きながら、ゆっくりとこっちに歩いてきて───いる途中に、その頭に雪玉が直撃した
『あ』
一瞬でヘレクトラさんの顔から表情が抜け落ちて、その視線の先には雪玉を投げた姿勢のまま固まっているファイノンくん。近くで同じく固まっているモーディスくんとファイノンくん二人の元まで、ヘレクトラさんが歩き始めて─────
「つ、強すぎる……」
「HKS…何故俺まで………」
「ふん、騒々しい小魚どもめ…」
数十秒で、二人は大量の雪の下に倒れ伏していた。普通に見たものを信じられない。人間ってあの速度で雪玉連射できるんだ。マシンガン使ってるって言われた方がまだ説得力あるよ
「だ、大丈夫?立てそう?あぁ雪まみれ……」
「な、何とか大丈夫さ……」
「まだ、生きている……」
雪まみれになりながらも、二人はフラフラと立ち上がってついた雪を払っている。超寒そうだし服もびちゃびちゃだ。流石にちょっと可哀想
「アムール、アムール、髪に雪が付いてしまった」
「自分でとってくださいよ、もう…」
ヘレクトラさんに呼ばれてみれば、確かにファイノンくんの雪玉が髪に残っている。女性の髪に触れるわけだから乱雑にやる訳にもいかず、出来るだけ注意深く取っていく。……キュレネさんめちゃくちゃこっち見てニコニコしてるんだけど
「………取れましたよ」
「あぁ、ありがとう」
「ふふ、やっぱり二人は仲良しね」
仲良し……は、多分その通りだと思う。でもそんなにジロジロ見られていると流石に恥ずかしい
「雪合戦……は、もうやめにしようか。それじゃあモーディス、より大きな雪だるまを作れた方が勝ちでどうだい?」
「いいだろう、受けて立つ」
「小学生の勝負内容だ……」
二人はいつもこんな感じだ。何かにつけて勝負したがる。ふむ、雪だるま、ふむ……
「───キュレネさん!負けてられないよ!」
「あら、ふふふっ♪そうね!」
雪だるま作りなら負ける訳にもいかない。二人より大きな雪だるまを作れば勝ち。単純でわかりやすい勝負だ
「お、重い………」
「誤算だったわね…」
………とはいえ、大きすぎるのも考えもので。身長としてはファイノンくんよりも大きな雪だるまが完成するはずが、肝心の頭を乗せることが叶わない。二人がかりでも無理がある…
「う、うーん……」
「何だ?持ち上げられないのか?貸してみろ」
「ヘレクトラさん?すごい重いですよそ……れ…」
そんな感じの巨大雪玉を、ヘレクトラさんは軽々持ち上げた。そんな一幕もありつつ、皆で作った雪だるまは完成──結果としては、ファイノンくんモーディスくんはほぼ同じサイズ。僕らのが一番大きな雪だるまになった
「イェーイ!」
「ふふっ、勝ったわね!」
「良い雪だるまだ」
「あはは、これは完敗だね」
面倒なだけだった雪が、こんなに楽しいものに変わったように。僕の生活も、皆のおかげで変わっている。そんな事を改めて実感した1日だった
主人公の名前いる?
-
いる
-
いらん