現パロス   作:かゆ、うま2世

9 / 10
馬鹿め 辛いわけがない
現パロなんだよ。オンパロスじゃない限り鉄墓なんていないんだ、不穏パロスなんて絶対不可能だ!


タイミングがよろしくない

来る12月25日───今日は待ちに待ったクリスマス!

……だったのだけれど

 

 

「熱ですね」

 

 

ピピピ、と測定を終えた体温計の数値を一目見て、アグさんはそう判断した。……まぁ、そうだろう。朝起きた時からだるいなぁとは思っていたけど、まさか熱があるとは

 

 

「………その、アグさんは大丈夫ですか?一緒に寝てるから、もしかしたらうつしてるかも…」

「今のところは問題ありませんよ。それよりも、あなたは自分の心配をするように」

「ん…ごめんなさい……」

「謝らなくても結構です。……そう、ですね」

 

 

優しく僕の頭を撫でながら、アグさんが思いついたように口にした。不安げだった表情に、わずかに光が差し込む

 

 

「私にうつしていたら、その時は看病をお願いします」

「……がんばり、ます…?」

「ふふ、楽しみにしていますよ」

 

 

楽しみにしたらだめだろ

 

 

「発熱と倦怠感以外、症状はありますか?」

「喉がちょっと痛いのと……寒気があって…あと頭痛も少し…」

「なるほど……消化に良いものを作ります。セファリアに薬を持っていかせますから、飲んで安静にしていてください」

「わかりました…」

 

 

僕の頭を撫でてから、アグさんは部屋を出て行った。いつもなら、こうなると部屋には僕一人だけになるけれど……今は、周囲を漂う赤いクラゲの主がいてくれる

 

 

「熱冷ましに、ね?」

 

 

ふよふよと漂うクラゲが一匹、額に乗っかる。ひんやりとした感覚が、火照った頭を少しだけ冷やしてくれた

 

 

「ん……ありがとう」

「どういたしまして。ふふ、こう見るとまだまだ子供だね」

「長夜月さんより大人な人はいないと思いますけど……」

 

 

千歳に比べれば大体の人は子供だと思う。別に、子供扱いに不満がある訳じゃないけれど

 

 

「アタシにはうつす心配もないし……ふふ、抱きしめてあげようか?」

「い、いいですから…」

「アグライアには毎晩してもらってるのに、アタシはだめなの?寂しいなぁ」

「そ、そういうことじゃなくて……」

 

 

アグさんに、サフェルさんに……最近はトリビー先生もたまに来る。誰かに抱きしめられながら眠るのは、もう僕にとって日常だ

……とはいえ、この距離感は絶対おかしい。たとえ押し切られたとしても、できるなら抵抗は続けるべきだと思う

 

 

「アタシ、記憶が読めるんだ」

「え」

「抱きしめるより先のこと、もうしてるんだね。ふふ、おはようだなんて、ふふふ」

「ああああぁ………」

 

 

アグさんによるいつもの"おはよう"のことも、どうやら筒抜けだったらしい。長夜月さん相手だと、僕のプライバシーはどこかに行ってしまう

 

 

「アタシも同じこと、やってもいいと思わない?アタシだけダメなんて、ずるいよね?」

「からかってますよね!絶対からかってますよね!」

 

 

何でもないように振る舞ってはいるが、サフェルさんの時もアグさんの時も、ああいうのは気が気じゃないのだ。からかってるだけのはず……で、合ってるはずだ

 

 

「からかってるわけじゃないんだ。本当に……ちょっと、羨ましかっただけ」

「長夜月さん……」

「ずーっと探して、やっと見つけたんだ。アタシも、アンタの事を抱きしめてみたい。……だめ?」

「う……」

 

 

……そう言われてしまうと、強く断れない。誰にも見えず、触れられず、千年一人ぼっちで過ごしてきた長夜月さん。その寂しさは、僕には到底わからない

 

 

「わ……かりました……」

「ふふ、ありがとう」

 

 

布団を捲り上げて、少しづつ僕の方へと近づいてくる長夜月さん。緊張か気恥ずかしさか、僕の胸はうるさいぐらいに高鳴っていた

………これ、他の人から見たら何もないのに布団が盛り上がってるように見えるのだろうか

 

 

「はい、ぎゅー」

「ぅ……」

 

 

華奢な腕に抱きしめられて、ちょっと息苦しいぐらいに密着する。人と触れ合うのは、もう嫌じゃない……長夜月さんの体は、暖かかった

 

 

「顔、赤いね?」

「熱出てますし……」

「本当にそれだけ?」

「長夜月さんが近いから……」

「ふふ、アタシもちょっとドキドキしてる。大好きな子とハグしてるんだから……当然かな?」

 

 

お互いに想いを言葉にするのは恥ずかしいけれど、それでようやく、ちゃんとした友達になれるのかもしれない。ここまで直球だと、流石に恥ずかしいけど……

 

 

「おはようアムっち。お薬お持ちしました〜…なんてね。大丈夫〜?」

「大丈夫かアムちゃん!」

「あたちたちも看病頑張るぞ!」

「まずはお薬を飲みましょう…」

 

 

ドアが開いて、サフェルさんとトリビー先生たちが部屋に入ってきた。誰もいないのに盛り上がった布団を一瞬怪訝な表情で見つめたが、それを気にするでもなく枕元へと駆けつける

 

 

「解熱剤とか、頭痛薬とか……かなぁ?ライアに渡されたもの急いで持ってきただけだから、多分大丈夫大丈夫!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

サフェルさんが薬を持ってきた傍らで、トリビー先生たちはタオルを持ってきてくれてたり、色々と世話をしてくれてる。見た目にそぐわず、長夜月さんを除けば最年長とだけあって手際がいい

 

 

「んじゃ、薬飲もっか。口開けて?」

「え」

「あら」

 

 

薬を飲むべく、重い上体を起こした僕に、サフェルさんがそんな言葉を投げてくる。なんでそうなるんだ。流石に薬ぐらい一人で飲める

 

 

「あーんしたげる」

「薬で!?」

「照れてんの〜?遠慮しないでいいって

、あたしがちゃんと飲ませてあげるからさ!」

「ちょ、ちょっ……」

 

 

僕の静止を振り切って、指先に錠剤を数錠挟んで、その指ごと僕の口へと突っ込んだ

 

 

「はーい口開けて」

 

 

コップも口元に運ばれて、大人しく水と共に錠剤を飲みこんだ。サフェルさんはといえば、大成功とばかりににんまり笑っていた

 

 

「ちゃんと飲んだ〜?」

「飲みましたよ!」

「ほんとかにゃ〜?ちょっと口開けて見せてみてよ」

「嫌です!ぜったい嫌です!」

 

 

サフェルさんの特徴だ。度々こうして僕をからかってくる。……別に怒ってるわけじゃない。サフェルさんが楽しいなら、それが一番いいんだ

とはいえそれとこれとは話が別。流石に恥ずかしい

 

 

「フェルちゃん!アムちゃんをいじめちゃだめだぞ!」

「うげ、止められちゃった」

 

 

トリアン先生によって止められたサフェルさん。不満そうに唇を尖らせながらも、それ以上はからかうつもりもないようで僕から離れる

 

 

「あたちたちのお仕事はおちまい!アムちゃん、何かあったらいつでも呼んでちょうだい!」

「ちゃんと休んで、早く治してくださいね」

「元気になって、また明日!だな!」

「…ま、そういうわけだからさ。早いとこ治しちゃってよね」

 

 

それじゃあねー、と。皆は部屋を出て行った。病人相手に終始賑やかな人たちだ。まぁ、あれぐらいの方が僕には元気が出てちょうどいいのかも

 

 

「嵐みたいだったね。相変わらず」

「なんか疲れた感じが……」

「まだ来るよ。次はご飯を食べないとね」

 

 

長夜月さんがそう言ってすぐ、部屋の扉が開いた。アグさんだ。お盆に、スプーンと皿。皿からは僅かに湯気がのぼっている

 

 

「随分と賑やかでしたが……薬は無事に飲めたようですね」

「は、はい……なんとか。ありがとうございます……」

 

 

ベッドのすぐ傍に座って、アグさんがお盆を膝上に乗せる。そこに載っていたものは……おかゆ?だろうか。実際見るのは初めてだから、何とも言えないけど

 

 

「食欲はありますか?」

「……結構あると思います」

「なら良かった。さぁ、口を開けてください」

 

 

スプーンでおかゆを一口分すくい、僕の口へと運ぶアグさん。これはまぁ、薬よりは理解できるけども。にしたって恥ずかしいものは恥ずかしい

 

 

「あの、自分で……」

 

 

ずい、と無言でスプーンを近づけてくる。とても圧が強い

 

 

「何か?」

「……なんでもないです」

 

 

諦めて口を小さく開くと、おかゆが中に入ってきた。塩加減はちょうど良くて、温かいけど、決して熱くはない絶妙な温度。食感もしっかりしているし、美味しい

 

 

「どうでしょうか」

「…美味しいです」

「ふふ、口に合ったようで何よりです。まだありますので、遠慮なくどうぞ」

「は、はい……」

 

 

また一口すくって、僕の口に運ぶ。もしかして完食までずっとこのままなんだろうか。流石に恥ずかしさが限界突破しそう

 

 

「あーん、ですよ」

「………あ、あーん…」

 

 

口内に入り込んできたおかゆは、やっぱり美味しい。……けど、味を感じる余裕がない。てか長夜月さんは何なんだ。おかゆを食べる度にぐいぐい体を寄せてくるんじゃない

……ていうか、本当に完食までこのままのつもりだ、この人。これじゃ雛鳥と親鳥みたい────親、親かあ

 

 

「ゆっくり噛んで食べてくださいね。喉に詰まらせてしまわないように」

「はい……」

 

 

養母と、養子。アグさんと僕は、一応そんな関係……のはずなんだけど。いつもしてくる"おはよう"とか、他にも色々、普通の親子にしてはなんか距離が近いし、アグさんもそれをわかってやってるのは、なんとなくわかってた

何で───っていうのも、なんとなくわかる

 

 

「………昔熱出した時、ずっと寝てたんです。飲むような薬もないし、ご飯を食べさせてくれる人なんていなかったから」

 

 

気付けば、僕はそんなことを口にしていた。語ったところで何の意味もない、すでに消え去ったくだらない過去の話

アグさんは手を止めて、静かに僕の話を聞いてくれてる

 

 

「アグさんが……その、色々、母親っぽくないこともしてくるのは、僕が母親ってモノに対していい思い出がないから、なんですよね?」

 

 

意図的に、僕の意識を過去から離そうとしてくれたのだと思う。それぐらい細やかな気遣いのできる人だって、もうわかってるから

 

 

「……あなたは、とても賢い子ですね」

 

 

僕の考えてることが、伝わってるのかはわからないけど。アグさんはおかゆをすくう手を止めて、労わるように頭を撫でてくれた

 

 

「やはり、あなたにはバレてしまいますね。……その通りです。父も、母も、その概念自体が、あなたにとっては苦しみの象徴でしたから」

「アグさん…」

「私はあなたの母ではありません。ですが、家族ではあります。……どうか私に、アグライアとしてあなたを愛する事を許していただけますか?嫌な記憶が頭をよぎるのであれば、直ちに直します。ですから────」

「あ、いや、そんな、別に責めようってわけじゃ──ごほ、なくて、げほっ」

「アムール……!」

 

 

咳き込む僕の体を、アグさんが慌てて支えてくれる。少し熱っぽいから、この程度の話でも喉がやられるらしい。……いやまぁ、こんな話をしておいて何なんだけども

 

 

「ちょっと、むせただけです。いつもありがとうって、そう言う事を言いたかっただけで……」

「……そうでしたか。であれば…どういたしまして、と言いましょうか」

 

 

安心したように、アグさんは笑った。やっぱり、この人にはこういう顔がよく似合う。どんな時でも、穏やかに微笑んでいてくれればそれでいい

 

 

「いつも……お世話になってますから」

「……はい」

 

 

少しの間沈黙が流れた後、アグさんの手が額に触れ──?

 

 

「ひゃっ!?」

「やはり熱いですが……熱冷ましはしているようですね。これならば、悪化はしないでしょう」

「え、あ……は、はい…?」

 

 

やばい、不意打ちすぎた。思わず目を逸らしてみれば、アグさんは不思議そうな顔で首を傾げた

 

 

「どうかしましたか?」

「い、いえ……」

「……あぁ、なるほど」

 

 

合点がいったとばかりに頷くと、アグさんはその細い指を僕の頬に這わせた。そのまま顔を少し上に向けられれば、もう逸らす事なんてできない

 

 

「ふふ……可愛らしい人ですね」

「も、もう…!」

「失礼。つい」

 

 

ちょっとの間見つめ合ってから、どちらからともなく笑い出す。空気が和らいだところで、アグさんはお盆を持って立ち上がった。気付けば皿は空に。完食だ

 

 

「私は戻りますが、何かあれば呼んでください。最優先で向かいますから」

「……ありがとう、ございます」

「それでは、おやすみなさい」

 

 

退室する背中を見届けて、ベッドに横になる。こうして腹の内を話して、僕らは互いに歩み寄ってる。そうやってちょっとずつ、より大事な人になっていくんだ

 

 

「愛されてるね、色男」

「……なんか怒ってないですか?」

「怒ってないよ?全然ちっともこれっぽちも」

 

 

相変わらず不敵な笑みを浮かべているけれど、さっきとは全く違う印象を受ける。黙ってるだけでも圧がある

 

 

「……まぁ、これからだよね」

「そ、そう思います…?」

「ふふ、ありがと。とりあえず言ってるだけの言葉でも、案外励みになるものだね」

 

 

未だ長夜月さんは抱きついたまま。こんな状態で眠れるわけもなく、僕はただじっとしている他なかった

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「アムたん、あーんですよ。あーん」

「その…どうか焦らず。私はお待ちしていますから…」

「ふふっ♪どれから先に食べるのかしら」

 

 

この三択を選べる人類は存在するのだろうか。世界中どこを探してもこれ以上に選ぶのが難しい選択肢は存在しないだろう

長夜月さんが先に寝息を立て始めたころ、なんと僕にお見舞いが訪れたのだ。ヒアンシーさんに、キャストリスさんキュレネさん。何だこれ。空間が華やかすぎる

それはさておき。皆はお見舞いとして色々果物を持ってきてくれた。梨とか、林檎とか、本当に色々。それは嬉しかったんだけど、まさかこんなことになるとは

 

 

「自分で食べるのは………」

「あ!だめですよアムたん!病気の時はちゃーんと周りに甘えてくれないと!」

 

 

無理なもんは無理みたいである。この三択は、どうやら僕から選ばないと終わらないらしい

 

 

「……じゃあ、その、キュレネさん」

「はーい、どうぞ!」

 

 

ニコニコと満面の笑みを浮かべたまま、フォークに刺した桃を差し出してくる。ちょっと気恥ずかしいけど、意を決して差し出されたままの桃を頬張る

 

 

「あぅ……負けてしまいました…」

「流石キュレたん。手強いですね…」

「まずはあたしの勝ちね♪ふふ、選んでくれて嬉しいわ」

 

 

何の勝負だよ。動物に餌やりするみたいな感覚なのか……?

 

 

「…美味しいです」

「たくさんありますから、食べたいものを仰ってくださいね」

 

 

献身的すぎる。今日はクリスマスだというのに、わざわざ僕みたいなののお見舞いに来てくれるだなんて。……まぁ、三人がかりで餌やり対決してるのはよくわからないけど

 

 

「次はどっちにするか決めましたか?」

 

 

決められるわけがない。どっちを選んでもどっちかに申し訳ない。キュレネさんを最初に選んどいてアレだけど

 

 

「その……自分で食べ」

「だめですよ〜!」

 

 

にっこにこで圧が強いヒアンシーさん。完全に遊び道具にされてる気がする

 

 

「じゃあ同時に食べる!」

「あっ」

「きゃっ」

 

 

二人の腕を掴んで、林檎と梨を同時に頬張った。混ざった味は変な感じだったけど、やっぱり果物は果物で、かなり美味しい。甘みも瑞々しさも、文字通り格別だ

 

 

「あらあら…」

「だ、大胆ですね…」

「手を…掴まれてしまいました……」

 

 

勢いに任せて変な事しちゃったけど、別に怒ってるようには見えない。というか、照れてる?

 

 

「その、美味しかったです。ありがとう」

「!ふふっ、まだありますから、もっと食べますか?ちゃーんと食べて、ゆっくり休むのが早く治す秘訣ですよ!」

「は、はい」

 

 

ヒアンシーさんの言葉に頷く。薬も飲んで、色々食べて、昔に熱を出した時と比べて遥かに体調が良い。やっぱり栄養って大切なんだな

 

 

「………その、ありがたいんですけど、クリスマスの日に僕みたいなのに構わなくても…」

「あら、自分のことをそんな風に言っちゃだめよ?」

「それはそう……なんですけど」

 

 

キュレネさんの優しい視線。心配してくれるのは嬉しいけど、でもやっぱり僕なんかに時間を使うよりも、他にもっと有意義な使い道があるんじゃなかろうかと思ってしまう

 

 

「アムール様」

「え、ちょ、んぐっ」

 

 

口に梨が詰め込まれた。……まぁ、確かに熱のせいかネガティブになってる。良い事ないし、直さないと

 

 

「ありがとう、キャスさん。美味しいです」

「このような時ぐらい、好きに甘えていただいても構いませんから。……その、普段からでも、私は別に…」

「あー!わたしだけアムたんに食べさせてないです!アムたん、わたしにもあーんさせてください!」

「あ、はい」

 

 

再び差し出された林檎を頬張る。美味しいし、食べさせてもらえるのも嬉しい。でもやっぱり餌やりじゃないかなこれ

 

 

「ふふっ、もっと林檎切ってきましょうか。アムたん、ちょっとだけ待ってて───」

「ひ、ヒアンシー様……!」

「あらあら……」

 

 

キャスさんが慌てたような声と共にある場所に指を指している。当然僕も気になって、その方向を見────?

 

 

「ぷるっ」

「あーっ!食べちゃだめですよイカルン!お見舞いに買ったやつなんですから!」

 

 

羽の生えた謎の小さな動物が、林檎を抱えて飛んでいる。んー、ええっと、んー?

 

 

「な、なにあれ……」

「降りてきて!降りて返してください!」

「ぷるるっ」

 

 

ヒアンシーさんの言葉もどこ吹く風。イカルンと呼ばれたその生き物は、何食わぬ顔で林檎を齧っている。美味しいもんな、食べたいよな、しょうがないしょうがない。ていうか何なんだイカルンって

 

 

「………ねぇ、イカルンって何──」

「はい、あーん!」

「もご」

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「熱を出したって聞いてたんだけど……思ったよりも元気そうだね。安心したよ」

「俺も、皆も、お前のために力を尽くすだろう。お前のすべき事は、早く体を治すことだ」

「あなたに言われずとも、これだけ手厚い看病を受ければすぐに治りますよ。何も難病ではないのですから」

 

 

程なくして帰って行ったキュレネさん達の次にやってきたのは、ファイノン君にモーディス君、アナクサゴラス先生だった。わんこそば形式で皆来るのかな

 

 

「お見舞いも持ってきたんだけど、果物で被っちゃってね。食べたいなら切ってくるけど、どうする?」

「ふん、ならば俺の方が適任だろう」

「おや、随分な自信じゃないか。なら───」

「こうなることが見えていたから私が来たのです。この家の果物を使い切るつもりですか?」

 

 

ファイノン君とモーディス君は相変わらずの仲だ。……いや、この言い方は良くないか。仲が良いからこそ、ああしてぶつかり合えるんだろう。まぁ、アナクサゴラス先生がいてくれて良かった

 

 

「さっき結構食べたから、今は大丈夫。ありがと」

「ならやめておこうか」

「何か食べたければ言え。すぐに作る」

 

 

そういえばモーディス君はお菓子作りが得意だった。今はいいけど、また今度食べてみたい

 

 

「しかし、この時期に体調不良となると…長夜月との関連性を疑ってしまいますが」

「あー……昔の病気って幽霊に取り憑かれたと思われてましたもんね。実際そういうこともたまにありますから」

「長夜月……というと、お前が最近出会ったという幽霊か」

「誰もいないのに布団が膨らんでるから不思議に思ってたんだけど、そういうことだったんだね」

 

 

あの日以来、僕の周囲には常に長夜月さんがいる。長夜月さんが結局どういう存在なのかについては今だによくわかってないけど、まぁ本人の意図に関わらずそういうことが起きてしまうこともあるのだろうか

 

 

「ふふ、心外♭」

「うわびっくりした」

「アムール?」

「長夜月さんが起きました」

 

 

今の今までぐっすり寝てた長夜月さんが、のそりと起き上がる。姿勢を変えたから、勝手に布団が少しズレた。なるほど、リアルポルターガイストだ

 

 

「アタシは幽霊"みたいなもの"であって、厳密には違うから。アンタが熱を出したのは普通に体調不良だよ」

「関係ないみたいです」

「なら案ずることはないだろう。どの道、そうなれば俺たちにできることなど何も無い」

「幽霊という存在についての興味は尽きませんが………まぁ、それはおいおい晴らしていくとしましょう」

「はは、アナイクス先生は相変わらずだね」

 

 

やっぱり皆、仲が良い。積み重ねてきた年数が違うから仕方ないけど、ちょっと羨ましかったりもする。その分、と言っていいのかわからないけど、皆から歩み寄ってくれてるのはわかるから、そこは嬉しかったりする

 

 

「……その、さっき来たキュレネさん達にも言ったんだけど…クリスマスにわざわざ、僕のとこに来なくてもいいのに。嬉しくないわけじゃないけど」

「あぁ、確かに。君が来てから初めてのクリスマスだから、実は色々考えてたんだけど…」

「え、そうなの!?その、ごめんなさい、僕……」

「お前が謝罪することではない。……それに、クリスマスなら来年も来るだろう」

「来年……」

 

 

来年。そうか、来年も……来年も、あるんだ。今日がダメでも、また来年。そのまた来年も………今までは、一年後に自分が何をしてるかなんて考えたことも無かった

 

 

「……うん。来年は、ちゃんと皆で遊ぼう」

「あぁ、約束だ」

「であれば、まずは横になりなさい。無理は禁物ですからね」

 

 

また、来年に

僕の人生に一つ、楽しみが増えた

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「やっぱりわんこそば形式だ」

「わんこそば?」

「熱に浮かされているのか……?」

 

 

ファイノン君達が去ってすぐ、今度はヘレクトラさんとケリュドラさんが来た。やっぱりわんこそば形式だ。アナクサゴラス先生に言われた通り寝転んでいるけど、動くのが辛いわけじゃないからちょっと落ち着かない。長夜月さんはまた寝た。何で僕より寝てるんだ

 

 

「皆、クリスマスなのに僕のお見舞いに来てくれて……その、本当に、嬉しくて…」

「当然だ。お前の一大事とあれば、僕は他の何を投げ捨ててでも向かおう」

「すまない、見舞いの品は今は持ち合わせていないんだ。知らせを受けてからすぐに飛んできたからな」

 

 

飛んできた?ヘレクトラさん、どこかに出かけてたの?

 

 

「ヘレクトラさん、どっか行ってたんですか?」

「ああ、今日はコンサートがあったんだが…」

「え」

 

 

そういえば、そうだ。ヘレクトラさんはバイオリニスト。そりゃコンサートがある。今日がコンサート当日で、でもヘレクトラさんがここに居て───

 

 

「……あぁ、キミが気にすることじゃない」

「そんな…でも……」

 

 

ヘレクトラさんは気を遣ってくれてるけど、でもそんな……だってコンサートだ。それもクリスマスの、かなり大きなものだったろうに。なのに、僕の見舞いを優先して……

 

 

「む……口が滑ってしまったな。……それより、薬は飲んだか?」

「あ、はい。ちゃんと飲みました」

「ならいい。早く元気な姿を見せてくれれば、それ以上に嬉しいことはない」

 

 

気遣ってくれてる。何よりも、僕の事を優先してくれてる。……病は気からというけれど、その気を高めるように支えてくれているんだ。申し訳なくもあったけど、それ以上に嬉しかった

 

 

「見舞いの品が無いのは僕も同じだ。アムール、望むものを言え。何だろうと用意する」

「望むもの…」

 

 

ケリュドラさんがこう言うと、多分本当に何でも持ってきてくれるんだろう。でも、僕としてはこうしてお見舞いに来てくれただけで十分すぎるぐらいで、それ以上望むことなんて────なら冗談でも言ってみるか

 

 

「宇宙旅行行きたいです…」

「───一日待て。必ず用意する」

「え」

 

 

ケリュドラさんの目が据わってる。まずい、この人ガチだ。本気で宇宙旅行用意するつもりだ。職権濫用すぎる。いや冗談のつもりなんだけど

 

 

「冗談!冗談です!僕は別に、一緒にいてくれればそれだけで……」

「無欲な奴め」

「本当にいいのか、アムール。何でも頼める機会など、そうそう訪れるものではないが」

「本当にいいんですって。……なんか、今はそれがすごく嬉しくて…」

「……そうか」

 

 

二人は僕を見て、穏やかに微笑んでいる。……皆、本当にいい人だ

 

 

「なんか申し訳なくなってきました」

「どうした急に」

「僕、こんなに幸せでいいんでしょうか。だって、僕、人一人───」

 

 

言葉の先を紡ぎかけて、ヘレクトラさんの指が僕の唇に触れた。それ以上は言うな、ということか。……まぁ、確かに。またネガティブになってた

 

 

「キミは何も悪くない。その事は、もう考えないようにしておけ。……たとえ、キミがキミ自身の存在をどう思っていようともだ」

「……はい」

 

 

そのまま僕の頭へと手が伸び、ゆっくりと撫でられる。……ヘレクトラさんの言う通りだ。今、この幸せを噛み締めよう。そしていつか、その幸せを少しでも返すんだ

 

 

「……ふん、仲睦まじいようで結構」

「嫉妬か?らしくないなカイザー」

「馬鹿を言え。くだらん」

 

 

呆れたように腕を組んでヘレクトラさんを見ているケリュドラさんは、そこで一旦言葉を切ると僕の方を見た

 

 

「あ、わわ」

 

 

そうして、同じように頭をゆっくりと、でも少し強めに撫でてきた。……やっぱり、嬉しい

……あれ、なんかヘレクトラさんの時とちょっと違う。何だろう。何が──匂い?微妙に、ほんの僅かにヘレクトラさんから嗅ぎ慣れない匂いがする。ええっと、これは…

 

 

「ヘレクトラさん、もしかしてお酒飲んでます?」

「────何故、わかった」

「セイレンス、お前……」

 

 

コンサートあるのに酒飲んだのかこの人。ヘレクトラさんは無類の酒好きだけども、えぇ……

 

 

「いいか、アムール。例え何があろうとも、人は目の前の一杯を拒むことなどできない。そして───こうして暴かれた以上、もう遠慮する必要はなくなった」

「お前………」

「えっここで飲むんですか!?」

 

 

お見舞いのはずが、いつのまにか酒盛り会場へと変貌し──程なくしてやって来たアグさんに止められるまで、ヘレクトラさんはずっと酒を飲んでいた

 





夜の半神ってなんかえっちじゃない?

主人公の名前いる?

  • いる
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