鬼討つ鬼は異界より来る   作:ふののも

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 そこには、静けさだけがあった。

 寺社仏閣の本堂を思わせる広い板張りの内部。

 その最奥。一段高くなった畳張りの床の間に座る一人の少女。そして彼女を守る様にして左右それぞれ一段下に立つ二人の男たちが居た。

 入室した二人から見て、右側に居るのは平安時代の陰陽師のような狩衣に赤い裾を絞った袴に、クジャクの翅を閉じた様な形で髪を結い上げた青年。

 その片割れ。左側に居るのは青いハチマキが印象的な、丈の長い黒の陣羽織を羽織った目つきの鋭い男。

 そして、その中央。

 真っ白な髪に、紅玉のような瞳をした少女。

 

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 ナナシは内心で、少女をそう診る。

 遺伝子疾患の一つとされる、先天性白皮症とも呼ばれメラニン色素などに異常がみられる場合が多い。

 個人差も大きく、見た目が特異な点以外は正常、という場合もある。逆に、日の下に出るだけで体が弱り火傷をしてしまったかのような症状が出る場合もある。

 幸いというべきか、或いは所詮は素人の見立てと言うべきか、少なくとも件の少女神垣ノ巫女は肌艶が良く、血色も良好。目は確りと光を宿して幼いながらも利発さを感じさせた。

 何より、モノノフに成るとはいえ今の彼らの関係性はこの場限りに顔見知り。そもそも、アルビノには明確な治療方法がない以上、彼女がアルビノであれ何であれナナシに出来る事は無い。

 二人が程よい位置に立ったところで、狩衣の青年から鋭い視線が飛んだ。

 

「貴様らが、今回の謁見人か」

 

 中々に大きな態度だ。その全身から発せられる自信がそのままオーラにでもなりそうな気迫である。

 

「私は、八雲。このマホロバの里で近衞の隊長を務めている。そして、次期お頭となる人間だ。覚えておくといい」

 

 胸を張る男、八雲。傲慢さがそのまま人の形をとったような態度だが、彼は一応偉ぶれるだけの立場に居る事は確か。その立場に上ったのも、実力あっての事。

 そんな八雲の目が、鋭く自身と席を同じにする男へと向けられた。

 

「貴様も名乗ったらどうだ、サムライ。業腹だが、貴様もまたお頭の候補なのだからな」

「…………」

 

 八雲に言われ、男の鋭い視線が二人へと向けられた。

 

刀也(とうや)だ。サムライ部隊を率いている」

 

 淡白な言葉だった。だが、その一方でその目に宿った意志の強さは名は体を表す様に強靭にして堅牢。

 二人の自己紹介が終わり、満を持して主役が口を開いた。

 

「んん!そして、私がこの里の神垣ノ巫女を務める、かぐやだ。よろしく頼むぞ、里の新しき住人たちよ」

 

 子供ながらに威厳のある格好を作りながら、かぐやが微笑む。

 もっとも、どこかソワソワとした雰囲気が隠せていないが。

 

「それで?貴様たちの名を聞こうか」

「あ、はい!わ、私は娜月といいます!」

 

 何処か緊張を隠せず、娜月は背筋を伸ばしながら答える。

 一方で困るのが、ナナシの方。

 

「あー……えっと、ナナシっす」

「名無し?名乗る気が無いのか!」

「いやいや、そういう訳じゃなく。諸事情で、名前だけが消し飛んだんすよ。で、便宜上ナナシって名乗ってるだけっす」

 

 八雲が目を吊り上げてくるが、しかしナナシとしてはこれ以上の語りようは無い。ふざけていると思われても、実際問題ナナシ自身も困っているのだ。

 だが、強烈な叱責が飛ぶ前に助け舟が流れてきた。

 

「その辺にしておけ」

「…………邪魔をするか、サムライ」

「あくまでも、この場は巫女に対する目通りでしかない。名乗りたくないというのならば、ソレを追求するのはこの場ではないだろう」

 

 腕を組んだ刀也の指摘はもっともなもの。

 少なくとも、ナナシは何かしらの罪を犯した訳でもないのだから。

 

「…………ふんっ、良いだろう」

 

 自分とて無理に突っ込んでいたのは自覚していたのか八雲は大人しく引き下がった。

 代わりに口を開いたのは、かぐやだった。

 

「そなたらは、里の外から来たのであろう?遠い地より参ったのか?」

「まあ、そうっすね。自分も娜月も東の方から来ましたんで」

 

 かぐやの問いに、博士に見せられた地図の位置関係を加味してナナシは答える。

 時代は違えども、二人は揃って横浜からやって来た。

 因みに、霊山を中心とする中つ国の内、西端に位置するマホロバの里の位置は現在で言う所の広島辺りとなる。

 それから、幾つかのやり取りを経て顔合わせは終了。

 

「貴様らは、紅月に預ける。精々、里の為に尽力するが良い」

 

 そんな八雲の言葉に送られて、二人は岩屋戸を後にした。

 階段を下りながら、二人の話題といえばやはり先程の事。

 

「はぁー…………き、緊張しました」

「娜月って、そういうの分からねぇな。戦ってる時は、あんなに堂々としてるってのに」

「せ、戦闘中はそっちに集中できますから……ナナシさんは緊張しませんでした?」

「…………特には?色々と聞かれても、こっちとしては事実を言う他ない事だし」

「そういうものですかねぇ…………ああ、でも。八雲さんは驚いてましたね。私たちが一緒に来たこと」

「ああ、鬼内と外様の話だろ?俺としちゃ、やってる場合か?とも思うけどね」

 

 階段を降り切ってから、ナナシは一瞬だけ岩屋戸を振り返った。が、何を言うでもなく再び通りを歩き始める。

 

「本部に行くんだっけ?」

「はい。時継さんも待ってるはずですよ」

「それと、紅月さんか。それにしても、強かったなあの人」

「そうですね。あの薙刀捌きは相当な手練れというものです」

「分かるのか?」

「一応、私はモノノフが扱う武器は全て扱えますから」

「…………マジ?」

 

 サラリとそんな事を言う娜月に、ナナシは目を剥いた。

 モノノフの扱う武器は、全部で11種類。それも、文字通り多種多様で全距離に対応する事が可能。

 例えば、時継や博士が扱う“銃”は遠中距離が戦場である。散弾も存在する為、近距離で戦えなくも無いが基本的には戦闘距離は遠い。

 例えば、娜月の扱う鎖鎌。コレは、基本的に中距離から近距離。鎖分銅の長いリーチと接近して振るう鎌を使い分ける。

 例えば、紅月の振るう薙刀。コレはインファイトで只管に舞い踊る様にして相手を切り刻む。オマケに相手の攻撃を受け流す防御技もある。

 例に挙げた三種類の武器ですら扱いに大きな差があるのだ。コレに+αとして八種類の武器を使い分けるなど正気の沙汰ではない。

 思いの外、連れが人外の化け物であった事に引きながらナナシは通りを行く。

 その道中、彼はある事に気付いた。

 

「ん?」

「どうしました?」

「いや、ほらよろず屋のおっちゃんが何か落ち込んでねぇか?」

 

 ナナシに指摘され、娜月もそちらを見る。

 見れば、成程昨日会った時とはよりも何というか気落ちしている雰囲気がある。

 流石に、気付いて無視する事は出来ない。

 

「おっす、よろず屋さん。昨日ぶり」

「え?ああ、こんにちは娜月さん、ナナシさん。今日は何をお求めで?」

 

 流石に客の前で陰鬱な空気を出す訳にはいかないのか、よろず屋の店主はにこやかな笑みを浮かべた。

 もっとも、既に何かしらの悩みを抱えている事を知っている二人には通じないのだが。

 

「いや、何か困ってそうだったしさ。どうしたのかなって」

「あ……すいませんね。お客さんに悟られちまうだなんて」

 

 参った、と店主は力なく笑う。

 

「ナナシさん達にもお話したように、里はそれぞれに取引を行ってどうにか経済を回しています。そして、それぞれの里の繋がりで重要なのが行商人や商隊なんです」

「そりゃあ、な。取引しなくちゃならないしな」

「ええ。ですが、つい先日の事なんですがね。行商人たちが襲われた、と」

「“鬼”ですか?」

「はい。何でもサキモリ砦の方で、“ミフチ”が出たとか」

「サキモリ砦?」

「あ、お二人は里に来たばかりでしたね。サキモリ砦って言うのは、里から南西に進んだ場所にある砦の事です。オオマガドキには多くのモノノフが戦い、そして亡くなった場所でもあります。今は放棄されていますが、有事の際にはモノノフの拠点としても扱われるようですよ」

「成程。その砦の近くでミフチに襲われたって事?」

「そうなります。夜にうろついているようで、オマケにモノノフが近づくと隠れてしまうという知恵までつけている始末。このままだと、商人の通れる道が塞がれて品ぞろえにも影響が出てしまいます」

 

 肩を落としてため息を吐く店主に、ナナシと娜月は顔を見合わせた。

 そしてどちらともなく、頷いた。

 

「俺たちにやらせてもらえないか?」

「え?良いんですか?」

「はい。これから里の一員になるんですから。お手伝いさせてください」

「あ、ありがとうございます……!商隊を護衛していた人の話じゃ、武器の有無で察知してるんじゃないか、って話でした。参考になれば」

「正に、俺向きだな。任せといてくれ」

 

 グッとサムズアップ。

 そんなやり取りを挟んで、二人はモノノフ本部へと足を踏み入れるのだった。

 

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