とある風紀委員の恋模様   作:若杉優太(テト/teto)

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気になってしまいます、の……

 直接会って礼を言いたいと思っていた()と偶然出会い、連絡先まで交換しあった夜が明けた翌日。

 黒子はいつものように風紀委員(ジャッジメント)一七七支部に赴き、同僚の初春や先輩である固法美偉と共に風紀委員(ジャッジメント)の仕事を黙々とこなしていた……のだが。

 

「すいません固法先輩、この書類はどうすれば……?」

「あっ、それはこっちにまとめておいてほしいの。あと、これは――」

 

 普段と変わらぬ様子で書類仕事に勤しむ初春と固法。

 彼女ら二人が積極的に働いているのとは対照的に、黒子は珍しく終始ぼんやりとした顔でのんびりと仕事をしていた。

 

「(やっぱり白井さん、昨日のことまだ引きずってるのかな……?)」

 

 責任感が強く、風紀委員(ジャッジメント)の仕事に誇りをもって取り組んでいる黒子は、本当であれば現在やっているような書類仕事でさえも手を抜くことなくテキパキとやる。

 少なくとも初春が知る白井黒子という女性はそうなのだが、やはりそうはいっても黒子も普通の女の子だ。

 予定していた祝いの席、しかも心の底から慕う御坂と過ごすはずであった日が消滅したとなれば落ち込みもするだろう。

 

「(今日ぐらいはそっとしておいてあげたほうがいいですかね?)」

 

 落ち込む黒子の気持ちを痛いほど理解していた初春は、ぼーっとした顔の彼女を注意せず自身の仕事に集中した。

 

「ねぇ、初春さん。白井さんの様子がおかしいことに気づいている?」

「もちろんです、固法先輩は?」

「気づいているわよ。もちろん、白井さんがああなってる理由も分かってる」

「じゃあ……」

「ええ、今日はゆっくりさせてあげましょ」

 

 初春は作業を進めつつ、固法と小声で話し合うと本来黒子がやるはずであった仕事にまで手を付ける。

 同様に固法もさりげなく黒子の分の仕事に取り掛かった。

 普通であれば仕事が増えたことに対して文句の一つや二つ言ってもよさそうなものだが、日頃から生真面目かつ熱心に風紀委員(ジャッジメント)の仕事をしている黒子の姿を知り尽くしている二人は、一切彼女に対して文句を言うことはなかった。

 

「(はぁ……このままじゃ、いけませんわね)」

 

 初春らが察したように黒子は昨日休みが潰れてしまったことを多少引きずっていた。

 しかし、それらが些細なことに思えるほどにずっと()のことを考えていた。

 

「(上条……さん)」

 

 恋慕の感情を抱いているわけではないものの、ここ最近彼のことが頭から離れない。

 そんな中で昨日は偶然出会い、彼に恩返しできる機会を作れたことに加えて今まで知らなかった彼の連絡先まで知ることができた。

 繰り返すように黒子自身、当麻にはそれほど深い想いを抱いているわけではない。

 黒子が慕い、恋に近い感情を持つのは御坂だけ。

 いくら命の危機を救ってもらった相手とはいえ、何か特別な感情を持つことは有り得ない……有り得ないはずだった。

 

「(早く、お会いしたいですの……)」

 

 あれほど「類人猿」と陰口を叩き、愛しの姉さまの周りをうろつく悪い虫としか認識していなかった存在の彼。

 その彼があそこまでお人よしで優しい人柄であったことを知った黒子は、不思議と「もっとじっくり話してみたい」と思うようになっていた。

 

「(次の非番の日は、いつだったでしょうか……?)」

 

 手頃な服を買ってほしいとお願いされ喜んで承諾した黒子だが、問題はその時間が取れるか否かであった。

 元々レベル4かつ有能な風紀委員(ジャッジメント)としてみなされている黒子は、その優秀さ故か非番の日があまりなく完全に1日がフリーな日があまりない。

 そのため、彼に会える日となると下手をすれば1週間以上先となる可能性もあるのだ。

 

「はぁ……こういう時に限って休みがほしいですのに」

 

 あまり休みを取りたいと思ったことはないが、今回に限っては喉から手が出るほどに休みがほしい。

 そうして天井を仰ぎながら黒子がぶつぶつとぼやいていると、不意に作業をしていた固法が椅子からゆっくりと立ち上がった。

 

「そういえば白井さん、昨日はごめんね非番の日だったのに仕事させちゃって」

「……!い、いえ大丈夫ですの。別に固法先輩が悪いわけではありませんし」

「そう……だけど、せっかくの非番の日がなくなっちゃったわけだし白井さん、足のケガが治ったばっかりでしょ?あんまり無理をさせるのも私としては気がかりなのよね」

 

 そこまで話すと固法はパン!と手を叩き、黒子にとある提案をする。

 

「だから、白井さん。今週のどこかで休みを取ってもらっていいわよ」

「……!こ、固法先輩……ですけどそんなことをしたら初春と先輩の仕事が――」

「大丈夫よ、今週は目立った書類仕事もないし数日ぐらいは休んでもらっても問題ないから」

 

 そう言って笑いかける固法だったが、本当に二人を差し置いて自分だけ悠々と休んでもよいのだろうか?

 先輩からのありがたい話に飛びつきたくなりながらも、黒子は迷いと後ろめたさから中々返答ができずにいた。

 すると。

 

「白井さん、別に気に病まなくてもいいんですよ」

「初春……」

「いつも白井さんが頑張ってくれてるから一七七支部が回ってるわけですし、たまには休息も必要だと思います。ですよね、固法先輩?」

 

 迷っている黒子の背中を押すような初春の言葉。

 それに固法が同調するように大きく顔を頷かせると、改めて黒子に声を掛けた。

 

「というわけで、もし休みたい日が決まったら言ってね。どの日でも、できるだけ取れるようにはするから」

 

「……お二人とも、気遣いありがとうございますの。そこまで言っていただけるなら、喜んで休みを取らせていただきます」

 

 自分に絶大な信頼を置いてくれているからこその優しさと気遣いに感動し、思わず涙ぐんでしまいそうになる黒子。

 二人に負担をかけてしまうことになるとはいえ、数日以内にでも彼と会う時間が作れる。

 その事実に、黒子は心の底から喜びを感じた。

 

「(上条さん、待っていてくださいな)」

 

 

**

 

 

 数日後、黒子は二人に勧められるままに風紀委員(ジャッジメント)の仕事を休んだ。

 無論、ただ休むわけではなく以前から当麻と約束していた「服を買う」という目的を果たすためである。

 幸いなことに彼も1日通して何もない日であったらしく、連絡をとると快くOKの返事をくれた。

 

「さて、少し早く着いてしまいましたけれど上条さんは……まだのようですわね」

 

 迷ってもいけないということで、いつもの公園で待ち合わせをした二人。

 黒子としては恩返しをする日に遅刻をしてはまずいと思い、気持ち早めに出発したのだが時間を見る限り30分以上早く到着してしまったようだ。

 

「まぁ、のんびりあの方を待ちましょうか……」

 

 今日は珍しく1日がフリーの日。

 こんな日が滅多に来ない以上は、彼と話せるだけ話しておきたい。

 そう思った黒子は、当麻への質問を今のうちに考えておこうと考えにふけった。

 

「(お姉さまとの関係、そして風紀委員(ジャッジメント)のデータベース上では何故か無能力者と表記があること……この機会ですから根掘り葉掘り聞かせてもらいますの!)」

 

 そう意気込みを新たにしつつ、黒子が彼を待っているとあっという間に数十分が経った。

 時刻は約束の時間である昼の12時となったが、肝心の当麻が一向にやってこないのである。

 

「(あら?もしやわたくしが、時間を間違えた……?)」

 

 嫌な予感のした黒子が彼に送ったメールの内容をもう一度見返すが、もちろん間違っておらず昼の12時でしっかり約束をしている。

 となると、彼が遅刻をした……との認識で間違いなさそうだ。

 

「はぁ、女性との約束で遅刻とは……思っていたよりも時間にルーズな方のようですわね」

 

 深い溜息をつきつつも引き続きのんびりと当麻を待つ黒子。

 従来の性格の彼女であれば男性に1分でも遅刻をされれば、怒りを滲ませつつ寮に戻るという行動をとってもおかしくない。

 しかし、不思議と黒子は溜息をつくのみで、一切帰ろうとする仕草は見せなかった。

 

「むぅ……何かあったのでしょうか?」

 

 約束の時間からそろそろ30分以上が経過しかけているが、一向に彼は現れない。

 それどころか、連絡すらない状況だ。

 こうなると流石に心配になってきてしまう。

 

「(電話をかけてみましょうか……何事もないとよい――)」

 

 

 

 

「白井ー!すまんー!」

 

 電話を掛けようかと思っていたのも束の間、背後から約束をしていた彼の声が聞こえてきた。

 ひとまずその声が聞けたことに安堵しつつ、黒子は頬を膨らまして後ろへ振り向く。

 

「ち・こ・くですのよ、上条さん。ちゃーんと、遅刻した理由を説明していただいてもよろしいですの?」

「はぁ、はぁ……っ!分かったよ白井。ちゃんと説明するから……さ」

「もう……!とりあえず、ベンチに座ってくださいまし」

 

 よっぽど急いでいたのか、若干苦しそうに咳込みながら肩で息をする当麻。

 待たされたことに若干苛立っていた黒子も流石にそんな彼を放置するわけにもいかず、慌てて一旦目に付いたベンチへと彼を座らせた。

 

「悪い……はっ、ふぅ……っ!ごほっ、ごほっ……!遅れたのにはわけがあってだ……な」

 

「む、無理をしないでよろしいですのよ。ちょっと待っていてください、何かお飲み物でも買ってまいりますので」

 

 そう言って当麻に声を掛けた黒子は公園の自販機……ではなく、少し離れた場所にあった自販機までテレポートした。

 すると、十秒もしないうちに再び当麻の元へと戻り、彼へ水の入ったペットボトルを手渡す。

 

「まずは一息ついてくださいまし、話はそれからで結構ですので」

「……ごめんな、白井」

 

 一言だけ謝罪の言葉を当麻が口にすると、彼は手渡されたペットボトルの蓋を開けて一気に口へと流し込んだ。

 

「(本当に、何があったというんですの……?)」

 

 彼の比較的綺麗な服を見る限り、どこかが汚れているわけでもなく怪我をしているわけでもない。

 単純な遅刻ということも有り得そうだが、彼が時間を守らない人物だとも黒子には思えなかった。

 となれば、何か遅れてしまった重大な理由があるのだろう。

 

「大丈夫ですか?上条さん?」

「あ、ああ……水を飲んだからか、だいぶ楽になってきたよ。ありがとな……」

「いいえ、気にしないでよろしいのですよ」

 

 水分を補給してなお息切れした様子を見せる当麻。

 その背中を黒子は優しくさすり、普段見せないような柔和な笑みを浮かべて彼に寄り添いつつも、やんわりと遅刻の理由を尋ねた。

 

「それで、何故遅れてしまったんですの?もしや、何か事件に巻き込まれたとかでは……」

「いや、そうじゃないんだ。そうじゃないんだけど、ある意味事件というか……なんというか、うーん。話が長くなるんだけど聞いてくれるか?」

「ええ、時間はたっぷりありますし大丈夫ですの」

 

 そうして当麻からゆっくりと時間をかけて事情を聞いていくと、黒子は先ほどまで「単なる遅刻」と思っていた自分をひっぱたきたくなりそうな気持ちになった。

 

「(やっぱり優しい方、なのですわね……)」

 

 当麻が約束の時間に来れなかった理由。

 それは公園に向かう道中にて、飼い犬が迷子になり困っていた少女を放っておけずに先程まで一緒に犬を探していたからだという。

 

「ごめんな、でも……その子が泣いてるとこ見たら放置できなくてさ。どうにか、力になってやりたかったんだ」

「そう、でしたの……」

「とはいえ、連絡もいれずに待たせちまった。本当にごめん、白井」

 

 特別な事情で遅れたとはいうものの一人の女性、しかも年下の後輩との約束で遅刻してしまった事実。

 当麻は頭を下げつつも、彼女から文句・もしくは前受けたようなキックかビンタが飛んでくることも覚悟していた。

 しかし。

 

「いえ、大丈夫ですの。そのような立派な理由であれば遅刻など些細なことですから」

「……怒らないのか?」

「怒るわけありません、むしろ好感を持ちましたわ……」

 

 本来ならば、そのような迷子犬を探すのは風紀委員(ジャッジメント)の仕事。

 それを少女が泣いていたからとの理由で、自身の時間を割いてまで一緒に探してやるというのは中々できることではない。

 きっと、彼の性根が非常に善いものだからこそできた行動なのだろう。

 黒子は心の中で上昇していた当麻への好感度を更に上昇させ、にっこりと彼に微笑んだ。

 

「それより、早く街の方へ行きましょう。今日はしっかりと恩を返させていただきますので」

 

「お、おう……そうだな」

 

 怒るどころか微笑みを見せた黒子に驚き、若干たじろぐ当麻。

 そんな彼を後目に、黒子は改めて脳内で事前に考えておいたスケジュールを思い出すのだった。

 

 

**

 

 

 ハプニングはあったものの、無事に当初の予定通り二人で街へとやってきた黒子と当麻。

 ここにわざわざ来たのは「安物でもいいから服を買ってほしい」という当麻の些細な願いを叶えるため。

 そうなれば早速、衣料品店に向かうべきなのだが……

 

「お聞きするのですが上条さん、お昼は既に済まされていますの?」

「いや、まだだけど……白井は?」

「私もまだですわ。もうよい時間ですし、そろそろランチタイムにしようかと」

「そうだな、どっかいいとこがあるといいんだけど」

 

 衣料品店のあるショッピングモールへ向かう道すがら、手頃な店がないかと思案する当麻。

 レベル0であるため奨学金も少なく、居候の腹ペコシスターの影響などで常に貧乏な彼にとって1円でも安いところで食事を摂りたいという思いが強い。

 

「(そもそも財布の中に札があったかな……?)」

 

 そんな悲しい心配をしつつ黒子の後をついていく形で街をぶらりと回っていると、いつの間にやらレストランなどが立ち並ぶ通りへと足を進めていた。

 

「(美味そうなものばっかあるなー、でも……今の上条さんには高嶺の花だな)」

 

 やはり当麻も食べ盛りの高校生ということもあってか、同居するシスターほどではないにしろ食に対する欲求が強い。

 しかし、金銭的な事情から最近ではあまり腹をいっぱいにするような食事をできていないのが現実だ。

 おそらく、今日もそうなるのだろう……そう思っていた。

 

「上条さん、あなたは何かお好きな食べ物はありますの?」

「いや、特段好きなものがあるってわけじゃないんだけど……今だったらパスタでも食べたいかな。まぁ、お金ないから無理なんだけどな……あはは」

 

 黒子の問いに対して頭を掻きつつ叶わないであろう適当な欲望を溢し、思わず苦笑いを浮かべる当麻。

 そんな彼とは対照的に、黒子は真剣な表情で当麻を見つめた。

 そして。

 

「パスタですのね?でしたらご安心を、わたくし良い店を知っておりますので」

「え?」

「さっ、ついてきてくださいまし」

「いや、ちょっ……!白井……!?」

 

 当麻の手をがっちりと掴んだ黒子は、有無を言わすことなくそのまま彼を引っ張るようにしてレストラン街を突き進んでいく。

 そうして戸惑う彼を半ば強引に自身の行きつけの店の前まで連れてくると、説明も何もせずに店内へと入店してしまった。

 

「いらっしゃいませ、お客様お二人で大丈夫でしょうか?」

「ええ、二人で大丈夫ですの」

「かしこまりました、ではお好きな席をどうぞ」

 

 店員との会話を颯爽と済ませた黒子は当麻と共に奥の席へと向かうと、混乱する彼を強引に座席へと座らせる。

 

「(ここって、もしかしなくてもお高い店なんじゃ……)」

 

 金なしの貧乏学生の当麻は、高級料理店になど行った記憶がまるでない。

 そんな彼でさえ、店内を暖色で照らすシャンデリアや自身が今座っている高そうな革のソファーを見れば、ここが何となく高級な店であることをすぐに察することができた。

 

「白井……ここって……?」

「ああ、わたくしのプライベートでの行きつけの店ですの。お値段は少々張りますが、とっても美味しいパスタやピザを出してくれますのよ」

「いや、それはいいんだけどさ、さっき言った通りお金が――」

 

「わたくしが全額お支払いしますの」

 

 当麻の言葉に被せるように堂々と黒子が宣言すると、話はお終いとばかりに彼の前にメニュー表を置いた。

 

「好きなものを頼んでいただいて結構です。その代わり、以前からお聞きしたかったことがありますので質問にいくつか答えてもらってもよろしいですの?」

「あ、ああ……いいけど本当にいいのか?その程度で飯を奢ってもらうなんて……」

「いいんですの。貴方には恩もありますし、このぐらいのことはさせてくださいまし」

 

 そうきっぱりと言い、微笑みを浮かべつつ注文を促す黒子。

 そんな彼女の善意を拒むわけにもいかなかった当麻は、気まずい表情をしながらもメニュー表を開く。

 すると、みるみるうちにメニュー表を見た当麻の顔が青ざめていった。

 

「き、聞くんだけど……本当に奢りでいいんだよな?」

「何度も言わせないでください。上条さんが好きなものを好きなだけ頼んでくださいな」

「お……おう、因みになんだが白井のおすすめを聞かせてもらってもいいか?」

「ええ、よろしいですわよ。えっと確かここのおすすめは――」

 

 だらだらと背中・顔・手から冷や汗を出して引きつった顔をする当麻だったが、黒子は一切気付いていない様子で彼に嬉々として自身のおすすめを教える。

 果たしてこれからどんなことを聞かれ、どんな要求をされるのだろうか?

 時たまにしか行かない外食の数倍の値段がする料理を年下の女の子に馳走してもらう。

 その事実に胃を痛くしながら、当麻は大人しく黒子のすすめるがままに料理を頼むのであった。

 

 

**

 

 

 一通り二人の前に料理が運ばれると、当麻は初めに黒子のしようとしていた質問の内容について尋ねることにした。

 

「えっと、とりあえず白井は俺に何が聞きたいんだ?」

「そうですわね……貴方にお聞きしたいことは山ほどありますが、まずはお姉さまとの関係について聞かせていただきたいですの」

「なんだ、御坂のことか。それならいくらでも話すよ」

「よろしくお願いしますの。お話は料理を召し上がりながらでも結構ですので」

 

 黒子にそう言われた当麻は目の前のパスタをフォークで口に運びつつ、ゆっくりと話し始めた。

 

「正直言って、御坂とは腐れ縁という感じっていうか……別に特別な関係というわけでもないんだよな」

「ふむ、でしたら貴方が積極的にお姉さまに近づいているわけではありませんのね?」

「むしろ、あいつの方から距離を詰めてきたぞ。……ったく、未だに出合い頭に電撃ぶっ放してくるし困ったもんだぜ」

「なっ!お姉さまが貴方に電撃を……!?」

 

 いくら親愛なる姉さまとはいえ、レベル0の無能力者に対して電撃を放っていたとなれば風紀委員(ジャッジメント)として見過ごすわけにはいかない。

 驚きと動揺からか、思わず立ち上がりそうになった黒子だったが当麻は「落ち着け」と言わんばかりに自身の右手を見せる。

 

「大丈夫だよ白井。俺の右手はちょっと特殊なものでしてね、何でも能力を打ち消せるんだ……もちろん御坂の能力もな」

「……っ!?ほ、本当ですの?」

「嘘なんか上条さんは言いませんよ。ほら、白井も心当たりないか?いつか俺が常盤台の寮に行ったとき、能力が使えなかったろ?」

「あ……そういえば、あの時確かに……」

 

 以前当麻が常盤台の寮へ来た際、巡回に来た寮監の目を逃れるため彼をテレポートで寮の外に出そうとしたことがあった。

 しかし、結果として黒子は当麻をテレポートさせることができず、渋々ベッドの下に隠れさせたのだが……

 

「(なるほど、そういうことでしたの)」

 

 まだ信じらないという思いは強いものの、自身が心の底から慕うあの姉さまの電撃を無効化するほどの能力と聞けば彼をテレポートで飛ばすことができなかったというのも頷ける。

 だが、そうなると何故彼がただのレベル0となっているかが疑問でしかなかった。

 

「ち、因みになんですが能力の名前や原理は分かりますの?」

幻想殺し(イマジンブレイカー)ていうらしいぜ。あと、原理については俺もよく分からないんだよな……分かるのは全ての異能を打ち消すってことぐらいかな?」

「原理不明の能力、ですの?……そんなの、初めて聞きましたわ」

 

 レベル関係なく能力を打ち消すという無茶苦茶な力だけでも驚きに値するのだが、それに加えて原理が分からないとなれば一体彼の力はどこから来ているのだろうか?

 それが分からない以上、学園都市が当麻をレベル0及び無能力者扱いにしているのも理解できる。

 

「(お姉さまが勝てないと言っていたのも、これが原因でしたのね……)」

 

 いくらレベル5の御坂とはいえ、当麻の右手で電撃を含む全ての攻撃を弾かれてしまえば苦戦は必須。

 そうなれば必然的に肉弾戦に持ち込むしかなくなるのだが、かなり身体能力の優れる御坂がそれでも勝てていないことを考えると、当麻は肉弾戦にも強いということなのだろう。

 

「(……どうにか、風紀委員(ジャッジメント)の一員にしたい逸材ですわね)」

 

 度胸もある実力もある、そして自分と同じかそれ以上の正義感も持ち合わせている。

 そんな彼が風紀委員(ジャッジメント)ならば、どれほどよいだろうか?

 黒子は歯がゆさから思わず地団駄を踏みそうになりつつも、落ち着いてこれまでの話をまとめた。

 

「とりあえず、貴方はお姉さまと何か関係を持っているわけではない。ということでよろしいですの?」

「ああ、別に関係も何も友達ぐらいの関係だと俺は思ってるよ」

「友達……ですのね」

 

 当麻は友達程度の関係だと言っているが、御坂が彼に向ける目は明らかに友達に対しての目ではない。

 口や態度ではツンツンとした様子を見せるものの、彼と会った時の御坂はどことなく嬉しそうであり、 大覇星祭でフォークダンスを一緒に踊った際の彼女の顔は真っ赤に染まっていたように見えた。

 とはいえ、肝心の当麻が恋愛的な感情を持っていないことを考えると、告白でもしない限り御坂の恋が実るのはまだまだ先になるのだろう。

 

「(お姉さまも報われませんわね……)」

 

 大きく溜息をつきつつも、話が一段落したと見た黒子はようやく運ばれてきた料理に手を付け始めるのだった。

 

「長々と話に付き合わせてしまい申し訳ありませんの。よろしければ、追加の注文もどうぞ」

「い、いいのか?白井?」

「はい、言った通り好きなだけ注文していただいて構いませんの」

「そう、か。じゃあ、遠慮なく食べさせてもらうよ……ありがとな」

 

 そう言って礼を述べ、子供のような無邪気な笑顔でメニュー表を見つめる当麻。

 きっとレベル0故に奨学金も少なく、彼が言うように本当にお金がなく中々苦しい生活を強いられているのは間違いないのだろう。

 そんな彼が美味しそうに料理を頬張る姿を見ると、ふと笑みを溢してしまいそうになる。

 

「(また、この方に何か食べさせてあげたくなりますわね……)」

 

 風紀委員(ジャッジメント)でもないというのに命がけで人助けを行い、何の見返りを要求することのない彼。

 その姿勢は聖人のように美しいが、たまには美味しい食事を摂るという些細な見返りぐらいはあってもよいだろう。

 

「(どうにか、風紀委員(ジャッジメント)に来ていただけないでしょうかね……?)」

 

 先ほど薄っすらと思った戯言を強く胸に抱きつつ、黒子は当麻との食事を楽しむのであった。

 

 

**

 

 

 レストランで十二分に食事を摂った二人は早速目的であった衣料品店へと向かった。

 当初から当麻が「安い服でいいよ」と言っていたように、やってきたのは彼が普段利用しているという格安の服を売る店。

 お嬢様の黒子からすれば信じられないほど生地や元の素材がよろしくない物ばかりなのだが、彼がこれでいいというなら口を出すのも野暮な話だろう。

 

「上条さん、とりあえず欲しい服があればかごに入れて持ってきてくださいな。お約束通り、全額わたくしが払いますので」

「いやー、悪いな白井。なるべく金がかからないよう、安いやつにするからさ」

 

 そう言って若干申し訳なさそうな顔でかごを持ち、必要であろう下着やシャツ等をかごに入れていく当麻。

 どの値札を見ても1000円を超えるものがなく、まさに格安店といった値段の商品ばかりが店内には並んでいた。

 そうして一通り狭い店内をぐるりと回ると、あっという間に当麻は必要不可欠な衣類等をかごに入れ終わり、流れるように黒子は会計を済ませた。

 途中、

 

『遠慮なさらず、もっと買っていただいても大丈夫ですのよ』

 

 若干遠慮気味であった当麻の背中を押し、黒子はプライベートで着れるであろう服を何着かかごへと入れさせたりなどした。

 それでも会計は五千円すら切るなど、如何に当麻が切り詰めた生活をしているのかを黒子は金額をもって知ることとなった。

 

「(今度また、衣服を買ってさしあげた方がよろしいかもしれませんわね……)」

 

 そうして、気付けばあっさりと当麻の願いであった服を買ってほしいという目的を果たした黒子。

 以前の黒子であれば、この時点で適当な理由をつけて当麻と別れそうなものなのだが、今の彼女はそれとは全く正反対のことを考えていた。

 

「(もう少しだけ、もう少し……お話をしたいですの)」

 

 レストランにて既に聞きたいことは全て聞いた。

 だが、まだまだ彼と話をしたい……もっと言うならば彼と一緒に居たい。

 不思議と黒子はそんなことを無意識に考えつつ、ふと手元の携帯を開いた。

 

「(……まだ、時間はありますわね)」

 

 時刻は夕方にはまだまだ程遠く、余裕のある時間。 

 それだけを確認した黒子は、不意に当麻へと声をかけた。

 

「上条さん、まだお時間は大丈夫ですの?」

「ん?ああ、全然大丈夫だ」

「でしたら、少しばかりわたくしの買い物に付き合っていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「いいけど……俺が一緒だと、色々と誤解されないか?ただでさえ、二人で飯食ってるわけだし……」

「大丈夫ですの、誤解されたところで解けばよろしいのですから」

 

 いらぬ心配をする当麻にクスリと笑いかけつつ、さりげなく彼と手をつなぐ黒子。

 まだまだ、この貴重な休日を共に過ごせる。

 その嬉しさもあったのだろう、彼女の表情は敬愛する御坂と居る時と変わらぬほどに綻んでいるように見えた。

 

 

**

 

 

「(やはり、お休みをいただいたのは正解でしたわ……)」

 

 数日前は怪我から復帰したばかりだったというのに休日返上で働く羽目になり、以前より楽しみにしていた御坂や初春・佐天といった面々との食事会もできなかった。

 そんな散々な日から一転し、今日は非常に素晴らしい一日を送れている。

 それは全て、目の前の殿方のおかげだ。

 

「上条さん、この服はどうでしょうか?」

「ど、どうって……?」

「んもう!どうと聞かれたら、似合ってるという言葉ぐらいかけてくださいまし」

「あはは、悪い悪い」

 

 上条当麻。

 自分が目の敵にしていた相手であり、御坂お姉さまと良からぬ関係になろうとしている疑いのあった類人猿。

 仲良くすることは有り得ないとまで思っていた存在の彼だが、自分は今その彼と仲良く買い物をし、この時間を心の底から楽しいと感じている。

 

「(不思議です、の……)」

 

 前まで冴えない顔をする平凡な男にしか見えていなかったというのに、現在の自分にはきりっとした顔をした勇敢な男に見える。

 思わず、見惚れてしまいそうになるほどに……

 

 

**

 

 

 黒子と当麻、二人して街で買い物を存分に楽しんでいると気が付けばすっかり陽は落ちていた。

 黒子は常盤台の寮の門限まで数時間以上余裕があるが、当麻は居候のシスターが居ることもあって急ぎ自身の寮へと帰って夕食の準備をしなければいけないそうだ。

 

「(名残惜しいですが、ここでお開きですわね……)」

 

 休憩していたカフェの席で軽く溜息を吐くと、黒子はカップに僅かに残っていた紅茶を口へと流し込んだ。

 

「上条さん、そろそろお開きにいたしましょう。確か居候の方が居られるんですわよね、お早めに帰られた方がよろしいのでは?」

「そうだな、今日は帰りにスーパーも寄らないといけないし……って――今日はタイムセールの日だった!」

 

 しまった、とばかりに頭を抱える当麻は焦った様子で荷物をとりまとめ始める。

 そして、一瞬の内に荷物をまとめ終わると、不意に黒子へ軽く頭を下げた。

 

「白井、今日は本当にありがとうな。お前と一緒に買い物ができて楽しかったよ」

「……っ!!」

「それじゃ、上条さんはここら辺でお暇させてもらいますよっと!」

 

 当麻の屈託のない笑みに魅せられ、咄嗟に言葉が出てこなかった黒子。

 何か最後に言いたいことがあったはず。

 その言葉が出てこぬ合間に、当麻が席を立とうとして……

 

「か、上条さん!」

 

「……!」

 

 席を立ちかけた当麻を咄嗟に呼び止めた黒子は、反射的に胸の内に秘めていたことをそのまま口に出すのだった。

 

「また、わたくしと会って……いただけますでしょうか?」

 

 今日彼と会ったのは、あくまで残骸(レムナント)事件で命を救われた恩を返すため。

 その恩返しを一応は済ませたなら、彼とこれ以上関わる理由はないはずだった。

 しかし、今日一日を通して「上条当麻」を知った黒子は、どうしても彼とまたプライベートで会いたいと心の底から思ったのだ。

 

「(都合がよいかもしれませんけどね……)」

 

 これまで露骨に彼を嫌がる言動を繰り返したことを鑑みれば、当麻には面倒くさい女だと思われていても仕方ない。

 仮にNOと言われても、何も文句は言えなかった。

 そんな不安な気持ちを抱えて黒子が返答を待っていると、突然――頭部から温かい手の感触がじんわりと伝わってきた。

 

「ぇ……?」

 

「また、暇があるときには連絡してくれ。俺も白井みたいな可愛い子と一緒に買い物なら喜んで行くからさ」

 

 そう言って笑いかけつつ黒子の頭を数回撫でると今度こそ当麻は席を立ち、小走りで喫茶店を後にしていった。

 

「ふぇ……ぇ?」

 

 何の脈絡もなく殿方である当麻に頭を撫でられ、黒子は茫然自失。

 数十秒間は何も考えることができずに思考をフリーズさせていた。

 だが。

 

「……っ!!」

 

 我に返った黒子がようやく自身に降りかかった出来事を飲み込むと、その顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていく。

 

「(あ、頭をなで……撫でて、わたくしのことを可愛いと……っ!)」

 

 口元を抑え込み、叫び声を上げそうになる自分を必死に制御する黒子。

 心臓が高速で脈打ち、今にも口から飛び出してきてしまいそうな感覚に陥りながらも、どうにかテーブルにあったコップ一杯の水を飲むことで身体を落ち着かせる。

 それでも胸のときめきは抑えることができなかった。

 

「(上条さん、あなたという人は……本当に罪な人ですの……)」




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(アニメ勢なので原作の設定等で間違いがございましたら、優しく指摘していただけると嬉しいです)

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