とある風紀委員の恋模様   作:若杉優太(テト/teto)

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黒子と、お呼びください(前編)

 風紀委員(ジャッジメント)である白井黒子が暴行を受け、スキルアウトに誘拐されるという事件が起きた翌朝。

 早速、黒子の慕う御坂美琴には朝一で黒子の同僚である初春飾利を通して情報が伝わってきた。

 

「初春さん、それ本当なの!?」

『……はい、警備員(アンチスキル)の方にも確認を取りましたが間違いないようです』

「……っ!?」

 

 電話越しに昨晩黒子がどのような目に遭わされたのかを聞き、寮のベッドの上で唖然とする御坂。

 昨日はやけに嬉しそうに出かけて行った黒子を笑顔で送り出した御坂であったが、彼女が夜……寮の門限を過ぎても帰らなかった時は不安で胸が張り裂けそうになるほどに心配をした。

 当然ながら寮監にも報告をし、寮監は警備員(アンチスキル)に連絡するなど対応を取ってくれたが、一向に黒子は帰ってくることなく御坂は眠れない夜を過ごし気付けば朝まで目を開けていたのだ。

 

「それで黒子は、今どこに居るの?」

『第七学区の病院に居るそうです。幸いにも軽傷なそうで、数日ほどで退院はできるとは聞きましたが……』

「心配、よね……」

 

 とりあえず黒子が無事であることは分かったものの、やはり夜通し彼女の帰りを待っていた御坂としては今すぐにでも黒子の顔を見に行きたい。

 しかし、今日は休みでも何でもない普通の平日。

 当然ながら学校に行かなくてはいけない。

 

「初春さんは、今日中に黒子のお見舞いはするの?」

『はい、今日はたまたま非番の日でしたから学校が終わり次第お見舞いに行こうかと』

「そっ、か。うん、分かった……私もできる限り早く黒子の所に行くわ」

『そうしてあげてください、白井さんも御坂さんが来たら喜びますよ!』

「ふふっ、そうよね。きっとすごい喜んでくれるわよね」

 

 御坂は初春の言葉にクスリと笑みを溢しつつ、以降数分間ほど話し込んだ後に電話を終えた。

 直後、すぐさま御坂は身支度を始めた。

 当然、学校に行く準備などではない。

 

「(黒子が心配で授業なんか受けてられるわけないでしょ……!早くあの子の所に行ってあげなきゃ!)」

 

 元より学園都市第三位の能力者である以上、1日程度授業をすっぽかした所で大した影響は出ない。

 もちろん無断欠席などご法度ではあるが、今そんなことを気にしている場合ではないのだ。

 自分を慕ってくれる可愛い後輩であり大切なルームメイトの顔を見る方が、授業よりも何倍も価値がある。

 

「確か初春さんが言ってた第七学区の病院って……ああ、リアルゲコ太先生が居る所か」

 

 今までも何回か世話になり、自身の妹たちも未だに世話になっている病院。

 あそこであれば、怪我の処置等は問題ないはず。

 改めて黒子が無事であったことに胸を撫でおろした御坂は、急いで着替えを始めるのだった。

 

「(お見舞いの菓子折りも買っていかなきゃね、黒子何が好きだったかな……?)」

 

 

**

 

 

 スキルアウトのチームを一人で壊滅に追い込み、どうにか身体の動かない黒子を背負って第一〇学区から第七学区の病院まで辿り着いた当麻。

 当初は平気そうにしていた彼も、スキルアウトから受けた度重なる拳打によるダメージに加え、途中タクシーを使ったとはいえ長距離を少女一人を背負ったまま歩いたことにより身体がボロボロになっていた。

 もちろん、そんな状態の身体が長く持つわけもなく黒子を冥土帰し(ヘブンキャンセラー)に預けると、その直後――

 

「(ま、ちょっと無理……しすぎたよな……)」

 

 自分でも無理が祟っていたことを自覚していた当麻は少し満足気な表情を作り、そのまま意識を失った。

 

……

 

 当麻によって病院へと連れてこられた黒子は真っ先に冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の診察を受けた。

 スキルアウトの言っていた通り、全身麻痺に関しては診察を受けるごろには無くなっており、暴行を受けた箇所に関しても1日程度休めば治るほどの軽い打撲で済んだ。

 

「(良かった、ですの)」

 

 診察結果にひとまず安堵した黒子だったが、彼女には一つ気がかりなことがあった。

 それはやはり、彼……上条当麻のことだ。

 

「(わたくしのために、ボロボロになって……)」

 

 まだまだ知り合い程度の関係であるにも関わらず、攫われた自分を一人で救出しに現れ、動けない自分を背負って病院にまで連れてきてくれたヒーロー。

 そんな彼は今、現在病室のベッドで疲れ果てた様子で眠りについている。

 黒子が見た限り外傷らしき外傷はなく、単純に疲労により倒れてしまったのは理解ができるが、それでも彼のことが心配でたまらなかった。

 

「(あのお医者様は、大丈夫だと言っていましたが……心配ですの)」

 

 背負われている最中に礼は言ったが、改めてキチンと礼を言いたい。

 そして、彼が回復した暁には何らかの形で少しでも今回作ってしまった借りを返したい気持ちで黒子は胸がいっぱいだった。

 

「今後、上条さんには頭が上がらなくなりそうですの……」

 

 スキルアウトになすすべなく誘拐されてしまった自分の不甲斐なさに溜息をついていると、黒子はふと愛する御坂のことを頭に思い浮かべた。

 

「お姉さまには、心配をかけてしまったかもしれませんわね……」

 

 現在黒子が居る場所は寮ではなく病室。

 もちろん大怪我をしているわけではないが、医者に「もう少し休んでいた方がいいよ」と言われてしまっては逆らうこともできず、渋々ではあるものの丸一日入院することとなった。

 もっとも、スキルアウトに制服を引き裂かれてしまった以上、替えの制服がなければ常盤台の規則がある関係で外にも出歩けないのだが。

 

「(つくづく、面倒くさいことをしてくれましたわね……)」

 

 スキルアウトに誘拐されなければ久しぶりに御坂と熱い夜を過ごせたはずだが、その貴重な夜は過ぎ去り既に時刻は早朝。

 熱い夜を過ごすどころか寮に帰ることもできず、親愛なる姉さまに迷惑と心配をかけてしまった。

 その事実を改めて認識した黒子は先ほどよりも大きく溜息をつき、自分の運のなさを呪った。

 

「ついて、ませんの……」

 

 起床して早々にどんよりとした気持ちになっていると、突然ドアがノックされる音が聞こえた。

 診察してくれた医者だろうか?

 そう思ったのも束の間、ノック音の後に聞こえたのは()の声であった。

 

『白井ー、身体は大丈夫そうかー?』

 

「っ……!上条さん!」

 

 声が耳に届いた瞬間にパッと顔を明るくした黒子は、一瞬の内にドアの前へと駆け寄り、彼の顔を見ようとドアを開けていた。

 

「おはようですの、上条さん……!」

「ああ、おはよう白井。昨日は大変だったけど、身体の調子は大丈夫か?」

「ええ、概ね問題ないですの!上条さんも元気で何よりですわ。それより、お話したいことがありますので病室の中でじっくり話をさせてくださいな」

「お、おう……!」

 

 そう言って黒子は当麻に笑顔かつ元気に返事を返すと、そのまま彼の手を握り病室の中へと当麻を招き入れた。

 以前の黒子であれば彼を病室に招くどころか、当麻に作り笑いすら返さなかったはず。

 しかし、たった今彼へ向けていた笑顔は心の底からの笑み……普段愛する御坂へと向けているような自然な笑みであった。

 

「(白井って、こんなに笑ったら可愛いんだな……)」

 

 普段鈍感な当麻もその笑顔に一瞬ドキッとさせられつつ、彼女の手に引かれるままに病室へと入った。

 

 

**

 

 

「まず改めて……昨日はありがとうございました。上条さんには本当に感謝しても、しきれませんの」

 

 ベッドの上に二人で腰を下ろすや否や、真っ先に頭を下げる黒子。

 残骸(レムナント)の一件に続いて、今回も危機を救われる形となり黒子はまたしても当麻に借りを作った。 

 この借りは必ず返さねばいけないだろう。

 

「上条さん、わたくしが退院しましたら……あなたに恩返しをさせてください」

「い、いや……別に恩返しなんて――」

 

「やらせてくださいの、上条さん。わたくし、本当にあなたに救われたのですから……」

 

 恩返しなど、別にいい。

 数日前と同じ流れでそう言おうとした当麻に先んじて言葉を重ね、彼の瞳をじっと見つめる黒子の切なげな表情。

 そんな彼女にNoと言えるわけもなく、当麻は諦めて首をこくりと頷かせた。

 

「分かっ、た……じゃあ白井に何か頼み事を考えておくよ」

「……!はい、何でもお聞きしますの!」

 

 当麻の言葉に黒子はパッと表情を明るくすると、躊躇うことなく隣り合っていた彼の身体に自身の腕を絡ませた。

 当然ながら彼女のいきなりのスキンシップに驚く当麻ではあったものの、当の黒子は全く気にする素振りを見せず、安堵しきった様子で当麻の身体に身を委ねていた。

 

「し、白井……さん?ちょっと、密着しすぎじゃないでしょうか……?」

「ふふっ、そうでしょうか?わたくしは、そうは思いませんけど……」

 

 戸惑う当麻をからかいつつ、黒子は引き続き彼の身体に触れ続ける。

 もしも御坂、あるいは初春・佐天に目撃されれば恋仲と誤解されかねない行動だが、一切気にすることなく黒子は当麻の傍に居続けた。

 

「(……やっぱり、安心しますの)」

 

 昨日スキルアウトに散々な目に遭わされただけあってか、こうして落ち着いた今ですら犯されかけた時の記憶がフラッシュバックしそうになる。

 いかに自分が風紀委員(ジャッジメント)とはいえ、昨夜植え付けられた恐怖は今後の活動に支障が出てしまうのではないかと思うほどに大きかった。

 しかし、当麻の傍に居ると不思議と恐怖や不安から解放され、穏やかかつ安らいだ気分になれる。

 それはやはり、彼が自分を救ってくれたヒーローだからだろう。

 

「……しばらく、ここに居ていただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ、白井がそう言うなら何時間でも居るよ」

「ありがとうございますの、では……お言葉に甘えさせていただきます」

 

 先ほどまでは戸惑い気味だった当麻も、黒子の心情を察してか優しい笑みを浮かべつつ彼女の願いを快く聞き入れた。

 

「(白井も、女の子だもんな……)」

 

 レベル4の大能力者であり風紀委員(ジャッジメント)、なおかつ常盤台中学に通うお嬢様ということで勘違いしそうになるが、黒子は年齢的に言えばまだまだ幼い少女。

 もしも同年齢で同じような目に遭えば、街に出ることすらできなくなるほどのトラウマが植え付けられ、仮にヒーローである当麻でさえ男性ということで会うことを拒絶してもおかしくないはず。

 しかし、黒子は気丈な様子で笑みを見せ、当麻の身体へ穏やかな顔で身を委ねていた。

 

「(信頼、してくれてるんだな……)」

 

 類人猿と呼ばれ、過去にはドロップキックとビンタをされたこともあって黒子は自分を嫌っているのだと思っていた。

 だが、今の彼女はむしろ自分に対して好意を持っているかのように、嬉しそうな表情や態度を全面に出している。

 当然、恋愛的な好意ではないのだろうが……

 

「上条さんの横に居ると、落ち着きますの……不思議ですわ」

 

「そっか、そう言ってくれると俺も嬉しい」

 

 そうして二人は時間も忘れて、落ち着いた一時を過ごした。

 互いに、穏やかな笑みを浮かべながら。

 

 

**

 

 

「ふぅ、黒子……大丈夫かな?」

 

 朝一番のバスに乗り込み、知り合いの誰よりも早く黒子の入院する病院へとやってきた御坂。

 当然ながら寮を出発する際に鬼の形相で寮監に「どこへ行くんだ」と詰め寄られたが、負けじと寮監を睨み返しながら黒子の見舞いに行く旨を伝えると、それ以上は寮監も言葉を発しなかった。

 きっと、諸々の事情を理解してくれたのだろう。

 

「(まぁ、今回に限っては非常事態だしね……)」

 

 自分のパートナーとも言うべき黒子が、とんだ災難に遭ってしまった。

 そのことに大きく溜息を溢しつつ、御坂は自動ドアを抜けて病院内へと入っていくと、そのまま受付窓口の方へ進んでいく。

 

「あ、すいませーん。ここに入院している白井黒子の友人なんですけど……」

 

 そう言って窓口に居た受付の女性に声を掛けると、色々とかなり世話になっている病院ということもあってか、すぐさま御坂のことを見知った様子の女性は返事を返した。

 

「あっ、御坂美琴さんですね。今日はお見舞いに来られたんですか?」

「はい、何でもスキルアウトに怪我をさせられたって聞いてて……」

「なるほど……朝から大変ですね。白井さんは院長室の隣の部屋にいらっしゃるので、早く行ってあげてください」

「はい!ありがとうございます!」

 

 丁寧な対応の受付の女性にきっちりと頭を下げた御坂は足早にその場を後にすると、一刻も早く黒子の顔を見ようと病院の階段をダッシュで駆け上がった。

 

「(元気に、してるわよね……)」

 

 初春からの話によれば、黒子がスキルアウトに集団で暴行を受けたことは現時点ではっきり分かっているらしいが、誘拐されてからのことは一切不明であるそう。

 とはいえ、病院側から打撲程度の傷と診断が出ている以上は誘拐されてから何か酷い目に遭わされたわけではなさそうだ。

 

「(本当に、何もされてないといいけど)」

 

 そんな一抹の不安を抱えつつ病室を目指していると、あっという間に黒子が居るという病室までやってきていた。

 部屋からは特段物音が聞こえてこないため、どうやら黒子は眠りについている様子だ。

 

「眠りが深かったら、顔だけ見て帰ろうかしら……」

 

 きっと落ち込んでいるだろう黒子のために、朝から開店していた学舎の園内にあるスイーツ店のデザートを何種類か購入し、一緒に食べようと思っていたのだが……眠っているのなら仕方ない。

 軽いとはいえ怪我を負っている彼女を無理に起こすことはないだろう。

 そう考えつつ、御坂は病室のドアに手を――

 

『そういえば……お礼は何がよろしいでしょうか?』

 

「……っ!?」

 

 病室に入ろうとしていたのも束の間、静かだった病室内から黒子の声がした。

 しかも、どうやら誰かと喋っているようだ。

 

「(ゲコ太先生とでも、喋ってるのかな……)」

 

 一瞬そう思った御坂だったが、会話の内容的にあの医者と話しているわけではなさそうだ。

 ならば一体誰と喋っているのだろうか?

 見当もつかなかった御坂は、病室の扉へと聞き耳をたてる。

 すると、次に聞こえたのはどこかで聞き覚えのある彼の声だった。

『うーん、礼って言ってもなぁ……前みたいにちょっとばかし飯を食わせてくれれば満足だけどな』

『そ、それではわたくしが納得いきませんの!もっと欲張っても罰は当たりませんのよ!』

『欲張る、ねぇ。正直言って、上条さん(・・・・)は白井みたいな可愛い子と食事に行けるだけで贅沢だなと思うわけですよ』

『……!また、可愛いと……言われましたわね』

 

「(え……!?な、なんでアイツがここに居るのよ……!)」

 

 全く想定外の人物が病室内に居たことで、思わず声を上げそうになるのを必死に抑えた御坂は、すぐに病室に入ることはせずに一旦パニック状態の頭を整理した。

 

「(確か黒子って、アイツのこと嫌がってたわよね。なのに、どうして一対一で会話してるの……?)」

 

 比較的交流の多い自分と当麻が恋仲なのではないか、とあらぬ疑いをかけていた黒子は当麻を「恋敵」とみなし、露骨に彼を嫌がる行動を以前より取っていた。

 例を挙げるならば大覇星祭で、あの時はフォークダンスの最中に当麻の頭へ思い切りドロップキックをかましていたのを目の前で見ている。

 それだけに、病室で二人きり……しかも何やら仲睦まじい様子で会話しているのを聞くと少しモヤモヤとした気持ちになってしまう。

 

「(ま、まぁ……!詳しいことは黒子に聞くのが早いわよね!)」

 

 いつまでも病室の前で足踏みをしていてもしょうがない。

 瞬時に思考を切り替えた御坂は、動揺する心を落ち着かせつつ今度こそドアを開けて病室へと入っていくのだった。

 

 

**

 

 

 当麻が黒子の部屋にやって来てから約1時間。

 二人がのんびりと会話をしながら穏やかな時間をしていたのも束の間、突如として静かだった病室の扉がガラリと開けられる音がした。

 あのカエル顔の医者でも来たのだろうか?

 そう思って扉の方へ二人して顔を向けると、そこに居たのは自分たちのよく知る彼女だった。

 

「し、失礼するわよー!」

 

「っ!お、お姉さま……!!」

 

「おおっ、ビリビ――じゃなくて御坂か」

 

 朝早くからの親しい人の来訪に若干面を食らいつつも、すぐさま御坂の顔を見て嬉しそうに顔を綻ばせた二人。

 特に彼女に想いを寄せている黒子は、すぐさまベッドから立ち上がり彼女の胸へと飛び込んでいた。

 

「わ、悪いわね朝早くから来て。どうしても黒子が心配で――きゃっ!?」

「お、おねえしゃ、まぁぁぁぁ!!」

「ちょっ!!い、いきなり飛びついてくるなんて……っ!?」

「早くお会いしたかった、ですのー!!」

 

 テレポートを用いた黒子の動きに反応できず、一瞬にして彼女に抱き着かれる御坂。

 普段であれば即座に電撃を浴びせて引き剥がすところなのだが、きっと辛い思いをしたであろう黒子の心情を考えた御坂は戸惑いながらも、彼女の抱擁を受け入れた。

 

「(たまには、ね……)」

 

「ああん!お姉さま……!麗しきお姉さまぁ!黒子は少し会えないだけで、孤独死してしまいそうでしたの……!」

「はいはい、そんな様子だと随分元気そうね」

「はいですの!ですから、お姉さま……ぐへへ」

 

 御坂と会えたことで本当に元気が出たのだろう。

 先ほど当麻と話していた穏やかな顔を一変させた黒子は元気が出すぎたあまり、いつもの変態モードに入ってしまった。

 

「く、黒子……?って、ひゃっ!?ちょっ、胸を揉むな……っ!」

「ぐへへ、げへへ……お姉たまぁ。昨日の分だけ、甘えさせてもらいますのぉ……」

 

 変態全開のまま御坂の身体をいやらしく触り始める黒子。

 これが常盤台の寮の中であれば、許容はできないもののマシ……なのだが。

 

「(ば、馬鹿じゃないの……っ!今はこいつも見てるのよ……っ!?)」

 

 いつもの変態行為を知らないであろう当麻の前であるにもかかわらず、堂々と百合展開を繰り広げる二人。

 もちろん服を脱がせるなどの過剰な行為には及んでいないが、それでも黒子の手によって御坂の胸が弄ばれる様を見た当麻は、若干引きつった顔で二人を見守っていた。

 

「あ、あはは……お前らって一応ルームメイトなんだよな?いやー、まさかそういう仲だとは思わなかったぜ……どうかお幸せにー」

「へ?ち、違う!誤解よ!」

 

 完全に百合、レズの関係に二人があると勘違いした当麻は穏やかな顔で御坂を見つめる。

 当然ながら誤解だと弁明した御坂だったが、クライマックスとばかりに口をすぼませていた黒子が目の前に居ては説得力は皆無だろう。

 

「さぁ、さぁ……っ!今日こそ黒子とゴールインしましょう!黒子に身体を委ねてくださいな……!」

 

 たまにはいいだろうと一瞬でも甘やかしたのが間違いだったのだろう。

 完全に調子に乗った黒子は両手を広げながらキスをせがむなど、いつも以上にやりたい放題であった。

 すると、遂に今までにないほどに優しい顔をしていた御坂のこめかみに徐々に青筋が浮かんでいき……

 

「どうしましたの、お姉さま……!さぁ、さぁ!黒子と熱い接吻を――」

 

「こんのぉ……!ド馬鹿ぁあああああ……っ!!」

 

「あばばばばばば!ふぎゃぁあああああああああ!!」

 

 調子に乗りすぎた黒子は、いつものように御坂の電撃で黒焦げとなるのであった。

 

 

**

 

 

「ぅ、ぅ……おね、え、さま……がくり……」

「はぁ……ったく。この子はいつもこうなんだから……」

 

 御坂が病院に迷惑をかけぬよう調整したとはいえ、相当キツイ電撃を浴びた黒子は痙攣しながらぐったりと床に倒れた。

 当然、いつもの彼女たちのノリを知らない当麻は若干ドン引きした様子で一連の様子を見ていたが、心なしか幸せそうな顔をする黒子を見て口を噤んだ。

 

「(ま、まぁ……インデックスが俺に噛みついてくるみたいなもんか……)」

 

 苦笑いを溢しつつ当麻が無理やり自分を納得させていると、唐突に御坂は黒焦げの黒子を放置して当麻の方へと顔を向けた。

 

「そういえば、アンタはなんで黒子の病室に居るの?」

「え?それは、その……色々な事情がございましてね……」

「事情って何よ?別に話してくれたっていいじゃない。てか、黒子がこんなことになってる以上はアンタに聞かせてもらうわよ」

「ぅ……分かったよ、まぁ別に隠すようなことでもないから話すさ」

 

 かなり衝撃的な出来事だっただけに話すことを躊躇した当麻ではあったが、黒子のルームメイトである御坂には話しておいた方がいいだろう。

 そう判断し、当麻は昨日の夜の出来事を包み隠すことなく事細かに御坂へと話した。

 すると、やはりというべきか……彼女の表情はみるみるうちに暗いものとなっていく。

 

「……初春さんからは暴行を受けて、攫われたってことまで聞いてた。でも、もしかしたら身体を好き勝手にされてたかもしれないなんて――私、知らなかった」

 

 大事な後輩で、心の底から大切に思っている黒子が自分の知らぬ所で性暴力を受けかけていた。

 その事実を聞き、御坂は酷く落ち込んだ様子で顔を俯かせる。

 

「ごめん、またアンタには借りができちゃったわね……」

「借りなんて思わなくていいんだよ。そもそも今回は白井に借りがあったからな……それを返しただけの話だ」

「……そう。でもこれだけは言わせて、本当に……ありがと……!」

 

 いつも当麻にツンツンした態度をとっているとは思えないほどに素直な感謝を述べた御坂は、恥ずかしがることなくペコリと頭を下げるのだった。

 

「(……白井はよっぽど御坂に大事にされてるんだな)」

 

 黒子が如何に御坂にとって……御坂美琴の世界にとって大事な要素の一つであるかを再認識した当麻。

 今回、自分が黒子を助けに行ったのは間違いじゃなかった。

 そう確信しつつ二人の元気な顔を見れたことに満足した当麻は病室の時計を確認すると、おもむろにベッドから立ち上がった。

 

「それじゃ、上条さんは学校に行きますかね」

「え?ちょ、ちょっと!アンタ身体の方は大丈夫なの?」

「大丈夫だよ、少し筋肉痛になったぐらいだ。それに、出席日数がヤバいから多少のことなら休まずにいかないと留年確定になっちゃうんですよ……!」

 

 スキルアウトと殴り合いをしたと聞いていただけに心配する御坂だったが、当麻の切羽詰まった表情に気圧され、それ以上は何も言うことができなかった。

 

「それじゃ、白井によろしくって伝えといてくれ。俺は急いで寮に荷物を取りに戻るから、じゃあな!」

 

「う、うん!アンタも、無理はしないのよ!」

 

 戸惑いつつも手を振って見送ってくれる御坂に笑みを返すと、当麻は颯爽と病室を後にするのだった。

 

 

**

 

 

 誘拐事件の翌々日、無事に退院を果たした黒子はいつものように常盤台中学の授業に参加し、放課後は風紀委員(ジャッジメント)一七七支部へと向かった。

 そこには当然のように友人の初春と先輩の固法が居り、黒子が支部の扉を開くや否や涙ぐんだ二人が彼女の下へ駆け寄った。

 

「白井さん、本当に無事でよかったです……!」

「良かった……本当に、無事でいてくれてよかった……!」

 

「ちょっ!?お二人とも!抱き着くのはいいんですが、少しばかり力が強いのでは……!?」

 

 急な風紀委員(ジャッジメント)の仕事に追われ、昨日行くはずであった黒子の見舞いに行くことができなかった二人。

 警備員(アンチスキル)から打撲程度のケガと聞かされていたものの、スキルアウトに誘拐されたことを同時に聞いていた二人は一刻も早く元気な姿の黒子を一目見たかったのである。

 

「(お二人には、ご迷惑をお掛けしましたわね……)」

 

 傍から見れば大袈裟ともいえるほどに喜びを露わにする初春と固法だったが、それは二人にとって黒子が非常に大事な存在だと認識しているからこそ。

 ここまで喜んでくれると思っていなかったものの、黒子も悪い気分は一切しなかった。

 

「(こんな温かい場所に帰ってこれたのも、全てあなたのおかげですの……)」

 

 二人にギュッと抱き着かれながら黒子はしみじみと友の大切さを噛み締めつつ、心の中で改めて()に感謝を述べるのだった。




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