「(つ、遂に下の名前で呼んでいただくとは……)」
先ほど入っていたステーキ店の完全個室での出来事を思い出し、当麻と二人で街をぶらつきながら真っ赤にした顔を俯かせる黒子。
以前より親しくなりたいという思いを持ち、最近では恋慕の感情すら抱き始めていた存在である隣の彼。
今のところ彼にはっきりとした気持ちを伝えたわけではなく、まだ片思いに終わっている。
しかし、下の名前で呼び合ったことで黒子の秘めていた想いは更に強くなった。
「あ、あの……かみじょ――と、当麻さん」
「ん?どうした……?」
「い、いえ!呼んでみたかっただけですの……!」
「お、おう。そっか……」
特段用事があるわけではないに関わらず、当麻の名前を呼ぶ。
一見意味のないことに思えても、黒子にとっては飛び上がりたくなるほどに幸福なことであった。
「(とうま、さん……)」
彼の名前を心の中で復唱しつつ、ごく当たり前のように当麻の肩に寄りかかって彼と仲睦まじく歩く黒子。
少し前であれば殿方と一緒に歩くことさえ全力で拒否したであろう彼女が、今では当麻に完全に甘えた様子を見せている。
恐らく、こんなところを常盤台中学の誰かに見られれば噂にされるのは時間の問題だが、全力で彼との時間を楽しんでいる黒子にとっては最早どうでもいいことであった。
「(もっと、もっと……一緒に居たいですの……)」
ゆっくりと食事を摂って話をしたこともあり、既に陽は落ち切っている。
となれば当然寮の門限までは二時間もないぐらいになっているが、黒子は門限を破ってでも当麻と一緒に居たいと思っていた。
そんな彼女の強い想いを知る由もなく、当麻は黒子と共に夜の街をぶらつくのであった。
……
…
「(やっぱ、しら――黒子って可愛いよなぁ……)」
当麻にデレデレな様子で身体にくっつく黒子とは対照的に、至って平静な様子で彼女と歩く当麻ではあったが、その顔の下では密かに心臓をバクバクと打ち鳴らしていた。
その理由は、隣で歩く彼女に見惚れていたからに他ならなかった。
「(こんなに甘えたとこなんて、見たことねぇぞ……)」
いわゆるギャップ萌えというやつであろうか。
先ほどの一七七支部での
それだけに、彼女の意外な一面に思わず心を奪われそうになっていた。
「(や、やべぇ……黒子のこと直視できねぇ……)」
思わず彼女を抱きしめたくなる衝動に駆られそうになった当麻は必死に彼女への劣情を抑え、気分転換を図る目的で以前より聞こうと思っていたことを彼女へと聞くことにした。
「そ、そういえば黒子……今更だけど足はもう完治してるのか?」
「へ?ああ……
そう言って、顔を朱色に染めた黒子は一層当麻の身体にくっつく。
そんな彼女の行動を受け、当麻は劣情を抑えるどころか更に昂らせてしまった。
「(ぅ……可愛すぎだろ……!)」
当麻の好みは本来「寮の管理人タイプの年上のお姉さん」なのだが、あくまでそれはふわっとした理想であり、自分を好いてくれるならば年下でも構わないとも思っていた。
それだけに正義感が強く真面目であり、最近では自分に好意を抱いてくれている節のあった黒子には当麻も心を惹かれつつあったのである。
「(黒子みたいな女の子が恋人だったらなぁ……)」
当の黒子が完全に恋愛感情を持って接していることを知る由もなく、彼女へ少しばかり想いを募らせる当麻。
そうして互いに恋慕の情を抱えながら夜の街を散歩していると時はあっという間に経過し、気付けば時刻は夜の9時に差し掛かろうとしていた。
当麻の住む寮には門限というものがないものの、常盤台中学の寮にはしっかりと門限があったはず。
それを覚えていた当麻は、携帯の時刻を見て黒子に問いを投げる。
「あ、もうそろそろ9時になるぞ。黒子は門限とか大丈夫なのか……?」
「え、あ……もうそんな時間ですの?」
「ああ、人通りも少なくなってきたしショッピングモールも閉店時間だ。そろそろお開きにしてもいいんじゃないか?」
「ぁ……は、ぃ……」
御坂が以前「うちの寮は門限に厳しいのよ!」と言っていたことを思い出し、親切心から黒子に時刻を教え、帰宅を提案した当麻。
しかし、それを聞いた黒子はみるみるうちに表情を沈ませていってしまった。
「(え……?俺、なんかまずいこと言ったか……!?)」
ピタリと歩みを止め、今にも泣きだしそうな顔で当麻の腕にグッと力を込めてしがみつく黒子の姿。
何か彼女の琴線に触れるようなことでも言ってしまったか?
心配するように当麻が彼女の顔を覗き込むと、黒子はか細い声で言葉を紡いだ。
「あ、の……当麻、さん。一つ、お願いが……」
「な、なんだ?言ってみてくれ……」
黒子を沈んだ表情のまま御坂の元に帰せば、何と言われるか分かったものではない。
そう思った当麻は、動揺しつつも彼女の願いを聞き届けるべく耳を澄ますのであった。
「あの、よろしければなんですが――」
**
「インデックスー、ただいまー……って今日は居ないんだったよな」
普段通り自身の住む学生寮に戻った当麻は、部屋のドアを開けるや否や居候であるシスターの名前を呼ぶ。
いつもなら銀髪の少女が笑顔で迎えてくれる――が。
今日に限っては担任である小萌の家に世話になっているため、彼女からの応答は当然なく部屋は真っ暗だ。
となると、今日は当麻一人で夜を明かすことになる……はずであった。
しかし。
「あの、当麻さん……本当によろしかったので?」
「あ、ああ……今日は居候のシスターも居ないし、俺一人だから全然いいよ」
「で、では……お邪魔しますの……」
不安そうな様子で当麻と共に部屋へ入っていくのは、本来なら常盤台の寮に帰っているはずの黒子。
彼女が何故、自身の寮に帰らずに当麻の寮にまで来ているのか。
それは、ここへ連れてきた本人である当麻にもいまいち理解ができていなかった。
「(今夜だけ泊めてください、か……)」
先ほど泣き出しそうな顔で黒子が紡ぎだしたのは、そんな一言。
当然、いくら親しい彼女の頼みとはいえ常盤台のお嬢様に門限破りをさせるわけにもいかないと考えた当麻はどうにか彼女に、御坂の待つ寮に帰るよう説得をした。
だが、説得を始めてから数分も経たぬうちに彼女はとんでもないことを言い出したのだ。
『分かりました……では、わたくし……今日はどこかで野宿することにいたしますの』
そう言って、本当に野宿のために公園へ行こうとした黒子を放置しておくわけにもいかなかった当麻は、半ば彼女に脅される形で自分の寮に連れてくることになったのである。
「(……なんで、俺の寮に来たかったんだろうな?)」
泣き落としのようなことをしてまで自分の寮に来たかったのは何故なのか?
黒子の行動に内心首を傾げつつも、当麻は黒子をリビングへと案内した。
「まぁ、とりあえずそこの机のとこに座っててくれ。お茶でも持ってくるよ」
「あ、ありがとうございますの……当麻さん」
やはり、自身でも先ほどの強引なやり方を後悔しているのだろう。
黒子は若干気まずそうな顔で、当麻に言われるがままカーペットの上にちょこんと座った。
「(ま、インデックスも居なくて寂しかったからいいか……)」
顔見知りとはいえ、年下の女性と夜を明かすことに若干戸惑いはあったが、
そうぼんやりと考えつつも当麻はコップ二つに麦茶を注ぐと、それを持って黒子の対面に座った。
「悪いな黒子、一応麦茶入れてきたんだけど……紅茶とかコーヒーの方が良かったよな?」
「お、お気になさらないでくださいの。元より押しかけてきているわけですし、お茶を出していただくだけでもありがたいですの」
「そっか……なら良かった」
貧乏故に客人をもてなせるような茶菓子も上等な茶も持っていない当麻は、黒子の言葉に安心すると改まった顔で彼女に質問を投げた。
「……ところでさ、黒子って何で俺の寮に泊まりたかったんだ?」
「……っ!それは……」
御坂の言っていたことが本当であれば、寮の門限を破ることは相当リスクのある行為。
しかも、異性の住む寮に無断で外泊していたとバレてしまえば、こっぴどく怒られるどころか外出禁止を言い渡されてもおかしくないはずである。
しかし、そんなリスクを冒してまで黒子は当麻と夜を明かすことを選んだ。
その理由を、当麻は彼女の口から聞いてみたいのだが……
「ぁ、ぅ……その……」
何か特別な事情でもあったのだろうか?
黒子は身体をもじもじとさせ、真っ赤な顔で言葉を詰まらせてしまった。
「く、黒子……さん?」
「あの……当麻さん。今からわたくしが言うことを、笑わないと約束していただけないでしょうか?」
「あ、ああ!笑うわけない!」
不安そうにこちらを見つめる黒子を安心させてやるため、力強く当麻が首を縦に振りつつ返事を返すと、黒子は意を決した様子で言葉を紡いだ。
「わたくし何故か、今日は当麻さんと離れたくなかったんですの。今日だけは、ずっと一緒に居たいって……思ってしまったんですの」
「……!」
「数日前に助けていただいてから、わたくし当麻さんのことで頭がいっぱいで……当麻さんとこうして話をしているだけで胸が高鳴ってしまうんですの」
そう言って告白にも等しい言葉を紡ぎ、艶やかな表情で当麻を見つめる黒子。
普段鈍感な当麻も、そんな彼女がどんな想いを自分へと向けているのかはっきりと理解することができた。
「黒子、お前ってさ……俺のこと好きだったり、するか?」
「……!はい、ですの。異性として、人としてお慕いしておりますの」
「そっ、か……なんか嬉しいな」
年下の女の子に面と向かって好意を口にされる。
自身の記憶がある限りでは、年下どころか女性に告白されたことすら経験すらないだけに当麻は思わずはにかんだ笑みを溢した。
「(女の子に好かれるって、こんなにも嬉しいんだな……)」
既に複数人の女性から好意を持たれていることを全く自覚していない当麻にとって、黒子は初めて自分に明確な好意を伝えてきた相手。
今の今まで不幸気質も相まってか「自分はモテない」と思っていたため、黒子の告白は思った以上に自身の心を震わせた。
「(俺も、はっきり言うべきかな……)」
気恥ずかしい思いを全て押し殺し、自身の内なる想いを包み隠すことなく全て話してくれた黒子。
彼女が全てを打ち明けてくれた以上、自分が何も本音を話さないというのは卑怯だろう。
そう考えた当麻は、真っすぐ彼女を見つめつつ自身の率直な想いを言葉にした。
「もう、この際だから言うぞ黒子」
「え……?」
「俺は、黒子のことが……好きだ。だから、俺の彼女になってほしい」
「ぁ、え……ぁ……?ほんと、に……?」
「ああ、冗談で言うわけないだろ。黒子、俺と付き合ってくれ」
そう言って、当麻は彼女へと頭を深々と下げるのであった。
**
「(これは夢、でしょうか……?)」
以前は彼を「類人猿」と呼ぶほどに毛嫌いしていたが、今は恋焦がれるほどに愛おしい存在。
そんな彼に、今……恋人になってほしいと言われている。
もちろん冗談ではなく、真剣な表情で自分を本気で求めてくれているのだ。
「ひっ、く……ぅ……ぅ……!」
嬉しい、なんと嬉しいことだろうか。
一方的に想いを寄せていたと思っていた相手に「好き」と言われ、恋人になってくれとまで言われた。
その事実を受け止めきれず、黒子は嗚咽を漏らしながら涙を溢し始める。
「ちょっ……!?く、黒子……?」
「す、すいませ……んの……嬉しく、て……涙がっ……!」
心配する当麻に謝りつつ、どうにか溢れ出てくる涙を腕で拭った黒子は目元を真っ赤にしながらも、晴れやかな笑顔で彼へと告白の返事を返すのであった。
「上条、当麻さん……わたくし白井黒子は喜んで貴方の恋人にならせていただきますの……!」
自分が殿方を好きになることなど有り得ない。
ついこの間までは本気で同性の御坂と結婚を考えていた黒子だったが、今は目の前のヒーローと将来結ばれてみたいと本気で考えている。
無論、彼を好きになったからといって自身の胸の内にあるお姉さまへの愛は消えていない。
「(申し訳ありませんの、お姉さま。やはり黒子は、この方が大好きですの)」
彼女の恋していた当麻を奪う結果になったことを心の中で詫びつつ、黒子は改めて当麻と恋仲になれたことを喜ぶのであった。
閲覧いただきありがとうございます、今回入れようと思って入れれなかったので次回はR-18要素も入れようかと思います。
なるべく早めに投稿するので、よろしくお願いいたします!
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