「サーヴァント、ランサー。真名、カルナ。よろしく頼む」
マスター、カルデア内の案内と既に召喚されているサーヴァントの紹介を感謝する。
……。
話は変わるが、オレはどうも口が下手でかつて一言少ないと言われた。
故に。
なるべく誤解や認識の行き違いが無きよう足りた言葉でマスターに忠告すべきことが、召喚されてすぐの身だが一つある。
……聞く姿勢を持ってくれて感謝する。
エラッタが居るだろう、このカルデアには。先ほど遭遇した。
そうだな、満面の笑顔でアイツはオレとの再会を喜んだ。
こんな大変な状況だがまた友達に会えるのは嬉しいとそう言っていた。
生前と変わらんなアイツは。いや性別は変わっていたが。
……性別が変わるのはカルデアではよくある事?そうか。そうか……。
マスターはアイツとも仲良くしていると、そう言うか。
このような状況下だ、無駄に争うよりは余程いい。良いのだが……。
単刀直入に言うぞマスター、アイツに人の心は無い。
……罵倒ではない、事実だ。
本当にアイツは人の心が無い。あったらあんな事はできないだろうよ。
だがこれはアイツの人格面が我が友のように底抜けて悪辣であるといった話とはまた違う。
悪では無い、敵ではない。だが人ではない。
ゆめゆめ忘れるな、マスター。
オレもアイツのすべてを理解している訳ではない、だが確実に言えるのはアイツは他人に好意を寄せる事もある、協調性もある。
我が友ドゥリーヨダナ曰く、オレよりも余程社会性はあると言っていた。
……そうだな、お前は羅刹よりも社会性が無いのかとはよく言われたものだ。
話が逸れたな、オレの社会性のあるかないかはどうでもいい。
エラッタはそのように人の社会に溶け込む。
”人間だと勘違い”してしまう。
……そういう生態のようなものだと言えばそれまでだが。
だからこそ、よい関係を築いたとしてもエラッタはあくまで羅刹であることを決して忘れるな。マスター。
カルナは他人から見たらある種手放しだとも言えるような風に”それもよし”と言う。
……が、そんなカルナからしてエラッタは”あんな事が起きないように手綱を握らなくてはいけない”と思わされた。
カルナは、生前エラッタの行いを止められなかった事を当人なりに思うところがあり悔いていた。
生前、エラッタの事にどこか違和感をカルナも抱いては居たのだ。
人間に溶け込むように生きているのに見え隠れする異質さを知らない訳ではなかった。
……だが、それでもカルナは今何かしてるわけでもなしと見逃した。
ドゥリーヨダナが気に入ってたからというのもあるし、カルナもエラッタからそれなりに好かれていて嫌な気分にはならなかったというのもある。
それに、仮にもし何かあったとしても自分がどうにかすればいい。
ハッキリ言えばエラッタは弱い羅刹だったから、物理的に強制的にどうにかする事はカルナにとってはとても簡単な事であったから。
……そう思っていたら、戦争という誰しもが余裕を持てないタイミングで、誰もエラッタに気にかけてやる隙間の無い時に死体喰いの事件は発生した。
当然カルナ自身も死体を食われている。
カルナからすれば自分の死体を食われ昇天できない事はまあまだしも、戦友も同じような状態になった事や、そもそもその事件のせいで敬愛すべき父であるスーリヤに深い悲しみと怒りを抱かせ錯乱させたのは本当に痛ましい話だった。
もう見たくない光景だった、あんな顔を父にさせる等……。
偉大なる太陽の威光も、悲しみと怒りを持てば黒く燃える。
……止められたのだ、止められる可能性があったのだカルナには。
その惨劇を事前にどうにかしうる選択もあった。
何故なら気づきかけていたのだから。
だからと言ってその時それができたのかは結局のところ過ぎ去った話であり、仮に思い至ってもどうこうできたかどうかは今となっては分からない。
だが、エラッタが奇妙な精神性であるのは分かってたし、違和感を抱いていたのは確かだった。
ただ、カルナは何かやらかしたのではなく、何もしなかった。
その結果ああなった。
……戦後散々な惨禍をエラッタは招いたがそれでも最後には、パーンダヴァがなんとかした。
正しき者達が全てのケジメをつけてくれた。
父の元にも行けたし、他の食われた者達も往生した。
ただそれはあくまで結果論の話だ。
あの戦場にはカルナのように神の系譜であったり化身だったり、あるいは彼の友であるドゥリーヨダナのような魔性の者も居たり……ともかく、羅刹であるエラッタからしたら豪勢な食事が大量に転がっていただろうから、それらすべてを平らげたあの時のエラッタが元はどれ程弱い羅刹であろうと食い終わった頃にはとんでもない強さになっていただろう事は想像できる。
なんとかなったが、どうにもならなかった可能性だってきっと同じくらいにあっただろうとカルナは今でも思っている。
元よりエラッタは行動指針も曖昧で、戦闘意欲もない羅刹だ。
もっと隠れる事逃げる事に意識を割り振っていたら本当に殺せぬまま取り逃がされていてもおかしくはない話だ。
だから、あの結果に落ち着いたのはパーンダヴァの頑張りとただの偶然がマッチした結果だ。
故に、もしまたエラッタが何かやらかして、そのストッパーが居ないのなら今度は何がどう転ぶかは分からない。
次に振られた骰子はどういった出目を出すかだなんて、優れた目と見識を持つカルナだって分かる訳ではない。
だから、二回目の生ではそんなことが起きないように見張りもするし手綱を握る事もしようとカルナは密かに決意していた。
あんなこと二回も起きて欲しくない。させたくない。
……エラッタが暴走ともいえるような大惨事を起こした事に対して、カルナは悲しんだりはしなかった。
ただ燻ったような後悔と、火花のように明滅する怒りに似た感情があった。
これがカルナ自身の感情なのか、一体化したことで多少なりとも流れ込んでいる息子の死後を穢されたスーリヤの感情なのかは分からない。
境界線の曖昧な感情が心臓から沸騰し一筋零れ落ちる。
ただ、次エラッタが何かしたら首根っこひっつかんででも止めたいという気持ちは本当だった。
エラッタ自身は悪意的な精神性ではないが、だからと言って心の根の部分がもう人間とは違う。
悪意的でなくても惨事は起きる。
だからカルナにしては珍しくなんとかかんとか言葉を尽くしてマスターに忠告だってした。
どうにかすることのできる立場と認知を持っているのだから、今度こそはと思っていた。
……再びエラッタと会っても、違和感は感じつつも人間のようだと勘違いしそうになる挙動は相変わらずだった。
本当のところをを知っているはずなのにそう思わされてしまうのは自分の中に情があるからなのか。
あるいはエラッタのタチの悪い生存の為の生態は相変わらずなのか。
だがその幻は抱えていても良い事はない。コイツに人の心は無い。
悪ではない、敵ではない。しかし人でもない。
本来の羅刹から外れた生態で生まれ落ちた、ただ一人だけの同胞無き新種よ。
もしまたお前が、何かをするのならそれが例え悪意無き無垢だとしても。
「あれ、カルナ?久しぶり。また会えるなんて……サーヴァント生もいいものだね。あ、ちょっと性別変わってるけどあんまり気にしなくてもいいよこれは」
「……そうだな、まさか再び相まみえるとはな」
「友達と一緒だと、ちょっと安心するなあ」
「お前は変わらんな」
「そう?」
「変わらず人に寄り添いながら人の心が無い」
「そりゃ……僕、羅刹だからね?」
カルナが言いたいことはそう言う意味ではないが、それはそれで真実だ。
どれだけ人のように見せかけても、結局は羅刹だ。
半端に人に近いせいで羅刹の群れから迫害されていても、だからと言って人であるわけがない。
「こういうのも何かの縁だし、今回も仲良くして欲しいなカルナ」
「……ああ、そうだな」
控えめな笑顔でまた仲良くしようとエラッタは言う。
きっと、この性質は変わらないし変われないのだろう。それこそ海の魚が川で住めるのか、あるいは草を食む兎に肉を食って生きろと言えるのか、そう言う話だ。
次は間違えない。何もしない、何てことはしない。
「今回はオレもお前を気にかけておく」