エラッタ「羅刹だからね僕」
「サーヴァント、アーチャー。アルジュナと申します。マスター、私を存分にお使い下さい」
マスター、カルデアの案内とサーヴァントの紹介をありがとうございます。
しかし、カルナも居るとは……相変わらずと言ったところだったが。
ああ、心配なさらないでください。生前何があろうとも、今はマスターのサーヴァント。無暗に争う真似はしません。
そこは弁えていますとも。
……ところでマスター、一つ聞きたいことがありまして。
ええ、はい。そうです、エラッタの事です。
……いや、女性になってる事は別に気にしてませんよ。私も似たような経験ありますし。大方逸話の反映のされ方の都合でしょう、彼……今は彼女ですけど、エラッタが女性として召喚されているのは。
私の経験についてマスターは気になると?その話は長くなりますし今は関係ないので一旦置いておきましょう。
本当に今関係ないので。
こほん、私が言いたいのはですね……マスター、エラッタとの関係性は今どのような状態ですか?
……。
そうですか、仲良くやってると。ハロウィンがどうとかはちょっと分からないので横に置いておくとして、仲良くやれてるのは良い事です。
しかし、彼女相手にはもう少し警戒心を持って接した方がいいかと。
ほう、マスターは彼女の生前の逸話は知っていらっしゃると。
そのうえで、ですか。
……カルナにも似たようなことを言われた、ですか?
……。
大事な事ですので、二回目になりますが私からも言わせていただきます。良い関係を作っていたとしても彼女の事をまるきり手綱を外すのはおススメしません。
私達からしたらドゥリーヨダナ達は悪であったし敵でもありましたが、彼女は別にそうではありませんでした。
ですが、決して放置できない挙動をする鬼種でした。
彼女の事、人間のようだなと感じましたか?羅刹にしては大人しいと感じましたか?だから危険度は低いと思いましたか?
それもまた間違ってはない見方ですが、彼女の場合はそれらの性質とは繋がりつつ別物として羅刹としての性質も決して消えている訳ではない事をお忘れなく。
アルジュナからすれば、エラッタという羅刹は戦後唐突に表れた惨禍の化身だった。
散々にお互い疲弊し、傷つき、死んだ戦争。
その後始末という段階になって現れた怪物。
……パーンダヴァは確かにあの戦争に勝利した。
だが、決して無傷ではなかった。勝ち生き残ったが故に起こされた戦争の後始末もしなくてはならなかった。
子供たちもあの戦争で沢山死んだ、それでもしなくてはいけない事が山積みで……。
ただそこに存在する真実に耐え、向き合い歩まなくてはいけない。
そんなころだった、鳥たちが戦死した者達の遺族に遺品を届けに来た時は。
そして、戦死者の遺体はすでに腹の中であると告げられたのもその時だった。遺体が無い、すなわち弔ってやれずその魂は天に昇れない。
……あの時の事は、記憶が欠落している部分も多い。
サーヴァントだからなのか、それともショックが酷すぎたせいなのか。
救いようのない戦争の果てがこんな結末だなんて、誰も彼も嘆き狂った。
そして、遺体が無いのはあの鳥のせいだとして……手掛かりが無く探し出す事も難しい。
最初こそ五王子達に両軍の遺族からなんとかしてあの鳥を捕まえて遺体を取り戻して欲しいと言う嘆願寄せられたが手がかりが少なくどうしようもないと分かれば、やりどころのない悲しみと怒りはいつしか憎しみに変わりその矛先を探す。
あの鳥を戦場に招いたのは誰だ、アイツじゃないのか、いやコイツじゃないのか……戦争は終わったのにまた争いが始まりそうな嫌な空気が満ちて、本当に息苦しかった。
そんな折、スーリヤ神がアルジュナに今回の事件の事の次第を知らせた。
すなわち、エラッタが黒幕であり戦死者をまるまる取り込んだこと。
なので、エラッタを焼き殺す事で食われた者達も開放できると。
一縷の望みにかけてエラッタを探し出し、サハデーヴァとナクラの立てた囮作戦でなんとかおびき寄せる事に成功した。
エラッタの化けていたその女の姿はいかにもな羅刹が化けたらしさはなく、何かの間違いでうっかり罪なき侍女なんかが誤って意図せず罠にかかってしまったのではないかとアルジュナは一瞬心配したくらいだった。
それくらいに自然に人間だった。
羅刹を多く退治してきたビーマの目からしても、羅刹ではなく何かの間違いで人間の女がうっかり迷い込んでしまったのではないかと思ったくらいだ。
だが、困惑しながらも話を聞くために腕をつかんだビーマの腕を凄い力でエラッタは振り払った。
その瞬間、ようやく五王子たちはどれほど見た目が人間的でもしっかりと羅刹だと認識することができた。
……同時に怖気が走った。
目の前で怪力のビーマを振りほどくほどの人外の膂力を目の当たりにするまで、自分たちは全く目の前の女を羅刹だと思えなかった。
弓の名手らしく良い目を持つアルジュナにも、羅刹については人よりも詳しいビーマの目からしても。
それくらい自然に人間らしく、溶け込んでいた。
こんな羅刹、今逃がしたら確実に王国を端から蝕む元凶となる。
人に紛れ、怪しまれる事も無く、羅刹だと疑われることもなく、きっと死体を食らい続け弔われぬ魂を取り込み続けるだろう。なんと悍ましい!
自分たちの子供の弔いの為、そして国の未来の為……大量の戦士を食らいつくしたせいかその時のエラッタはとても強かった上に逃げる事に注力していたせいで本当に戦いにくかったが、なんとかアルジュナの矢は片目を潰しその隙に倒すことができた。
……だが、焼く前にアルジュナはどうしても一つ聞きたいことがあった。
「あなたを焼く前に一つ聞きたい事がある」
「んぇ……なんですか」
「……私達からすればドゥリーヨダナを始めとしたあの人たちは敵でした。悪でした。でも、あなたからすれば親しい友人であったと聞いています。違いありませんね?」
「はい。僕の……初めての友達でした。ドゥリーヨダナは」
調べた通りの返しだ。
そこに嘘らしきものも見当たらない。
その口ぶりと表情から本当にエラッタからすればドゥリーヨダナは大事な友であったのだとアルジュナは理解し、だからこそ理解不能だった。
「ならばなぜ、死体を貪ったのです。ああされては弔えません、死後の安寧も得られません。何故あなたはそれを行ったのですか?」
仮にだ、もしカウラヴァ側の死体を無視してパーンダヴァ側の死体だけを食らってたのならまだ理解はできた。
その行為に怒りは抱くが、理解できる範疇の話だ。
友の敵ならば何をしたっていいと思いそれを行ったのだと予測できる。
それの是非はともかくして話は分かる。
だが、実際にエラッタが行ったのは陣営関係無しにあるいは人も神性も魔性も関係無しに腹に入れた。無差別な悪食、友という繋がり方を大切にするほどの人間性が垣間見えるのに何故こんな事を……。
「……?だって、死んだらただの肉でしょう?死体は、友達だったただの肉です。死んだあとも何も……それはただの、残りモノでしょう。骰子を振るように、偶然は僕にそれをさせてくれた」
……理解したくないのに、理解してしまった。
コイツはきっと悪ではない、敵ではない。
だが人ではない。
偶然それができたらからした、そこに食べ物が……死体があったから食べた。
それくらいの話だったのだ。
荒野の鳥が、行き倒れたモノを啄むように……。
「……あなた、カルデアに召喚されていたんですか?」
「……。あ、アルジュナ?カルナだけじゃなくてアルジュナも来てたんだ……」
「ええ、まあ。というか何故女性の姿で……いや、大体予想がつくのでいいです」
「とりあえず生前は色々あったけど、今回は同じマスターの下なんだし仲良く……は無理だとしても、喧嘩はしないようにしようよ」
このような社会性と、死者に対する共感性の欠如が歪に絡まっていてなんとも……。
「そうですね、お互いマスターに迷惑をかけたり傷つけたりしないようにしましょう」
「そうだよね」
人の女に化けた時の逸話が反映され女の姿でこうして召喚されているが、アルジュナが放った矢で片目が潰れたという話も反映されているせいか片目を髪で隠している。
場合によってはもう一つの目も潰さなくてはいけなくなるが、この大変な状況下とお人よしそうなマスターの目の前でそんな事しなくて済むのを願うばかりだ。
カルナさんがあんなんでもあんまり冷静でなくて、逆にアルジュナはかなり冷静