「我が名はドゥリーヨダナ!ドリタラーシュトラの息子にして百王子の長兄、すなわち、わし様こそが正統なるクル族の王である!…ん、なんでバーサーカーなんだ?最強にして最優の戦士でもあるわし様、普通はセイバーとかだろう?」
マスター!マスター!マスター!!!
え?なに?ではないわ!お前わし様を謀ったのか!?
エラッタだ!このカルデアにはアイツが居るとか聞いてないんだが!?
……いや、確かにわし様はカルナとアシュヴァッターマンを見かけてマスターの説明より前に駆けだしてしまったが……。そ、そのような目で見なくてもよいではないかマスター。
話を戻すぞ!エラッタの事だ、あやつこのカルデアに居るのか……。
おいマスター、その……どうだ、エラッタのやつは。
……。
……き、き、キッチンで仕事してるのか!?料理させておるのか!?時々マスターのためにおやつも作るだと!?正気かマスター。
ちゃんと人に食べれるものを理解して調理してくれるから大丈夫?自分が好きだからって人肉を出したりはしない?
いや、それもそうだが、そういう事ではなくてだな。
あれだ、マスターはエラッタの逸話を知らない訳ではないよな?
知っておるか、そうか……その上で手元に置いておく意味を分かっておるのか?
……なに?
カルナとアルジュナにも言われたしなんならアシュヴァッターマンもそんな感じの雰囲気だった、だと?
それはそうもなるであろう……パーンダヴァの奴らにも同意する日が来るとは思わなかったぞわし様。
エラッタは悪いやつでは無いが、ちとヤバいぞ!悪いやつではないまんまわし様達の死体を貪った男……いや、今は女か。
何故あいつは女になっておるんだ?
カルデアではよくある事?エラッタが女の子なのは理由が分かりやすい?
……おい、カルデアという組織本当に大丈夫なのか?
わし様もある日突然女体化しないだろうな。
わし様ともなれば例え女になったとしても絶世の美女確定とは言え、流石に困惑する。
話がズレた。
……とにかく、あいつは大丈夫なのか?問題を起こしたりはしてないか?ほら、勝手に味方の死体喰ったりとかは……。
……。
………。
……………。
そうか、今は折り合いをつけているのか。あいつ。
それはマスターが居たからなのか?
裏切りは嫌い。
それが好きな者なんて居るはずも無いだろうよ。
でも、悪意も何もなく当人からしたら裏切りですらない場合どう捉えたらいいのか?
いつだったかの思い出がドゥリーヨダナの中で走馬灯のように走り出す。
エラッタという羅刹は元はと言えばドゥリーヨダナの一言で人の中に連れてこられた。
ビーマへの対抗心、それだけがきっかけの些細な話。
羅刹を連れ込むのだなんて元から皆が皆して反対してたから、エラッタという羅刹は大人しいし人も食わないだなんて噂を聞いて少しでも安全な個体をと選ばれた。
実際のところエラッタは本当に人とほぼ変わらないような挙動しかしなかった、違うところがあるとすれば羅刹らしく肉を噛み砕くのに便利だろう鋭いその歯くらいなもので。
そんなだったから、いつしか半ばナメられてるというか下に見られてるような素振りこそあれど危険ではないと扱われていった。
呼び出した当のドゥリーヨダナはと言うと、大人しいし口うるさく色々言わず慕ってくるエラッタの事をそれなりに気に入っていた。
「エラッタ!」
「ん?なに、ドゥリーヨダナ」
「聞いてくれ、パーンダヴァの奴らが……」
悪辣な姦計を用いてパーンダヴァを追い出した後もちょくちょくその後の様子を人を使い伺っていたドゥリーヨダナは、追放した後だとしてもパーンダヴァが活躍していると聞くと嫉妬心ですぐ不機嫌になってしまう。
そんな時、とりあえず話を聞いてくれるのがエラッタだった。
エラッタの内心としては大体ドゥリーヨダナが悪いなと思っていても、苦笑を携えて黙って聞いていた。
それがドゥリーヨダナからしたら優しく心地が良かった。
「本当にパーンダヴァの奴らは卑怯だ!」
「あはは……」
ドゥリーヨダナの下の弟たちも紆余曲折ありつつまあ似たり寄ったりな扱いで、ある意味便利に扱われてたし、ある意味では愛されてたし、ある意味では愛玩動物的でもあった。熊がいくら恐ろしかろうとも、自分に噛みつかないと分かっている熊ならば人は可愛がったりもするだろう。
パーンダヴァとの戦争が目前に迫ったある日、エラッタはドゥリーヨダナにこう言った。
「ドゥリーヨダナ、戦争起こすって本当なの?」
「ああ。あー心配するなよエラッタ、お前が戦えん事は百も承知だ。お前に戦場に立てとは言わん」
「そ、それもそうだけどそうじゃなくて……ドゥリーヨダナがいくら強くても戦場は何があってもおかしくない。死ぬかもよ?」
……実を言うと、こうしてエラッタがドゥリーヨダナに話かけたのは自分だけの意志ではなく、戦争を何とか止めたい人間からそれとなくエラッタから話を振ってみてくれないかと頼まれたからでもある。
羅刹の手だって借りれるなら借りたい、止められるなら止めたい。そんな状況であったのだから。
だからと言って、戦争やって欲しくないというのはエラッタ自身の願いともかけ離れている訳ではない。
死ぬかそうでなくても大変な目に会う可能性が高い。
もっともエラッタは……。
「何を言う、わし様がパーンダヴァの奴らに無様に負けるとでも?そんな事はぬわぁい!」
「……そう言うと思ったよ。一度決めたら止まらないもんね、ドゥリーヨダナは」
「分かっておるではないか!そうだ、わし様は止まらん!」
内心エラッタは、自分がどう思おうがどう言おうが殺しでもしない限りドゥリーヨダナは止まらないと知っていたし信じていた。そして殺す気なんてないのなら、止められないのだと最初から分かっていた。
“ドゥリーヨダナがどんな人間であれ、あなたが死ぬまで僕は友達だから”
ドゥリーヨダナに直接言えた言葉ではなかったが、エラッタはそう強く思っていた。
それに嘘偽りは決してない。
そうだ、エラッタはドゥリーヨダナのように悪辣な貪欲さも無ければ、あるいはその叔父のシャクニのように詐術等できやしない。おっとりとした、気の優しいやつ……。
だから、戦後色々と暴かれたエラッタの行いもそこに悪意等一欠片も無い。
死後、天界に招かれたがその至るまでの道筋を後々知らされたドゥリーヨダナは呆然とした顔でそれを聞かされていた。
天女達が、花をドゥリーヨダナの頭に飾り立てながらこういった。
「あなたの死体は羅刹の……ええと、どういう名前だったかしら、そう、エラッタという者に貪り食われたのですよ」
「それを戦後パーンダヴァの者たちが倒してくれて、弔いを行い、こうしてあなたはここに招かれたのです」
「……は?」
死体はきちんとした弔いを受けなければ成仏できぬ。
……だから、エラッタが食べた=エラッタは友であるはずのドゥリーヨダナの死後の安寧を潰そうとしたことになる。
自分が死んだ後のエラッタの機微など分かるハズもない、だけども……あの死に際に見た泣きそうな顔のエラッタは、どうしたって己を食べる怪物には見えなくて。
「嘘だ」
「いいえ、いいえ、本当ですのよ。神々も魔もてんやわんやしていたのですから私達もその件はよく知っております」
「あの戦場には何某の神々や魔の化身も転生体も血筋も居た訳ですからね、それらを悉く昇れぬようにされたらそりゃあもう天界も大騒ぎでしたの」
「特に息子の昇天を待っていたスーリヤ神の錯乱と言ったら、地上を熱で干からびさせそうで焦ったものです」
きゃらきゃらと語られる言葉に、何を思えばいいのか分からず、かと言って最早全ての事は終わってしまったらしく何もできることはない。
どうして?
安寧の地であるはずの天の国で、ドゥリーヨダナは悩み続けることとなった。
もしエラッタが天界に来るようなことが万が一にでもあれば問い正せたのかもしれないが来るはずもない。
ドゥリーヨダナは悪辣だったが、相容れない者や敵対したものこそ多かれど気に入って愛した者にここまで滅茶苦茶な裏切り方をされた事など無い。
それだけに、心の中に取れない楔が刺さったような心地になった。
どうしてだ?
だからこそ、どうして死後の祈りを潰すように、どうしてこのタイミングで羅刹らしい行いをしてしまったのか。
いや、羅刹であったとしても友であるはずの己の死体を食ったのか。
この件を知ったものすべてが抱いた疑問をドゥリーヨダナ自身もまた抱かざるを得なかった。
考えて考えて考えて、傷ついて迷う心を納得させる為に一つの解答を出した。
……そうか、あいつは本当のところ根っからの怪物で分かり合えて等いなかったし、落としどころも何もない相手だったのだろう。きっとそうに違いない。
暖かで優しい、大人しい笑い方を思い出す度にどうして?という言葉が脳裏に浮かんだが、それらを”きっと最初からあいつは怪物でどうしようもなかったのだ”と打ち消す。そうであるのならこれはただの事故であり、誰かに非を問わなくて済む話だったから。
それなら諦めがつくから。
仕方が無かったんだと。
……だから、エラッタ。
お前は怪物であれば良かったのに、どうしてカルデアに居るお前は折り合いをつけて落としどころを見つけて、怪物から離れつつあるんだ?
いや、理屈では分かっているのだドゥリーヨダナも。
何もヒントも無かった生前のドゥリーヨダナの時と違い、カルデアで召喚される以上逸話のチェック等はされており、その上で色々な交流などをしたというのならばドゥリーヨダナが踏み込めなかった部分に踏み込みその結果落としどころや折り合いを付けれたというのは決して難しい話でもないしおかしな話でもない。
マスターも沢山のサーヴァントを相手にしているというのならそう言った相手の対応は海千山千で、きっちりと対応しきれたのかもしれない。
だから、エラッタがこのカルデアに居る個体は”人に紛れる怪物”から離れつつあったとしてもそれは決しておかしな話ではない。
でも、それを認めればエラッタが生前にあんな事をさせずに済んだ道はドゥリーヨダナが選べなかっただけで存在することになる。
そうであるなら、ドゥリーヨダナは友を本当の意味で関係を築けていなかった事になる。
そうやってあれるのなら、俺の時にそうあってくれればよかったじゃないか!
どうして俺の為には変わってくれなかったんだ、どうして俺にはそのきっかけもなかったんだ。
俺の方が先に出会っていたのに。
どうして。
どうしてでしょうねえ
ドゥフシャーサナとかみたいな百王子の弟たちも程度は違えどどうしてこうなっちゃたんだ……っていうのは感じてそう