「
おい、人間。
……いや、カルデア内の案内は受けた。
だが、こう……なんだ、一通り見て回ったが何故か居ないサーヴァントが居るのではないか?
う、うむ、そうだな、
父であるからな、やはり同じ場所で過ごすともなればそれを告げるのが道理だろう。
それで、どこに居る?
今日はビーマがキッチン当番でアルジュナとオルタはその手伝いに今入ってる……だと?
なんだこのカルデアという組織は、アルジュナ達に厨房の手伝いをさせているのか?!
……割と本人もノリノリ?なんなら水着エプロンでカレーを作った事もあ、る?水着エプロンとはなんだ!
は?夏だから仕方ない?アルジュナの夏はまだまともな夏?
カルデアの夏は一体どうなっている!?
……時期的にもうそろそろだからすぐインドラ様も分かるはず、だと。
まあいい。とにかくアルジュナは厨房に居るのだな?
せっかく来たのだ、
……しかしこのカルデアは良きも悪しきも一緒くたに共生している不思議な場所だな。
貴様、危ういやつらの手綱はしっかりと握っているのか?
……そうだな、そういう事だ。どうやら同じ時代を生きた者達は似たような忠告をしたようだが、油断するなよ。
貴様あの羅刹の手綱をしっかりと握っておけよ?何をしでかすか分からん、アレは。
……直接関わり合いがあったわけではないが、あの羅刹が滅茶苦茶をやってくれたおかげであの当時の天界は随分と振り回されたものでな。
腹立たしいが記憶には残ってしまう存在だったな。
何分、何の使命も何もなくとんでもないことをやり通していたからな。
……どんないざこざが起きたかについては、また気が向いたら話してやる。
『マハーバーラタ』に記されるクルクシェートラの大戦争。
大量の戦死者が出たその戦争の最初の最初は大地の女神の嘆きからだった。
『このままでは私が崩れてしまう、人を減らさなければ重みに私が耐えられない!』
この時代、人間が増えに増えたせいかそれを支える大地の側に負担がかかりすぎていた。そこにアスラも様々な動物や人間に化けてはびこっていたのだから余計に。
もしこの状態が改善されないままだったら、あるいはこの状態から更に人類が増えてしまったら?
大地は崩壊し、すべての人も何もかも大地に住まう者は死に絶えるという最悪のシナリオが待っているだろう。
増えすぎた人間の間引きやアスラを討たなければ大地に住まう全ての者達の未来はない。
事の始まりは、そんな大地の切実な悲鳴からだった。
故に神々はその事態を解決するべく、様々な手段を用いて人を減らす為の道筋を描いた。
それがクルクシェートラの大戦争。
様々な神々の化身や血筋、あるいは転生体があの戦争に多く居たのはそういう事だ。
道筋を走りきるための駒が必要で、それを用意したのだ。
それはカリの化身かもしれないし、神の息子たちかもしれないし、あるいは加護やら呪いやらを背負った者達……。
とにかく、あの戦争で大立ち回りした者達の大半は何某の神や魔の化身だのなんだのが多かった。それは、人を減らすというオーダーを達成するために必要なモノだったから。
つまるところ使命を背負って生まれ落ち生きてゆくものだったから。
当人らがそれを自覚的に生きていたのかは定かではないが、とにかく何かしらのオーダーを背負ったが故に何かを行う者達が多かった。
運命の糸は複雑に絡み合い、そうして戦争が始まった。
人の視点に立てばそれは悲劇だろうが、神の視点からしたらこれが達成されなければより酷い事態になるものだから悲劇だろうと完走させるしかない。
現代人風に言えば、失敗したら会社の土台が文字通り崩れ落ちてしまうようななデカい案件を成功させるためのプロジェクトと言ったところだろうか。
そしてそのプロジェクトであるクルクシェートラの大戦争の進行を……天より神々は眺めていた。
インドラもその一人である。
自分の息子も参加しているのだから当たり前だ。
この戦争そのものは必要な事だと分かってはいるが、息子の顔が曇り気味なのがインドラにとっては心に引っかき傷を残るような感覚をもたらした。
とは言え、一度始まったのならば手出しはそうそうしないしできない。
始まる前までであれば、カルナの鎧を没収したりだとかその交換のような形で必滅の槍を与えたりもしたが始まったのならばあとは大地の上に生きる者達の戦いになる。
みんなして目まぐるしく変わる戦場を天から眺めていたが、ふと一人の天女が誰に話すでもなくぽつりとつぶやいた。
「なんだか、戦場の死体が少ないような」
天女は天で生まれ天で生きる者、愛でられ仕える者。
なので戦場の事をあまり知りはしないので、そういうものだろうかとも思っていたがなんとなく死んだ人間の数に比べて死体が少ないような気がした。
確かにこの戦争には羅刹の者達も軍として参加してたりしたので多少なりとも食われて死体が減るというのは想定通りだが、戦争に参加してる上で呑気にむしゃむしゃ出来るほど”戦う羅刹”はやってる暇も無かった。
……嘘ではない。
誰とも知れない天女の呟きの数日後、すなわち戦争の中盤頃。
最初にそれに気づいた天女以外にも、だんだんと戦場の様子が異様であるというのに神々も気づき始めた。
「なんか……死体、少なくない?」
「獣や羅刹が食べたにしてもなんだか綺麗過ぎる」
「あれ~?もしかしてなんか変な事起きちゃってるこれ」
クルクシェートラ大戦争プロジェクトに、何かしら異変があるのでは?と神々も察し始めた。
一応、戦争そのものはきちんと進んでいるのだ。
身内同士で戦う当の本人らがそれを悲劇的だと認識してはいても、人が減らないともっと悲劇的な事になるのでガンガン人死にが出る今のペースは神々的にはいいペースだった。
ただその上で、なんだか不穏な気配のするバグが見え始めしていた。
プロジェクトの進行そのものは問題が無いのに、それ以外の部分でなんとなく嫌な予感が漂い始める。
死体はどこへ行った?
更に次の日、ようやく神々は異常性を放置できないと地上をじっくりと監視し始めた。
……すると、ようやく見つかる。
死体を片っ端から食べていくエラッタの姿が。
鳥や獣に化けたり、様々な手段で戦死者齧り取る姿が確認できた。
「あの羅刹なんかすっごい死体食べてるんだけど!」
「ど、どうしよう、インドラ様どうします!?」
「……これは」
喰われて弔えなければ天には昇れぬ。
故に、あの羅刹のやってる行いは戦争後に確実に大騒動を起こすというのはインドラも想像ができた。
想像ができた……が。
「止めますか!?」
「……でも、今戦場に手を出すのはちょっと不味くないか?ワンチャン戦争が止まったりしたら」
まず神々側の大前提として、この戦争はきちんと完遂させて人を減らさなければ不味いというのは大前提である。
となると、今この場で戦場に神々が手を出すとなるとそれに気を取られたり影響を受けたりして戦場の戦う流れが止まるなどと言うのもありえなくはない。
死体を勝手に貪り食われていたというのを知らされたら猶更だ。
怯えて、争う手を止めるのはありそうな話だ。
だから神々もどうしたものかと右往左往しつつ、インドラの決定を待つしかなかった。
「厄介な事になってきたな、しかし今更
下手に神々が介入すると、神がどちらの陣営を支援しているのかだとかそういった話題に飛び火しいらない問題を連鎖的に起こしかねない。
……とはいえ、見ていて気分のいいものではない。
インドラはラーヴァナやメーガナーダとの逸話もあるように、奇妙な表現になってしまうが"ちゃんとした羅刹"というのがどういう者なのかはよく知っていた。
だが、見れば見るほど地上で戦場を食い荒らすあの羅刹のエラッタはそれとは違う。
人間らしさと羅刹らしさが嫌な方向でマッチングして両立していて……要は、よりタチの悪い存在に見えた。
何故ああなったのか?
この一大プロジェクトの進行中にあんなのが現れたとなると……考えられるのは、インドラが知らないだけでどこぞの神や魔が化身やらなんやらとして送り込んだのではないかという説だ。
このクルクシェートラの大戦争には様々な思惑が絡み合っており、カリが化身を送り込んだように、神々の子供がそこにいるように、神や魔は自分の手がかかったものを送り込んでいる。
それと同じで、知らないうちに誰かしらが何かしらの意図で必要だから送り込んだのではないかという話だ。
とは言っても、じゃあ誰がどういう目的でとはインドラには見当がつかないが。
故に、下手に手を出すといらないトラブルが起きてこのギリギリな状況でさらに大変な事が起きるのではないかとそれを危惧していた。
幸いと言うべきか、今のところあのエラッタは無茶な行いをしてはいるものの戦争の動きそのものには干渉していない。
だから、戦争の流れ自体は異常な羅刹が居たとして変わらない……はずだ。
嫌な感じは相変わらずするが、下手に手を出してクルクシェートラの大戦争プロジェクトが止まる事の方が惨事を招く。
……歯がゆい気持ちはあったが、インドラを筆頭に神々は一旦見に回った。
戦争が終わったとに何とかしよう。
……が、それは十三日目、アビマニュの死を迎えた事により均衡が破れる。