アビマニュはインドラにとってはアルジュナの子、つまり孫であるが実を言うと月神チャンドラの息子……その転生体でもある。
本来ならば弔われ天に上り、もう一人の父であるチャンドラに迎え入れられるはずがエラッタがアビマニュの死体を食べてしまい取り込んだ為いつまでたっても昇ってこない。
元々チャンドラは息子を転生させるにあたって引き離されるのを拒んだがため、十六年しか地上にとどまらないという協定を結んだ程だった。
だからか、大いに怒った。
怒りのままに戦場に飛び込みあのイカれた羅刹を殺して息子を取り返すと意気込んでいたが、さすがにそれはマズイと神々は総出で止めた。
「ええい止めてくれるなよインドラ!貴様だって同じ立場になったらそうするはずだ!」
「それは理解している、しているが止まれ!この戦争ももう数日も続かない!終わった後にどうにかしてやる!」
チャンドラにとっては息子だが、インドラにとっても孫でもある。
だからアビマニュのその死体が貪り食われたこの事態を見過ごせないというのはインドラからしても本当だったが、エラッタがやらかしているにしても今手を出すのは本当にマズイ。戦争の流れが変わりかねない。
一昼夜問答し通して、戦争後に必ずきっと息子の魂を天に戻してくれと、インドラに対し約束させようやくチャンドラは渋々引き下がった。
地上でも我が子の死体が見つからず、おそらく獣か何かに食われたのかそれとも他の戦死者の中に紛れ込んだのかと嘆くアルジュナの姿に心が痛んだが、今ここで下手に手を出せば全てが水の泡になるとインドラは歯がゆい気持ちを抑え込んだ。
とは言えインドラもこの事態に何もしなかった訳ではない。
異常にして大胆でそれでいて地上の誰にもバレず神にしかバレてないような人食いをするエラッタは、もしかして誰かしらの化身なのか遣わした者なのか……そうだとしたら誰が遣わした者なのかを探し出そうとした。
そうでないと、色々と理屈がつかない事が多かった。
普通の羅刹と違う見た目と精神性も、あれほど食べているのに全く満腹になっていないようである様も、アビマニュのような神性を持ちを食べたどころか同族であるはずの羅刹の死体も躊躇なく食べてそれでいて異常を起こしてない所も……。
どこかの誰かが理由があってそういう設計にしているのではないか。
そう思い立ちチャンドラとの約束もあるし急いで天の神々やあるいは魔の者どもにもそういった何かしら理由があって遣わしたのかと、従属神等を使い聞いて回らせた。
「いや、私共では……」
「化身でも血筋でもないですね」
「そっちは何か知ってる?知らないか、そっか……え、じゃああいつなんなんだよ、怖……」
「魔の方からしても同族むしゃむしゃしすぎて気味悪いって言ってるよー」
だがそれでも調査は芳しくなく、困り果てたインドラはとうとう羅刹と縁深いクベーラに直接話を聞きに行く事にした。
「という訳だ、クベーラ。何か貴様が知る事があったら吐け」
「そう言われてもなあ」
クベーラはあのラーヴァナとは異母兄弟であるし羅刹という種に関しては比較的詳しい立場である。
なので、もしかしたらクベーラの化身なのではとインドラは一瞬思ったがこの様子を見るにそれも違うようだ。
煮え切らない返事を続けるので、もう直接戦場でのエラッタの様子を見せてやるが、それでも小首を傾げるだけで明確な事をクベーラは言えなかった。
「多分なんだけど……この子、誰かの化身とかでもないし、オーダーも何もないんじゃないか?」
「は?」
「おそらく単に偶然そうなっただけだ、この子」
「ここまで滅茶苦茶しておいてそんな馬鹿な話があるか!?」
繰り返すが、この大戦争には様々な神々や魔の意図があり、戦場の名のある戦士の多くはオーダーを背負ってやっている。
ここまでエラッタも大立ち回りするのなら何か意味があってやっているのかと思っていた、いや……ここまで冒涜的な事をするのなら意味があって欲しかったとさえ思ってしまった。
死を冒涜するかのように人に紛れ込み戦い抜いた者達を貪り天に昇れなくする、ここまでやるのならば何か意図が合ってやっていて欲しかった……。
「例えば黒い犬と白い犬をかけあわせたら、その子供はどんな色になると思う?」
「白か黒になるだろ」
「じゃあその子犬とまた別のぶち模様の犬とかけあわせたらその子供は?」
「黒ぶち模様とかにでもなるんじゃねえのか?」
「そういった事を繰り返していけば、どこかで歴代の犬の要素を少しずつつぎはぎ合わせたような奇妙な個体は生まれる。それが多分エラッタって羅刹。要は骰子を六つ同時に振って全部1の目が出たようなもの」
エラッタの親の親のそのまた親の……どんどんさかのぼっていくうちに、もしかしたら人間に寄った見た目を持っていたものも居たかもしれない、人に親しい精神性を持つものも居たかもしれない、腹が膨れないような体質の者もいたかもしれない、何を食べても堪えない者もいたかもしれない、同族の死体であろうと嫌悪感無く食べる者が居たかもしれない。
それらの要素がただ”偶然”かけ合わさり、エラッタという新種の羅刹が生まれた。
それらの要素は一つ一つは大したこと無かったかもしれないが、かけ合わさる事でとんでもない新種の怪物を産んでしまった。
骰子を振ったかのような偶然。
偶然の産物でこんな人間社会に紛れ込むバケモノが生まれたとは……。
戦争の完遂を最優先にしていたが故に後回しにしていたが、これは絶対に戦争後も放置してはならない鬼種だ。
ある意味では派手に動きやる事が分かりやすいラーヴァナよりもよほどタチが悪く人の世界に居てはならぬ羅刹だ。
「ちなみにそのエラッタは倒せる強さなの?」
「神オレにとっては欠伸をする間に殺せる相手だ」
この後どれ程エラッタが人を食べるか、そしてそれを糧に成長してしまうかは分からない。
だが、倒せない敵ではない。
「……問題は、見逃しちゃうと探し出すの大変そうって事だね」
クベーラが言うように、インドラから見てもうっかりすれば見過ごしそうな程に人間的であったし、羅刹であるなら化ける為の幻術は仕えるだろうから一度逃げられたりしたらもう一度探すのは相当な手間になる。
戦争終了後、速やかに処置せねばマズイ。
インドラがそう決心をしていた頃、戦争は終わっていたが……そこでもまたトラブルが発生していた。
「何?スーリヤがエラッタに直接キレて焼きに行っただと?!」