戦争は終わった。
パーンダヴァもカウラヴァも、たくさんの人が死んでようやく終わった。
あれだけ騒がしかった戦場も、こうなってしまえばとても静かだ。
友は皆死んだ今、僕は今更どうやって生きるべきなのだろう?
そうは言っても僕は何をすべきか、どう動くべきか、分からずにいた。
ドゥリーヨダナが死んで、あらゆることが一区切りついて、人が死んで……食べて。
どうしよう、どうしよう?
そう思っていたけど、風の噂で百王子たちの奥さんが夫の遺体だかなんだかを探してると聞いた。
でも食べちゃったから無いんだよなぁ。
……ああそうだ、でも形見の何かしらはまだあったはずだからそれを届けてあげよう。
あの戦場で死体を食べた時のように僕は無数の鳥に化け、嘴で遺品を啄み遺族に届けに行った。
そこで泣いてる奥さん。
あなたの夫の遺品を届けに来ました。
いえ、いえ、お礼なんていいのです。
……遺体ですか?
ああ、それは僕が全て食べました。
彼女は感情のすべてが抜け落ちたような顔で、その手に持った遺品を落としてしまった。
あまりにも動揺していて気になったし心配になったけど、まだまだ遺品が残っていて渡さなくちゃいけないからそのまま僕は飛び去った。
僕はこんな風に色んな人に、色んな場所に、遺品を届けに飛んでいった。
みんなして似たような感じの反応だった。
渡せる分は全て渡して一息ついた頃に、ふと、頭上がとんでもなく熱くなった。
真夏の熱気が頭上にひとまとめになったような、そんな感じ。
ぎょっとして上を視れば、神様が居た。
……ああ、なんだろうな、多分これ……会った事無い神様だけどなんだか血の匂いがカルナと同じだ、と言う事は。
「スーリヤ神」
太陽神が居た。
カルナは太陽神の子だったし、パーンダヴァもそれぞれが神の子だった。
けど、流石にその大本の神には初めて出会う。
何か挨拶するべきなのか、どうすべきか……ううん、それにしても何て眩しい。
目玉が溶けてしまいそうだ。
でも、僕なんかに何の用事なんだろ……。
“かえせ”
「んぇ……?」
“かえせ、私の息子の亡骸を”
亡骸……。
「食べたから無いですよ」
僕がそう事実を告げたらスーリヤ神は何故かとても怒ったような表情をし、僕を焼こうとした。
あまりにもその勢いが怖くて僕は合わてて蛇に変身して、地面の隙間から地下に潜り込み太陽の光も熱も決して届かぬ暗く冷たい地下深くに滑り込んだ。
ああビックリした!……怒られた……のかな?
ああー……そんなに、遺体欲しかったんだ。
何で欲しいんだろう。
あんなの、カルナじゃなくなったただの肉なのに。
ううん……まあ、いいや。
今考えるべきことはそれじゃない。
訳が分からないけど僕はどうやら神を怒らせてしまったようなので、どうにかして逃げ延びて隠れる事を考えなくては。
こうして地下に住まい続けても別にいいっちゃいいだろうけど、流石に狭くて暗くて……寝るにはいいところだけど起きて過ごすには気が滅入るかもしれない。
……そうだ。今度は人の女に化けよう。
スーリヤ神は恐らく”羅刹の男”と括って僕を探しているだろうから、”人の女”に化けたら多分探されにくくなるだろう。
そうして人に紛れていれば天より地をくまなく見つめる太陽の眼と言えど僕を探し出すのは至難の業になるはずだ。
多分、恐らく。
まあどうなるかなんてやってみなくちゃ分からない、行く末の骰子を振ろう。
そう思い至って僕は人の女に化けて、人の集団に紛れて暮らした。
人の集団への接し方はドゥリーヨダナが僕をあの場所に招いてくれた時の経験でなんとなく分かる。
あっという間に僕は人間社会に一員となり、やはりこうしていれば見つからないのか再び僕の目の前にスーリヤ神が現れることは無かった。
そうして過ごしていて分かった事は、戦場じゃなくても案外人は亡くなるという事。
それはちょっとした不幸な事故かもしれないし、病かもしれない。
だから、戦場の外でも僕は肉に困る事は無かった。
そんなある日の事、一つの風の噂が飛び込んできた。
パーンダヴァ五王子の末っ子のサハデーヴァが、病により亡くなりそうだという話だ。
また肉にありつけるかもしれない。
木を隠すなら森の中ってことよぉ!